弱ければ相手から何もかも奪えばいい。   作:旋盤

43 / 43
来週から週一投稿が厳しいので不定期になってしまいます。すみません。
最後までゆっくり見ていって下さい。


顔も怖い

その二人はかなり怯えていた。振り向いた俺に対して。

それに気付き自分の体を確認する。返り血はない。他に怖がりそうな所はない。

その事にしばし考え、まさか。と思い至る。

 

(まさか!俺の顔が怖いのか!)

 

そう考えた。その瞬間、イヤイヤそれは無いだろ。と思い直す。

しかし、昔の友人の誰かからの指摘で、

 

『刑事事件一歩手前の顔してる。』

 

なんて言われたく事があるので否定できない事に気づく。

あいつら元気にしてるかなー。名前も顔も思い出せないがいた事は思い出せる。ギリギリで。

と、現実逃避している場合じゃなかった。

 

「大丈夫か?怪我とか……」

 

と言って近づこうと動いたら、

 

「ヒッ………!」

 

短く悲鳴をあげて、一層怖がった。

その反応に精神ダメージを受けたが、打ちのめされる寸前で踏みとどまる。

もう一度自分の格好を確認する。武器はしまっている。表情はいつも通り。返り血なし。顔の怖さは知らん。

もう一歩踏み出す。

 

「……!私はどうなってもいいのでこの子は見逃して下さい!お願いします!!」

 

そう言って魔族の女性は土下座をした。さながら悪役から我が子を守ろうとする母親のように。

マグナは精神ダメージ1万を受けた。マグナは項垂れ、倒れこみそうになったのを堪えた。

 

「大丈夫。何もしないから。傷はありませんか?」

 

俺は立ち止まり、少し離れた位置から声をかけた。

 

「いえ。ありません!私は奴隷にでも何にでもなりますから!この子だけはどうか……!」

 

「お母さん………」

 

少女の方は女性の娘だろうか?その娘が今にも泣きそうな顔をしている。さながら、悪役から大事な人を奪われる子供の様だ。

マグナは精神ダメージ10万を受けた。倒れそうになる体を必死に支える。

次にこんな事を言われるともう立てなくなりそうだ。

ここは態勢を整えなければ。

彼女が怯えている理由はなんだ。〈思考加速〉を全力で使用して思い至る可能性。それは、彼女が〈魔族〉だからだ。

〈魔族〉は他の種族から虐げられている種族。多分他の種族から逃げてきたのだろう。

娘がいて母親がいる。そうなるともう一人いないといけない。その人がいないという事は、多分もう。

 

「…………」

 

その場から離れた方が正解か、この家族を気にかける方が正解か。それは人によって異なるだろう。というか、同じ答えの方が少ないかもしれない。

 

「一つだけ勘違いしている事がある。俺も君達と同じ〈魔族〉であり、そのなり損ないだ」

 

厳密には違うが、嘘では無い。

 

「嘘です!そう言って私達を殺すか売るつもりでしょう!」

 

やはり勘違いというか、信じられないだろう。

だが、信じてもらうしか無いだろう。

 

「嘘では無い。と言っても信じられないと思うが、真実だ。それと、俺にその気があればお前たちなぞ一瞬だ。そして、俺がお前たちを生かしておく価値もない事を考えろ」

 

「…………!」

 

「だが、それをしない理由を考えろ。俺が人間でも魔族でもない。君達を助けた理由と生かした理由を」

 

俺は途中から何が言いたいのかよくわからなくなっていたが、彼女の警戒心が解れればいいな。

無理だよな………。

 

「……すみません。今まで追われていたので、気が動転してしまっていました」

 

通じた!なんで!?

 

「あ、ああ。まあ、誰にでも誤解はあるし、見た目が人間だから確かに誤解されて当然だな」

 

俺は少し近付いた。

 

「それで、怪我はないか?一応治癒はできるから、遠慮なく言ってくれ」

 

俺の言葉に女性が少女の体を確認して

 

「はい。問題ないです」

 

見た感じ女性の方にも傷は見当たらないし、二人とも大丈夫だろう。

 

「それなら良かった」

 

「お母さんこの人誰?」

 

少女が俺の方を指差して疑問を投げかけてきた。

 

「初めまして。俺の名前はマグナだ。よろしくな」

 

「うん!私はリリーだよ。よろしくね!」

 

子供は元気があるのがいいな。うんうん、どこの世界でも子供は元気なのがよろしい。

 

「私はリュウカと申します。助けていただきありがとうございます」

 

そんな一通りの挨拶を終えると、グ〜と可愛らしい音が出た。

 

「お母さん。お腹空いたー」

 

その娘の言葉に女性は困った顔をする。この感じから察するに食べ物が無いのだろう。

 

「お腹が空いたのか?なら、一緒に肉でも食べるか?」

 

その言葉に少女は目を輝かせて、

 

「本当に!?」

 

「ああ本当だ」

 

「よろしいのですか?」

 

「構いませんよ。魔物を討伐していくと自然と肉が多く手に入るからその心配は必要ない。というか、消費できて嬉しいくらいだ」

 

そう言うと、彼女も安心した様だった。

〈幻兎の肉〉を取り出しそれを焼いていく。

 

「まだかなまだかな。美味しそうだね。お母さん」

 

「ええ。そうね」

 

「まだ焼けてないから少し待っててくれよ」

 

「はーい!」

 

こんな会話に少し心を和ませながら、肉を焼き終わり、その肉を渡していく。

 

「美味しいね!」

 

「確かにそうね。美味しいわね」

 

そんな親子の会話に心をさらに和ませながら、追加の肉を焼いていくのだった。

 

 

 

 

「美味しかったね。お母さん」

 

満面の笑みでそう言うリリーの口の周りは肉の脂がかなり付いていた。

 

「はいはい。口の周りを拭くからジッとしていてね」

 

そう言うリュウカさんの口周りは綺麗だった。

流石としか言いようがない。俺はというと、リリーちゃん程では無いが、少し付いてしまっている。

 

「どうせなら余っている肉を渡したいが、生物だから無理だな」

 

「いえ、こうして食べ物を恵んで下さっていただけただけで十分ですから、お気持ちだけ受け取っておきます」

 

そして、俺たちは立ち上がり、

 

「それでは、お元気で」

 

「ええ。貴方もお元気で」

 

「うん。じゃあね。マグナ!」

 

最後に元気よくリリーちゃんが俺を呼び捨てにしたが、全く気にならない。それどころか微笑ましい。

 

「こら!マグナさんでしょう。すみません。娘が失礼しました」

 

「いえいえ。子供は元気が一番ですから。大丈夫ですよ。元気でなリリーちゃん」

 

「うん!」

 

そう言って、俺たちは別れた。その時にはもう日が夕焼け色に染まっていたので、アレストに着くのは夜になってからだと思った。




面白ければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。