剣護「………知らない天井d……いや知ってる部屋だわこれ」
剣護が目を覚ますとそこは1年のときからお世話になっている武偵病院の病室だった。
剣護「あー……確かブラドにライダーキックぶち込んでー……そっからがわかんねえな………よっ……ア"ッガァッ⁉︎」
キンジ「うるせえなぁ………」
起き上がろうとして激痛に悶えてると隣のベッドからモゾモゾとキンジが顔を出してきた。
キンジ「お前1番重傷なんだから大人しくしてろよ」
剣護「へーい……なあ、あの後どうなったんだ?」
キンジ「え?あぁ、お前は落ちてたんだっけ。えっとだな」
キンジは剣護がブラドを倒した後に起こったことを全て話した。理子が逃げたこと、みんなが剣護の生存を確認しに行った時に近くのベンチに寝かされていたことなどなど。
キンジ「というわけだ」
剣護「ふーん……理子は逃げたのか……俺をベンチに運んだのは?」
キンジ「わからん。俺たちが降りてきた時にちょうど救急車も来たからな」
剣護「そうかい………他のみんなは?」
キンジ「間宮と火野とジャンヌ以外は入院してる。あの2人は思ったより軽傷だったみたいでな」
剣護「そりゃ良かった。志乃は?」
キンジ「あちこちに裂傷、目からの出血で失血しかけてたらしい」
剣護「まあ……そうだよなぁ…」
キンジ「………なあ、人って怒りだけであんなになるもんなのか?」
剣護「さあな。まあでも一時的にリミッター外したりはできるかも」
キンジ「うーん……俺もヒステリアモード以外に身体能力強化できるやつ欲しいとこだな」
剣護「ドゥンドゥン化け物になっていくぞ」
キンジ「うっせえ。お前の方がバケモンじゃねえか」
剣護「あぁん⁉︎ま、いいや。ところでお前ら退院すんのいつ?」
キンジ「あと3日くらい」
剣護「俺は?」
キンジ「あと10日くらい」
剣護「なんでや!」
キンジ「頭を鉄の塊でぶん殴られて、背中を切り裂かれて、さらにタワーの屋上から敵もろとも落下して、自爆する感じで大技ぶちかましている状態で、あと10日くらいで退院できる方がおかしいんですがそれは」
剣護「(´・ω・`)」
キンジ達が先に退院して3日ほど経った日の夕暮れ時。いつものように病室で惰眠を貪っているとコンコンとノックをする音で目が覚める。
剣護「ンガッ?……どーぞ」
志乃「……………失礼します…」
入ってきたのは先に退院した志乃だった。ところどころに絆創膏を貼ってたり、目がまだ赤いままである。
志乃「これ……どうぞ」
剣護「おっ、リーフパイか。サンキュー」
志乃「いえ………」
剣護「………どうしたよ」
暗い雰囲気を出している志乃の様子に剣護は思わず尋ねた。
志乃「……先輩」
剣護「おん?」
志乃「……手を…握ってもらってもいいですか?」
剣護「お、おう」
乗せられた手を少し困惑しつつ優しく握り返す。志乃の方は深呼吸を繰り返して落ち着かせていた。
志乃「実は……前のランドマークタワーのことで………あの時、敵に向かって行った時はなんともなかったのに…先輩が私を庇って傷ついた時……血と背筋が凍りつきました……っ……」
志乃はブラド戦でのことをポツポツと自身の本音を剣護に話す。いつの間にか彼女の目には涙が今にも溢れんとばかりに溜まっている。
志乃「先輩に……触れてる時…っ……どんどん冷たくなって……それでっ………怖くなって……」
剣護「………志乃」
志乃「グスッ……なんですk」
剣護「ほら」
志乃「わっ⁉︎」
ボロボロと泣き始める志乃を剣護はベッドに座る形で起き出て抱き寄せる。涙を零しながらも志乃は顔を真っ赤に焦りまくる。
志乃「あ、あのあのあの……⁉︎」
剣護「ごめんな」
志乃「っ!」
剣護「まさか散々俺を邪険に見てたお前が心配してくれるなんてな…悪かったよ、心配かけて」
志乃「っ…………もぅ…あんなことしないで……」
剣護「あぁ、わかったよ。志乃」
志乃「っ……わあああああああああああん‼︎」
いろいろと込み上げてきたのか志乃は泣いた。大声で、剣護の腕の中で。そんな志乃を剣護は優しく頭を撫でていた。
志乃「…すいません…お恥ずかしい姿をお見せしてしまいました…」
剣護「スッキリしたか?」
志乃「グスッ……はい」
泣き止んでから落ち着いたのか志乃は顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯いている。
志乃「そ、それでは私はこれでし、失礼します!」
剣護「あ、おい待てぃ」
足早に病室を出ようとする志乃を呼び止める。
志乃「な、なんですか?」
剣護「約束の件だよ。忘れたか?」
志乃「え?……あっ」
剣護「『俺の代わりに紅鳴館に行く条件としてなんでも言うことを聞く』だろ」
志乃「あー………そういえばそんな約束したような…」
剣護「んで、どうする?」
志乃「………じゃあ……退院できたら…2人で出かけませんか?」
剣護「あぁ、いいよ」
志乃「それでは…失礼します!」
目を腫らしたまま剣護に笑いかけ、志乃は病室を出て行った。
その日の夜、気分転換に剣護は屋上に出て夜風に吹かれていると、背後からの気配に振り返ると逃げたはずの怪盗がそこにいた。
理子「やっほ。ツッキー」
剣護「なーんか今日は来客が多いなぁ。何の用だ」
理子「ただのお見舞いだよ。はいこれ」
剣護「サンキュ」
理子は買ってきたコーヒーを投げ渡すと近くのベンチに腰を掛ける。剣護もコーヒーを受け取ると理子の隣に腰掛けると缶を開けコーヒーを煽る。苦味と控えめな甘さが口の中に染み込んでいく。
剣護「あー…いてて…まだ背中痛えや」
理子「………ねぇ、ツッキー」
剣護「ん?」
理子「ありがとね……今回のこと」
剣護「気にすんな。当たり前のことをしたまでだ」
理子「変わんないなー。1年生のときから」
剣護「俺は俺だ。今も昔もな」
理子「くふふっ……ねぇ、なんでツッキーは……剣護は敵であるはずの理子を助けてくれたの?」
剣護「まあ1つはお前と俺が似た者同士ってこともあるな」
理子「似た者同士……お互いに親がいないってことだね……」
剣護「まあな。同じ境遇のお前が放っておけなかったのともう1つ」
理子「もう1つ?」
剣護「……あの時と今のお前は敵じゃないだろ?」
理子「え?」
剣護「前みたいに一緒にゲームしたり、コスプレしたり、ふざけまくったりする……ただのバカだろ?」
理子「オイコラ誰がバカだ」
裏モードがチラリと見えながらジト目で見る理子に剣護はイタズラっぽく笑いかける。
剣護「ハッハッハ。別に4世として生きなくても良いだろ?いつも通り……リュパンとしてじゃなく、峰理子として自由に生きていけば良いじゃねえか」
理子「………………うん。そうだね……」
剣護「ん?どした?」
理子「なんでもなーい。くふふっ!それじゃあまた学校でね!ツッキー!」
そう言って理子は夜空を背景に屋上から飛び降りていった。飛び降りる際に彼女の顔がほのかに赤みを帯びていたのは気のせいだろうか。
理子「………あーもー…なんでこんなにドキドキするかなぁ?顔もすごく熱いし……あ、ヤバい裸見られたことまで思い出しちゃった………うがー!もー!なんでこんなに顔が熱いのさー‼︎」
部屋に戻った理子は顔の隅から隅まで真っ赤にしてベッドの上でゴロゴロと悶絶していた。
この時部屋からめちゃくちゃ甘い雰囲気が溢れていたと隣の部屋の住人は語った。