オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!   作:ALEX改

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第11話 月夜に映える2人の剣士

 

ののか(晩御飯のメールにも、お返事してこないなんて……)

 

アパート『ハイツ勝どき』の202号室で、ののかは姉からのメールを待っていた。

あかりは1日に何食も食べられる体質で、今日志乃の家から帰ってきてから自分の作った夕食も食べるはず。そう思ってののかは今日の献立をメールしたのだが、それに返事が帰ってこないのである。

 

ののか(お姉ちゃん……)

 

ののかの脳裏に2年前の恐怖が浮かぶ。火に包まれる町、死と隣り合わせの地獄。あかりの身にあの時のような災難が降り注いでたとしたら……そんな考えがよぎり、ののかはギュッと袖を握る。

その時、カサッと一枚のカードがののかの足元に落ちる。それは昨日会った武偵に貰った連絡先である。

 

ののか「っ!」

 

ののかはカードを拾い上げると携帯に番号を打ち、その人物に電話をかけた。

 

ののか「もしもし……あのっお願いがあるんです……!」

 

 

 

 

 

 

一方、あかりは戸惑いながらも志乃と対峙していた。

 

あかり「志乃ちゃん……どういう事……?」

志乃「戦姉妹契約を強制的に解消させるには72時間以内に私闘でハッキリと敗北させなきゃいけないの。そういう……校則なの!」

 

そう言って志乃は一気に距離を詰める。あかりは転げるように前方から身を躱す。

振るわれたサーベルは薔薇の生け垣を斬り、斬られた薔薇の花びらが2人の間に流れる。

志乃は返す刀で方向転換するツバメのようにV字を描いた2撃目を繰り出す、あかりは刃の殺傷圏からバックステップで退き、バク転を切って距離を取った。

しかし、着地した際にあかりの防刃制服のタイ留めが外れる。

 

志乃「ごめんね。防刃制服を着てても、骨は折れちゃうかも……でも、付きっきりで看病してあげるから」

 

そう言って志乃はサーベルを手に向き直る。その顔は笑っており、あかりは恐怖に弾かれるようにタクティカルナイフを抜く。

 

志乃「あかりちゃん、さっきの素早かったね。まるでツバメみたいに……でも私はツバメでも斬れるよ」

 

志乃は体を捻り、刀をスライドさせ居合いの構えを取った。それを見たあかりの背筋に、警報のような危機感が走る。

 

志乃の中で燕返しに用いる術理が整っていき、そして5mの距離から超速度の胴払いの一閃が放たれる。

 

志乃(燕返し!)

あかり「っ!」

 

あかりは咄嗟にナイフでガードしたが志乃の狙いはナイフだった。

志乃による秘剣の一撃を受けナイフは砕け散り、あかり自身も衝撃で吹っ飛ばされ噴水の周囲の丸いプールに転がり込む。

 

志乃「あかりちゃん……あかりちゃんが、悪いんだからね……?」

 

志乃は涙をこぼしながら、脳裏ではあかりとの大切な思い出を甦らせていた。

 

志乃(私のお友達を失いたくない……だから……斬る!)

 

アリアとあかりを引き離すため、志乃が刀の柄を握り直した時だった。

 

 

パァン!

 

 

志乃「っ!?」

 

足元に銃弾が撃ち込まれ、志乃は思わず後退する。

 

剣護「ふぃー、なんとか間に合ったな」

志乃「まさか……!」

 

背後からの声に志乃は咄嗟に振り向くと、そこにはののかから連絡を受けて駆けつけた剣護がいた。

 

志乃「つ、月島先輩…!?なんで!?」

剣護「んまーこれ介入して良いのか迷ったけど依頼ってことで」

 

まさかの登場に志乃とあかりは驚きを隠せず、思考も絡まってひどく混乱していた。

 

あかり「な、なんで月島先輩がここに!?」

剣護「お前の妹から連絡があったんだよ。『お姉ちゃんに何かあったかもしれない。お姉ちゃんを助けて』ってな」

あかり「ののか……」

剣護「そんで来てみりゃ案の定、暴走してやがるな……これだからヤンデレは怖いねぇ」

志乃「例え月島先輩でも……邪魔をするなら斬ります!」

 

燕返しの構えを取る志乃の方を見て剣護も刀を構える。

 

剣護「月島流」

志乃「燕返し!」

剣護「富嶽一文字!」

 

志乃の胴払いの一閃に合わせて剣護は上段に構えた腕を振り下ろす。するとガキンッという音が響き志乃の刀がひび割れて砕けた。

 

志乃「なっ……!?」

剣護「ふー……なかなか鋭い技持ってんな」

志乃「……月島先輩」

剣護「ん?」

志乃「月島先輩なら知ってますよね?……武士は必ず、大刀と小刀を携えることを」

剣護「……まあ、基本武士は二本の刀を所有するわな」

志乃「そして私が今まで使っていたのは、巌流では小刀」

剣護「む?」

 

志乃は折れたサーベルを地面に突き立て、薔薇の茂みの奥に手を入れる。そして中に隠していた別の刀を取り出す。それは刃渡りが1m50cmを超えるような、異様なものだった。

 

志乃「これが私の大刀、通称『物干し竿』」

剣護「……ほっほーう…?」

 

志乃は慣れた手つきで鞘を抜き、剣護も構える。

 

志乃「今度はこれで、あなたを斬ります」

剣護「やってみな」

 

志乃は構える。先ほど放った技と同じ居合いの構えを。剣護は今度は刀を逆手に構えて、腰を低くする。

そしてお互いに技を放った。

 

志乃「燕返し!」

剣護「富嶽風切り!」

 

素早く振り抜かれた刀が激突し甲高い音を立てる。

 

あかり「志乃ちゃん、どうして……!?友達同士なのに!」

志乃「……友達だから、退けないの!」

 

あかりと志乃はお互い悲鳴のような声を投げかけ、志乃は鍔迫り合いを押し切る。

 

剣護「っと」

志乃「はっ!」

剣護「っ!」

 

志乃は大刀を横薙ぎに振るい、剣護は後ろに飛んで避けるが制服を少し切られる。

 

剣護「チッ、大刀だと距離に注意しないと掠っちまうな…」

志乃「逃がしま……せん!」

剣護「うおう!?」

 

遠くから志乃は一気に距離を詰めて居合斬りを放ち、剣護は上に跳び上がって避ける。

 

志乃「どんな高さを跳んでるんですか…!?」

剣護「今度はこっちから行くぞ!」

志乃「っ……そうはいきません!」

 

志乃は燕返しを放つが剣護はそれに合わせて刀同士をぶつけて弾き飛ばす。

 

剣護「月島流、富嶽弾き返し!」

志乃「なっ!?」

 

弾かれた衝撃が大きかったのか志乃は大刀から手を離してしまい、大刀は生垣の中に落ちてしまった。

その隙を逃さず剣護は懐に潜り刀の柄で打撃を打ち込む。

 

剣護「月島流…富嶽突き!!」

志乃「がっ!?……は……」

剣護「あ、やべ」

 

打撃は見事に鳩尾にクリーンヒットして、志乃は気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志乃「う、うぅ……ん……」

 

しばらくして志乃が目を覚ますと不安そうな表情をするあかりとやれやれといった感じの剣護がいた。時刻は8時過ぎ、三日以内解消規則の期限を過ぎていた。

時計を見たあかりが、これでアリアとの戦姉妹契約を誰かに解消されないとホッとしていると。

 

志乃「ふぇ……ふぇ……ふえぇえええーん!」

剣・あか『!?』

志乃「あかりちゃんに嫌われちゃったよー!また私、ひとりぼっちに戻っちゃったよー!」

 

志乃が突然幼児みたいに泣きじゃくり、あかりと剣護はギョッとした。しかし、2人はすぐに志乃の本心に気づき、あかりは志乃に顔を近づけ謝った。

 

あかり「……志乃ちゃん。あたしこそ、なんか無神経だったみたいで……ゴメンね。でも、志乃ちゃんのこと嫌いになったりしないから」

志乃「ほ、ほんとに?嫌いにならない?」

あかり「うん」

志乃「え、えっと。じゃあ、好きですか?私のこと、好きですか?」

あかり「う、うん」

 

苦笑いで志乃の言葉にあかりが答えるとパアアァア……と薔薇のように満開の笑顔を咲かせた志乃があかりに飛びつく。

 

志乃「あかりちゃん!私も大好き!好き、好き、好きなのよー!」

あかり「し、志乃ちゃん……?」

 

志乃はあかりをギューッと抱きしめながら何度もそう繰り返す。

 

剣護「あー……そういや間宮家では『女人望』って同性カリスマを持った子が稀に出るんだっけ…」

 

2人のやり取りを見ながら剣護はそう呟くであった。

 

 

 


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