傷だらけの憧れ   作:時雨日和

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2話続けて短めとは…


第6話 傷だらけの憧れ

無人機の接近から約1週間。その次の日から放課後にシャルルと本気で実践訓練をしろと織斑先生は言った。最初シャルルは渋っていたがこれからのみんなの為だと言ったら納得し訓練が始まったが、誰も本気のシャルルにでも足も出なかった。

欠点だと思っていた攻撃力だが、スピードを乗せた攻撃は、絶大なものへと変化する。例えるなら、水なんかも高速で放出すればそれは刃物にも変わる。故にスピードを乗せたシャルルの攻撃は一撃でシールドエネルギーをかなり減らす攻撃にかわる。

そうでなくともシャルルは『二重武装(デュアルシステム)』という機能を持っているためナイフだけに意識していては、実弾に対応出来ない。

そして極めつけは脳のICチップだ。その中には莫大な量の知識と経験が詰め込められており、どの動きにも対応できるように設定されてある。

ここまで完璧な人間はいるのだろうか?と疑うほどの実力を持っている。全員が思う事はシャルルが敵でなくて良かったと。

 

そして、今日久しぶりに実践訓練がない休みの日の夜、シャルルは外を散歩しているとラウラと出会った。

 

「やあ、ラウラ。君も散歩か?」

 

「シャルルか、まあ、そうだな。少し夜風に当たりたくてな」

 

2人は一度立ち止まり話をする。

 

「何度挑戦してもISでも生身でもお前には勝てないな」

 

「僕は強化された改造人間だからね。仕方ない部分もあるさ」

 

「しかしだな」

 

「…ISは良いけど、生身での勝負はあまり…いや、もう挑まないで欲しいな」

 

シャルルは悲しい顔をしながら夜空を見上げた。

 

「どうしてだ?」

 

「僕の力は仲間を、友達を傷つけたり、牽制したりするものじゃないからね…傷つけるくらいなら一夏がやるみたいに守りたいね。みんなを」

 

「そう…」

 

「というのと…」

 

「む?」

 

ナイフを懐から素早く取り出し、ラウラの目の前を通るように投擲する。

 

「な!?」

 

「…いつ本当に僕の力が制御出来なくなるかわからない、その時にラウラを傷つける…もっといけば殺すかもしれないからね。驚かせてごめん」

 

それが、改造人間たる悩みなのだろうとラウラは察した。それは自分も作られた人間だから、ということかもしれない。

 

「…わかった。それと、今まで悪かった。お前の意見も尊重していれば態々こんな事をお前に言わせなくても済んだのにな」

 

「いや、いいんだ…それより、もう夜も遅いそろそろ部屋に戻ろう。僕はさっきのナイフを回収するからおやすみ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

お互い逆方向へと進んでいった。シャルルが投げたナイフは適当に、ラウラを脅すために使われたものではない。ナイフは毒虫に突き刺さりその命を絶っていた。

 

「…少しの危険分子にも反応してしまうなんて…」

 

ナイフを引き抜いたところで声をかけられた。

 

「おい、いつまで外にいるつもりだ?さっさと部屋にもどれ」

 

声に反応し振り返るとそこには織斑先生がいた。

 

「織斑先生、今から戻りますよ。ちょっとナイフがですね…」

 

「そうか、ならすぐに行け。明日も早いんだ」

 

「わかっています。それではおやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ…お前にばかり負担かけさせてすまない」

 

織斑先生の隣を通り過ぎようとしたシャルルは、その言葉を聞き隣で止まる。

 

「気にしないで下さいよ。僕を道具として扱って貰って構いませんから」

 

「馬鹿者。そんな事が出来るものか、お前も私の大事な生徒の1人だ」

 

「織斑先生は優しいですね」

 

「私は当然の事を言ったまでだ」

 

「そうですか…でも、やっぱり僕は人に使われる方が良いです」

 

「なに?」

 

「ここに来てとても楽しくて、嬉しくて、充実しています。今まで受けた事は忘れがたいことですし、今でも恨んでます。ですが、それを塗り替えられれるこの、みんながいる空間が…少し薄目ではありますが、今唯一の血の繋がりのある姉さんのいるこの空間が僕の『憧れ』なんです」

 

今にも涙を流しそうでいて、それでも芯の通ったシャルルの信念なんだと感じる。

そして、織斑先生は口元に小さく笑みを浮かべた。

 

「ならば、尚更無理はするな。それに、血の繋がりだけが本当の繋がりとは限らないぞ」

 

「はい。肝に銘じておきます。それでは改めておやすみなさい」

 

「あぁ、おやすみ」

 

シャルルは帰っていった。織斑先生はその背中を目で追っていた。

 

「なるほど、あれが束の言っていた『傷だらけの憧れ』…と言ったところか」

 

そう言って、織斑先生も校舎の中へと戻っていった。




タイトル回収しました。予想よりも早いです。
あ、タイトル回収したからと言って最終回とかじゃないですからね?
え?そんなこと思ってない?


…おっと、心は硝子だぞ?

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