オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!   作:ALEX改

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第六章 名探偵シャーロック・ホームズ
第50話 イ・ウー


 

 

 

剣護「っ……ぐぅ…!」

カナ「血が止まらない……ど、どうしたら…!」

剣護「今の…弾……アーマーピアスか…防弾装備を易々と撃ち抜きやがって……!」

 

次の瞬間、爆音と共に船全体が大きく揺れた。

 

アリア「きゃあ!」

カナ「うあっ!」

剣護「いでぇ⁉︎」

カナ「あ、ごめん…」

剣護「あんだよ今の⁉︎」

キンジ「恐らくMk-60対艦魚雷だ!イ・ウーが撃ちやがった!」

パトラ「教授がこっちに来るのぢゃ!」

 

パトラの言葉に焦る中、ごすん…とイ・ウーとアンベリール号が接舷したらしく船体が大きく揺れる。

 

キンジ(とうとう……来やがった……!)

 

 

 

シャーロック「もう逢える頃だと、推理していたよ」

 

 

 

その第一声に、キンジ達に緊張が走る。

たった一言だけでその場でひれ伏してしまいそうな、格の違いを感じさせられる。

 

シャーロック「卓越したら推理は、予知に近づいていく。僕はそれを『条理予知(コグニス)』と呼んでいるがね。つまり僕は全て予め知っていたのだよ。だからカナ君……いや遠山金一君。君の胸の内も僕には推理できていたのさ」

カナ「っ…………」

シャーロック「さて、遠山キンジ君、月島剣護君。君達も僕のことは知っているだろう。それでも僕は君達にこう言わなければいけないのだよ」

 

回りくどい言い方をしてから、一拍おくとシャーロックはこう言った。

 

シャーロック「初めまして。僕は、シャーロック・ホームズだ」

剣護「わーっとるわ、んなもん」

シャーロック「ハハハ……さて、アリア君」

 

名前を呼ばれたシャーロックに、呆然としていたアリアはビクッと反応した。

 

シャーロック「時代は移ってゆくけど、君は変わらないね。ホームズ家の淑女に伝わる髪型を、君はきちんと守ってくれているんだね」

 

剣護(ツインテって淑女がするもんなん?)

キンジ(いや、知らんがな)

 

シャーロック「アリア君。僕は君を、僕の後継者として迎えに来たんだ」

アリア「……ぁ……」

シャーロック「おいで、アリア君。そうすれば……君のお母さんは助かる」

アリア「っ‼︎」

 

その言葉はアリアの心を傾けさせるには充分すぎるものだった。

 

キンジ「アリア!」

シャーロック「さあ、アリア君。行こうか」

アリア「あっ………」

 

シャーロックがアリアを抱き上げるが、アリアは抵抗せずにされるがままにシャーロックにお姫様抱っこされる。

 

キンジ(行くな…!アリア…!)

 

キンジ「アリア‼︎」

 

アリアの名を叫んだことで、キンジは再認識する。

 

アリアが、自身のパートナーが奪われた(・・・・)ということを。

 

キンジ「アリアァァァァァ‼︎」

 

瞬間、ドクンッとキンジの身体の中心に灼けつくような感覚が巡る。

 

キンジ(これは…ヒステリアモード…?でもいつものとは何か違う…)

 

剣護「フー……………っ!ふんっ‼︎」

 

剣護はナイフを取り出すと、弾丸が撃ち込まれた左肩に突き刺した。

 

カナ「剣護⁉︎何をしてるの⁉︎」

剣護「ぐっ…ふんぎぎぎぎぎぎぎ‼︎」

 

血が更に溢れ出すにも関わらず、突き刺したナイフを動かし銃弾を取り除こうとする。

 

剣護「んがーっ!俺1人じゃ無理!キンジ‼︎」

キンジ「え、何…ちょおま何してんの⁉︎」

剣護「手ぇ貸せ!早く!」

キンジ「でもお前、止血…」

剣護「アリアを助けに行くんだろうが‼︎」

キンジ「っ……!わかった…」

 

キンジの手を借りると、突き刺した所に再び突き刺す。

 

剣護「フー…!フー…!ぬぎぎぎぎぎ…‼︎」

 

突き刺した所から少し深めにナイフを捻じ込む。激痛が襲うが構わずにナイフを動かしていく。

 

剣護「っ!ぐぬ……ガアァァァァァ‼︎」

 

カツンと固いものが当たると、その下にナイフを捻じ込み上に押し上げる。傷口から血の塊が溢れ出し、その中から銃弾が転がり落ちた。

 

剣護「フー…!フー…!っ………はぁ……!」

カナ「全く無茶するわね……パトラ!」

パトラ「わ、分かっておる!」

 

カナは消毒液を染み込ませたハンカチを傷口に押し当て、その上からパトラが手を当て青白い光を灯し、傷を治していく。

 

剣護「クッソ痛え…」

キンジ「当たり前だろが!」

パトラ「普通やらんぞ、あんなこと…」

剣護「しばらく左腕は使えんな…とにかくシャーロックを追うぞ」

キンジ「……あぁ…!」

カナ「待ちなさい。キンジ。あなたに教えておくことがある」

キンジ「何だよ?」

 

カナ「キンジ、覚えておきなさい。ヒステリアモードには成熟や状況に応じた派生系があるの」

キンジ「ヒステリアモードの…派生系…?」

カナ「そう、瀕死の時に発動するヒステリア・アゴニザンテ。別名を死に際の(ダイイング)ヒステリア」

キンジ「瀕死の時……もしかしてブラドの時の…!」

カナ「ええ、恐らくそれでしょうね。そして今のあなたがなっているのも通常のものじゃない。さっきの叫びで確信したわ」

キンジ「俺のも……?」

カナ「通常のヒステリアモードは、ヒステリア・ノルマーレ。女を守る(・・)ヒステリアモード。そして今のあなたがなっているのは、ヒステリア・ベルセ……女を奪う(・・)ヒステリアモードに変化しつつあるの。目の前で女を、他の男に奪われたことでね」

キンジ「………!」

カナ「気をつけなさい。ベルセは通常のヒステリアモードに自分以外の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情が加わって発現する危険な物なの。女に対しても荒々しく、時には力尽くで全てを奪おうとさえする。戦闘能力はノルマーレの1.7倍にまで増大するけど、思考が攻撃一辺倒になる、諸刃の剣。制御は不可能ではないけど、初めてだと難しいでしょうね」

 

カナが話している間にも、船はゆっくりと沈んでいる。

 

カナ「時間は限られてるわ。2人とも、行けるかしら?」

キンジ「あぁ…!アリアを救出して」

剣護「シャーロックも逮捕だ!」

カナ「それじゃあ……合わせるわよ!」

 

船が1mほど沈んだところで3人は、シャーロックが作り出したであろう流氷に飛び移り、駆け出した。

 

カナ「シャーロック!」

 

叫ぶと共にカナは不可視の銃撃を放つ。しかし、シャーロックの背後でその銃弾は火花を上げて弾かれる。

 

キンジ(銃弾撃ち(ビリヤード)……!)

 

カナの不可視の銃撃をシャーロックは同じ技で銃弾撃ちをやってのけたのだ。

 

カナ「キンジ!」

キンジ「分かってる!」

 

再びカナが2発目を撃ち、シャーロックはまた弾き返す。が、今度はキンジが弾かれた銃弾を更に弾いてシャーロックに向ける。

更に弾き返された銃弾をシャーロックはいとも容易く防ぐ。

 

キンジ「チッ!」

 

キンジが舌打ちすると、ほぼ同時にカナが4連射、加えて前もって宙にばら撒いていた銃弾をリロードし6連射、さらに隠し持っていたもう一丁のピースメーカーでの6連射、合計16連射の不可視の銃撃を繰り出す。

それに対し、シャーロックは同じ16連の銃弾撃ちで全て弾いて防いだ。

 

キンジ「うおおおおッ!」

剣護「らああああッ!」

 

キンジはロングマガジンに交換したベレッタをフルオートで撃ち、剣護もファイブセブンを使って同時に宙に散った無数の銃弾をカナと共に弾き返す。

銃弾撃ちだけでなく、新技の鏡撃ち(ミラー)も織り交ぜていくが、その攻撃も全てシャーロックの銃弾で防がれていく。

 

剣護「霊気弾!」

 

剣護はさらに左手の全部の指先から光弾を連射するが、それも無数の銃撃に掻き消されてしまう。

 

剣護「レッグ!ナイッ…………スライサー!」

 

さらに蹴り上げると共に光波を放ち、宙に散る銃弾を切りながらシャーロックに迫るが5mほど前で氷の壁に防がれる。

 

剣護「チッ!これもかよ…!」

キンジ「お前さっきレッグナイフって言いかけたろ」

剣護「お黙り!」

 

言い合いをしながらもキンジ達は攻撃の手を緩めず、ビリヤード、ミラー、霊気弾などの様々な技を繰り返し、見る間にイ・ウーの甲板上では100発を超える銃弾が激突し合い、無数の火花を三次元的に展開させていく。

 

キンジ(名付けるなら、冪乗弾幕戦ってとこか……!)

 

嵐のような銃撃戦が繰り広げられる中、シャーロックはアリアを抱えたまま艦橋まで跳び上がった。

シャーロックが反転してキンジ達の方に振り向く。アリアも同じ向きになっているのでキンジ達の攻撃も止まる。

そしてシャーロックはアリアの耳を塞ぐと、シャーロックの胸部が膨らんでいきネクタイが破れ、シャツのボタンが弾け飛ぶ。

 

金・剣『っ!』

 

キンジと剣護は咄嗟に耳を塞ぎ、体勢を低くする。

 

 

 

イ"ェアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

かつてブラドが放ったワラキアの魔笛。

衝撃と振動が襲うが2人はなんとか耐える。そしてそれが収まるとキンジは血流を確認し、ヒステリアモードが解除されてないことを確認する。

 

キンジ「カナ、大丈夫か?」

 

そう言って振り返るとカナが両耳から血を流していることに気付く。

 

キンジ「カn……兄さん!」

金一「っ…大丈夫だ…!」

 

カナのいつもの女口調から金一の男口調に戻っている。つまりそれは金一のヒステリアモードが解除されていることを表す。

 

剣護「え、マジ?金一さんに戻ってんの?」

金一「あぁ…まさかヒステリアモードが解除されるとはな……!」

 

金一はシャーロックを睨むとシャーロックの手元が2回光った。

 

金一(マズッ……‼︎)

 

金一がキンジと剣護に呼びかけ、突き飛ばそうと動くが、それよりも速く剣護が動いた。

 

 

 

バギギャリィィン‼︎

 

 

 

甲高い音が響き、剣護の足元に銃弾が、キンジの足元に刀の切っ先が転がり落ちる。

 

剣護「……ん?げぇッ⁉︎折れたぁ⁉︎」

 

抜き放った十六夜を見ると刃毀れが広がっている上に欠けていた部分の先が折れてしまっていた。

 

剣護「マジかよ……」

金一「後で直せば良いだろう。それよりも奴は中に入って行ったな…追うぞ」

キンジ「でも兄さん…」

金一「フッ…例えヒステリアモードで無くても戦えるさ。だが戦力は落ちてしまったな…」

 

金一は防弾制服を脱ぎ捨て、防弾アンダーウェアになるとピースメーカーを構える。

 

金一「もうここまで来たからには後には引けん。2人とも準備はいいか?」

キンジ「っ……あぁ…!」

剣護「はぁ……仕方なし…」

 

3人は艦橋から螺旋階段を降りて艦内へと潜入する。

艦内は広大なホールが広がり、巨大なシャンデリアが天然石の床を照らし出している。床には恐竜の骨格標本、周囲の壁には木製の棚に貝や海亀の甲殻、図鑑でしか見たことのない絶滅動物の剥製などが並べられている。

 

剣護「すっご……ほぼ博物館じゃんか」

キンジ「あぁ……これが潜水艦の中かよ…」

 

ホールを抜け、その先の螺旋階段を降りると生きたシーラカンスや様々な熱帯魚が泳ぐ水槽が並べられた部屋に入る。

 

剣護「すげぇ⁉︎モノホンのシーラカンスが泳いでんべ⁉︎」

キンジ「実際に見るとなんか不気味だな……」

金一「……お前ら、遊びに来てるんじゃないんだぞ?」

 

水槽の部屋を抜けると極彩色の鳥が飛び交う植物園、そこも駆け抜けて金や銀などの宝石を含む世界中の鉱石を陳列した標本庫も抜ける。

さらに長い布のタペストリーや革表紙の本が並ぶ書庫や黄金のピアノと蓄音機が並ぶ音楽ホールを抜けて、剣や槍、甲冑など世界中の武器やら防具やらが集められた小ホールに入ったところで3人は立ち止まる。

 

金一「止まれ、2人とも」

キンジ「兄さん?」

金一「何か近づいてくる…」

 

耳を澄ますと遠くからガシャガシャと音が3人の方へと近づいてくる。

武器を構え警戒する3人の前に現れたのは、西洋の甲冑に身を包んだ一体の騎士。その手には大型のロングソードが握られている。

 

剣護「先手必勝!」

 

すぐさま剣護が動き、蹴り上げで光波を放つが、いとも容易く剣で切り払われてしまう。

 

剣護「え、つっよ……」

キンジ「パトラの人形と似たようなもんか?」

剣護「あれより何倍も強えんだけど」

キンジ「どうすんだよ」

剣護「キンジは先行って。俺はアイツ抑えるから」

金一「俺も残ろう。今の剣護じゃ相手するのはキツいだろう」

キンジ「…わかった。後で合流しよう」

 

そう言うとキンジは先へと走って行った。甲冑騎士はキンジの行った方をチラリと見るとすぐに剣護と金一に向き直る。

 

金一「こちらを先にやるようだな」

剣護「その方が都合が良いっすわ」

 

金一はスコルピオを、剣護は氷花を構え、甲冑騎士もロングソードを構えて互いに向き合う。

 

 

 

 

 

 

 

キンジは肖像画の部屋の隠し通路から下へと降りていくと、聖堂へとたどり着いた。その奥には背を向け膝をついて祈りを捧げるような姿勢をしているアリアがいた。

 

キンジ「アリア!」

アリア「……キンジ!どうして…」

キンジ「パートナー助けに行くのに理由がいるのかよ。にしてもシャーロックは紳士ぶってるのか。人質のお前をこんな所に放すなんてな。だが合流できたのは好都合だ。一旦兄さん達と合流を……」

アリア「……帰って…」

キンジ「……何?」

 

アリアの言葉にキンジは眉を寄せる。アリアはキンジから一歩退いて、自分の胸の前で拳を握る。

 

アリア「帰って、キンジ…今ならまだ、逃げられるわ」

キンジ「帰れって……お前はどうするつもりだ」

アリア「あたしは、ここで曾お爺さまと暮らすわ」

 

「なんで」と言いかけたキンジの言葉を遮り、アリアは続ける。

 

アリア「あんたには話してなかったわね……ホームズ家でのこと。あたしは推理力を誇るホームズ家で、たった1人、その能力を持ってなかった。だから欠陥品なんて呼ばれて、バカにされて、ママ以外のみんなから無視されてきた…」

キンジ「………………」

 

アリアの話をキンジは何も返さず黙って聞いている。

 

アリア「それでもあたしは曾お爺さまの存在を心の支えに、武偵として活動してきたわ。そしてその憧れだった人が…あたしの前に現れてくれた。あたしを認めてくれた!あたしを後継者とまで呼んでくれた!この気持ちがあんたに分かる?分かるわけないわ!」

キンジ「だが、かなえさんに無実の罪を着せたのはイ・ウーなんだぞ。シャーロックはそのリーダーだった」

アリア「それも解決するわ……曾お爺さまはイ・ウーをあたしに下さると言ったわ。そうなればママは助かる。ここにはママの冤罪を晴らすためのあらゆる証拠が揃ってる」

キンジ「……ならお前が敵のリーダーになって、それでかなえさんの罪が晴らすことができたとしても……それをあの人が喜ぶと思ってるのかよ…!」

アリア「じゃあどうしたら良いのよ‼︎曾お爺さまはただの天才じゃない。歴史上、最も強い人間なのよ……剣護だって重傷負ったのよ!たとえ裏人格のあんたでもかないっこないの。キンジ……あんた達じゃ無理なのよ…!」

 

甲高い声で怒鳴るアリアに、キンジは長い瞬きをして息を吐く。

 

キンジ「無理、疲れた、面倒くさい。この3つは人間の持つ無限の可能性を自ら押しとどめる、良くない言葉だ。……俺と会った日に、お前はこう言ったよな」

アリア「っ………!」

キンジ「ハッキリ言わせてもらうけどな。イ・ウーなんざただの海賊と変わらねえんだよ。お前の曾爺さんは長生きしすぎて、ボケて、その大将なんかをやってんだよ」

アリア「……曾お爺さまを…侮辱してはダメっ……!」

キンジ「それに俺はお前のパートナーだ。だから絶対にシャーロックの奴からお前を奪い返すまで諦めねえぞ」

アリア「キンジ………」

キンジ「確かに剣護でも重傷を負ったけど、あいつならそんなの今更どうってことねえよ」

 

(めちゃくそ痛えんですけどォォォォォォ‼︎)

 

アリア「…何か聞こえたんだけど」

キンジ「キニスンナ」

アリア「アッハイ…」

キンジ「まあそーゆーわけだ。俺は…俺達はそう易々と帰るわけにはいかないんだ」

アリア「………そう。なら……」

キンジ「あぁ、そろそろ言い合いも飽きたろ?」

アリア「…そうね。話が通じないなら、『コレ』しかないわね」

キンジ「ああ」

 

アリアとキンジはそれぞれ自身の銃を抜き、構えた。

 

アリア「あんたには帰ってもらうわ」

キンジ「お前を取り戻すまでは帰らねえよ」

 

 

今ここに、互いの意思を貫き通す、全力全開の大喧嘩が始まる!

 

 

 


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