オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!   作:ALEX改

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第47話 兄の道、弟の道

 

 

 

時間は少し遡り、キンジとアリアは逃げたジャッカル男を追っていた。

相手が射程圏内に目測で確認して、

 

キンジ「その先は通行止めだ」

 

キンジはベレッタでジャッカルの踵に命中させた。

ジャッカル男は走っていた勢いで水面を滑るように倒れ、そのまま沈んでいった。

 

キンジ「ふぅ……それじゃあ戻ろうか。剣護達が気がかりだ」

 

キンジの話にアリアは言葉を返さずにブルブルと震えながらコクコクと小さく頷く。

カジノの方に向きを変え、モーターボートを走らせようとした時だった。

 

 

 

タァァー……ン………

 

 

 

遠雷のような銃声が波の音に紛れて聞こえた気がした。

 

アリア「キンジ……第2射に気をつけなさい」

キンジ「第2射?」

 

その時、キンジの肩を掴んでいる手の力が抜けたのを感じ振り返ると、アリアがぐらりと後ろに倒れていき海へと落ちていった。

 

キンジ「アリアッ⁉︎」

 

気づけば目の前には異様な船が浮かんでいた。

船の屋上にはおかっぱ頭の女性とジャッカル男が6体、そして遠山金一がカナの姿ではなく男の姿で立っていた。

 

金一「キンジ………残念だ。パトラごときに不覚を取るようでは、『第二の可能性』は無い」

キンジ「兄さんッ!分からねえよ!『第二の可能性』って何だ!何で、そんな…アリアを撃った奴の船に乗ってるんだ!」

金一「これは『太陽の船』。王のミイラを当時海辺にあったピラミッドまで運ぶのに用いた船を模したものだ。それでアリアを迎える……そういう計らいだろう?パトラ」

 

金一がそう海に向かって語りかけると、海から黄金の棺が海面に浮上してくる。

棺の中にはぐったりと動かないアリアが収まっていた。

さらに、その棺と棺にかぶせる同じく黄金の蓋を持った女が浮きも無しにエレベーターか何かで上がってくるかのように浮上してくる。

 

パトラ「気安く妾の名を呼ぶでない。トオヤマキンイチ」

 

パトラと呼ばれた金銀財宝でその身を飾った女は頭上で棺と蓋を合わせ船の方に投げ入れた。

 

パトラ「1.9タンイだったか?欲しかったものの代償、高くついたのう。小僧」

 

妖艶な笑みで話すパトラ。

 

パトラ「まあよい。そこのお前。ミイラにして柩送りにしてやろう。祝いの贄ぢゃ。ほほほ」

 

そう言ってパトラは手のひらをキンジに向けるがそれを金一が止める。

 

金一「それはルール違反だ。パトラ。俺が伝えた教授の言葉、忘れてはいないだろう」

パトラ「……気に入らんのう」

金一「お前がイ・ウーの頂点に立ちたいのは知っている。だが、今はまだ教授こそが頂点だ。リーダーの座を継承したいのなら、今はイ・ウーに従う必要がある」

パトラ「いやぢゃ!妾は殺したいときに殺す!贄がのうては面白うない!」

金一「ルールを守るんだ。パトラ」

パトラ「うるさい!妾を侮辱するか!今のお前なぞひとひねりにできるのぢゃぞ!」

金一「たしかにそうだな。ピラミッドの側でお前と戦うのは懸命とは言えない」

パトラ「そうぢゃ!あの神殿型の建物がある限り、妾の力は無限大ぢゃ!だから殺させろ!そうでないとお前を柩送りにするぞ!それでもいいと云うか⁉︎」

 

激高しながら叫ぶパトラを金一はスッと距離を詰めるとパトラの顎を上げ、キスをした。

突然の兄の行動にキンジは目を見開いた。

 

金一「……赦せ。あれは俺の弟だ」

 

キンジ(ヒステリアモードになった…だと…⁉︎)

 

さらに先程の行動で金一の雰囲気が変化したことをキンジは気づかずにはいられなかった。

普段、金一はカナになることでヒステリアモードになるが異性との接触でなるところは初めて見た。

 

パトラ「ト、トオヤマ、キンイチ…妾を使ったな?好いてもおらぬクセに…!」

金一「悲しいことを言うな。打算でこんな事ができるほど、俺は器用じゃない」

パトラ「な、なんにせよ、妾はそのお前とは戦いとうない。勝てるは勝てるが、妾も無傷では済まないぢゃろうからな。今は大事な時ぢゃ。手傷は負いとうない」

 

そう言うとパトラは逃げるように海へ飛び込んでしまった。アリアが収められた黄金柩もジャッカル男たちが担いで行ってしまった。

キンジは後を追おうとするが……

 

金一「止まれ!」

キンジ「っ!」

 

金一の怒声にキンジは金縛りを受けたかのように制止させられる。

 

金一「『緋弾のアリア』か……はかない夢だったな」

キンジ「緋弾の……アリア…?」

 

キンジは金一を睨みつける。

 

キンジ「兄さん……俺を騙したな!あんた、アリアを殺すのはやめたって言ってただろ!」

金一「俺は殺していない。ただ看過しただけだ」

キンジ「詭弁だろそんなの!あんたが助けてくれれば…アリアは…!」

金一「まだ死んでいない」

 

そう言うと、金一はガラス玉の中に収められた砂時計を取り出した。

 

金一「あれはパトラによる呪弾。今から24時間は生きている。パトラはその間にイ・ウーのリーダーと交渉するつもりだ。それまではアリアを生かしておくだろう。だが、それまでだ。交渉がどう転ぼうと、『第二の可能性』は無い。無いなら……アリアは死ぬべきだ」

キンジ「兄さんは…アリアを見捨てるってのか……!イ・ウーで…あの無法者の超人どもに、何をされたんだ!」

金一「そう……イ・ウーは真に無法。世界のいかなる法も無意味とし、内部にも一切の法規が無い。だからイ・ウーのメンバーは好きなだけ強くなり、自らの目的を好きな形で、どんな手段を使ってでも実現して構わない。例え殺しても、また構わないのだ」

キンジ「どんな手段でも……」

金一「そんな無法者たちを束ね続けてきたのが教授……イ・ウーのリーダーだ。だがそのリーダーは間もなく死ぬ。病でも傷でもなく、寿命でな。そこで研鑽派(ダイオ)と呼ばれる一派の奴らは次期リーダーを探し始めた。教授と同じ絶対無敵の存在になり、無法者たちを束ねられる者をな」

キンジ「それに選ばれたのが……」

金一「そう……アリアだ。俺は奴らを斃す道を探した。そして見出したのが……同士討ち(フォーリング・アウト)

キンジ「同士討ち………」

 

同士討ち(フォーリング・アウト)

 

武偵が強大な犯罪組織と戦う時に、内部分裂を起こさせ、敵同士を戦わせて弱体化させる手法。

金一はその手法を『第一の可能性』としていたのだ。

 

金一「そして『第二の可能性』とはイ・ウーのリーダー……教授を倒すこと。お前たちならもしや…と思い、それにもう一度賭けた。だが、俺はその賭けに負けたようだ」

キンジ「……………」

金一「パトラに遅れをとるようでは、『第二の可能性』はない。それならば…俺は『第一の可能性』に戻るまでだ」

キンジ「………殺すのか、アリアを。武偵のくせに……人殺して事を収めるのかよ…!」

金一「俺は武偵である以前に、遠山家の男だ。遠山一族は義の一族。巨悪を討つためなら、人の死を看過する事を厭ってはならない。覚えておけ」

キンジ「………っ!」

 

兄は巨悪を討つためにアリアを殺そうとしている。

今、キンジは決断を迫られていた。

 

 

兄に従い、アリアが死のうと遠山一族として義を守る、正義の道。

 

義だろうが悪だろうが、問答無用でアリアを助け、守る道。

 

しかし、悩むことすらせず、決断はすぐに出た。というよりは一つしか無かった。

 

 

 

キンジ「………………けんな」

 

 

 

金一「何?」

 

チリチリと腹から胸、全体へと身体が熱を帯びていく。大きく息を吸い、腹の底から力の限り吠える。

 

キンジ「ふざっけんなああああああああああああああ!!!!!」

金一「ぐっ⁉︎」

 

海面が揺れ、ビリビリと空気が震える。金一が思わず耳を塞ぐほどの怒号をあげると、キンジは水上バイクから跳び、船体が軽くへこむほどの力でナイフを突き刺し、甲板へとよじ登った。

 

キンジ「兄さん…あんた分かってんだろ。何だかんだ言って自分が間違ってる事‼︎あんたは自分を誤魔化してるだけだ‼︎正義を謳うなら…誰も殺さず、死なせず、誰もを助けるべきだろ‼︎それが武偵だ‼︎」

金一「……キンジ。それは俺も百万回考え、百万回悩んだことなのだ」

キンジ「それなら答えが出るまで百万回でも、百万一回でも、何度でも考えて抜いて、悩みまくって、探し尽くせば良いだけだ!あんたはただ考えただけで終わってんだ!」

金一「っ……!」

キンジ「犠牲のある方法で世界が守られて……いいわけあるか‼︎」

金一「キンジ……たった1人の兄に逆らうつもりか」

キンジ「あんたを兄さんとは思わねえ……俺はあんたを…殺人未遂罪の容疑で、逮捕する!」

 

キンジはベレッタをホルスターから抜くとその銃口を金一に向ける。

 

金一「…そのHSSはアリアでなったものだな」

キンジ「ああ」

金一「ならば見せてみろ。お前の覚悟。お前の想いを」

 

金一は銃を抜かずに構える。

次の瞬間、光の一閃と銃声と共にキンジの胸の中央に痛みが走る。

 

金一「……なぜ避けなかった」

キンジ「わざと喰らったんだ………それくらい分かれ…」

 

口の端から一筋の血を流しながら、ニィッと笑う。

 

キンジ「見えたぜ……不可視の銃弾(インヴィジビレ)…!その正体!」

 

キンジがそう言うと金一は僅かに目を見開いた。

 

キンジ「ピースメーカーは早撃ちに適した銃だ。それをヒステリアモードの人を遥かに凌駕した反射神経で抜いて撃つ。それがその技の、カラクリだ」

金一「……さすがだな。だが、見抜いたからといって不可視の銃弾を防ぐ術はお前には無い。剣護(アイツ)ならやりそうだが」

キンジ「……無ければ作れば良いだけさ…」

 

金一の言葉に対し、キンジが取ったのは兄と同じ、無形の構え。

 

金一「浅はかな………俺と同じ技を使うつもりか。お前の銃は自動式。早撃ちには不向きだ」

キンジ「そうかな、やってみなきゃわかんねえだろ」

金一「そうか……やはり兄より優れた弟など、いない」

 

瞬間、ヒステリアモードの目に全てがスローモーションで見え始める。

キンジは金一と全く同じ動きでベレッタを振るう。ほぼ同時だがキンジの方が遅れて発砲する。不具合で2発しか出ない3点バーストで。

金一の不可視の銃弾で放たれた銃弾は、再びキンジの胸の中央へと飛んでいく。しかし、その銃弾は遅れて出たベレッタの銃弾に真正面から跳ね返され、ピースメーカーの銃口へと飛び込んでいく。

相手の銃口へと銃弾を跳ね返す新たな技、その名も

 

 

キンジ(鏡撃ち(ミラー)ってところか)

 

 

ベレッタの方に戻ってくる1発目に跳ね返した銃弾を2発目の銃弾が更に斜めに弾く。

バガンッ!と跳ね返された銃弾が金一のピースメーカーを破壊した。

 

金一「馬鹿な……」

キンジ「オオオオオオオオ!!!」

金一「っ⁉︎」

 

金一がキンジの方へ向き直ると、キンジの全身から赤い炎ようなものが溢れている。キンジは、金一を一睨みするとその場で飛び上がる。

 

キンジ「これが…俺の覚悟だ‼︎兄さん‼︎」

 

赤いオーラを纏い、怒りと共に強力な飛び後ろ蹴りを見舞うキンジの新たな必殺技。

 

キンジ「レイジングドライブ!!!!!」

 

放った蹴りは金一の顔面に直撃し、崩壊し始めた甲板を砕いた。

 

 

 

 

 

 

キンジ「はあっ……はあっ……」

金一「ぐっ……強くなったな…キンジ……」

キンジ「ごめん…兄さん……」

金一「良いさ……お前の覚悟と想い、痛いほど伝わったさ。というかめっちゃ痛え」

キンジ「マジでごめん……」

金一「まあ良いさ。お前なら……いや、お前たちなら『第二の可能性』を成し遂げられるかもな」

キンジ「兄さん……」

金一「仲間のところへ戻れ、キンジ。もうこの船は砂へと還る」

キンジ「ああ……」

 

そう言ってキンジは水上バイクに乗るとアクセルを吹かす。

 

金一「あぁ、そうだ。剣護のやつに1つ言っておいてくれ」

キンジ「剣護に?」

金一「忘れ物はお前にやるってな」

キンジ「あぁ、そういう……わかったよ」

 

 

金一「………やれやれ、とんだ馬鹿に育ったもんだな。父さんと剣護の影響なのかねぇ…」

 

 

水上バイクで行ってしまったキンジを見送る金一の表情はどこか晴れやかだった。

 

 

 


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