ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第116話「冬蛍幻視」

 魔王の世界という話がある。

 小説の題材として見掛けた代物だ。

 

 もしも、悪が世界の基軸であり、善こそが世界にとっての害悪であったら……そういう思考実験。

 

 問題とされるのはラベルの張替えだ。

 人々が幸せに暮らす為の条件。

 

 それが知識と感情を満足させるに足るものであるならば、善や正義は悪に負けえる。

 

 いや、逆転するという事。

 

 その世界においては魔王の敵対者達は誰もが善と正義に付いて全うな理論を翳す人々として登場する。

 

 しかし、彼らが真に魔王の世界の住人たる人々に受け入れられる事は無い。

 

 何故ならば、魔王は人々に必要以上の知識を与えず。

 

 また、彼らが粗末ながらも最低限以上の暮らしが出来るよう取り計らい。

 

 その上で如何に善と正義が行ってきた事の結果が悲惨かを教育したからだ。

 

 人々は善人や正義の使者達が魔王と戦う度に彼らへ罵声を投げ掛ける。

 

 人権を説く者には人権を求めた結果として、人々の暮らしが向上する事は評価してもいいが、それを全ての人が分かち合い維持していくには葛藤と摩擦が多過ぎると彼らは言った。

 

 貴方の人権と私の人権のどちらが正しいか。

 

 そんな時、人々は争い、おまえは人権を蔑ろにする差別主義者だと誰もが互いにレッテルを張り合い。

 

 最後には戦争になる、と。

 

 正義や平和を説く者には貴方の言う平和や正義は誰の為のものなのか。

 

 それがもしも人類とか一つの民族とか一つの国家が為し得る正義や平和ならば、それは今の魔王が世界の全てを治める現実と何が違うのか。

 

 正義とは教義であり、主義であり、争いの為の言い訳ではないのか。

 

 もし私達の正義が貴方の正義と違っていたら、貴方は我々を魔王の配下だと糾弾するのではないか?

 

 貴方の正義に迎合した人々が私達の正義を否定するのではないか?

 

 そうなった時、貴方の正義は我々を救う正義として足りるものであるのか、と。

 

 結果として全ての魔王の敵対者は滅び去る。

 

 彼らが求め、訴えた世界や主義や主張とは真逆の人間を呪うような顔で。

 

 そうしてより一層、魔王の支配と世界の安定は進むのだ。

 

 人々が沈む悪徳や禁忌。

 

 そういった状態が健全だと魔王は人々を肯定し、遣り過ぎないようにと規律を持って多くの人々に程度を守らせ、同時に禁忌とされるような事柄の原因を物理的な技術や力で克服し、永遠に進歩はしても停滞する社会を実現させる。

 

 変化は遅々として長く。

 

 しかし、それでも十分に人々は満足して幸せに暮らせる世界。

 

 殺人、詐欺、暴力、性搾取、何でもかんでもありの世界。

 

 殺した人間は自分の手で蘇らせる事。

 

 詐欺で得られた金額の99%以上は税金として納付する事。

 

 暴力を奮う時は急所を狙ってはいけない(官憲に同じ暴力を奮われる事を覚悟してね)。

 

 近親相姦、性差別、強姦。

 

 劣性遺伝が出ないよう子供の為に薬を飲みましょう。

 貴方は異性には無い特権を持つ権利もあります。

 

 誰もに遺伝的に解放的な性特性が付与されており、貞節主義は旧い価値観ですよ?

 

 誰もが人格的に誰の子供でも儲けるし、儲けさせる事が可能です。

 

 無論、男性にも女性にも等しく選ぶ権利はありますが、性病も無い世界ではその精神的な主義に如何程の価値観があるのでしょうか?

 

 こういう具合である。

 何が正しいのか。

 何が間違っているのか。

 

 人社会の中でしか起こらない現象においてそれを規定するのは法律ではなく。

 

 人々の感情だ。

 法律は後から付いてくる。

 

 だから、魔王は人々の悪徳が悪徳ではなくなる、人々が互いに納得出来るだけの環境を整えた。

 

 殺したら生き返らせる義務を負わせられる辺りからしてファンタジーだ。

 

 だが、確かに現実社会だろうとも、それが可能だったら、人々は殺した者にそうさせるのではなかろうか?

 

 取り返しの付かない事が無い世界。

 

 だから、逆に人々は正義や平和を説いた人々がいた世界よりも自分達が幸せで圧倒的に満たされている事を知り、面倒(犯罪)を避けて、慎ましく程々の悪徳《しげき》を得ながら暮らす。

 

 子が父の子を、母が子の子を、儲け。

 

 温い引っ手繰りや詐欺師は今日の糧を経て税務署へ納付しに。

 

 犯罪被害者は市役所に被害の補填を申告しに。

 

 殺された人は生き返らせられた後、殺した奴を殺してくれと警察へ。

 

 暴力が好きなやつは闘技場へスリルと金を求めて出稼ぎへ。

 

 街中が盛り場となり。

 

 酒、女、博打は低額で目一杯遊んでも今日の稼ぎで足り。

 

 我が家に戻れば、家族団欒。

 

 今日、殺されそうになっちゃったよ~とか。

 

 今日、××君に××されちゃって~ちょっと子供出来るかも~とか。

 

 子供達の火遊びに程々にしときなさいと父母が微笑む。

 

 おぞましいと正常な世界の人々が恐れる地獄の底ではそんな幸せな食卓が囲まれるのだ。

 

 常識が捻れているのではない。

 話の根底は社会の規定が変わった事だ。

 

 ラベルの張替えが何度も主張されるのはいつでもソレが人々にとっては意味が違う、という事を説明する時である。

 

 魔王は人々を騙しているし、人々に外の世界の幸福の良さも教えない。

 

 だが、彼の作った世界は安定している。

 

 外の世界なら取り返しの付かない犯罪も此処では有り触れた刺激を求める程度の事に過ぎない。

 

 だから、程々に人々は悪徳を愉しみ。

 

 否、彼らにとって悪徳ですらない原始的な快楽へ程々に浸りながら、無限の繁栄を謳歌する。

 

 満足な豚よりも不満足な人間たれと説いた者もあるが。

 

 満足な豚よりも不満足な人間の方が実は不幸なのかもしれない。

 

 そう、物語は終わる。

 

 自分達の社会にとってディストピアとソレを捉えるか、ユートピアと捉えるか。

 

 それは人其々だろう。

 

 だが、一貫して認識されるのはそんな社会でも上手く回るという事。

 

(正に委員会はそういう社会構造を作り出した……)

 

 合理性を持って、感情を満足させ。

 人々が疑問に思わぬよう。

 人々が幸福で足りるよう。

 本来の事を教えず。

 事実で捻じ伏せ。

 満足な豚として清明な生き方をさせた。

 

 故人を喰らう事がその社会では当たり前だった。

 

 何故なら、食料が足りていなかったから。

 人間は等しく誰かの食料となった。

 あらゆる食物の耐性が無かったから。

 

 最も合理的な結論として……()()()()()()()()()が必要だったからだ。

 

 “双極の櫃”と呼ばれる社会が破綻した理由は少なくとも、人々の向上心や過去への興味、人々の満足を保てなくなったという事だろう。

 

 長い時間の中で組織が硬直し、柔軟な対応が取れなくなった故の末路。

 

 言わば、自滅だ。

 

 彼らは物語の魔王のように永遠の命を持っていなかったし、自分達の後進の育成にも殆ど興味がなかったのではなかろうか?

 

「―――」

 

 全ての状況判断を終了し、全ての準備を終え。

 

 後は待つばかり。

 5分も思考していただろうか。

 カウントダウンは今も続いている。

 黒い政庁はもはや無い。

 取り込んだ後に削り尽して反射材として取り込んだ。

 今の自分の姿をビルの硝子の壁面に見る。

 正しく魔王か化け物か。

 四肢を肉の塊と同化させ。

 太い肉紐に釣られて都市の中空にある。

 

 今や過去の遺跡の中心は肉と黒と水によって侵食されている。

 

 未だ開いている片方の出入り口。

 その頭上からは膨大な量の水が肉の巨大な導管内部を伝い。

 途中途中で心臓のようなポンプで押し流され。

 政庁跡地に作った黒のドームへと注がれている。

 タイムリミットまで残り4分。

 ドームの完成と外への話も通した今。

 後は結果を待つのみだ。

 黒い蛇の化け物を倒した後。

 

 触手が出せるようになったハーレム系主人公(笑)が出した結論こそソレだった。

 

 手順はかなり踏まざるを得なかったが、その甲斐はあっただろう。

 

 黒い蛇を触手に喰わせて肥大化させ、高速で移動出来る乗り物とする。

 

 地表と地下を繋ぐ肉紐を無数に生成し、外と連絡を取った後、地下に水を流し込ませる。

 

 その後の事態を語る上で最も幸運だったのは補給中隊と連絡が取れた事だ。

 

 今も真上で陣取る飛行船群と総司令官に事態を報告。

 

 少しでも中性子線(見えない毒)を止める為に大量の水が必要だと伝えた。

 

 これであの話の分かりそうな中隊長がすぐ仕事が出来る紙の兵隊の本領を発揮。

 

 一番近い河川と水道のあちこちから水を大量に通路へブッ込んでくれた。

 

 それと並行して河川や巨大な水道が通った場所の上。

 

 水が防壁として機能する所への避難を呼び掛ける事にも成功したので外で出来る事はほぼほぼ遣り尽しただろう。

 

 後は遺跡の入り口内部から延々と水を取り込みながら細胞分裂を繰り返させて肉の蛇に乗ったまま高速で蛇行移動。

 

 政庁の壁を速攻で物量で押し潰して侵食し、被害を出しながら突破。

 

 ビルを肉紐でダイナミック頂きます解体行為した挙句。

 

 地中埋設部を何とか露出、確認して。

 その周囲をドーム状に黒い羽毛、肉、水、建材の順で層を形成。

 少しずつ大きくしながら覆っていくという作業を延々と続けた。

 もし、今の自分の姿を見たなら……フラムは気絶必至だろう。

 

(こんな姿じゃな……)

 

 黒い羽毛の情報がどうして入り口のデスクトップから検索出来たのか。

 そんな些細な疑問は現在、どうでもいい事だ。

 必要な情報を全て検索するのに1分。

 

 その後はXの文字が出てディスプレイは入力を受け付けなくなったが、それでも其処まで何とかプランを立てられたのが奇跡に等しい。

 

 自分に誰かを守れるだけの猶予と力を与えてくれた全てに感謝しかない。

 

「………」

 

 この核弾頭の封じ込めの成否は黒い羽毛に掛かっている。

 あらゆる波を吸収するソレの研究解析中の報告。

 

 それには興味深い事に放射線すらも吸収している可能性があると記されていた。

 

 賭けだ。

 

 それ以外では決して無い。

 だが、賭けるに値する事実だった。

 

 現在、黒い羽毛は可能な限り、肉紐で集めてドームと天井へ貼り付け。

 

 白い羽毛も衝撃波吸収の為、大量に集め。

 

 肉の膜で押し込め、ブロック状ににして壁のように積んでいる途中。

 

 300m離れた虚空で作業を続ける傍ら。

 

 胸元から肉紐で取り出した懐中時計が残り1分を告げる。

 

 外では軍民百万単位の人々が退去して河川の上に張ってある通路や橋に殺到。

 

 河の中も人で埋まり始めていた。

 

 何もかもを観測出来るのは肉紐がその先に目や鼻や耳や口など。

 

 とにかくどんな臓器や器官も再現出来るからだ。

 

「百合音……」

 

『エニシ殿。そっちは大丈夫でござるか?』

 

「ああ、大丈夫だ。あいつらは?」

 

『うむ。またエニシ殿が無茶してると伝えた故。おかんむりでござる』

 

 ビル屋上の貯水槽の上。

 伸ばした肉紐の先に声帯と喉と口と耳を付けて。

 

 いつ気持ち悪い伴侶殿呼ばわりされるかとビクビクしながらの会話は軽い。

 

 だが、それでいい。

 死ぬ気など無いのだから。

 

「そういうのは今聞きたくなかった……」

 

『ふふ。本当にエニシ殿は人を救い過ぎでござろう。そんな事を続けていたら、教団に救い主として祭り上げられてしまうぞ?』

 

「まぁ、その時はその時だ。そうしたら、今度は教団の教義に胡散臭いヤツ登用禁止って付け加えてやるさ」

 

『あははは。エニシ殿らしいでござるな……』

 

 残り30秒。

 

「これは独り言として聞いて欲しいんだがな」

 

『何でござるか?』

 

「オレは幸せだった。今もだ。たぶん、これからだって……この胸にあるものは絶対に変わらない」

 

『ッ』

 

「百合音。動くなよ。其処から。それが今はオレの願いだ」

 

『エニシ殿。某はエニシ殿に吊り合っているか? こんなにも無力で救われてばかりで』

 

「馬鹿言うな。オレが吊り合わなくて困ってる最中だろ?」

 

『エニシ殿ッ!! エニシ殿ッッ!!! 敢えて言うぞ!! 死ぬなッ!! 死なないでッッ!! お願いだからッッ!! 某の傍でッ!! ずっとッッ!!』

 

 声は泣いている。

 全て知っている。

 

 だが、それでも答えは絶対に言えはしない。

 

「……もう時間だ。また、後でな? 後、それはこっちの台詞だ……愛してる。はは、照れくさいなやっぱり!!」

 

 触手を切る。

 残り7秒。

 

「さぁ、勝負の時だ」

 

―――オレは……死なない。死んでなんかいられないんだよッッ!!!!!

 

 それは静寂ある爆発だった。

 まるで核実験の映像を見ているかのような。

 

 決して人間の意識では長く見届けられるはずもないスロー映像。

 

 ドームが一瞬で数倍、それを超えて数十倍、数百倍に膨張。

 

 黒の圧力に押し込まれ。

 

 無音の中で黒い羽毛に埋まりながら、その少し先で水が沸騰しているのを感じた。

 

 肉が蒸発し、羽毛が散り、燃え尽きていく。

 ゴボゴボとゴボゴボと。

 だが、放射線の爆発的な開放は刹那以下。

 瞬時に終わっているはずで。

 

 自分が死んでいない事だけでは何の確約にもなりはしない。

 

 超高圧超高温の水蒸気。

 

 核物質入りのソレで汚染されれば、都市内部は死の都だろう。

 

 そんなのはどうでもいい。

 

 だが、蒸気が入り口から漏れる可能性は絶対に許容出来ない。

 

 細胞分裂はほぼ限界。

 50m以上の巨躯を取り込んでいたとはいえ。

 それでも肉の大半が水なのだ。

 

 意思が通わなくなる限界ギリギリまで酷使したせいでこれ以上の再生は不可能。

 

 だが、それでもまだ出来る事はある。

 

 水蒸気の全てを熱量と放射線で溶ける細胞に吸わせて、予め用意しておいた肉の導管の予備へと流入させる。

 

 複雑なバルーンが一瞬で膨れるかのように果て無き都市へ張り巡らせた肉の管がパンパンに膨れながら圧力を逃がしていく。

 

 それでも足りない。

 まったく足りない。

 

 水を今まで入り口から供給させていた管は途中でドームから切断し、周囲に水の壁を作るようにして水を流入させていたのだが、それを使う事にする。

 

 今にもはち切れそうな水蒸気と肉と羽毛の塊の表層に水袋のような壁を密着させ、熱量を吸収。

 

 肉壁で隔てられているとはいえ。

 伝道した熱量はすぐに全ての水をお湯へと変えていく。

 ドームの膨張の勢いが、弱まった。

 

(行けるッ、か!!?)

 

 黒い羽毛越しですら全身を焦がすだけの熱量が放出されている。

 

 内部の肉にはもう意思が通わない。

 

 後に残ったのは壁を再生する為に遺していた神経から逆流してきた脳髄を焼く衝撃と。

 

 最後の一層外側からの感触のみ。

 

 もし、生きながらに焼き焦がされるとしたら、そんな痛みなのだろう。

 

 自分の脳髄が極めてよろしくない衝撃に廃人寸前のダメージを受け、端から回復していく音。

 

 シナプスの再生音のようなプツプツという幻聴を聞いた。

 

 もう口からは絶叫しか出ていない。

 

 思考の中で己を保っていても、肉体はもはや付いていけていない。

 

 目玉を今にも零しそうなくらい剥き出しにして。

 舌を突き出し。

 

 涙も鼻水も涎も垂れ流しながら、全身を水蒸気から伝導する熱量で焼かれる。

 

 拷問か。

 

 白く濁る蛋白質の塊と化しながら、再生の度に茹で上がる神経の痛みに肉体をボイルされた海老みたいに曲げて。

 

 ようやく自分が自分で無い事を認められた気がした。

 

 こんな風に思考だけで肉体とは別に考えられる己は……此処にいるのはカシゲ・エニシの皮を被せられた別の何かなのだろうと。

 

 前々から考えていた事だ。

 旧世界者《プリカッサー》の肉体交換の話が出ていた時から。

 自分は本当に昔の身体のままの自分なのだろうかと。

 

 カシゲ・エニシという人物のデータを元にした何かしら別の存在なのではないかと。

 

 例え、人格が同じだろうと。

 存在が同じかどうかは分からない。

 いや、分からないと思いたかった。

 

 それが此処に来て明らかになるというのだから、まったく理不尽だ。

 

 しかし、例えそれでも構いはしなかった。

 もはや、そんな事に意味を見出しはしない。

 

 此処にるカシゲェニシ兼カシゲ・エニシは幸せだ。

 

 【佳重縁(かしげ・えにし)】ではないとしても、それは確かな事だ。

 

 いつも生き返った時。

 自分は本当に自分なのかと考えないようにしてきた。

 

 それが記憶の連続性を持つ別人の可能性すらあるが、そうだとしても何一つ諦める理由にはならない。

 

「オレがオレかなんて、そんな事どうだっていいッッ!!! オレは此処にいるッッ!!! このオレが死んだとしてもッ!!! あいつらが死ぬよりッッ!!! ずっと、マシだッッッッ?!!!!」

 

 湯で蛙はもはや地獄《ゆめ》の常識で引っくり返った。

 

 此処にあるものが全て。

 

 それが今、中性子爆弾を封殺するなんて馬鹿げた可能性に賭けた男としての決断だ。

 

 細胞がどうなろうと構いはしない。

 

 持てる全細胞の増殖と再生と同化を持って最後の一層を外側から支え切る。

 

 肉体に意思が通っていく。

 自分が人間ではない別の何かになっていく。

 それでもいい。

 後悔は……しなかった。

 

―――最終コードが承認されました。最終コードが承認されました。全市民はシェルターに避難して下さい。最後の時を委員会と共に迎えましょう。全核弾頭一斉起爆まで残り3秒。

 

 全ての決意を叩き折る人の究極の憎悪。

 

 羽毛のせいで聞こえなかった最後の悪意を前にして―――。

 

 いや、よそう。

 答えは決まっている。

 何もかもが終わりだとしても。

 

 あの自分に向けられた沢山の少女達の笑みを受け取った日から、全ては決まっていた。

 

「守るんだぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

 全てが灼熱に溶けていく最中。

 

 紅の光を幻視する。

 昔々、庭で見た。

 

 冬の蛍の灯火は……何処か優しく。

 

 身体が融ける寸前にも、確かに美しく舞っていた。


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