翌日の五時間目、決闘場の中央でアリアと剣護はお互い向き合うように立っていた。
アリアはいつもと変わらず、剣護は制服の上に羽織を着て、両腕に腕甲を付け、腰に刀を二本差している。
アリア「よく来たわね」
剣護「おうよ。お前さんとやり合うのが楽しみだからな」
アリア「そう、あたしもアンタの実力を見せてもらうわ」
剣護「そうかい。なら失望させないようにしないとな」
お互い腰を低くして構える。いつでも仕掛けられるように、瞬時に対応できるように集中力を高めていく。
蘭豹「オラァ!お前ら思う存分殺し合えや!始めぇ!」
蘭豹の合図でアリアはサッとガバメントを抜き構えるがその時思わぬ光景を目にし驚愕する。
剣護が武器を構えずに猛スピードで一気に突進して来たのである。
アリア「んなっ!?こ、この!」
剣護「シッ!」
驚くもすぐさまガバメントを発砲するが剣護はスルスルと避けていく。まるで弾道を読んでいるかのように。
アリア「な、なんで当たらないの!?」
剣護「せいっ!」
アリア「くっ……!」
剣護は一気に間合いを詰めると居合い気味に抜刀。驚きつつもアリアは素早く避けると距離を詰める。
アリア「はっ!」
剣護「っと!」
アリアはガバメントを発砲、剣護は弾丸を刀で弾いてガバメントと鍔迫り合いをする。
アリア「ガン=カタは知ってるかしら?」
剣護「一応な」
アリア「やっ!」
剣護「ぜぇあ!」
ガバメントと刀が、拳と脚が至近距離でぶつかり合う。撃つ、避ける、斬る、避ける、殴る、蹴る。そんな攻防を周りの生徒は息を飲んで見入っている。
アリア「ぐっ!なかなかやるじゃない!」
剣護「そっちもな!でもまだまだ行くぜ!月島流!」
アリア「っ!」
お互いに少し距離を取ると剣護は刀を構えた。
剣護「富嶽鉄槌割り!」
アリア「うぐぅ!?」
剣護はアリア目掛けて刀を振り下ろす。アリアは横に避けたが、振り下ろされた一撃はアリーナの床に大きな円形の穴を作り、その衝撃で避けた筈のアリアを吹き飛ばした。
アリア「っ…なんなの一体…!?」
剣護「チッ…避けたか」
アリア「……あまり長期戦はダメそうね」
剣護「ちなみにこの技、連発できるって話する?」
アリア「嘘でしょ?」
剣護「………」(ニコッ)
アリア「何とか言いなさいよ!?」
ツッコみながら放たれた弾丸を弾いていく剣護。ガバメントが弾切れを起こしアリアは小太刀を抜き距離を詰める。
アリア「はっ!」
剣護「らぁ!」
アリア「ふっ!」
剣護「おぉ!」
アリア「っぐ……!」
甲高い激突音を響かせ、火花を散らしながら斬り結ぶ2人。しかし剣護が体格と筋肉量で上回っている分、だんだんとアリアが押され始める。
剣護「月島流、富嶽割り!」
アリア「あっ!しまっ……」
刀の柄でかち上げて小太刀を弾き飛ばすと腰を落とし刀を脇に構える。
剣護「月島流…!富嶽峰斬り!」
アリア「がっ……!」
一気に懐まで間合いを詰めると共に峰打ちを叩き込み斬り抜ける。
アリアはその場でガクッと膝をついて倒れ込む。
剣護「
剣護はそう呟くとカチンと刀を納める。
こうしてアリアと剣護の決闘は剣護の勝利で幕を閉じた。
アリア「うぅ……ん……」
剣護「おや、お目覚めで」
放課後、空はもう夕暮れでオレンジ色に染まっている。現在2人は学校の屋上に居た。
アリア「ここ……は……?」
剣護「屋上さね。他の奴らがうるさいからここに来た」
アリア「そっか……あーあ、負けちゃったんだ……あたし」
剣護「まあな。それでもなかなかのもんだったぞ」
アリア「そう……」
剣護「まあでも楽しかったろ?」
アリア「………まあそうね。でも、次は負けないわよ?」
剣護「えーしばらくは良いや」
アリア「ちょっとなんでよ!」
噛みつこうとせんばかりの勢いのアリアをよそに剣護の携帯から着信音が鳴る。ちなみに着信音は仮面ライダードライブのオープニングである。
剣護「はい、もしもし月島です。はい……はい……わかりました。用意したらすぐに行きます。それじゃ」
アリア「誰なの?」
剣護「俺がいろいろとお世話になってる人さ。ちょっと今から行ってくる」
アリア「うん、わかった」
剣護はそう言うとピョンっと普通に飛び降りるのを見てアリアはギョッとするが何事もなかったように走っていく剣護を見て「化け物ね……」と呟くのだった。
都内にあるカフェにて、アリアと別れた剣護は一度部屋に戻りいろいろと持ち物を整理してからこのカフェに来ていた。コーヒーを頼んで待つこと十数分、大柄な男が入ってきた。
尾上「待たせてしまってすまんな」
剣護「いえいえ別に構いませんよ。尾上さん」
剣護が待っていた男は
剣護「それで例のこと調べてくれましたか?」
尾上「あぁ、神崎・H・アリアのことだろう?もちろんだ。彼女はヨーロッパでも武偵をしていたことは知ってるな?」
剣護「はい。それと俺とキンジにパーティーを組むように言ってきたときに時間がないって言ってたんですが……どういうことです?」
尾上「うむ、恐らく彼女の母親のことだろう」
剣護「母親……?」
尾上「彼女の母親、神崎かなえはかなりの罪を着せられているのだ。懲役864年だそうだ」
剣護「……なるほど、恐らくこの件に武偵殺しも絡んでいるようですね」
尾上「流石は鋭いな。だが黒幕が何なのかがまだ掴めてーー」
剣護「……いるんでしょ?何者なのか」
尾上「…………」
剣護「一瞬だけ空気の流れが乱れた。本当は黒幕のこと掴んでるんでしょ?尾上さん」
尾上「はぁ……わかった。ただし他言無用だぞ?」
剣護「承知」
ズズズとコーヒーを啜ってから尾上は話を続ける。
尾上「黒幕の名は……『イ・ウー』……」
剣護「イ・ウー……あー……昔なんかじーちゃんから思い出話として聞いたような……」
尾上「なぬっ!?それは本当か!?」
剣護「尾上さん声大きい。確かに聞いたことがあります。イ・ウーの教授とガチンコの殴り合いしたって」
尾上「はぁ……月島家は侮れんな……話を戻そう」
剣護「まあ要するにアリアのお母さんに罪を着せている黒幕がイ・ウーでアリアはお母さんの無罪を証明するためにパートナーを探してるってことですね?」
尾上「そういうことだろうな。お前は理解が早くて助かる」
剣護「いえいえ、引き続き調査をお願いしても良いですか?」
尾上「もちろんだ。できる限りのサポートはするとも」
剣護「それじゃあ俺は帰りますね」
尾上「あぁ、支払いは私がしておこう。気をつけてな」
剣護「はい、失礼します」
そう言って剣護はカフェから出ると近くに停めてあるCRF250Lに跨がるとエンジンをかける。
剣護「……イ・ウーねぇ……今回の山はかなり複雑みたいだな」
バイクを走らせ剣護はいろいろと考えながら男子寮へと帰るのだった。