ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第140話「邂逅せし中二病」

 

 実際にそれを真直に見上げる事になるとさすがに背筋へ冷たいものが奔った。

 

 少なくともそれは山岳に突き刺さったと形容するべき偉容でありながら、本当に巨大さだけは山岳そのものを押し潰しているように見えたのだ。

 

 記憶が確かならSFの範疇である軌道エレベーターの類は下から建造するのは極めて難しいだろうという事でどちらかと言えば、宇宙空間から吊り下げるタイプの工法が妥当という話だったはずだが、それにしても山を貫通しているのだ。

 

 それが地殻内部のマグマ溜りから熱量を吸収して稼働しているという話を聞けば、もはや古い既存の人智など何の役に立たない事が分かるだろう。

 

 無論、その光景が見えるのは【統合】のメンバーだけ……と思っていたが、実際にはどうやらシンウンも見えているらしい。

 

 まぁ、肉体がどのようなものかは分からないが、タウミエルとかいうのに指定されるくらいには危ない存在ではあるだろうし、それくらいは可能らしい。

 

 現在、集中すると青空の中に屹立するように視認出来るようになった“天海の階箸”の周囲は国家らしい国家が周囲に無く。

 

 無人の疎らな山林ばかりが広がっていた。

 今のところ人工物らしきものが見えない。

 

 が、先に【鳴かぬ鳩会(サイレント・ポッポー)】が来ていないと喜ぶには早いだろう。

 

 赤外線くらいは簡単に誤魔化せるだけの部隊が存在しているのだ。

 

 偽装でこちらに見えない場所に陣地を構えているという事も十分に考えられる。

 

 問題はもしも対空陣地が何処かに設営されていた場合だ。

 地対空ミサイルの類。

 

 RPGがあるのだから、その他の弾体を飛翔させるタイプの赤外線追跡能力のある迎撃武装があったら、こちらも危ない。

 

 一応、電子戦は黒猫持ちで安全。

 

 従来のレーダーは【統合】のシステムをフル稼働させて通信と一緒に妨害しているらしいが、それにしても安全とはとても言えなかった。

 

 着陸地点をそのまま山岳の中心基部付近にするのはかなり遠慮したい気分だったので、とりあえず1km圏内の開けた場所に指定する。

 

 フラムやらベラリオーネは何故こんな何もなさそうなところにという顔だったが、もしも眼前に巨大過ぎる逆角錐状の二つ連なる塔を見れば、口をあんぐり開けていたに違いない。

 

 何とか妨害無しに着陸出来そうだと地面が近付くのにホッとしたのも束の間。

 

 ガンッと不吉な衝撃が後方カーゴハッチ内を揺らした。

 音はしなかったが振動は確かにあった。

 咄嗟にフラムへ指示を出して全員に中央へ集まって伏せるよう指示する。

 だが、次の刹那。

 ヘリが浮遊感に包まれた。

 落下しているのだ。

 メインローターをやられたか。

 エンジンが止まったのか。

 どちらにしても、不意打ち。

 

 もしもの時の為に用意しておいた黒羽根と白羽根の混合した敷物を床一面に足首から出した触手を這わせて展開しつつ衝撃を相殺。

 

 ついでに不届き者をどうにかする為にあの危ない腕輪を装着したままにフラムから受け取った白銀のオートマチックを片手にし、腰のブレードにも手を掛ける。

 

 足場のバランスは自力で取っても十分。

 更に次の異変が天井に現われた。

 

 一斉に4つの地点から刃が突き出され、それが大きな入口を作るようにして内部へと切り裂く。

 

「きゃぁああああ!?!」

 

 ベラリオーネの悲鳴とほぼ同時。

 

 フラムとシンウンが持っていた拳銃で的確に内部へと突入してきた何者かを撃ち抜いた。

 

 が、吹き飛ばされる事すらなく。

 

 黒い外套を身に纏った四人の仮面を付けた人物達がブレードを持ちながら周囲を見渡し。

 

『!!』

 

 即座にこちらへ向かってきた。

 と、同時に再び機体のエンジンが再始動したのか。

 上下に内部が揺さぶられて右に左にと傾く。

 

「オレが引き付ける!! お前らは根元の付近まで言って待機しててくれ!! もし、オレが間に合わないようなら黒猫とシンウンに現場指揮は任せる!! ハッチ解放!!」

 

『了解じゃ』

 

 黒猫の声がインカムから聞こえ、ガゴッと急激に開いた。

 途端、即座に内部のものが外へと吸い出される。

 仲間と襲撃者達の間には触手を網目状に展開してネットとし、自切。

 

 残る足元の触手で相手の足を絡め取って、そのまままだ20m程ある虚空へとダイブする。

 

「ッ?!」

 

 こちらの攻撃に抗うかと思ったが、相手はまさかまさか。

 こちらに走って跳躍した。

 その手のブレードは突き刺すようにこちらへ向いている。

 

(この状況でか?! こいつらの肉体、人間以上なのか!?)

 

 驚く間にも50mの落下が始まる。

 

 剣劇《チャンバラ》なんて出来る時間ではないが、相手は次々にこちら目掛けて降ってくる。

 

 それに対応して、手元のブレードで一人目の切っ先を捌き。

 そのまま足で蹴飛ばした。

 次の奴が降ってくるのに合わせて左腕から触手を解放。

 

 団扇のように手へ大きな被膜を形成して、風を捉え、即座に回転しながら横に移動する。

 

 一瞬で触手を縮め、相手の脇腹を蹴って更に横へと体をズラした。

 三人がこちらには追い付けずにそのまま遠方に遠ざかり。

 

 四人目がどうやらようやく懐から出した拳銃をこちらに向けたが、当たるはずもなく。

 

 そうして、地面に叩き付けられる寸前。

 

 樹木の幾つかに触手を発射して弾力性を限界まで上げてネット状にして速度を殺した。

 

 何とか足から着地するとズドンと音が立つ。

 振動が全身を伝わったが、然して動きが麻痺するという事も無かった。

 そのまままだヘリのいた方角を見ると。

 

 どうやら安定を幾らか取り戻したようで。

 

 こちらとは離れた方角へとゆっくり高度を落としていくのが分かった。

 

 何とかあっちも無事なようだ。

 そう安堵したのも当然。

 だが、それもまた林に響いたエグゾーストに掻き消された。

 

(バイク?! 鉄輪部隊も真っ青だな!?)

 

 樹木の密度はそう高くない。

 その上、枯れ木や枯れ枝は足を取られる程ではない。

 となれば、個々で乗り物を使おうという相手の判断は正しい。

 オフロードバイク程度の代物があれば、十分だろう。

 

 急激に近付いてくる排気音が動き出す前に2、30mの距離を置いて複数台止まり。

 

 そして、一台だけが近付いてくる。

 

(交渉したいって事か? それとも降伏勧告? どちらにしても戦うしかないか。時間稼ぎ出来ればいいが……)

 

 銃を構えたまま。

 

 やってくる黒いバイクに乗る黒い外套姿に白い仮面の相手が、エンジンを止めて横滑りさせた車体を数m先で停車させる。

 

『……初めましてになるのか。まったく、あいつらの言う通り……何処かの漫画も真っ青の展開だな』

 

「―――な、に?」

 

 その声に思わず顔が引き攣る。

 

 降りてきたその聞き覚えのある声の主が仮面を外して、こちらに嘆息しながら近付いてくる。

 

「お前の仲間には世話になった。だから、これはオレがお前に対し与えられる感傷としての時間だ」

 

「ははは……終にご対面か。まったく、自己嫌悪で胃潰瘍まっしぐらだな」

 

 其処に現われた人物は確かに……自分の姿をした本物。

 

 姿を失ってしまった自分が言うのも何だが……中二病全開な恰好だろうカシゲ・エニシにしか見えなかった。


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