カナ「まずは剣護、はいこれ」
剣護「サンキュ」
2人の方へ振り返るとまず剣護に水が入った2リットルのペットボトルを渡す。受け取った剣護はそれを傾けてゴキュゴキュと一気に飲み干していく。
カナ「キンジ、私が渡した緋色のナイフは持っているわね?」
キンジ「あぁ」
カナ「あのナイフを持ったまま、アリアに口づけなさい」
キンジ「………………はい?」
カナ「キスの方が良かったかしら?」
キンジ「い、いやそういうことじゃなくて……」
カナ「パトラの相手は私達がするわ」
キンジ「……わかった。頼むぞ、カナ、剣護」
再びアリアの元へと走り出すキンジ。行かせまいとパトラが動くがその前にカナと剣護が立ち塞がる。
カナ「あなたの相手はこっちよ?パトラ」
パトラ「……カナ。トオヤマキンイチ。寄るでない。妾は、お、お前とは戦いとうない…」
剣護「なるほど。じゃあ俺が」
パトラ「お前もお前で嫌ぢゃ‼︎」
そう言いつつ、パトラは自分の周囲に大皿のような砂金の盾を6枚展開した。
カナ「それだけじゃないでしょう、パトラ。出せるだけ出してみなさい」
しかし、不可視の銃弾によって一瞬で6枚全て破壊されてしまう。
パトラ「お、お前なんか……大ッキライぢゃあーーー‼︎」
パトラは今度は黄金の鷹を8羽作り出した。作り出された鷹は四方八方から2人に襲いかかる。
カナ「8つか。もっといけるかと思ったんだけどな」
剣護「んー……技使うまでもねえや」
剣護は十六夜とイロカネアヤメを4回振るい、2羽ずつ鷹を斬り落とす。
パトラ「まだぢゃ!」
パトラはさらに鷹を一気に20羽ほど飛ばすが、何羽か片足が無かったり、頭が小さかったりと歪なものがあった。そのうちの1羽がカナの髪を結んでいた布を切った。
カナ「あら……まあ仕方ないか」
そう言うとカナは髪の中に隠していたものを組み立て始めた。ワイヤーか何かで繋がっているらしく、自動的に組み上がっていき、それが終わるとカナの手には大鎌が握られていた。
カナ「
パトラ「わ、妾はファラオぞ!お前達ごときに…お前達ごときに!」
大鎌の曲刃に一瞬戸惑ったパトラは、鷹の他に豹や蛇を砂金で作り出し、上下、空中からめちゃくちゃにけしかける。
カナ「剣護、合わせられる?」
剣護「おうよ。むしろ連携は得意だぜ」
カナ「それは頼もしいわね」
カナは大鎌をバトンを扱うように回転させていき、それに合わせて剣護も技を繰り出していく。
カナ「この桜吹雪、散らせるものなら……」
剣護「月島流……」
カナ「散らせてみなさい!」
剣護「富嶽渦雲斬り!!!」
パトラ「…ぐっ……!」
砂の中を武器を振り回しながら近づく2人に、パトラはさらに退く。
カナ「チェックメイトね。パトラ」
パトラ「わ、妾は…まだ……!」
剣護「………む?」
ふと、ズズズ…と何かが沈んでいくような音が剣護の耳に入った。
振り返るとアリアの入った柩とそれに飛びついたキンジが砂の中に沈んでいっているのが見えた。
剣護「キンジ⁉︎」
カナ「え?…りゅ、流砂⁉︎」
キンジの方を見てからパトラの方へ振り返ると既にパトラの姿がなくなっていた。
剣護「チッ!」
剣護が駆け出すも既にキンジとアリアは流砂の中へと沈み切ってしまっていた。
キンジ「いってぇ……」
流砂に柩と共に飲まれ、どこかに衝突した衝撃で頭を打ったキンジは辺りが真っ暗なことに気づくと、蓋を押し開けようとするが砂金で重量が増しているのかビクともしなかった。
キンジ「クソッ……でも先にアリアを…!」
B装備のライトを照らすと、パトラと同じような衣装を着せられたアリアがそこにいた。
キンジ(よし、まだ生きてる…!けど…)
キンジはカナに言われたことを思い出す。アリアの呪いを特には緋色のナイフを持ってアリアにキスをしなければならない。
キンジ「っ………」
顔がどんどん熱くなり、鏡を見ずとも自分の顔が赤くなっているのがよく分かる。
キンジ(…アリア……)
何故、彼女に対してこんなに一生懸命になれるのか。
何故、兄を斃してまで、こんな場所まで助けに来てしまったのか。
同情、あるいは彼女に対してのある種の尊敬から来るもの。
そう思おうとしてきた。でも、それは自分につき続けていた嘘だった。
本当は認めるのが怖かった。
心の中で言いたくなかった。
それでも、こんな時くらいは……
キンジ(……俺は…知らない間に、お前のことを……)
気づくとゼロになる2人の距離。考えるよりも先に、キンジの唇はアリアの小さな唇に、触れていた。
キンジ(アリア……!)
キンジはアリアの頭を強く抱き寄せる。
その時、ズボンのポケットから緋色の光がキンジの周囲を照らす。
ポケットからそれを取り出すと、光っていたのは兄から貰ったバタフライナイフだった。
キンジ「なんだ、これ……」
アリア「………ん…」
小さく聞こえたアニメ声。
ナイフを仕舞うと、アリアがカメリア色の瞳を薄く開いていた。
アリア「…キン…ジ……?」
キンジ「アリア……!」
アリア「あれ…あたし、確か撃たれて……ん?あれ、ここどこ?てか何この服⁉︎」
キンジ「はは……」
キンジは自分の血流を、ヒステリアモードの発動を確かめる。
キンジ(なってるな。ヒステリアモード…でも何かいつもと少し違うような……?)
2人は蓋を押し開けて柩から出ると、ズズン…と遠雷のような音が聞こえた。
キンジ「今のは……?」
アリア「な、なんの音……?」
パトラ「トオヤマキンジ……!」
金・ア『っ!』
咄嗟にキンジはパトラに向かってベレッタをスライドがオープンするまでフルオートで撃つが、砂金の盾によって全て防がれてしまう。
パトラ「…今回は退いてやる。ぢゃが、アリアは置いていってもらうぞ…!」
キンジ達が落ちた穴から降りるとパトラは狙撃銃をアリアに向け、構えた。ヒステリアモードになっているキンジはその特性上、アリアの前に立ってしまう。
パトラ「さらばぢゃ、トオヤマキンジ」
キンジ「っ!」
アリア「キンジッ!」
引き金を引き、放たれた銃弾はキンジの頭へと飛んでいく。
キンジはアリアを背中で押し飛ばすように、後ろに倒れる。
アリア「キン、ジ……キンジィ!」
剣護「キンジ‼︎」
キンジが撃たれた瞬間、カナと剣護が到着した。
剣護「パトラアアアアアアアアアアアア!!!」
しめ縄を解かないまま常世の神子に覚醒すると、剣護はパトラに向かって突進する。
しかし、それは目の前の緋色の光によって止められる。
剣護「っ!なんだ…?」
光の方を見れば、アリアがパトラの方を向いている。その身体は緋色の光に包まれている。
怯えた様子で後ろに後ずさるパトラに、アリアは人差し指を向ける。
その先端が緋色に輝き始め、小さな太陽のようにその光が広がっていく。
剣護(あれは……やばい‼︎)
カナ「避けなさい!パトラ!」
緋色の光線が指先から放たれた瞬間、カナが叫び、パトラは滑るように、剣護も横っ飛びに避ける。
放たれた光は弾け、部屋全体を緋色に覆った。
剣護(っ……なんだこりゃ…)
顔を覆っていた腕を下ろすと、青い空が広がっていた。
アリアの放った光がピラミッドの上部をゴッソリと消し去ったのだ。
パトラ「あ、あ、あぁっ!」
天井を見上げていたパトラの衣装が砂金へと戻っていく。ピラミッドが破壊されたことで無限魔力を失いつつあるようだ。
アリアはくらっ…と後ろに倒れる。剣護が駆け出そうとするが、キンジがアリアを受け止めた。
剣護「キンジ!無事だったんか」
キンジ「あぁ……なんとかな」
剣護「……どうやって?」
キンジ「銃弾を噛んで止めたんだ。衝撃は止められなくてぶっ倒れて鼻血噴いたがな。名付けるなら
剣護「えぇ……」
キンジと剣護は崩れ落ちてくるピラミッドの破片を弾いて避けながら、カナと合流する。
カナ「3人とも無事ね?」
キンジ「あぁ、なんとか」
剣護「むっ」
剣護がパトラの方を見ると、パトラはキンジ達に背を向け逃げ出していた。
剣護「逃すかってんだ……よ‼︎」
剣護は髪を操ってパトラの体に巻きつけて捕らえると、自身も上に飛び上がった。
パトラ「な、何なのぢゃ⁉︎」
剣護「ぬうおりゃああああああああああああ!!!」
パトラ「キャアアアアアアアアアアアアア⁉︎」
そして髪を掴むと自分を中心にハンマー投げのようにグルングルンと、勢いを増しながらパトラを振り回す。
パトラ「目が回るのぢゃあぁぁぁ……ウッ」
剣護「スゥ〜〜〜〜〜パァ〜〜〜〜〜……」
回転はドンドン速くなっていき、下の砂金を徐々に巻き上げ始めている。
パトラ「も、もう……やめ……」
剣護「トルネェェェェド………」
パトラ「待っ…」
剣護「スロォォォォォ!!!!」
パトラ「いやああああああああああああ⁉︎」
回転による遠心力と勢いを目一杯乗せて、剣護はパトラを下の砂金の上へと投げ落とした。
パトラ「ぐごっふ……」
カナ「結構強く打ったわね…」
そう言いながらカナはパトラに手錠をかける。
キンジ「とりあえず、これで一件落着か…」
剣護「お、そうだな」
剣護がそう言った次の瞬間、船が大きく揺れる。
カナ「いけない!船が沈むわ!」
キンジ「脱出するぞ!」
剣護「ガッテンテン!」
アリア「ん………」
キンジ「アリア………!」
アリア「あれ………き、キンジ⁉︎なんで生きてるの⁉︎」
キンジ「アリア!」
アリア「ちょっ……き、きききキンジ⁉︎ち、ちょっと!」
目を覚ましたアリアに、感極まったキンジはその小さな体を抱きしめる。
剣護「この写真、あいつらにバラ撒いたろ」
カナ「やめてあげなさいな」
アリア「剣護達まで⁉︎」
その時、海の中から近づいてくる気配にハッとカナが振り向いた。
その顔は真っ青になり、何かを探すように海原を見つめている。
カナ「あなた達……逃げなさいッ!」
キンジ「カナ…?」
カナ「逃げるのよキンジ!急いでここから撤退しなさい!」
キンジ「一体どうしたっていうんだよ!それに今は船が…」
剣護「キンジ、何か来るぞ…」
かつてないほどに取り乱すカナ。その次に剣護が海の方を睨みながら身構えた。
次の瞬間、海全体が揺れ始める。
アリア「あそこよ!」
アリアが海面の一部を指し、キンジと剣護が駆け寄るとその方向の海面が盛り上がっているのが見えた。
するとクジラの倍以上はあるであろう巨大な黒い塊が浮上してきた。その巨体には『伊U』の2文字が書かれている。
キンジ「潜水艦……?いや待てよ、あれは…!」
剣護「えーと…たしかボストーク号だっけ」
カナ「見て、しまったのね……」
アンベリール号の甲板に突っ伏しながらカナはそう言った。
カナ「ボストーク号は沈んだのではないの。盗まれたのよ。史上最高の頭脳を持つ、教授によって……!」
原潜の艦橋に立っていた男が見えるとカナはキンジ達を守るように、前方に立ちはだかった。
カナ「教授………やめて下さい!この子達と、戦わないで‼︎」
バギギィィンッ‼︎
次の瞬間、何かを弾いたような甲高い音が響き、鮮血が飛び散った。
剣護「…チッ………」
キンジ「なっ………!」
カナ「っ………剣護…⁉︎」
カナの目の前には十六夜を振り抜いた剣護が、左肩から真っ赤な血を流している。さらに弾を弾いたせいなのか、刀の刃が欠けてしまっていた。
剣護「…ぐぅ……」
カナ「嘘……!」
キンジ「防弾制服と防弾ベストを貫通してるだと…⁉︎」
慌ててカナが傷口をハンカチで押さえる。しかし、流れる血はハンカチ、防弾制服を赤く染めていく。
キンジ「それに今のは…」
カナ「……
カナ…金一の『不可視の銃弾』。それをあの男は狙撃で行ったのである。
教授と呼ばれた男。ひょろ長く、痩せた身体。鷲鼻に、角張った顎。
夏祭りにアリアから見せてもらった写真の人物と瓜二つの容姿をしている男のことをアリアは掠れた声で呼んだ。
アリア「…曾…おじいさま………⁉︎」
キンジ達の目の前にいる人物。
アリアの曾祖父であり、世界一有名な名探偵。
『シャーロック・ホームズ1世』がキンジ達と前に立っていた。