ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第224話「SFとゲリラの狭間」

「敵艦減速中……艦主砲来るぞよ!!」

 

 ついにその時がやってくる。

 

 月面地下内から直接月面へと伸ばした有線式の電波発信装置を複数使って、周辺宙域をドローンを使って監視。

 

 その網にはしっかりとUSAの文字を張り付けた宇宙艦隊……そう、宇宙艦隊としか言いようのない存在が掛かっていた。

 

 中央に存在している1艦が恐らくは旗艦。

 

 細長い艦船を四つ束ねてクラスター化した双胴艦ならぬ四胴艦のような外観は艦首全面が空母のように平たい事から、艦載機搭載型だと思われた。

 

 蒼黒いカラーリングは洒落ていると言うべきか。

 それとも視認性などもはやクソ喰らえ。

 目と耳は電子しか信じないとでも言いたいのか。

 

 どちらにしても、宇宙にスマートな戦艦らしきものがあるというだけでもう半笑いになるしかない。

 

 後方にはスクリューの代わりに複数の推進機関らしきバーニアを確認。

 

 艦橋らしき場所は格納されているのか、外からでは視認出来ない。

 

 小型艇のような複数の流線形の菱形と円柱を組み合わせたかのような砲座が艦の周囲へとドッキングを解除して展開。

 

 そのまま何かを放った。

 距離120km。

 宇宙であれば、もう鼻先どころか。

 触れていてもおかしくないような距離。

 そこから何かが数秒で着弾する。

 しかし、殆どが無為だ。

 

 現在、月面は黒い染みのような塔の根によって浸食されている。

 

 あらゆる波を吸収するソレは衝撃派や衝撃そのものも減衰するのだ。

 

 一定領域内部に入った高速飛翔体も例外ではない。

 

 続いて第二射。

 恐らくはレーザーやビームの類なのだろう。

 

 だが、これも月面周囲に舞っている無数の埃を輝かせて灼熱しながら駆け抜けても、途中でフッツリと途切れる。

 

「艦の各所にミサイルハッチを確認。恐らく核じゃな。恐らくあの大きさから言って……全弾当たったら、月が消し飛ぶんじゃなかろうか?」

 

「ああ、そうかい……」

 

 そんな事言われたって、出来る事は限られている。

 

 それを座して待つしかない。

 発射されたとの声。

 

 そして、ラムジェット推進らしい敵ミサイルが岩塊をスイスイ避けながら月の全方位に散らばるのを確認した。

 

 脳裏にはその正確な弾道予測が描き出されている。

 

 しかし、天海の階箸から警告文は発されていない。

 

 月面裏と正面、二つの極点、何処も彼処も120発程の核ミサイルの雨が直撃した、かに思えた。

 

 が、勿論それで月が消し飛んだりはしない。

 

 直撃より前に月面からの対空迎撃用の弾幕が空を一面染め上げ。

 

 敵ミサイルを打ち落とした。

 

 委員会の要塞化した月面地下は実際……無茶苦茶な規模の数千キロ単位はある代物であり、迎撃用のシステムは生きている。

 

 あの磁場の影響もこちらの生み出した漆黒の塔と月面各地に無数増設した磁界発生装置のおかげで影響は低い。

 

 となれば、常識的な核攻撃など打ち落とせない方がおかしい。

 

 ただでさえ、あちらは漆黒の塔とそれが生み出す物質の特性を理解していないのだ。

 

 こっちは前々からシステムハックしていたおかげでヒルコにこちらの防衛体制や塔の特性に合わせて、相手の狂いが出る観測機器とは裏腹にあらゆる状況をしっかりと把握している。

 

 最低限以上の対応策を取れていた。

 

 相手は正に敵陣地に押し寄せたものの何も知らない軍勢。

 

 地質的な特性を利用する現地軍に兵器や兵員の質では勝っていても、戦略的な優位性を失っている。

 

「………敵ミサイルハッチ閉じる。複数の艦から分離する小型艇多数。どうやら爆撃は諦めて大人しく上陸部隊を送り込む事にしたようじゃのう」

 

「はぁ……そうか。これで第一段階クリアだな」

 

「うむ。敵さんがもう一度、あの砲を撃ってくれば、さすがにもう打つ手は無かったんじゃから、我々は賭けに勝ったと言うべきじゃろう」

 

「これでまともな戦争になる。敵主力の揚陸地点は?」

 

「対空火器の死角を設定しておる。あちらも直に気付くじゃろう。ドローン部隊を運用したとしても、この環境下ではそれを近辺で操作するには人が必要になる。波の吸われる領域を全て知っているのはこちらだけ。連中が観測も儘ならん以上、人力は必須……突入地点は全て開けておいた。USAとやらの兵がどれだけのものか。見せて貰おうかのう。ふふふ」

 

「……楽しそうだな」

「本来、家でワシこういう役割じゃったからのう」

 

 その言葉にあの逆さの地下城の事を思い出す。

 

 敵にしてみれば、超高性能AIがざっくりユーモア片手にトラップ満載な城で待ち構えているなんて、ベトコン並みの悪夢だろう。

 

 簡易CP(コマンドポスト)の最中。

 

 あらゆる敵への備えと各地に設えたHQ《ヘッドクォーター》にはまだ号令を出さず。

 

 その狭っ苦しい野戦テント内で有線で周辺の機器の画面を見つめながら、相手の出方をリアルタイムで観測する。

 

 現在地は最前線になるであろうと推定される月面地下世界と外界を隔てる外郭施

設……あのドックの近くにある無人区画だ。

 

 殺風景な鋼色の広大な倉庫内で一人ヒルコからの情報を受け取りながら、敵戦力の測定を開始する。

 

 孤独な戦争とは言うまい。

 

 後方には全てとは言い難いとしても大半物資を揃えた準備済みな仲間達がいる。

 

(まずは敵の誘導先からルートをどれだけ外れるかだな。相手の実力次第じゃ初っ端からオレが出なきゃならなくなる……ゲリラ戦に悩まされる大国として未来永劫戦い続けるんだろうなぁという想像通りな連中であってくれればいいが……)

 

 戦争の歴史の中。

 

 物量戦を合理的に実行し続けた超大国の末路は果たしてどうなっているのか。

 

 野戦服代わりの外套姿でパイを齧りつつ眺め続ける。

 爭いはまだ始まったばかり。

 そこから先の未来は正しく一寸先は闇というしかなかった。


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