オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!   作:ALEX改

19 / 63
第19話 間宮の秘密と剣護の記憶

 

 

 

あかりの心の準備が整うまでの間、風魔と剣護以外は麒麟の淹れたコーヒーを手に病室のイスに座りあかりの様子を見守る。

そして心の準備が整ったのか、涙を拭いてあかりは話し始める。

 

あかり「あたしの家は昔、公儀隠密……今で言う政府の情報員みたいな仕事をしてました」

 

幼い頃に聞かせてもらった逸話を思い浮かべながらあかりは語る。

 

あかり「でもそれは生死を賭けた戦いが続く、危険な仕事だったそうです……そこで培われた戦技は、子孫に伝えられてきました」

 

あかりの脳裏には過去の記憶が甦る。間宮町の山中、野原、川辺、いろんな場所で教わった間宮の術の数々。しかし、その記憶の中で1つ気になるものがあった。

それは川辺で行われた毒薬の調合の訓練のことである。

 

みすず「今は色つきの砂と草で、調合の手順だけ教えるね。毒薬は危ないから」

ののか「はーい!」

あかり「は……へっぷち!」

みすず「あらあら……『鷹捲』……成功率がいつまでたっても1/3ねぇ。それじゃあ実戦には使えないわよ」

 

あかりの鼻をハンカチで拭いながらみすずはそう告げる。

 

みすず「長男長女だけが習うんだから、ちゃんと覚えてね」

あかり「がんばる!」

 

みすずの言葉に、あかりはグッと手を握り締める。その時、近くの草むらからガサガサと音がして3人は一斉に振り向く。すると草むらの奥から古傷だらけの巨大な熊がのそのそと現れる。

あかりとののかはヒッ!と息を呑み、みすずはそんな2人を守るかのように前に立つ。

 

あかり「お、お母さん……」

みすず「大丈夫よ。私が守るから」

 

ガタガタと震える2人にみすずは笑顔で返す。熊は目が合うと3人に目掛けて突進してくる。みすずは身構え、あかりは震えながら自身にしがみつくののかを見て精一杯の大声で叫んだ。

 

あかり「た、た……助けてえぇぇぇぇ!!」

 

熊との距離が数メートルに迫った時、あかりの声に応えたかのように何かが草むらから飛び出した。

 

剣護「しゃーんなろぉがぁぁぁぁぁ!!!」

 

ドッゴォォォォォンッ!!

 

飛び出してきたのは1人の少年。あかりの1つ上ぐらいの少年が熊を木刀で吹っ飛ばしたのである。その光景に3人はポカンとした様子で見ていたのも束の間、熊は起き上がるとその少年に突進してくる。

 

熊「ガルァ!!」

剣護「てめーはちったぁ……寝てやがれぇ!!」

 

思い切り大ジャンプして突進を避けた少年は落下の勢いを乗せて木刀を振り下ろし叩き込む。

 

剣護「月島流、富嶽鉄槌割り!」

 

繰り出された一撃はドゴォン!と轟音を響かせ地面に円形の穴を開けた。その光景にみすずは唖然とするばかりだった。

 

みすず「なんなのあの子……」

剣護「ふー……大丈夫ですか?」

みすず「え、えぇ……ありがとう。助かったわ」

剣護「いえいえ。なんてことは「コラー!剣護ー!」あ、やべ」

 

怒りを含んだ声が聞こえたかと思うと草むらから白い道着をきた老人が現れた。

 

???「コラ!剣護!勝手に飛び出すんじゃないわ!」

剣護「ご、ごめんじいちゃん。でも声が聞こえたから……」

???「全く……まあ無事じゃから良いとして……そちらの方は?」

みすず「間宮みすずと言います。そちらのお孫さんに助けていただいて……」

源二「それはそれは……災難でしたな。わしは月島源二。此奴は孫の」

剣護「月島剣護です」

みすず「月島さんですね。ほら、あかりにののかも挨拶なさい」

あかり「え、えと……まみやあかりです」

ののか「ま、まみやののかです」

源二「ホッホッホ。可愛らしいお子さんですな」

みすず「いえ……あなたのお孫さんもお強いですね。あんな大きな熊を倒すなんて」

源二「なんのなんの。あれぐらい大したことないですじゃ」

みすず「は、はぁ……?」

源二「うちの先祖は蟲退治をしてましてのぅ……今は蟲なんぞおらんが技だけは今でも受け継いでおるのじゃよ」

みすず「そうなんですか……似てますね。私たちの所と」

源二「ほう?」

みすず「間宮家も代々子孫に術を伝えていっております」

源二「ほう……間宮の術とな」

みすず「はい。あなたのは……剣術でしょうか?」

源二「左様。月島流剣術といってな、戦場を意識したものじゃ」

剣護「じいちゃん。ベラベラ喋ってっけど良いのかよ」

あかり「けんごお兄さん遊ぼー」

ののか「遊ぼ遊ぼー」

剣護「おっととと。はいはい、わかったわかった」

みすず「フフフッ。すっかり懐かれてるわね。あの、よろしければこれからもあの子たちの相手をしてやれないでしょうか?」

源二「ホッホッホ、構いませんぞ。剣護は一人っ子で兄弟がいませんからのぉ……」

みすず「ありがとうございます。それでは……あかり!ののか!そろそろ帰るわよ」

ののか「はーい!」

あかり「…………」

 

みすずの言葉に対してののかは元気よく返事をするがあかりはションボリと俯いている。剣護はあかりの前にしゃがみこむとポンと頭に手を置いた。

 

剣護「あかりちゃん」

あかり「…………?」

剣護「また今度遊んでやるからさ。元気出して、な?」

あかり「!…………うん!」

 

素直に元気よく返事をするとあかりはみすずの元へ走っていった。そして振り返るとののかと一緒に元気よく手を振って帰っていった。

 

剣護「……お兄さんか……」

源二「ホッホッホ。年下の相手は初めてだったじゃろ?」

剣護「まあね」

源二「そうか……ではわしらも帰るかの」

剣護「オッス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかりは初めて剣護と出会ったことを思い出すとボソリと呟きだした。

 

あかり「……剣護お兄さん……」

剣護「おいバカやめろ」

アリア「じゃあ、あかりは昔から剣護と接点があったのね」

ののか「そういえばあの時からずっと私とお姉ちゃんの3人で遊んでくれてたよね」

剣護「ええいそれより話の続きだ!」

 

そう言って今度は剣護が話し始めた。2年前、間宮の術を狙って夾竹桃を含めた一味が間宮町を襲った。間宮の一族は術を守るため掟に従い散り散りになったと。

 

あかり「あたしたちが襲われたのは……ののかがこんな目に遭わされてるのは、間宮の術なんかがあったからなんです……」

アリア「あかり。じゃあ、お母様の理念についてはどう思うの。『人々を守るために戦う』世にはびこる悪から、無辜の民を守るために戦う。それは立派な理念よ」

剣護「人々を守るために戦う。これは間宮の一族や武偵に限られたことじゃない。絶対に誰かがやらなくちゃいけない。それをお前らは受け継いできたんだろ?」

あかり「それは……守りたいです……でも、間宮の技は人を殺める技なんです。だから、あたしは武偵高で……」

アリア「技術を矯正しようとしてたのね。武偵法では殺人が禁じられてるから」

陽菜「それで鳶穿も、奪取の法に改変したと」

あかり「うん……でも……何年もかかって、作り直せたのはそれだけ……体に染みついた癖はなかなか取れないんだ」

 

あかりはそう言ってイスから立ち上がると病室の出口へと歩いていく。

 

志乃「あかりさん……?」

あかり「みんな、お別れだね」

 

左袖の武偵高の校章を剥がし、あかりは言った。武偵高章を付け替える以外の理由で剥がすということは武偵を辞める、ということを意味する。

 

あかり「あたし……やっぱり行くよ。夾竹桃のものになって、ののかを助ける」

アリア「あかり……」

あかり「戦姉妹も解消します。あたしはアリア先輩みたいには……なれなかった」

アリア「……皮肉なものね。戦姉妹試験の時はあんたがあたしを追い、今はあたしがあんたを追う」

 

アリアの言葉で戦姉妹契約試験のことを思い出し、あかりは足を止める。その背にアリアは語り続ける。

 

アリア「規則上、戦姉妹の途中解散には双方の同意が必要よ。あたしは同意しない」

あかり「…………!」

アリア「あたしの戦妹なら戦いなさい。敵と、そして、自分と。武偵として敵を逮捕するのよ!」

あかり「……でも……夾竹桃は、強いんです……あたし、間宮の技もほとんど失ってるんです……昔のものは封じて、新しいものは身につかなくて……今のあたしは、何も持ってないんです……!」

剣護「そんなわけあるか」

 

何も持ってない。その感情を即座に、真正面から剣護は否定した。

 

剣護「見落とし過ぎだっての。お前は大事なもんをたくさん持ってる」

あかり「……何を、ですか……?」

剣護「振り返ってみろよ。そこかしこにたっくさんあるぜ」

 

剣護は昔のように、あかりの頭に手を置きあかりの後方を見る。あかりもそれに促されて振り返ると。

 

志乃「あかりさん!」

ライカ「あかり!」

麒麟「間宮様!」

 

志乃が、ライカが、麒麟が、みんながいた。そして続けて3人は言い放つ。

 

ライカ「家がなんだ!技がなんだ!あかりはあかりだろッ!」

麒麟「微力ですが、お力添えしますの!」

志乃「あかりさんが死ぬなら私も一緒に死にます!」

剣護「ちょっと待てや。そのセリフ」

陽菜「某も助太刀致す。風魔の秘伝『符丁毒』の悪用、許すまじ」

 

風魔も味方すると言ってくれている。みんなの声を聞いてあかりは涙を溢れさせグシャグシャになる。

 

あかり「……助けて、くれるの……?」

アリア「1年暗誦!武偵憲章1条!」

1年達『仲間を信じ、仲間を助けよ!』

あかり「みんな……」

 

涙を溢れさせるあかりに剣護はポンと肩に手を置いた。

 

あかり「月島先輩……」

剣護「仲間だけじゃない。お前は俺の技も持ってんだからよ」

あかり「……あ……!」

 

そう。仲間だけではない。間宮の技だけではない。剣護から教わった数々の技もある。あかりは胸の奥にほのかな温もりを感じた。

そんなあかりにアリアはペタリと一度はあかりが捨てた武偵高の校章を拾い左袖に付け直した。

 

アリア「あかり。あんたに初めて、作戦命令を下すわ」

あかり「!」

アリア「あたしはあたしの敵を逮捕する。あんたはあんたの敵を逮捕しなさい」

あかり「アリア先輩……」

アリア「作戦のコードネームは『AA(ダブルエー)』」

あかり「ダブルエー……?」

アリア「アリアとあかりのAよ。同時に、2人の犯罪者を逮捕するの」

あかり「っ……はいっ…!」

 

あかりは涙を浮かべながらも元気よく返事をする。その表情は不安による暗いものではなく、明るい笑顔だった。

 

剣護「いよっしゃあ!AA作戦……ノーコンティニューでクリアしてやろうぜ!」

一同『おー!!』

 

夾竹桃は手強い。しかし、志乃やライカ、麒麟に風魔、みんなと一緒なら。絶対に勝てるとは言えない、でも怖くなんかない。

笑顔を取り戻したあかりは全員と拳を合わせ、夾竹桃と戦う決意を固めるのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。