ちょっと執筆意欲が出なくて一ヶ月もほったらかしになってました。
許して!お願いなんでもするから!
とにかくオタク剣士が武偵高で剣技を舞う!第29話です。どうぞ!
キンジ「…………ZZZ……」
アドシアードの開会式場の講堂のゲートでモギリをしているキンジは陽射しに当てられながら居眠りをしていた。
「おいキンジっ!」
しばらくして武藤に肩を掴まれてキンジは目を覚ます。ここまで走って引き返してきたらしく息を切らす武藤にキンジは眉を寄せる。
キンジ「どうした」
武藤「ケースD7だ、ケースD7が起きた」
武藤の言葉にキンジは一気に目が醒めた。
ケースD。アドシアード期間中の、武偵高内での事件発生を意味する符丁であり、D7は『ただし事件であるかは不明確で、連絡は一部の者のみに行く。なお保護対象者の身の安全のため、みだりに騒ぎ立ててわならない。武偵高もアドシアードを予定通り継続する。極秘裏に解決せよ』という状況を表す。
キンジは慌ててメールを確認すると1通の新着メールが届いていた。
『キンちゃんごめんね。さようなら』
その内容を見てキンジは血が凍りつくようだった。同時に白雪の身に良くないことが起きたことを悟った。
キンジはすぐさま道路に飛び出し走る。何の手がかりもなく走り回るが時間は無意味に過ぎていくばかり。
己の無力さを痛感しながらも、それでも何とかせねばとがむしゃらに走り回る。その時携帯が鳴り出し電話が入った。
レキ『キンジさん。レキです。いま、あなたが見える』
キンジ「レキ!」
レキ『D7だそうですね。狙撃競技のインターバルに携帯を確認しました』
キンジ「あ、ああ。お前今どこにいるんだ!?
レキ『落ち着いてください。冷静さを失えば、人は能力を半減させてしまう。あと私は狙撃科の7階にいます』
キンジ「そ、そうか……」
レキ『クライアントは見当たりませんが、海水の流れに違和感を感じます。第9排水溝の辺り』
キンジ「ど、どっちだ?」
レキ『私は……一発の銃弾』
レキの呪文のような言葉の後にビシッとキンジの足元から少し離れたアスファルトに狙撃銃の弾が傷をつける。続けてビシッビシッとアスファルトに傷がつく。レキはドラグノフの速射能力を活かして何かを点描しているようだった。
レキ『その方角です。調べてください。私は引き続き、ここからクライアントを捜します。それと』
キンジ「な、なんだよ」
レキ『剣護さんが目覚めたようです』
キンジ「やっとか……遅過ぎだ」
レキ『今こちらに向かって爆走しています』
キンジ「わかった。剣護が来たら頼む」
レキ『わかりました』
レキが点描した矢印の方向に向かって行くと第9排水溝のフタの辺りに着いた。フタには一度外されて無理に繋ぎ直されたような跡があった。キンジは武偵手帳で排水溝がどこに繋がっているのか調べる。
キンジ「
東京武偵高の
キンジ「……行くしかないよな……!」
脂汗をかきつつもキンジは地下倉庫へと入って行く。できるだけ足音を立てずに暗い通路を走っていくと人の声が聞こえてくる。
キンジはバタフライナイフを取り出して開き、その刃を鏡にして角の向こう側をチェックすると50m離れた壁際に巫女装束の白雪を見つけた。
白雪「どうして私を欲しがるの、
ジャンヌ「裏を、かこうとする者がいる。表が、裏の裏であることを知らずにな」
白雪と話しているのは少し時代がかった男喋りをする女の声。
ジャンヌ「和議を結ぶとして偽り、陰で備える者がいる。だが闘争では更にその裏をかく者が勝る。我が偉大なる始祖は影の裏、すなわち光を身に纏い、陰を謀ったものだ」
白雪「何の、話……?」
ジャンヌ「敵は陰で
白雪「欠陥品の、武偵……?誰のこと」
ジャンヌ「ホームズには少々手こずりそうだったが、あの娘を遠ざける役割を、私の計画通りに果たしてくれたのが遠山キンジだ。ヤツが欠陥品でなくて、なんだと言うのだ?」
白雪「キンちゃんは……キンちゃんは欠陥品なんかじゃない!」
ジャンヌ「だが現にこうして、お前を守れなかったではないか」
白雪「それは違う!キンちゃんはあなたなんかに負けない。迷惑をかけたくなかったから……私が、呼ばなかっただけ!」
ジャンヌ「フンッ……迷惑をかけたくない、か。だがな白雪。お前も、私の策に一役買ったのだぞ?」
白雪「私……が?」
ジャンヌ「"電話を覚えているだろう?"」
白雪「っ!」
ジャンヌの発したキンジの声にキンジと白雪は息を呑んだ。その反応を楽しむかのようにジャンヌは言葉を続ける。
ジャンヌ「ホームズは無数の監視カメラを仕掛けていたが、お前たちの部屋を監視していたのは私の方だ」
白雪「……そっか……やっとわかった」
ジャンヌ「ん?」
白雪「だから……剣ちゃんはあの時血相を変えて飛び出したんだ」
ジャンヌ「フッ……そういえばそんなこともあったな。だが返り討ちにしてやった」
白雪「でもあなたもただじゃ済まなかったんでしょ?」
ジャンヌ「…………」
白雪の言葉にジャンヌは答えない。それどころか一筋の汗を垂らし、ほんの少し目を逸らした。
ジャンヌ「し、しかしあの時アイツにかなりの深手を負わせた!お前を助けに来ることなど……」
白雪「ううん。剣ちゃんは絶対に来る。あの人はキンちゃんよりも……ううん。この武偵高の誰よりも仲間を大切にする人。どんなに深手を負っても、骨が折れても、守るために突き進む。それが」
キンジ「アイツの信念であり、アイツ自身でもあるってことだ」
ジャンヌ「!遠山キンジ……!」
キンジはバタフライナイフを構えて前に出る。さっきまでの焦りが嘘のように落ち着いていた。
白雪「き、キンちゃん!?」
キンジ「白雪、ここは俺がやる。だから逃げろ」
白雪「ダメだよキンちゃん!逃げて!武偵は、超偵には勝てない!」
キンジ「やってみなきゃわかんねえよ!」
キンジは相手に向かって突っ走るが次の瞬間足元に何かが飛んできて突き刺さり、つんのめってキンジはぶっ倒れてしまう。
キンジ「これは……ヤタガンか!」
ジャンヌ「『ラ・ピュセルの枷』罪人とされ枷を科される者の屈辱を少しは知れ、武偵よ」
キンジ「うっ!?」
ジャンヌの声に続いてヤタガンを中心に冷気が広がっていき氷でキンジの足を貼り付け、起き上がろうとした肘にも広がっていく。
さらに室内の非常灯が消え、辺りは完全な暗闇に包まれる。
白雪「い、いやっ!やめて!何をするの!うっ……!」
キンジ「白雪!」
白雪が何をされたのかわからず再びキンジは焦る。『また何もできなかった』悔しさに歯をくいしばるキンジに次の銃剣が命を奪わんと飛来する。
ギンッ!
しかし、銃剣は後ろから飛んできた刃に弾かれ一瞬、火花が散った。
そして聞こえるアニメ声。
アリア「じゃあバトンタッチね」
その声とともに部屋に電気が灯り、暗闇が白の光に塗り替えられる。
アリア「そこにいるわねデュランダル!未成年者略取未遂の容疑で逮捕するわ!」
キンジ「アリア!?」
ジャンヌ「ホームズ、か」
声の主はそう呟くとガチャンとどこかの扉が閉まる音がした。
アリア「逃げたわね」
そう言うとアリアは白雪の方へと向かう。そしてすぐに戻ってきてキンジの近くにひざまずく。
キンジ「白雪は」
アリア「ケガはしてなかった。でも縛られてる。助けるの、あんたも手伝いなさい」
そう言って刀で凍りついたキンジの手足を床から剥がすとアリアは袖を掴んで白雪の方へと引っ張っていった。
一方でアドシアード当日に思い切り大遅刻をかました剣護はと言うと
剣護「ゼェ……ゼェ……ハァ……ヒィ……」
スタミナが切れたハンターのように街中をフラフラと走っていた。それもそのはず、寮から飛ばしてきた上に数日間何も食べていないのだから。
さらに追い打ちの貧血で軽く目眩いと頭痛を起こしており、完全にボロボロの状態だった。
剣護「く、くそぅ……こんな時に限ってバイクをメンテに出してるとは……」
背負っている刀が重く感じる。足が鉛のように重い。胸が苦しい。それでも走るのをやめない。
それは何故か?何がこの男を駆り立てるのか?
答えは簡単。"守るため" キンジを、アリアを、白雪を、みんなを守るために突っ走る。
剣護「っ……ぬおおおおお!!」
ガタガタの身体に鞭打って走る剣護の先には武偵高の校門が迫っていた。
「しら……ゆき!何よ!どう、したの!」
地下倉庫の方では、白雪がアリアを背後から拘束して刀を首筋に当てていた。白雪は肩越しにアリアの右手に息を吹きかけ、アリアは銀色のガバメントを落としてしまう。
「アリア!違うんだ!そいつは白雪じゃない!」
さらに白雪はアリアの左手にも息を吹きかけ、漆黒のガバメントを落とす。
アリア「きゃあっ!?」
ジャンヌ「只の人間ごときが、超能力者に抗おうとはな。愚かしいものよ」
アリア「デュランダル……!」
ジャンヌ「私をその名で呼ぶな。人に付けられた名前は、好きではない」
アリア「あんた……あたしの名前に覚えがあるでしょう!あたしは、神崎・H・アリア!ママに着せた冤罪、107年分はあんたの罪よ!あんたが、償うのよ!」
ジャンヌ「この状況で言うことか?」
フンッとデュランダルはアリアを嘲笑う。
ジャンヌ「アリア。お前は偉大なる我が祖先、初代ジャンヌ・ダルクとよく似ている。その姿は美しく愛らしく、しかしその心は勇敢」
アリア「ジャンヌ・ダルク……!?」
15世紀、イギリスとフランスの100年戦争を勝利に導いた。オルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルク。彼女はその子孫だと言うのだ。
アリア「嘘よ!ジャンヌ・ダルクは火刑で……十代で死んだ!子孫なんて、いないわ!」
ジャンヌ「あれは影武者だ。我が一族は、策の一族。聖女を装うも、その正体は魔女。私たちはその正体を歴史の闇に隠しながら誇りと、名と、知略を子々孫々に伝えてきたのだ。私はその30代目。30代目ジャンヌ・ダルク」
ジャンヌの手が蛇のようにアリアの太ももに伸びると、アリアが激痛に体をねじる。
アリア「きゃうっ!」
ジャンヌ「お前が言った通り、我が始祖は危うく火に処せられるところだったものでな。その後、この力を代々研究してきたものだ」
見るとアリアの小さな膝小僧には氷が張り付いていた。
キンジ「……アリア……!」
キンジはベレッタを
ジャンヌ「遠山。動けば、アリアが凍る。アリアも動くな。動けば、動いた場所を凍らせる」
キンジ「チッ……!」
アリア「キンジ……撃ち、なさい……!」
キンジ「っ……!」
ジャンヌ「喋ったな、アリア?口を動かした。悪い舌は、いらないな」
キンジ「やめろッ!」
ジャンヌは刀を持つ手でアリアの顎を強引に押さえ、アリアの口に自らの唇を寄せていく。キンジは叫ぶが手も足も出ない。
白雪「アリア!」
次の瞬間、力強い声が響いたかと思えば、分銅付きの鎖が伸びて刀の鍔に巻き付き、その刃はぐいっと引っ張られ離される。
ジャンヌ「!?」
白雪「キンちゃん、アリアを助けて!」
コンピューターの上には本物の白雪が立っており、鎖を引き上げ刀を取り返した。そして飛び降りざまにアリアとジャンヌの間に割り込むように刀を振り下ろす。
ジャンヌは防刃巫女服を翻し白小袖で刃をつかみ取ろうとするが、離れ際にアリアが無事だった片足でジャンヌの膝を蹴り飛ばす。
アリアはキンジの足元へ転がり、白雪はアリアを守るように前に立つ。
ジャンヌ「白雪……貴様が、命を捨ててまでアリアを助けるとはな」
ジャンヌは緋袴の裾から筒のような何かを落とすと、それはシュウウウ……と白い煙を広げる。
白雪「ごめんねキンちゃん。いま、やっつけられると思ったんだけど……逃しちゃったよ」
キンジ「上出来だよ、さすが白雪だ。アリア、大丈夫か?」
アリア「や……やられたわ。まさか、白雪が2人とはね……」
ウオオオオ………………
アリア「っ!?」
突然上から聞こえてきた雄叫びにアリアはビクッと体を強張らせる。
アリア「な、なに!?敵っ!?」
キョロキョロと周りを見渡すアリアにキンジと白雪は一瞬、眉を寄せるとすぐに否定した。
白雪「……ううん。違うみたい。なんか聞いたことあるような声だけど」
キンジ「まあ、大丈夫さ。俺がついてる」
それを聞いてアリアは少し強気になったのか、犬歯をむいて叫ぶ。
アリア「デュランダル!あんたがジャンヌ・ダルクですって?卑怯者!どこまでも似合わないご先祖さまね!」
ジャンヌ「それはお前もだろう。ホームズ4世」
声はエレベーターホールの辺りから返ってきた。いつの間にかスプリンクラーの水が空中で氷の結晶となり雪のように舞っている。
白雪「キンちゃん……アリアを守ってあげて。アリアは、しばらく戦えない」
キンジ「何を言うんだ白雪。お前を1人で戦わせるなんて、できない」
白雪「キンちゃん……そう言ってくれるの、うれしいよ。でも今だけ、ここは超偵の私に任せて。アリア、これ、すごくしみると思う。でもそれで良くなるから。我慢して」
アリア「……あっ……!んくっ……!」
白雪は何かの呪文のようなものを呟く。見えない力がアリアの手に伝わっていく。
アリアの治療を終えると今度は近くのコンピューターに御札を貼ると周囲が暖かくなってくる。
キンジ「白雪……」
白雪「キンちゃん……心配かもしれない。でも大丈夫。もう1人こっちにはSSRの子がいるから。キンちゃんも良く知ってる子」
キンジ「……え?…………あっ」
ジャンヌ「何を言ってる。貴様以外にここに超能力者はいない」
白雪「
ジャンヌ「…………?」
アリア「どういうこと?」
白雪の言っていることがわからず質問してくるアリアにキンジはフッと笑いかけて答える。
キンジ「要するに……助っ人の登場って訳だ」
ボゴオォォォォオォォォオン!!
キンジの言葉に続くように、次の瞬間この部屋の扉が轟音を立てて勢いよく吹っ飛んだ。