オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!   作:ALEX改

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第55話 覚悟の告白

 

 

 

イ・ウーでの激闘から1ヶ月。キンジは武偵病院に入院し、無事に退院した。

入院している間に政府関係者を名乗る黒服が武偵高の教師とやってきて、イ・ウーに関して根掘り葉掘り聞かれた。その後は「事後処理は我々が行うから今回の事は永久に他言無用」と言い残して去っていった。

 

 

しかし、退院したのは良いが1つ問題が残っていた。

カジノ警備の任務で1.9単位貰えるはずだったのだが、パトラによる襲撃で大暴れし、ルーレットやスロットマシンなどを壊したりしたことで評価を下げられてしまい、1単位引かれて0.9単位しか貰えなかったのである。

このままでは単位不足で留年してしまう………

そう思ったキンジは高天原先生に頼み込んで『探偵科棟内の清掃』の任務を用意してもらった。

そんな訳で、早朝からキンジは1人で棟内の掃除をしていた。

武藤や不知火にも手伝ってもらおうと呼んだが任務や用事で無理だと言う。アリアは連絡しても出ず、白雪は明治神宮での祭事で不在、理子はジャンヌを連れてコミケに行ってしまい、レキも別件で無理、あかり、志乃、ライカの3人も一緒に出かけていて不在、風魔はバイトで駄目、剣護は連絡つく以前に行方不明だった。

結局キンジは1人で棟内の掃除をすることになり今に至る。

 

キンジ「はぁ………」

 

掃除道具を持って最後の教室に入る。

 

アリア「遅かったわね。キンジ」

キンジ「アリア………」

 

そこには電話を掛けても出なかったアリアが、机に腰掛けて足を組んで座っていた。

 

アリア「何ボーッとしてんのよ。これ終わらせられたらあんたは留年しないで済むんでしょ?」

キンジ「あぁ、完了させればな」

アリア「なら、さっさと終わらせましょ」

 

アリアはモップを持つと教室の角へと下がっていった。

 

アリア「競争よ!ここと反対側から拭いていって先に真ん中まで行った方が勝ち、負けたらリポビタン奢りってことで。どう?」

キンジ「お、いいなそれ」

アリア「じゃあ、ヨーイ…」

キンジ「ドン!」

 

開始の合図で2人は同時にすごい速さで拭き始める。

リポDは別にどうでもいいが負けるのは嫌という思いが負けず嫌いの2人を掻き立てる。

そしてキンジが真ん中を少し超えた直後、

 

金・ア『あだっ⁉︎』

 

モップの先端をガン見してたせいで互いに思い切り頭をぶつけてしまった。

2人はもつれ合うように長机と椅子の間に倒れる。まるでキンジがアリアを押し倒しているかのような状態で。

アリアは自分がどんな体勢になっているかに気づくと口をパクパクさせながら顔を真っ赤に染める。

キンジはヒステリアモードの血流が巡り始めたので、他のことを考えてなんとか阻止しようとする。

 

 

剣護『なにキンジ?アリアが可愛すぎてヒスりそう?逆に考えるんだ「ヒスっちゃってもいいさ」と…』

 

 

キンジ「いいわけあるかぁぁぁぁ‼︎」

アリア「ひうっ⁉︎」

 

脳裏に某イギリス貴族の台詞をいい笑顔で言う剣護が浮かび、思わずキンジはツッコんだ。

突然叫んだことでアリアがビクッと反応するが、そのおかげでヒステリアモードの血流は落ち着いたようだ。

 

アリア「ど、どうしたのよ急に叫んで……」

キンジ「あぁ……悪い。頭の中の剣護がちょっとな…」

アリア「頭の中の剣護って何よ」

キンジ「あー……まあ気にしないでくれ」

アリア「そ、そう……なら掃除に戻りましょ……っ」

 

アリアは左胸を押さえる。その顔色は少し悪いようだった。

 

キンジ「どうした?」

アリア「う、ううん、大丈夫………でも最近、ちょっと…」

キンジ「なら良いが……無理はするなよ?」

アリア「うん………大丈夫」

 

その後は何事もなかったかのように書類棚を整理したり、箒掛けをしたり、2人はどうでもいいような話をしながら掃除を進めていった。

アリアが手伝ってくれたこともあり清掃は夕方には終わり、とりあえず単位を確保することはできた。

少し時間が余ったな……なんてことを考えているとアリアが話しかけてきた。

 

アリア「ちょっと屋上で話さない…?」

キンジ「あぁ、良いぞ」

 

少し嫌な予感を感じながら、キンジとアリアは屋上へと上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上に上がると夕陽が沈みかかって、涼しげな風が吹き流れている。

 

アリア「……すごい夕陽ね…」

キンジ「あぁ、そうだな」

アリア「………あの日から1ヶ月も経ったのね…」

キンジ「……今思えば結構ハードな1日だったな…」

アリア「あの後…剣護、どうなっちゃったんだろ……」

キンジ「表向きは行方不明になってるが……兄さんが言うには生きてるのは確からしい。何処にいるかわからないから結局行方不明だが」

アリア「普段はふざけてばっかりな奴だけど……いざ居ないとなると…ポッカリと穴が空いた感じがするわね…」

キンジ「主にあいつと理子がムードメーカーだからな。居なくなったらなったで……なんかな」

アリア「寂しい感じ?」

キンジ「………………そうだな」

アリア「あんたでも寂しいって思うんだ」

キンジ「まあな。なんだかんだ長い付き合いだし……あいつにどれだけ支えられていたことか」

アリア「そっか………あたしにはそんな友達居ないから…ちょっと羨ましい」

キンジ「何言ってんだ」

アリア「?」

キンジ「俺たちがいるだろ。剣護に白雪、理子にレキに…皆仲間である前に友達だろ」

アリア「っ………!うん……そうね」

 

そう言ったアリアの表情はどこか寂しげだった。

 

アリア「………あのね、今回の一件でイ・ウーの証拠が十分揃ったから、もうすぐママの裁判が始まるの」

キンジ「そうか………あと少しなんだな」

アリア「ここまで来れたのはキンジと剣護のおかげよ。ありがとう」

キンジ「いいよ別に。………パートナーだからな…」

 

照れ隠しにぶっきらぼうに返すキンジ。

 

アリア「ママの無罪判決が出たらね……あたしね……ロンドンに帰るの…」

キンジ「………そうか」

アリア「それで……ちょっとした提案があるの」

キンジ「提案?」

アリア「あんたも一緒にロンドンに行くの。向こうで一緒に武偵やったりして……ね」

キンジ「あぁ、それも悪くないかもな。でも英語話せないぞ?」

アリア「それならあたしが付きっきりで教えてあげるわよ」

キンジ「ははっ……お手柔らかに頼むぜ」

 

そう言って互いに笑い合うキンジとアリア。

 

 

 

キンジ「アリア………実は俺からも言っておかないといけないことがあるんだ」

アリア「何?」

 

真剣な表情のキンジにアリアは小首を傾げる。

 

キンジ「………時々俺の性格とか変わる時があるだろ?」

アリア「えぇ、そのことについて?」

キンジ「あぁ………」

アリア「あんなに言いたがらなかったのに、どういう風の吹き回しよ?」

キンジ「言いづらい理由があったんだよ……」

アリア「ふぅん……別に無理に話さなくても良いのよ?」

 

アリアは気遣うように言うが、キンジは首を横に振る。

 

キンジ「いや、これは今後のことにも関わるから話さないといけない」

アリア「そう……わかったわ」

キンジ「俺の力はヒステリア・サヴァン・シンドローム。兄さんはHSS、俺はヒステリアモードって呼んでる」

 

爺ちゃんは『返對(へんたい)』って呼んでるがな…と付け足しながらキンジは話を続ける。

 

キンジ「効果は脳内のβエンドルフィンが一体以上分泌されることで思考力や判断力、反射神経などが通常の30倍にまで向上するんだ」

アリア「あんな芸当ができたのはそれの効果によるものだったのね」

キンジ「まあな。それで……その………発動条件なんだが……」

 

口籠るキンジ。アリアは少し心配そうにキンジを見る。

 

アリア「や、やっぱり無理に話さなくても……」

キンジ「……駄目だ。ここまで話したんだ……引くわけにはいかない」

 

大きく、深く深呼吸して覚悟を決める。

 

キンジ「………発動条件は……性的興奮なんだ…」

アリア「?………………………っ‼︎」

 

アリアはしばらく小首を傾げて、それからボッと火がついたように顔を真っ赤にした。

 

アリア「そ、そっ……か………そう、なのね…」

キンジ「……これが言いづらかった理由だ」

アリア「そう……ありがとうね。話してくれて」

キンジ「……傷つけて後悔するより…本当のことを話してスッキリさせる方が良かっただけだよ」

アリア「………本当、優しいわね。キンジは」

キンジ「そうか?」

アリア「剣護が言ってたわよ。キンジはぶっきらぼうに振る舞ってるけど根は優しい奴だって」

キンジ「あいつ……帰ったら覚えてろよ…!」

 

アリア「………………ん?ちょっと待って。それなら曾お爺さまと戦った時の赤いオーラみたいなのは何なの?」

キンジ「あー……あれか。俺にもよく分からんが……感情がトリガーになってるのは確かだと思う」

アリア「ふーん……今は使えるの?」

キンジ「いや、まだ自由に発動はできないな」

アリア「そう。でも使えるようになったらこの先有利になるわね」

キンジ「そうだなぁ……この2学期始まるまでにはそうなっておきたいな」

アリア「あんた大分鈍ってるんだから時間かかるんじゃない?」

キンジ「違いない」

 

いたずらっぽく笑うアリアに、苦笑いで返すキンジ。

 

アリア「それじゃあ……帰りましょ?」

キンジ「あぁ、そうだな……帰るか、一緒に」

アリア「えぇ、一緒に………ね」

 

キンジとアリアは横に並んで寮への道を歩いて出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「ふぅ……ただいま」

アリア「ただいま」

 

怜二「あ、おかえりー」

レキ「おかえりなさい、2人とも」

ライカ「おかえりなさい」

 

寮に着き中に入ると、レキと怜二とライカがリビングに晩ご飯を運んでいた。

 

キンジ「他はまだなのか」

怜二「そうだね」

アリア「この料理は?」

レキ「白雪さんが作り置きしておいてくれていたものです」

キンジ「お、それはありがたい」

アリア「ライカ。あかり達は?」

ライカ「それぞれ家に帰りましたよ」

 

ちなみに本来ライカはキンジ達の部屋の隣に剣護と一緒に住んでいるが、今は剣護がいないのでキンジ達の方で寝泊りしている。

 

怜二「任務はどうだった?」

キンジ「途中アリアが手伝ってくれたおかげでなんとか終わったよ」

怜二「それなら2学期は大丈夫そうだね」

キンジ「俺はともかく問題は………」

ライカ「剣護先輩……ですよね…」

アリア「あいつも単位足りてないわよね」

怜二「この夏休み中に帰って来なかったらヤバくない?」

レキ「かなりヤバいですね」

キンジ「一応あいつの任務は用意してあるらしいけどな」

アリア「そうなの?」

キンジ「あぁ、高天原先生から聞いたから確かだ」

怜二「……………ちなみに用意したのは?」

キンジ「………………蘭豹」

4人『あぁ……』

 

蘭豹の用意した任務と聞いて4人は何かを察し、この場にいない剣護に心の中で合掌した。

 

 

 

剣護「っ………⁉︎な、なんだ…?今の感じ……」

 

 

 

一方で謎の寒気に身震いする剣護だった。

 

 

 


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