剣護が落ちてからしばらくして、理子によるハイジャックで襲われた飛行機は羽田を封鎖され、人工浮島に着陸することになった。
キンジ「武藤、当機はこれより着陸準備に入る」
武藤『待てキンジ、「空き地島」は雨で濡れてる!2050じゃ停止できねえぞ!』
平賀『そこはあやや達がなんとかするのだ!』
キンジ「平賀さん?」
武藤『おい、平賀さんなんとかするって……』
平賀『さっき剣護くんから連絡があって例のアレを使うのだ』
金・アリ『例のアレ?』
文の言う例のアレのことでアリアとキンジの声がハモる。
アリア「ちょっと文、例のアレって何よ?」
平賀『秘密兵器とでも言っておくのだ。とにかくこっちに任せるのだ!』
キンジ「了解。良いか?武藤」
武藤『もうどうにでもなりやがれ!しくじったら轢いてやるからな!』
武藤は教室のみんなに怒鳴り散らしながら電話を切った。
武藤が電話を切ってすぐに剣護が多少ふらつきながらも学校に到着した。
剣護「お待たせ!みんな!」
武藤「剣護!?なんだお前血だらけじゃねえか!?」
剣護「知るか!それより急いで準備だ!」
武藤「お、おう!みんな!装備科の懐中電灯をかき集めろ!」
平賀「剣護くんこっちなのだ!」
剣護「おう!」
武藤の指示で教室のみんなはそれぞれ散会していき、剣護は文に連れられ装備科の倉庫へと走る。倉庫では装備科の生徒達が集まっていた。
装備科生「おーい。こっちこっち」
平賀「早く装着するのだ!」
剣護「よっしゃ!トップギアでお願いします!」
装備科生「オッケーイ!スタート!ユア、エンジン!」
用意されていたのは『TF-00』。蔵王重工という企業と文が開発したもので小型エンジンなどを積んでF1みたいなアーマーにしたもので、別名『タイプフォーミュラ』という。ぶっちゃけるとドライブ元にした特殊装備である。
緊急時にも関わらずノリノリで剣護にアーマーを装着していく。上半身の装甲から手足、頭部と着々と進んでいき、武藤から連絡が入った頃には完了していた。
武藤『こちら武藤!準備完了だ!そっちは?』
剣護「こちら剣護。こっちもオーケーだ。すぐに出よう」
武藤『よし!車輌科のモーターボートパクったんだ。早く来てくれ!』
剣護「了解!」
平賀「行くのだー!」
一方、キンジとアリアは人工浮島に向かって飛んでいるが、暗闇に包まれていて空き地島が見えず何もわからない状況だった。
アリア「キンジ。大丈夫。あんたにならできる。できなきゃいけないのよ。武偵をやめたいなら武偵のまま死んだら負けよ。それに、あたしだってまだママを助けてない!!」
キンジ「あぁ……そうだな……!」
アリア「あたしたちはまだ死ねないのよ!こんなところで、死ぬわけがないわ!」
剣護『お前らが死ぬわけがねえだろ。なぜなら』
聞き慣れた声が聞こえると共にキラキラと空き地島の上に光が見え始める。
剣護『俺たちがお前らを死なせないからだ!!』
武藤『キンジ!見えてるかバカヤロウ!』
キンジ「剣護!武藤!」
キンジとアリアがバスジャックから助けた生徒たちが誘導灯を作り、その向こうの中心に青いF1ボディを纏った剣護が立っていた。
武藤『お前が死ぬと、白ゆ……いや、泣く人がいるからよぉ!俺、車輌科で一番でかいモーターボートをパクっちまったんだぞ!装備科の懐中電灯も、みんなで無許可で持ち出してきたんだ!全員分の反省文、後でお前が書け!』
キンジ「あぁ……わかったよ!」
剣護『おっしゃあ!キンジ!アリア!フルスロットルで……ひとっ走り付き合えよ!!』
剣護のセリフにキンジとアリアは顔を見合わせクスッと笑うと大声で叫ぶ。
金・アリ『上等!!』
武藤「来るぞ剣護!」
平賀「行くのだ!」
剣護「はっ!」
剣護は加速レバーを3回倒しフルスロットルを発動するとANA600便に突っ込んでいく。地上走行用のステアリングホイルが地面に着くと同時にジャンプして加速を載せたキックを放ちぶつかり合う。
剣護「ふんぐぐぐ……!」
アリアも逆噴射をかけて、キンジももしもの場合に備える。
アリア「いっけぇぇぇぇ!」
キンジ「止まれぇぇぇ!」
剣護「おおぉぉぉぉ!!」
剣護はさらに6回加速レバーを倒して加速していく。その時、ボディからバチバチとスパークが走り、文が叫ぶ。
平賀「剣護くん!それ以上は爆発するのだ!」
剣護「構わない!それが仮面ライ……じゃなくて武偵だ!」
武藤「言いかけたよな?完全に仮面ライダーって言いかけたよな?」
ネタを挟むも飛行機はスピードは落ちてるもののなかなか止まらない。
アリア「止まれ、止まれ、とまれとまれとまれぇーーっ!!」
キンジ「頼む……止まれぇぇぇぇぇ!!」
剣護「っ……うおおらあああああああ!!」
さらにガチャガチャと6回加速レバーを倒して加速していき噴射炎が大きくなり、スパークも激しくなっていく。
平賀「あと少し!」
武藤「頑張れー!」
剣護「っ!自爆覚悟の……20回、超加速だぁぁぁぁぁ!!」
さらに5回倒して決死の20回に及ぶ超加速により衝撃波が周りに迸る。
剣・金・アリ『止まれえええええ‼︎』
キンジ、アリア、剣護の3人の叫びが重なると同時にANA600便がついに止まり、さらに同時にタイプフォーミュラも爆発して地面に叩きつけられた。
剣護「やっ……た…………ぜ」
武藤や文達が駆け寄る中、その言葉を最後に剣護の意識は暗闇の中へと消えていった。
しばらく経って、3人は寮のキンジと剣護の部屋のベランダで夜景を眺めていた。
アリア「東京でこんなキレイな星空、見えるとは思わなかったわ」
キンジ「台風一過ってヤツだな」
剣護「……首痛い」
アリア「あんなことするからよ」
キンジ「よく生きてたなお前」
あの後、剣護は生命的にかなりヤバかったらしくキンジ達の必死の呼びかけでなんとか戻ってきたそうな。これには流石に医者も奇跡としか言いようがないそうだ。
アリア「あんた本当に人間?」
剣護「人間です!」
キンジ「巨人倒す兵士かお前は」
剣護「うるせえやい」
そう言って3人で笑い合う中、アリアがもじもじとしながら喋りだす。
アリア「あのさ。空で……あたし、分かったんだ。なんであたしに『パートナー』が必要なのか。自分1人じゃ解決できないこともある。あんた達がいなかったら、きっと、あたし……」
金・剣『……』
アリア「だから今日はね、お別れを言いにきたの」
キンジ「……お別れ?」
剣護「なん……だと……」
アリア「やっぱり、パートナーを探しに行くわ。ホントは……あんた達だったらよかったんだけど。でも、約束だから」
キンジ「約束?」
アリア「1回だけ、って約束したでしょ?」
キンジ「あ、ああ……」
剣護「え?アレ俺にも適応されてたの?」
剣護のことをスルーしてアリアは決心したようにキンジを真っ直ぐと見つめた。
アリア「……キンジ。あんたは立派な武偵よ。だからあたし、今はあんたの意思を尊重するし、もう……ドレイなんて呼ばない。だから……もし、気が変わったら……その、もう一度会いに来て。その時は今度こそあたしの、パートナーに……」
キンジ「……悪い」
剣護「…………チッ」
アリアの申し出にキンジは目を逸らしながら断った。それを見て剣護は小さく舌打ちした。聞こえてたのか2人は剣護の方を見るが剣護は思い切り目を逸らし、それから3人は一緒に笑い合った。
アリアが玄関で靴をはいてる間、剣護は自室に入っていった。キンジはアリアを見送っていた。
剣護「…………やれやれだぜ」
アリアが部屋から出たらしく、外からの泣き声を剣護は聞くと自室から刀を持って出て来て、キンジの横に立つ。
キンジ「剣護……」
剣護「ったく……男ならハッキリしやがれってんだ。お前の中でもう答えは出てるはずだ」
キンジ「っ…………」
剣護「アリアもお前も俺も、仮面ライダーとかみたいな正義の味方にはなれない。でもな……アリアの味方ぐらいにはなれるだろ?」
金・アリ『っ!』
剣護はわかっていた。扉の前で泣いてるアリアもこの話を聞いていることに。さらに剣護は続ける。
剣護「俺にはお前らみたいに家族や兄弟はいない。一人ぼっちだった。今のアリアは昔の俺と一緒だ。だからキンジ、お前が支えてやらなくちゃいけない。お前じゃないとダメなんだ。今のアリアには……お前が必要なんだよ」
キンジ「剣護……っ……あぁ、そうだよな……」
剣護「なら、とっとと開けてやんな。お姫さんが待ってるぜ」
キンジ「……あぁ!」
キンジは深く頷くと勢いよく扉を開けた。するとさっきまでそこで泣いていたアリアがキンジに飛び込んできた。
アリア「キンジぃぃぃぃ!!」
キンジ「ぐふぅ!?」
アリア「あ、ご、ごめん!」
キンジ「い、いや大丈夫だ……それよりアリア……その、パートナーのことなんだが……受けるよ。その申し出。お前は『独唱曲』だ……でも……『BGM』ぐらい俺がなってやるさ』
アリア「……うん……!」
キンジは照れ臭そうにしながら、アリアは涙をポロポロと零しながら、お互いに笑い合った。
剣護「全く……お互いに素直じゃないんだから……やれやれだぜ」
剣護はそう言ってキンジの転出申請の書類を手に取ると宙に放り投げ、2人のコンビ結成を祝うかのように、刀でそれを一刀両断した。
剣護「改めて、おめでとさん。キンジ、アリア」