ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第257話「出撃!! 隣のテロリスト」

 

「戦争の終わらせ方って知ってるか?」

「唐突に何だ?」

 

 現在、日本銀行地下1003m地点。

 

 地下大深度内に置いた半径30m四方の空洞は地下鉄線路内から掘り進めたにしては綺麗な有様で秘密基地というよりは大きな格納庫と言った風情となっていた。

 

 壁にはこれから使用する為に魔術コードをガンガン回して製造した土の成れの果て……未来兵器感マシマシな重火器だの三機目となるイグゼリオンがデデンと鎮座している。

 

 そんな中であちらはこっちが造った武装を一頻り選んで装備し、超重量を物ともせずに身体を慣れさせていた。

 

 カッターブレードをブンブン振り回している様子はチャンバラごっこにも見えるが、それはブレードが男に比例して玩具に見えるからに過ぎない。

 

 数百kgはあるだろう各種装備の内蔵するマウントされたボックスを両手両足背中に身に着けての動作は切れが鈍っている様子も無かった。

 

 LED照明に照らし出された室内に汗が散っている様子もなく。

 

 これなら連続した行動も大丈夫そうだと内心で事前の工程に無理も可能の一文を加えておく。

 

「この世界には大戦争を終わらせる方法が一つしかない。何だか見当が付くか?」

 

「さて、な」

 

「正解は人類の絶滅だ。理由は単純。核以上の兵器が存在せず、核を使った場合、その撃ち合いになる。そして、大国はこの星を滅ぼして余りある核を持ってる。使える内に全部使わない理由が無い。だから、大戦争の終わりはたった一つ敵の絶滅を以てしか達成されず、味方すらもその核によって滅びゆく定めとなる」

 

「……下らん」

 

「相互に相手を滅ぼせると分かっているならば、殴り合いは小規模でも構わないだろ? 最後に殺せるなら、今殺す必要はない。そういう幻想が罷り通ってるからこそ、先進国の大半は大戦争なんて望んじゃいないし、無縁でも要られる」

 

「なら、貴様は大戦争とやらをどうやって終わらせる?」

 

「理由を取り上げてやればいい。まぁ、この時代じゃ不可能だが」

 

「ほう?」

 

 ベリヤーエフが動きを止める。

 

「鳴かぬ鳩を叩いて落したと噂の男の話とも思えないが」

 

「オレが色々とあの時代でやってた事を再現なんてしても、この世界じゃ通用しやしない。何せ、オレは此処じゃ単なる一般人だ。専門の教育も受けてなきゃ、軍事に本当に詳しい奴程の知識も無い。政治、軍事、経済を混乱させる事以上の事は出来ない。滅ぼすだけなら今からちょっと念じるだけだって出来るんだ……問題はオレのカードをオレが使ってオレの望む結果を得る為の方法がまだ煮詰め切れてないってところだ。対処療法は出来ても、それ以上は不可能。だから、オレは戦略的な方法論として、戦争の終わらせ方を考えなきゃならない」

 

「起こった後に対処すると?」

 

「そういう事だ。その為の事前準備は進めてる。下拵えってやつだ。出来れば、死人は最小限に留めたいしな」

 

「それでこれからどう行動する?」

「人が死なない戦争をしようかと思ってる」

 

「戦争を止める為の戦争、戦争なのに死人が出ない戦争、とは新しい謎掛けか何かか?」

 

 皮肉げにベリヤーエフが肩を竦め、横のチタン合金製のベンチに腰掛ける。

 

「経済戦争とか良いかと思ったんだが……問題が多くてな」

「何が問題だ? その力さえあれば、全てを創造可能だと言うのに」

 

「言っておくが、この力は小道具以上の価値が無い。便利なのは認めるし、何だって出来るが、何でも出来るから問題なんだ」

 

「何でも出来るから?」

 

「人間は進歩しない生き物だ。そして、こんな力は誰も知らない方がいい」

 

「そこは同意しよう」

 

「小道具に頼っても本質が何も変わらないんじゃ、どの道……委員会を根絶しても次の委員会が出て来るだけだ。だから、次の委員会が出て来ないような方式が望ましい」

 

「……考えるのは貴様の仕事だ」

 

「ああそうかい。取り敢えず、経済戦争は金とルールで殴り合って相手を困窮させる。目に見えないだけでコレもまた戦争。死人だって出るし、貧しい連中は自国の上層部に不満を持つものだから、仕掛けた相手にとったら好都合なんだが……経済の混乱ってのは何処も彼処も悲劇だらけになる。そういうのは出来れば、遠慮したい。だから、オレでも勝てる被害の少ない戦争をって話をしてるわけだが……ウン、お前に愚痴ってもしょうがないのは分かってる」

 

「ならば、そろそろ何をするか決めようか」

「取り敢えず今日はトンカツでも食いに行くか」

 

「何? それは正午前の放送で公開されていた豚肉を卵とパン粉で揚げ、ソースで食する糧食の話か?」

 

 物凄く真面目な顔で解説して喰い付いてくる巨漢の目は人間を射殺せそうな程だ。

 

「説明ご苦労さん」

 

 一応、この世界の常識を教えるべく。

 

 適当に番組を上の列車を置いている基地で視聴させたのだが、ファッションと料理番組に対する喰い付きが良い以外は殆ど興味無さげだったベリヤーエフである。

 

 どうやら、この時代の料理はかなりお気に召したらしい。

 

「とにかくだ。メシ食ったら、ちょっと帰りに()()()()()()

 

「行政中枢を叩くか。目標は?」

 

「議事堂の爆破。後どっちにするかは決めてないから、今回の予告は無しだ。お前もこの時代の兵器や兵隊の練度に慣れておけ。戦車砲や対戦車ライフルくらいは何れ持ち出される可能性が高い。そういうのが出て来たら喰らって貰うぞ。恐らく、最後ら辺の話だが」

 

「了解した。一応この世界の標準的な兵器のカタログは見せてもらったが、未だ荷電粒子兵器どころかレーザーも未実装、反応炉型の搭載兵器類も無い相手に遅れを取るとは考え難い」

 

「だが、ドローンはいる」

 

「脅威だが、数が1000を割る程度ならば、連続20時間戦闘程度でケリは付く。小型の劣化品以下の性能がこの時代の基準ならば、1000機2時間も要らんだろう」

 

「そんなに戦闘してもらう予定がそもそも無いがな。それと―――」

 

「―――死人は出さない、だったな?」

 

 ベリヤーエフがこちらに確認する。

 

「そういう事だ」

「了解した」

 

「じゃあ、行くか。今日は目に見えないテロリストが初めて世界中に喧嘩を売った日、として適当に後世で語り継がれるだろうさ」

 

 二人で適当に倉庫の通路を上がっていく。

 永い階段の先。

 こうして新たな戦いの幕が開く。

 

 まず手始めに……平和に慣れ親しんだ善良な日本人として僅かな危機感を持ってもらうところから初めて貰おう。

 

 戦争においてまず生き残るのに必要なのは身に染みて理解出来た教訓なのだから。


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