弱ければ相手から何もかも奪えばいい。   作:旋盤

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ゆっくり最後まで見ていって下さい。


これから

目を覚ますと昨日と同じ天井が見えた。

しかし、この無骨な天井と部屋に慣れた訳ではない。流石に十数年と過ごした実家の方が数ヶ月経った今でも忘れられない。

というか、あっちにいた方が快適だっただろう。だが、この世界に来た事を後悔することはない。

なぜなら、あの世界で感じていた退屈は感じないからだ。

その退屈は俺が別の世界の住人だった事が原因なのかは知らないが、そう仮定する事もできる。

確証も何もないが、今になってわかった事だ。そして、情報が少な過ぎるためにわからない事も多いが。

そして、俺は起き上がり今できる朝支度をし、外に出る。

そこは開けているが周囲は木に囲まれ、森が広がっている。

一応俺がこのエリアを統括している名ばかりのボスである。

 

「おはようございます。主人様」

 

声のした方に目を向けると、新緑を思わせる髪の色をした女性。な名をリーフという。俺の最初の配下、というか部下だ。というより秘書に近い感じがする。

実力も俺に届かずとも俺が見てきた平均の強さを圧倒的に飛び抜いている中の一人だ。

 

「ああ。おはよう」

 

と返事の挨拶を返す。

そして、俺がここに残ってすべき事を考える。

第一目標である、この森の統制。新しくできた部下の四人により、それは達成された。

第二目標。第二目標?あったけ?統制以外にする事はあったけ?

無いな。強いて言うならば、俺の部下たちに上司らしい事の一つくらいはしたいが、俺がいなくても全然回っているので意味がない。

たとえロウガのような脳筋でも統制はできているのである。

 

「起きていたのか。丁度いい。昨日の約束通り、俺と勝負してもらうぞ!」

 

噂をすれば何とやら、ロウガが来た。

そういえば昨日にそんな事を言っていた気がする。俺は約束は絶対に守るたちなので、刀に手をかける。

 

「ああ。いいぞ。さあ、かかってこい!」

 

俺がそう言った瞬間、ロウガの手にハルバードが握られており、大地を砕くほどの勢いで踏み込み、勢いよく振り下ろす。

 

「ハァァァァ!!」

 

振り下ろされた一撃を難なく避けるが、その一撃は大地を砕き震わせる。

その揺れは体制を崩すには十分過ぎるほどの威力を持っていた。

体制を崩し、満足に動くまでに数秒もかからないが、その隙は致命打となる。

高速で振り上げられたハルバードの切っ先はマグナの頭部にヒットし、決着がつくだろう。

マグナの敗北と。

だがそれは普通の人ならば、と限定されるだろう。

ここまでの展開はロウガと出会った瞬間に予想済みだった。否、予想などしなくともこの程度覆せる。

〈神速〉を使い、神速の腕でハルバードを受け止める。

そのハルバードはロウガが力を入れているにも関わらず、ピクリとも動かない。

次の瞬間、ロウガはハルバードを手放し、格闘戦へと移行する。

これは予想外だった。マグナの顔に驚きが映る。

ロウガはまたも大地を踏み砕き、肉薄する。だが、その瞬間に伸ばされた掌から放たれた衝撃波により、後方へと勢いよく吹き飛ばされる。

予想外の事も起こったが、〈思考加速〉により速くなった思考速度のおかげで、素早く対処する事ができた。

 

「さて、前回は殴り飛ばしただけでボロボロだったが、今回はどうだ?」

 

前方を見据えると、地面には二本の線が入っていた。そして、その先にロウガが立っていた。

その光景は予想はしていたが、驚く事である。

手加減こそしていたが、耐えられるほどでは無いはずだ。

考えられるのは、防御系のスキルを使ったか、もしくは魔法で守ったかのどちらかだが、あの一瞬で発動させたのだ。これは驚くほかない。

 

「なかなかだな。さっきの一撃を防ぐとは凄いな」

 

マグナの言葉に油断なく構え、まだ闘う意思表示をする。

マグナも構え、今度はマグナが踏み込み大地を粉砕する。

一瞬、いや、それすらも遅く思うほどの速さで肉薄し、単純な右ストレートを放つ。

豪風を伴った右拳は、なんの反応もできなかったロウガの腹部に直撃し、吹き飛ばずにロウガはその場に倒れた。

 

「勝負あり。勝者マグナ様」

 

リーフの声がして、俺が勝った事を知らせる。

ロウガはしばらく起きそうにないので、日陰に移動させ、少し介抱してやるとすぐに起きた。

その表情は悔しそうで、また挑んでくるな。と思わせた。

 

「俺も強くなったが、みんなも強くなっているんだな」

 

その独り言にリーフは、

 

「ロウガは昼夜戦闘を行なっておりますので、私達より強いかもしれません」

 

「そうか。いづれ俺と同等になるかもしれないんだな」

 

マグナは薄く笑みを浮かべた。そうなった時に勝てるのか?と疑問を浮かべると同時に楽しそうでもあったのだ。

そして、リーフに俺が考えた事を話す。

 

「俺はここに魔物の統制として残ったが、お前たちのおかげですぐに終わった。ので、そろそろ向こうに戻ろうと思うが、いいか?」

 

その言葉にリーフは

 

「それは主人様が決める事ですので、私からは何も」

 

「そうか」

 

ならば、もう戻っても構わないだろう。

 

「あ。ちょくちょく戻ってくるぞ。何というか心配だからな」

 

何を心配しているのかは、多分、ロウガとブラムだろう。心配の原因は。リーフとシンシアは全く心配はしていない。その点に関しては信頼はできる。

 

「では、私からも外出を致しますので、会う事もあると思いますので、その時はよろしくお願いします」

 

その時、重大な疑問が思い浮かんだ。

 

「お前がいなくても、お前が管理している魔物は大丈夫か?」

 

「心配には及びません。エリアの魔物は基本エリアから出ません」

 

「そうか。ならば安心だ」

 

俺たちは、歩き出した。

リーフは何を考えているのかわからないが、俺は少し、何が起こるか期待している。

期待を胸に、外へと歩き出した。




面白ければ幸いです。

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