アリア「剣護……!剣護!」
金一「クソッ…!出血が多い…!」
アリアと金一は、シャーロックの不可視の銃撃によって倒れた剣護の手当てに追われていた。
ギアブーストを使用していたせいか、左胸からは血が止めどなく流れている。
シャーロック「アリア君。2つ、ことわっておこう。緋弾の副作用についてだ」
アリア「!」
過去のアリアに緋弾を撃ち込んだシャーロックはアリアに向けて話し出す。
シャーロック「緋弾には延命の作用があり、共にある者の肉体的な成長を遅らせる。あれから君は、体格があまり変わらなくなったことだろう。それと文献によれば、成長期の人体にイロカネを埋め込むと体の色が変わるらしいのだ。皮膚の色までは変わらないようだが、髪と瞳が美しい緋色に近づいていく。今の君のようにね」
講義でもするかのようなシャーロックの話をキンジ達はただ聞いていた。
シャーロック「以上で、僕の『緋色の研究』に関する講義は終わりだ。緋弾について僕が解明できた事は、これで全てだよ」
そう言ったシャーロックは、緋弾を失ったせいなのか、いきなり何歳か歳を取ったように見える。
シャーロック「アリア君。キンジ君。『緋色の研究』は君達に引き継ぐ。イロカネ保有者同士の戦いは、まだ牽制し合う段階にある。しばらくは膠着状態が続くだろう。だが戦いはこれから本格化し、君達はそれに巻き込まれていくだろう。その時はどうか、悪意ある者から緋弾を守り続けてくれたまえ。世界のために」
キンジ(………世界…だと?)
キンジ「ふざけんな……!」
キンジは体内にヒステリア・ベルセの血が巡っていくのを感じながら、立ち上がった。
キンジ「シャーロック、お前はそんな危険な戦いにアリアを巻き込ませるつもりなのか…!自分の…血の繋がった曾孫を!」
その怒りに呼応するように、キンジの身体からかつて金一と戦った時にも出ていた赤いオーラが溢れ出る。
シャーロック「キンジ君。君は世界におけるアリア君の重要性が分かっていない。1世紀前の世界に僕が必要だったように、彼女は現代の世界に必要な重要人物なのだ」
キンジ「世界だのなんだの……知ったことか‼︎」
勢いを増すオーラと共に体が熱を帯びる。
キンジは犬歯をむいて叫び続ける。
キンジ「こいつはただの高校生だ!例え体の中に何を抱えてようと、クレーンゲームに夢中になって、ももまん食い散らかして、テレビ見てバカ笑いしてる……ただの高校生だ‼︎分かってねえのはお前の方だろ……シャーロック‼︎」
シャーロック「……認めたくない気持ちは分からないでもない。君は彼女のパートナーなのだからね。だがキンジ君。この世に悪魔はいないにしても、悪魔の手先のような人間はいくらでもいる。この世界には、君の想像も及ばないような悪意を持つ者がイロカネを」
キンジ「何度も言わせんじゃねえよ……!世界だの…悪意や善意だの…そんなもん知ったこっちゃねえんだよ‼︎」
シャーロック「……それなら平穏に生きるといい。君はそういう選択もできる。その意思を貫くためにアリア君を守り続けて……平穏無事に、緋弾を次の世代に継承しなさい。全て君達が決めていいんだ。君達はもう十分強い。その意思は通るだろう」
キンジ「………………」
シャーロック「いいかいキンジ君。意思を通したければ、強くなければいけない。力無き意思は、力有る意思に押し切られる。だから僕は君達の強さを急造するためにイ・ウーのメンバーを使って、君達がギリギリ死なないような相手を段階的にぶつけていく、パワー・インフレという手法を用いた」
キンジ「……あれもこれも全部、お前が描いた絵だった…てことかよ」
キンジは歯ぎしりしてから、シャーロックを睨みつける。
ベルセの血は全身に回り、赤いオーラは燃え盛る炎の如く溢れている。
シャーロック「気に食わなかったかな?」
キンジ「当たり前だろ。それに俺は今キレてんだ。パートナーと親友を撃たれてな」
シャーロック「ふむ……ならば、どうするのかね?」
キンジ「決まってんだろ」
キンジはバタフライナイフを構える。
キンジ「お前をぶっ飛ばす。無理だったとしても1発は叩き込んでやる!」
シャーロック「いいだろう。これで最後といこうか」
キンジ「あぁ、そうするとしようぜ!」
シャーロック「ここから先は、僕の推理の範囲外だ。どんな結末に転がるか……僕にも分からないよ?」
キンジ「上等だ……行くぞ。シャーロック・ホームズ!!!」
アリア「キンジ……」
シャーロックに向かって駆け出すキンジを見て、アリアは剣護の方に向き直る。
金一の処置を受けているが、未だに目を覚ます様子がない。
金一(…弾が心臓までいっている上に、鼓動が止まっている……)
最悪の結果が脳裏を掠めるが、それでも死なせまいと金一は必死で処置を続ける。
金一「絶対に死なせないからな。剣護……!む?」
ふと顔を上げるとアリアが剣護のすぐ隣に座り込んでいた。
その手には武偵手帳から出したのか、ラッツォが握られている。
金一「お前、何を……」
アリア「……お願い……起きて…!」
アリアは目を覚まさない剣護に呼びかける。
アリア「…目を覚まして剣護…!キンジ1人じゃ、曾お爺さまに敵わない……今助けられるのはあなたしかいないのよ!あなたの力が必要なのよ………!だから……だから……!」
ラッツォを握ったまま、祈るように両手を合わせ、ポロポロと涙を零しながら呼びかけるアリア。
アリア「キンジを助けて……お願い………剣護‼︎」
アリアはラッツォを強く握ると、鼓動の止まったその心臓に強く、勢いよく突き立てた。
剣護「………………あり?」
ふと気がつくと、剣護は赤い花畑のような場所に立っていた。
周囲は深い霧に包まれており、人ひとりいないのか音もなくとても静かである。
剣護「この花は………彼岸花?」
よく見てみると辺り一面に咲いている花は全て彼岸花らしい。
少し歩いて行くと川へと辿り着いた。
剣護「川、か……いやー…あんま考えたくはないんだけどなぁ…」
とりあえず川に沿って歩いていると、どこからか歌声が聞こえてくる。
先に進んでみると、1隻の舟が停泊している。舟の上には1人の女性が歌を口ずさんでいた。
「♪〜………ん?おや、あんたも死んだのかい?」
剣護「………………ダリナンダアンタイッタイ」
「私かい?私は…そうさねぇ……死神とでも言っておこうかね」
剣護「死神………てことはやっぱここは…」
死神「あんたの考えてる通りだよ。ここは三途の川。どんなとこかは……まあ言わなくてもわかってるみたいだし良いか」
剣護「なら、俺は死んだのか?」
死神「んー………いや、そうでもなさそうだね。今のあんたは生と死の間を彷徨ってる状態にある」
剣護「はぇー……」
死神「にしても、あんた見る限り結構若いのに何でこんなとこにいるのさ?」
剣護「心臓を撃たれ申した」
死神「それでその状態でいられているのはすごいね……それでどうする気だい?」
剣護「んなもん決まってらぁ」
剣護「すぐに戻ってあの野郎に1発お見舞いしてやるぜ」
死神「……ふぅん。でも戻ったところで返り討ちにされるんじゃないのかい?」
剣護「それでもだ。やられっぱなしで1発も返せずに終われねえよ」
死神「ま、あんたが何をしようが私には関係ないけどさ。ところで、どうやってここから戻るつもりだい?」
剣護「………………………………」
戻る方法。それを聞かれて剣護は冷や汗を流しながら目を逸らす。
剣護「………なんとかなりません?」
死神「無理だね。私の仕事は死者の霊を舟に乗せてこの川を渡らせるだけだからねぇ」
剣護「………今はサボってるやんけ」
死神「それは言わないお約束ってもんさね」
剣護「クッソ…!どーすっかな…急いでなんとかして戻らねえと……」
「そうはいきませんよ」
剣護「っ!」
死神「あ、やば……」
声がした方を振り返ると、笏を持った緑髪の女性が立っていた。
「全く……相変わらずサボっているのですか…」
死神「し、しk……閻魔様……」
剣護「ゑ?閻魔?」
死神「私の上司だよ……」
剣護「…てことは俺、ここで裁かれんの?」
閻魔「いえ、それは地獄でやる仕事なので」
剣護「んじゃ何の用だよ」
閻魔「部下が仕事をサボってないかの確認です。それともう1つ……………あなたへのお説教です」
剣護「はいっ⁉︎」
閻魔「まずは正座!」
剣護「ア、ハイ」
閻魔に言われ、素直にその場で正座する剣護。
閻魔「あなたのこれまでの行いを見てきましたが……あなたは無茶をしすぎです!それも少しどころじゃない上に、ほとんどが自身の命を顧みていないような行動ばかり!今回もそうです!現にあなたは生と死の間を彷徨い、この三途の川に来てしまっているじゃないですか!」
剣護「や……あの……はい…………」
死神(あー………始まっちゃったよ……)
突然始まった閻魔の説教に剣護は戸惑いつつも、閻魔の説教を聞いた。
足の感覚が無くなってきても、説教は続き体幹で1時間経ったかぐらいの頃には、剣護の顔は目のハイライトが消えて表情が死んでいた。
閻魔「あなたはもう少しですね…」
剣護「あい………あい……………ッ!」
曖昧に返事を返していたその時、ドクンッと大きく心臓が脈打った。
剣護は胸を押さえると心臓の辺りから体の中が熱くなっていっていた。
剣護「カハッ…!ハッ……な、なん……?」
閻魔「む、恐らくあちら側から何かされたのでしょう。この続きはまたお会いした時にするとしましょう」
剣護「い、いやぁ…そ、それは……」
閻魔「嫌なら2度もここに来ることがないように気をつけることです。ここは死者の霊が来る場所……あなたが来るには早すぎます」
剣護「ぜ、善処します……」
閻魔「………それともう1つ、忠告しておくことがあります」
剣護「忠告……?」
閻魔「浄玻璃の鏡で見ましたが……あの男があなたに撃ち込んだものはただの金属ではなさそうです。私の推測ですがあなたに何らかの影響が現れるのは確かでしょう。くれぐれもその力に……飲み込まれないように気をつけてください」
剣護「え、でも緋弾はアリアに……ぐっ…」
そう言ったところで視界が霞み始め、おもわず剣護は膝をつく。
死神「だ、大丈夫かい?」
閻魔「目覚めが近いようですね。繰り返しますが2度もここに来ることがないようにしてくださいね?あなたのことを心配しているのは友人達だけではないのですから……」
剣護「っ…………それ、は……どう………?」
閻魔「いずれ分かりますよ。まあ……もしも、あなたがこちらの世界へ迷い込んでしまったらの話ですがね」
剣護「…何……を…………?」
それを聞こうとしたところで剣護の視界は暗転し、意識を失ってしまった。
キンジ「おおおおおおお‼︎」
シャーロック「はっ!」
キンジの拳とシャーロックの拳が鈍い音を立ててぶつかり合う。
キンジ「ぜあっ‼︎」
シャーロック「シッ!」
拳の押し合いから離れると今度は互いに蹴りを放ってぶつかり合う。
さらにはナイフと刀と続き、拳、蹴りの応酬が繰り返される。
攻撃を繰り出し、避けて、防ぎ、裁き、2人は全力でぶつかり合う。
シャーロック「ふっ!」
キンジ「ぐっ!」
シャーロックの顔を狙った上段蹴りをキンジは腕を交差させてガードするが受け止めきれず、後ろに吹っ飛ぶ。
キンジ「ガハッ……!」
シャーロック「1人とはいえここまで僕と渡り合うとは驚いたよ。だがここまでだね」
キンジ「………あぁ……ここまでだ」
アリア「キンジ……!」
シャーロックはスクラマ・サクスの剣先をキンジに向ける。
その刀身からはバチバチと稲妻が走り始める。
キンジ「だけどな………………」
シャーロック「ん?何だい?」
電撃が光る剣先を向けられながらも、キンジはシャーロックを睨みつけニィィッと笑う。
キンジ「ここまでってのは、俺1人で戦うのはってことだ」
シャーロック「何を……………っ⁉︎」
次の瞬間、炎の壁が2人の間を遮るように発生する。
腕で顔を覆って炎の壁から離れるシャーロック。その腹部に衝撃が叩き込まれ、シャーロックは後ずさりして膝をついた。
シャーロック「ゴハッ……⁉︎」
血を吐きつつ、驚きと困惑の表情で前方を見る。
炎の壁が消え、その先に見えたのは赤いオーラ纏う者の隣に立つ
シャーロック「そんな……まさか…だが君は……⁉︎」
驚きを隠せないシャーロックに、キンジとその隣に立つ者…………剣護はニヤリとしながら答える。
キンジ「言っただろ。俺1人で戦うのはここまでだってな」
剣護「さぁ………こっから反撃開始だ……!」