オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!   作:ALEX改

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第23話 あかりのランク考査

 

 

土曜日の昼下がり。通信科3Fの第2サブPCルームの前であかりはガチガチに緊張していた。

なにせ、今日はあかりの武偵ランク昇格が懸かったテストの日なのである。廊下にはあかりを応援するためアリアや剣護に友達が集まってくれていた。

 

麒麟「間宮様、今日は武偵ランクアップのチャンスですわよ!」

ライカ「いつまでもEランクじゃ恥ずかしいもんな」

志乃「お百度参りと水行で、あかりさんの合格を祈ってきました……!」

あかり「みんな。応援に、来てくれて、ありがとう」

アリア「あかり、緊張しすぎよ。ランク考査には『時の運』もあるわ」

あかり「はい……」

アリア「でも、ベストを尽くしなさい」

あかり「はい!」

剣護「ほれ、合格祈願のお守りだ」

あかり「あ、ありがとうございます!」

 

お守りを握りしめてあかりは第2サブPCルームへと入っていった。

 

 

 

 

 

しばらくして、剣護たちが1Fのホールで待っていると、エレベーターの扉が開き受験生たちが降りてくる。その中にいたあかりは何やら手応えがあったような顔をしていた。

 

志乃「どうでしたか!」

あかり「結構できたよ!」

アリア「採点結果、出るわよ」

 

アリアに言われて皆がディスプレーを見る中、採点結果が高い順に表示されていく。その中であかりはかなり下の方……というかほぼ最下位だった。

 

あかり「な、なんでーッ!?」

 

あまりの結果にあかりは問題用紙を握り潰し、志乃はショックで倒れてしまった。

ライカは問題用紙を拾い、アリアが横から覗き込んで読み上げる。

 

アリア「問33、『オートマチック拳銃の命中精度に関わる要素を書け』」

ライカ「お、おい、ここにメモ書きしてある『価格』って……」

あかり「安物は使うなって先生が言ってたもんっ」

剣護「このぉ……馬鹿野郎ッ!」

あかり「ひでぶっ!」

 

ぷくぅーとフグみたいに膨れるあかりに、スパァン!と剣護のハリセンが炸裂する。

 

アリア「問34、『短銃身のリボルバー拳銃で弾道を安定させる条件を書け』」

ライカ「ね、『狙いを定める』?」

 

スパパパパァン!

 

またもや剣護のハリセンが四方の軌跡を描いて炸裂した。

 

剣護「クソゥ!実技よりも知識の方が致命的だったか!」

ライカ「あーもー!そっちも教えてやりゃよかったー!」

剣護「完全に忘れてたぜ……!」

 

志乃、ライカ、麒麟、剣護がパニックを起こしギャンギャンと騒ぐ中、1人の女子の笑い声が聞こえてきた。見ると、その子は婦警の格好をしていた。

 

[考査番号7 インターン(中3) 乾桜]

 

胸のネームプレートにはそう書かれていた。

剣護は反射的にM500を引き抜いてその方向に向けるが、すぐにライカと麒麟に取り押さえられた。

 

桜「あ、ごめんなさ……ってそれかなりヤバイ威力のリボルバーですよね!?」

剣護「蘭豹先生のお墨付きだぜ」

アリア「……架橋生(アクロス)ね?そのカッコ」

剣護「アクロカント?」

ライカ「それ恐竜じゃなかったですっけ」

桜「はい。午前中に研修があったので」

 

ピシッと敬礼をしてハキハキと答える桜は、婦警さんのタマゴといった感じだった。

 

桜「あの、さっきの問題ですけど……解答例としては……命中精度は主にバレル長、マズルブレーキ、薬室精度で決まります。短銃身リボルバーの弾道は、ライフリングで安定する」

あかり「…………!」

 

桜の解答にライカはウンウンと大きく頷き、年下から教えられたあかりは顔を赤くした。

 

桜「他の科目で頑張ってくださいね」

 

背を向けた桜は、クスクスと笑い直しながら次の試験会場へと歩き出す。そこで、今まで黙っていた麒麟が口を開いた。

 

麒麟「私と同じインターン中等部の、乾桜さん。通称『何でも持ってる』桜さん。成績優秀、運動神経バツグン、お父様は麻布警察署の署長さんとか……今はノーランクですが、Aランク相当のエリート。格闘訓練は無敗、無遅刻無欠席、経歴に負けやミスが一切無い完璧主義者ですわ」

剣護「めんどくさいタイプじゃねえか」

ライカ「いや、知らないっすよ」

アリア「……そういう素質十分な若手も受けにくるのがランク考査よ。あかり」

 

隣でふてくされているあかりにアリアは『気にしない』という意味で言ってやるのだった。

 

 

 

 

 

その後も技能試験であかりはCQC審査、射撃審査を行い、CQC以外は低いスコアだった。それに対し桜は全て最高点を獲得していった。

そして最後の実戦試験、格闘戦に臨もうとした時、剣護はあかりに声をかけた。

 

剣護「あかり、これが最後だ。気負うことなく自分の全てを出し切れ」

あかり「はい!」

剣護「あとあまり無理しないように。いいな?」

あかり「は、はい!」

剣護「ん、行ってこい」

 

剣護は拳を前に突き出し、あかりもそれに拳を合わせた。

 

 

 

更衣室であかりが着替えていると後ろから桜が声をかけてきた。

 

桜「『時の運』ってあるものですね」

 

あかり(桜ちゃん……!)

 

桜「対戦カードの確認が遅いですよ、先輩」

 

桜が封筒を渡してきて、あかりはそれを見るとプリントには桜があかりの相手だということが書かれていた。

 

桜「いいですよ、棄権しても」

あかり「だが断る。勝負はやってみないと分からないよ」

桜「あなたの有名な戦姉さんのキャリアに、傷がつきますよ?」

あかり「アリア先輩のキャリアに、傷……?」

桜「知らなかったんですか?私に戦姉はいませんが……戦妹が考査でランクを上げられないと、戦姉には『人を育成できない』という評価が残り、彼女の次回ランク考査に響くんです」

 

桜の話を聞いて、あかりは困惑する。もちろんアリアからはこのことは聞かされていない。桜もウソをつくタイプに見えないことからして恐らく事実だろう。

 

桜「ただ、あなたが棄権すれば評価記録は残りません」

 

あかりの頰に汗が流れる。結果は散々、しかもこれから戦う相手は試験で全て完璧な結果を収めているエリートである。勝てる確率はかなり低いだろう。でも。

 

 

『ベストを尽くしなさい』

『自分の全てを出し切れ』

 

 

試験の前に応援してくれたアリアと剣護の声が脳裏をよぎる。その想いに応えたい。そう決意したあかりは、両腕をグッと振り下ろす。

 

あかり「あたしはベストを尽くすッ!アリア先輩のためにも……みんなのためにも!」

桜「そうですか。まあ、それならそれで好都合です」

 

奮起するあかりとは対照的に桜はクールなまま。これから何が起きようと、あかりの自己責任とでも言いたげに。

 

桜「私はこの試験でAランクになりますが、目標はSランク武偵……Sランク武偵には人数制限があるものの、彼女のランクが落ちれば席が1つ空く。先輩は、そこへの踏み台になってください」

あかり「…………」

 

宣告する桜の言葉をスルーしてあかりは先程の皆の言葉を思い返す。

 

あかり(絶対…負けられない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実戦試験が行われる4本のロープが張られた四角いリングの中では両者がそれぞれスタンバイする。

 

志乃「あかりさん、平常心です!」

ライカ「落ち着いていけよ!」

麒麟「間宮さま、ファイトですの!」

アリア「あかり!がんばって!」

剣護「あかり!ぶちとば……」

アリ・志乃『ダメでしょが!!』

剣護「あべしっ!」

 

アリアたちが声援を送る中、ヤバイことを口走りそうになった剣護を志乃とアリアが叩きのめした。

 

アリア「武偵法9条!」

剣護「いてて……サーセン。あかり!俺の教えた技を出し切れ!」

 

剣護の言葉にあかりはコクリと頷き、向き直る。

 

綴「ルールは総合格闘技な。相手に与えたダメージも採点対象だぞー。えーっと、この対戦のランダム付加ルールはだなぁー……『ビル屋上戦』だとよ。『リング外に落ちたら、転落と見なす』。よぉーし、実戦だと思ってやれぇー!」

 

カァン!とゴングが鳴り響き、双方のコーナーから2人が飛び出す。

 

あかり「んッ!」

 

あかりは先制のパンチを繰り出すも、負けたくないという思いが体を力ませ、攻撃が大振りになってしまっている。桜は簡単に攻撃を避けていく。そしてガバッとあかりに抱きつく。

 

桜「では、ディフェンスは試験官に見せたので」

 

桜はあかりを突き放すと攻撃に転じた。素早いジャブの連射でガードをこじ開け、右ストレートをねじ込む。

 

あかり「……うん?」

 

もろに受けたあかりはダウンせずに踏み止まるどころか余裕を持って立っている。

 

桜「……打たれ強いですね。じゃあ、それも利用させてもらいます」

 

桜がそう言った次の瞬間、バチィィィ!とあかりの右側頭部を激しい衝撃が襲った。桜があかりの側頭部にハイキックを叩き込んだのだ。

 

ライカ「あかり!!」

あかり「……んん?」

志乃「……あら?」

 

強烈な蹴りを受けたにも関わらずあかりはしっかりとリングに立っていた。これには桜も少し驚いていた。

 

桜「くっ!」

 

桜はジャブを繰り出すが、あかりは今度は拳を防ぎ、いなしていく。

 

あかり「やっ!」

桜「っ!」

 

多少落ち着いたのか反撃とばかりに拳や掌底を打ち込み、桜はそれを防ぎ、避けていく。

 

あかり「月島流拳技、蓮華掌!」

桜「ぐっ……なんの…!」

 

繰り出された掌底を受け流すと桜は左側に回る。

 

桜「打撃術だけじゃなく……」

ライカ「来るぞ!あかり!」

桜「関節技も披露します」

 

桜は左腕を取ると自身の手足で固めた。桜にとってこれは格闘技術のデモンストレーション。あかりはそのサンドバッグなのだ。

 

あかり「ぐっ!?」

ライカ「あかり!起きろ!」

志乃「試験官に見せているんですね、自分の技を……!」

 

ライカがマットを叩き、志乃がハラハラと涙する。

 

桜「これは鍵固め。腕一本を両手足で極める、逆転不能の関節技です」

 

そう言って桜はさらに強くあかりの左腕を固める。あまりの激痛に顔をしかめるがそれでもあかりは呼吸を整える。

 

ライカ「あかり!持ちこたえろ!」

麒麟「間宮さま!」

志乃「あかりさん……!」

剣・アリ『………………』

 

綴「あと30秒ォー」

 

何とも思ってない様子の綴が腕時計を見ながらダルそうに告げる。

 

桜「先輩、そろそろギブアップして」

 

あきらめないあかりに桜は苛立たしそうなタメ口をきき、キーロックをさらに強める。

 

桜「私は『何でも持ってる』桜。これでランクも持ってる桜になる。先輩のその役目はその踏み台」

あかり「………悪いけどそうはいかないよ」

桜「え?」

あかり「……フー………ん!」

 

あかりは深く息を吐き脱力するとスルリと桜の鍵固めから抜け出した。

 

桜「し、しまった!」

あかり「月島流拳技!」

 

桜は慌ててあかりの方に向き直り仕掛けるが、あかりは既に技の初動を完了していた。

 

あかり「回天翔竜脚!!」

 

身体を捻り回転を加えた後ろ回し蹴りがもろに顎にクリーンヒットして桜は吹っ飛ばされる。

 

桜「うっ…ぐっ……」

あかり「おっと!」

 

あかりは気絶してリングから落ちそうになっていた桜の腕を掴みリング内に引き戻す。

 

綴「気絶によりK.O.……時間、ちょうど」

 

そう言うと綴はカァーンと終了のゴングを鳴らした。

 

綴(なんとまぁ化けたもんだねぇ……間宮のやつ)

 

フッ、と少しだけ嬉しそうに笑うと綴は試験結果をまとめるためその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み、カフェテリアにはあかり、志乃、ライカ、麒麟、アリア、剣護の姿があった。

 

あかり「やったよやったよー!」

麒麟「おめでとうございますですのー!」

ライカ「実技とCQC以外なんで昇格できたのかフシギな体たらくだったけどなぁ」

志乃「実技で気になったんですけど、桜さんの攻撃に対してあかりさんの反応がやけに薄かったような…」

麒麟「たしかに。それは気になりましたの」

あかり「それはねー。剣護先輩との組手で慣れちゃって…」

『あぁー………』

 

「剣護先輩だから」で全員が声を揃えて納得する中。桜がやってきてあかりに問いかける。

 

桜「あの、間宮先輩……」

あかり「ん?桜ちゃん?」

桜「どうしてあの時、私がリングから落ちそうになった時に助けたんですか?そうすればリングアウトで勝っていたのに……」

剣護「それはだな、あの試験が『ビル屋上戦』ってシミュレーションだったからだ。仮に本当のビル屋上での戦闘だったらお前はリングアウトどころかお陀仏になる訳だからな」

アリア「武偵法9条。武偵は人を殺してはならない、でしょ?あかりはそれを意識して守った。だからDランクになれたのよ」

桜「っ……!」

 

剣護とアリアの言葉を聞いて実戦を意識して戦っていたあかりに対して点数を稼ぐことばかりを考えていた自分が恥ずかしくなり赤面する。それと同時にあかりに1つの尊敬の抱く。

 

桜「あかり先輩!私を戦妹にしてください!」

「「「……えぇ!?」」」

ライカ「な、なんであかりなんかに……!」

志乃「戦妹とは片腹痛い!私の屍を越えてからです!」

剣護「お前は何を言ってるんだ」

桜「さあ先輩方!授業の始まる10分前ですよ!」

 

そう言うと桜はあかりの腕を抱き抱えるように引っ張り、その後を志乃、ライカ、麒麟が続いていく。アリアと剣護はその光景を苦笑いしながら見送る。

 

剣護「せっかちなやつだなぁ……」

アリア「……まあ、チームバランスも良くなってきたかな?」

 

 

 

 

 


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