弱ければ相手から何もかも奪えばいい。 作:旋盤
寒風がマグナとリーフの間にすぎる。3人に渡す方法?俺が知りたいよ。いや、戻って渡せばいいんだけどさ。
何というか、こう、カッコ悪いじゃん。だから、どうにかしようと考える。
考えられた中で名案だったのが、空間魔法を使っての移動だ。それならば、一瞬で目的地まで着けるので時間の短縮に繋がる。
それを言い出そうとした瞬間、
「ならば、私が渡しに行こう」
そこに現れたのは、シンシアだった。木の上から飛び降りてきたようだが、気配は全く無かった。
突然の事に一瞬だけ放心状態になっていたが、すぐに気を取り直して、頼む事にする。
「そうか。ならばありがたい。頼まれてくれるか?」
そう言って、残った三つのネックレスを手渡そうとする。
「ああ。頼まれた」
そう言って彼女はネックレスを受け取り、エリアの方へ飛んで行った。
「一体いつから見ていたのでしょうか?」
「……さあ」
いつから見られていたのか分からないが、少し助かったのは事実だ。
「シンシアが来なかったらどの様に渡す予定でしたか?」
「それは、空間魔法を使って移動すれば直ぐに渡すことができただろう」
考えついた事を素直に述べたが、果たして吉と出るか凶と出るか。
「そうでしたか。となると、最初は渡す予定は無かったという事ですね」
当たっている。最初は渡す予定は無かった。思いつきで行動してしまったのだ。
これについては何も言えない。
「確かにそうだな。だが、不便になる事は無いと思うが?」
「そうですね。これで不便になる事はないのでこの事は必要なものですね」
なんというか、彼女が何を考えているのかは分からないが、エリアにとっても俺にとっても不利益な事ではないはずだ。多分。
「では、私は周囲の状況の確認の為ここで失礼します」
どうやら彼女はもう行くようだ。
「そうか。頼んだぞ。何かあったら連絡してくれ、直ぐにとはいかずとも早くには行くつもりだ」
「その時はよろしくお願い致します」
そう言って彼女は別の道を歩み始めた。
その方角に何があるのかは俺も彼女も分からないだろう。だが、それが楽しいのだ。少なくとも俺は。
「さて、行くか」
そう独り言を呟いて俺も歩き出した。
あの時から全く変わりはしない森だが、こんな森を歩くなんて前の世界にいた時は全く考えていなかった。そして、こんなに強くなるとも。
だが、本来この世界にいなければならなかったのだ。俺は。正しい未来では俺はどんな生活を送っていたのだろう?
普通の生活か?例えば農民とか商人とかか?しかし、そんな生活は楽しくなさそうなので、直ぐに飛び出しそうだ。今の俺は。別の俺は違うのだろうか?それとも同じかな?
それとも貴族か?ダメだ。メンドくさそうな塊だから無理だな。俺に向きそうなものじゃない。俺基準でだが。
それとも冒険者か?これが一番しっくりくるな。今もなっているからかもしれないが。この方が楽しそうだ。
それと、どのような性格になっていたのだろう?
性格はその人物の人生の一部を反映しているに等しい。なので、生活環境によって性格は変わるだろう。
今の俺に知るすべは無い。
だが、それがいいんだ。変に知っても俺がどうこうできるものでは無い。
「俺の生い立ちが複雑すぎる」
そう独り言を呟いた。
と、ここで先程から攻撃を仕掛けようとした瞬間に射抜かれている魔物を見やる。
確かブラッドベアーと呼ばれていた魔物が攻撃をしようとした刹那、後方から飛来した何かにより頭部に穴が開いた。
「こう、面倒じゃ無いのはいいんだけど、少しは戦わせて欲しいものだな。それと、他人がいる時は少し自重して欲しいな」
そして、またブラッドベアーが目に入る。目に入っただけで向こうは気づいていない。
次の瞬間、ブラッドベアーがこちらを振り向いた。
あ、気付かれた。
そして、遅すぎる動きでこちらに突進してくる。また射抜かれれるのかと考えた瞬間、射抜かれない予想が起きた。
その予想に従い、刀で頭を切り落とす。
「まさか、この距離で聞こえていたのか?」
そう言って、後ろを振り向き注意深く観察するが、その影も形もない。
俺が生み出して起きながら、末恐ろしい。まさか、俺が生み出した奴ら全員こんな感じなのか?
それならば心強い味方が四人もいる事になるので、俺としては嬉しい限りだ。
俺はさらに歩き出す。
俺の仕事は冒険者のものと、〈エリアボス〉の時はあいつらに的確な指示送る事だろう。
この二つが両立しなくなった時は俺はどうするのだろう?冒険者として生きるのか、〈エリアボス〉として生きるのか。
今の俺に答えは出せそうに無いが、少し考えておく必要があるだろう。
今の所、〈エリアボス〉として生きる方がいいだろう。俺がいなくなったあいつらが何をするか心配だ。
それに、冒険者の仕事は何も俺だけがする仕事では無い。そう考えれば〈エリアボス〉で正解だろう。
正解なんだけどな。ミコト達と離れるのもどうかと考えてしまう自分がいる。
あいつらといると楽しいのだ。〈エリアボス〉の時よりも。だから、その生活も捨てられないだろう。
だが、それでも〈エリアボス〉の方を選ぶだろう。あいつらの忠誠を裏切る事も出来ない。それに、俺の持つ大望を叶えるためにもその方がいいだろう。
ふと、視線を彷徨わせると魔物が4匹ほど群がっている場所を見つけた。そして、その魔物に追い詰められる形になっていた人達も。
その時、俺の選択肢に助けないという選択肢はなかった。助ける一択だった。例え1キロほど離れていようと。
そんな距離は長くない。逆に短いくらいだ。
一瞬で近づき、俺とシンシアしか確認できないほどの速度で接近し、一瞬で屠った。
「大丈夫か?」
と心配した声の先にいたのは、頭から角を生やし他は人間と変わらない〈魔族〉の女性と少女が怯えてへたり込んでいた。
面白ければ幸いです。