オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!   作:ALEX改

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第20話 『AA』作戦始動!

 

 

ホテル『ラストダンス』の403号室。あかりは夾竹桃のいるその部屋の扉の前に立っていた。呼び鈴を鳴らすが反応が無く、あかりは側面の壁を盾にするような体勢で解除キーを使い鍵を開け、部屋を覗き込んだ。室内には様々な植物や描きかけのマンガ、実験器具などが置いてあった。

 

…………カチャ

 

その時、部屋の奥からドアの開く音が聞こえた。あかりは音が聞こえた方へとUZIを向ける。

 

夾竹桃「あら」

あかり「……!?」

 

どうやらドアの向こうはシャワールームだったらしく、全裸の夾竹桃が出てきた。まさか全裸の状態で出てくるとは思わずあかりはUZIを落としかける。それを気にしないかのように夾竹桃は黙ってクローゼットを開く。

 

あかり「ふ、服着て!話があってきたの!」

夾竹桃「はいはい」

 

服を取り出す夾竹桃にあかりは背を向けるが彼女がどこかから武器を出したりしないか警戒をしながら、時々横目で監視する。

すると夾竹桃はあかりに背を向けたまま話し始めた。

 

夾竹桃「取引はシンプルよ。ののかの符丁毒の解毒剤と、間宮の秘毒、鷹捲を交換。あなたの身柄も、オマケで頂戴」

あかり「鷹捲は毒じゃない」

夾竹桃「トボケちゃって」

 

夾竹桃はあかりの足元に一冊の本を放ってきた。その本の表紙には女の子同士が抱きつきあっている様子が描かれていた。

 

あかり「……なにこれ?」

夾竹桃「え?……あ!ごめんなさい。これは私が描いてるマンガだったわ。こっちこっち、間違えたわ……」

あかり「え、あ、は、はぁ……」

 

慌てて放った本を拾い、夾竹桃は今度は和綴じの本を渡してきた。その本の表紙には『間宮奥伝其之伍』の文字が書いてあった。これは、2年前の襲撃時に間宮町から奪われた奥義を記した秘伝書の1つである。

夾竹桃は黒いセーラー服を着ながら話す。

 

夾竹桃「それには『千本の矢をスリ抜け』『一触れで死を打ち込む』『死体に傷が残らない技』とあったわ。そんなもの経皮毒しかあり得ないでしょ」

あかり「鷹捲は……難しいの。あたしも3回に1回しか成功しない。実戦じゃ使えな……ん?」

 

そこまで言ってあかりはふとあることを思い出す。数年前、ののかと剣護と一緒に鷹捲の練習をしていた時のことを。

 

夾竹桃「あら、どうしたのかしら?」

あかり「……ううん、なんでもない」

夾竹桃「あら?教えてくれてもいいのに……」

あかり「教えない。それに渡さない。あなたみたいな人には鷹捲を渡さない」

夾竹桃「そう、なら仕方ないわね」

 

ジワリと夾竹桃は今まで押しとどめていた殺気を発し始める。

しかし、あかりはその圧倒的なプレッシャーにゾッとするがすぐに持ち直した。恐らく剣護の殺気の方が強かったらしくこの程度は平気になったらしい。

 

夾竹桃「最後のチャンスをあげる。イ・ウーにおいで、あかり。あなたは選ばれた」

 

差し出された右手を見て、呼吸を整えながらあかりはイ・ウーの話に応じる。

 

あかり「アリア先輩や剣護先輩に聞いたよ。イ・ウーっていうのは、人に話しちゃいけないほど危険な、秘密結社。無法者の、国際組織……!」

夾竹桃「私が可愛がって」

あかり「それと」

夾竹桃「?」

 

あかりの発言が無かったかのように語りかけようとした夾竹桃の言葉をあかりは遮り、話を続けた。

 

あかり「剣護先輩が言ってた……イ・ウーは無法者という名のゴミの溜まり場とか…あいつらはグリードの塊……だとかいろいろ言ってた。ヤバすぎて後半聞いてなかったけど」

夾竹桃「…………おっふ」

 

あかりの言葉に夾竹桃は顔を引きつらせるしかなかった。何も言えねえ……そんな感じだった。

 

夾竹桃「ま、まあいいわ……あかり、イ・ウーに来なさい。私が可愛がって、育ててあげる。強くなれるわよ、あの神崎・H・アリアよりも」

あかり「あなたの物になんかならない。あなたの物になるくらいなら……剣護先輩の物になった方が断然良い!」

夾竹桃「さりげなく、すんごいこと言ってるわよ!?」

 

夾竹桃の言葉を無視して、あかりは身を捻って後ろに跳び、小型のスタングレネードを投げつけた。

室内で閃光と爆発音が弾けた。目を閉じ、両耳を塞ぎ、机から落ちる実験器具から身を守り、あかりは衝撃をやり過ごすとゆっくり目を開き、UZIを手に立ち上がる。このスタングレネードは外に待機している仲間たちへの合図でもあった。

あかりは銃を構え、夾竹桃が立っていた辺りを見渡すがそこに夾竹桃はいなかった。

 

夾竹桃「キョウチクトウの花言葉は……『危険な愛』……」

あかり「!!」

 

あかりがベランダの方へと向くと夾竹桃が空中に立っていた。否、空中に立っているのではなく、目に見えないほど細いワイヤーを蜘蛛の巣の如く張り巡らせ、その上に立っていた。

 

夾竹桃「遊びましょ。あなたの投降が先か、お友達の全滅が先か……今夜は2年前よりやりやすいの……皆殺しにしてもいいルールだから」

 

そう言って夾竹桃は、パッ、パッとワイヤーからワイヤーへと平然と飛ぶように渡って行った。あかりはベランダに出るがワイヤーを渡ることは到底できず、夾竹桃はビルの向こうへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかりによるスタングレネードの爆音を聞いた時、風魔はその振動で揺れ動きチラチラときらめいた不審な線、ホテル近傍の空に張られたワイヤーに気づいた。

風魔は街灯を蹴って飛び上がり、ワイヤーの上に立ちパッパッと跳び上がっていく。20m程まであがると風魔はコウモリの如くつま先でぶら下がった。そして火縄銃を取り出すと構えて、夾竹桃が出てくるのを待つ。

そして、雑居ビルの影から出てきた夾竹桃目掛けて発砲した。鉛弾は夾竹桃の黒髪を掠めただけで外してしまった。

 

陽菜「少々厳しい射角で御座ったな」

 

風魔は火縄銃を放り捨てるが次の瞬間何者かが風魔の捨てた火縄銃をキャッチし闇に消えた。一瞬不審に思った風魔だが今はそんなことを気にせず夾竹桃に向き直る。

 

陽菜「不肖の下忍、お相手つかまつる」

夾竹桃「……希望は聞いてあげる。あなた、どう死にたい?」

陽菜「畳の上で大往生と決めて御座るッ!」

 

そう言うと風魔は卍手裏剣を2枚投擲する。放たれた手裏剣はブーメランのようにカーブを描いて飛び、夾竹桃の立ってるワイヤーの左右を切断した。しかし、夾竹桃は落下中に小さなガス缶を投げた。それは風魔の目の前で弾けて紫色の煙を広げる。

しかし、次の瞬間、どこからか黒い塊が2つ飛んできて煙を吹き飛ばした。夾竹桃は一瞬驚きの表情を見せ、風魔はこの隙に口当てを引き上げ飛び降りた。

 

陽菜「……む!?」

 

路上に降り立ち、周囲を見回しながら立ち上がった時、ぷつぷつと防弾セーラー服に穴が開き、口当てまでも硫酸か何かを浴びせられたように溶けていく。どうやら完全には煙を吹き飛ばせてなかったらしい。

 

夾竹桃「肺呼吸させて毒するなんて面白くないわ。それじゃ楽しめないもの」

 

服が溶けるだけでなく、激しい目眩と頭痛に襲われ、脈拍も不整になり風魔は片膝をついてしまう。

 

陽菜「む、無念……!」

 

それでも風魔は最後の力を振り絞って苦無を3本とオナモミの実を投げつけた。苦無は易々と避けられたがオナモミの実は辛うじてプリーツスカートの裾にくっついた。

 

夾竹桃「耐毒訓練の経験があるのね。でも、もう限界でしょ」

陽菜「……あぐッ……!」

 

夾竹桃は風魔のポニーテールを後ろへ引っ張り、風魔は仰向けに倒されてしまう。夾竹桃は風魔の上にのしかかり、左膝を腹部、右膝は左肩、左手は右肩と人体の各ポイントを押さえ、体の自由を封じた。

さらに夾竹桃は風魔の口当てに手をかける。

 

陽菜「止されよ!某の一派では、くノ一が敵に素顔を見られるのは、裸を見られるようなものッ」

夾竹桃「知ってるから見たいのよ」

 

サディスティックな微笑を浮かべつつ、口当てを剥ごうとした時だった。

 

 

ズドドッ!

 

 

夾竹桃の右手に2つの黒い塊が突き刺さった。

 

夾竹桃「あぐっ!」

陽菜「え……?」

 

夾竹桃は思わず口当てから手を離し痛みに悶え、風魔は何が起こったのかわからないといった状況だった。そして、さらなる追撃が夾竹桃を襲う。

 

ニンジャ「イヤーーーッ!」

夾竹桃「がっ……!」

 

暗闇の中から赤黒のニンジャが飛び蹴りを繰り出し、夾竹桃を吹っ飛ばす。そして両手を合わせ一礼をする。読者の方々ならこのニンジャが誰なのかもうお分かりであろう。

 

ニンジャ?「ドーモ、はじめまして。夾竹桃=サン。ニンジャスレイヤーです」

 

そう、ニンジャスレイヤー?である。赤黒の忍者装束に身を包み、忍殺と刻まれたメンポで口元を隠すその姿はまさしく死神。

 

夾竹桃「な……ナンデ……」

陽菜「に、ニンジャスレイヤー……=サン」

 

夾竹桃はヨロヨロと立ち上がり、普段○○殿と呼んでいる風魔もサン付けで呼んでいる。まあ、大体は剣護が貸した漫画の影響なのだが。

 

夾竹桃「っ!」

ニンジャ?「ヌッ!」

 

夾竹桃は咄嗟にガス缶を地面に叩きつけ、毒ガスを撒き散らす。ニンジャスレイヤーはバックステップで離れ回転数を増したスリケンを放ち吹き飛ばすがそこには既に夾竹桃の姿は無かった。

 

ニンジャ?「ヌゥ……逃げたか……」

 

そう言うとニンジャスレイヤーは風魔の方へ近づき、しゃがむと丸薬を取り出した。

 

陽菜「そ、某のことは気にせず……夾竹桃を……」

ニンジャ?「いや、俺が依頼されたのはお主らのサポートだけだ」

陽菜「…………」

ニンジャ?「これを食べるといい。解毒効果がある」

陽菜「か、かたじけない……」

 

風魔の口に丸薬を入れるとニンジャスレイヤー?は風魔を背負い、停めている車の方へ移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麒麟「夾竹桃はガス状の毒も使うようですの。市民に被害が及ぶリスクを避けるため、広域へ誘導してください」

志乃『了解』

ライカ『夾竹桃の移動方向は?』

麒麟「倉庫街の方へ逃走中ですわ。私は風魔様を迎えに行きますわ」

ライカ『風魔は大丈夫なのか?』

麒麟「ニンジャスレイヤー=サン?が現れたから多分大丈夫かと」

あかり『に、ニンジャスレイヤー?』

麒麟「詳しくは月島様から聞くといいですの」

あかり『アッハイ』

 

麒麟はハンドルを握ると振り回すようにしてハマーを風魔の元へと急行させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青海の倉庫街ではライカがアサルトライフルを構えて索敵していた。

 

ライカ「逃がすもんかよ……」

夾竹桃「アリから逃げるサソリはいないわ」

ライカ「!」

 

声の方に振り向くとそこには夾竹桃が立っていた。ライカは距離を取りアサルトライフルを向け「動くな!」と叫び引き金に指を掛けるがトリガーガードに南京錠がかけられ、引き金が引けなくなっていた。

 

ライカ「ならっ!」

 

ライフルを放棄し、ライカは思い切りジャンプして夾竹桃の顔面目掛けてドロップキックを繰り出した。夾竹桃は左手を前に突き出していたが、それをすり抜け見事顔面にヒットする。夾竹桃は産廃物のゴミ袋が積まれた一角に突っ込んだ。

ライカは追撃を加えるべく駆けだそうとするが、その瞬間にチクッと痛みが走った。ライカが足を見ると右足の大腿の一部に小さな引っかき傷が出来ていた。

 

夾竹桃「……毒されやすそうな、いい体をしてるのに……」

ライカ「チッ……あんましダメージが入ってないな……」

夾竹桃「肌なんか見せて……」

 

溜息まじりに夾竹桃が言ってきたその時。

 

ドクンッ!ドクンッ……ドクンッ!

 

ライカ「!?」

 

今までに体験したことのないような鼓動が、ライカを襲った。大きく張った胸を制服の上から押さえると、内側に痺れるような疼きが駆け抜け、引きつるような声が出そうになる。

 

ライカ「な、何だ、これッ……!」

夾竹桃「媚薬よ。強すぎて体に毒だけど。交感神経をシロップ漬けみたいに蕩けさせてくれるわよ」

ライカ「なっ、なんでこんな……!」

夾竹桃「好きな人のことでも考えて、ゆっくり楽しみなさいな」

ライカ「…………」

夾竹桃「……あら?」

 

好きな人。その言葉が真っ白になりかけていたライカの頭を1人の人物が駆け巡る。自分のために、みんなのために一生懸命になる戦兄の姿がライカの頭の中を埋め尽くす。するとカァァァとみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。媚薬の効果ではなく自身の中から湧き上がる何かによって。

 

夾竹桃「……ちょっと意外だったわね」

ライカ「っ……!」

 

夾竹桃はライカに背を向けその場を去ろうとした時だった。

 

怜二「柳生新陰流」

夾竹桃「っ!またっ……!」

怜二「明月之風(めいげつのかぜ)!」

夾竹桃「くっ!」

 

剣護の頼みで応援に来た怜二が倉庫街の壁を蹴って飛んできて刀を振るってきたのだ。夾竹桃はギリギリで避けたが白いリボンと黒髪を少し斬られた。

 

怜二「避けられたか」

夾竹桃「……流石に危なかったわね」

ライカ「なんで……こんな……あたしに……!」

夾竹桃「あら。だってあなた、見るからにウブそうなんだもの」

 

ライカの性質のことを言い残すと夾竹桃は冷や汗を少し垂らしつつ闇に消えていった。怜二は夾竹桃を追いかけずライカの元へ行った。

 

怜二「大丈夫かい?」

ライカ「っ……あっ……」

怜二「ちょっと待っててね……えーと、これだったかな」

 

怜二はカバンからスプレーガンのようなものと電池のようなものを出すとカチッと取り付けスプレーガンをライカの腕に押し当て引き金を引いた。プシューッと音が聞こえライカはビクンッと痙攣させるがそれもすぐにおさまり落ち着きを取り戻した。

 

ライカ「あ、ありがとうございます……」

怜二「ま、お礼なら剣護に言ってよ。これ用意したのも剣護だし」

ライカ「その薬も……?」

怜二「いや、これは救護科が用意したもの」

ライカ「はぁ……あ!麒麟に連絡しないと……」

麒麟『いやお姉様、ヘッドセット付いたまんまですが』

ライカ「あっ……」

麒麟『大体は分かってますから大丈夫ですわ。柳生様、今から向かいますのでライカお姉様をお願いします』

怜二「ん、了解」

 

ふと、怜二がライカの方を見るとライカは両手を両頬に当て、顔を赤くしていた。もちろんさっきのことを思い出して赤面してるのだ。

それを見た怜二はちょっとイタズラっぽく聞いてみる。

 

怜二「さっきは誰のことを思い出してたのかなー?」

ライカ「っ!………………ちぇりおー!!」

怜二「アバッ!?」

 

恥ずかしさのあまりライカは怜二の顔面に右ストレートをかましてぶっ倒す。この時、年頃の女の子はからかうもんじゃないなと怜二は思うのだった。

 

 

 


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