弱ければ相手から何もかも奪えばいい。   作:旋盤

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最後までゆっくり見ていって下さい。


無限の世界

非常に重たい瞼を開ける。

目に入るのは今にも俺を殺そうと構える俺によく似た姿の敵だった。

必殺の拳が放たれた刹那、魔法によって障壁を生み出し、それを食い止める。

 

「そのまま寝ていれば楽に死ねたものを」

 

「まだ死ぬわけにはいかないからな」

 

敵が後方に大きく後退する。その瞬間、そいつがいた場所に巨大な氷塊が顕れる。

起き上がり、その間に考える。

 

(接近戦ではこちらが圧倒的に不利。魔法戦も意味がないだろう。だが、〈未来予測〉がある。それをうまく使えれば、勝機はある)

 

敵が少し体を低くする。

来る。

おおよそ、〈神速〉による高速移動。こちらは〈一閃〉を使い迎撃する方が良いだろう。

敵が消えた瞬間、〈一閃〉を発動させる。

 

「!」

 

その時、敵の頰に切り傷が一つ生まれる。

こちらは畳み掛けるように、連撃を放とうとするが一撃目にして敵の腕によって攻撃を止められる。

今更驚きは無い。それどころか、予想していた。

氷の槍を一瞬で生み出し、全て射出する。

尽く障壁に阻まれるが、地面から出た土の槍が敵の足を捉えた。

それは一瞬で破壊されるが、一瞬でも注意がそちらに向けばいい。

〈緋桜〉と〈一閃〉を同時に発動させ、敵の隙を見つけ出し、そこに神速の刃が迫る。

次の瞬間、嫌な予感を感じ、全ての動きを中断して後方に飛んだ。

瞬間、先程までいた場所が敵を中心に豪炎に包まれていた。

そして、その炎が止むと赤く赤熱した大地の中心に敵は立っていた。

 

「先程までとは別人だな。その戦いへの姿勢、中々のものだ。だが、」

 

その瞬間、あたりの大地が震え、空気が変わった。

 

「その程度で私に勝てると思うなよ」

 

素人でもわかるほど濃い殺気が溢れ、俺に逃げろと催促する。

だが、逃げるわけにはいかない。

 

「この程度でもお前に勝つ。まだ、やらねばならぬ事があるからな」

 

俺は油断なく敵を見つめそう言い放つ。

 

「その中心にいる奴もお前を残していずれ死ぬ。私はその悲しみを消し去る事ができるぞ?」

 

「確かに俺より先に死ぬかもな。だが、それが自然の摂理で俺はそれを受け止める」

 

「その悲しみを味合わなくていいと言っている」

 

「それを受け止めると言っている」

 

「………」

 

「………」

 

二人の間に沈黙が流れる。

二人は油断なく敵を怒りの目で睨みつける。

 

「お前を殺す理由が一つできた」

 

敵が言葉を発する。それは皮肉にも、

 

「奇遇だな。俺も同じ事を思った」

 

二人がゆっくりと歩み出す。

 

「「俺はお前が気にくわない」」

 

二人が同時に同じ言葉を発した瞬間、動きがあった。

敵が一瞬で肉薄し蹴りを放つ。それを刀の刀身で受け止め右に逸らす。そのまま刀を横一閃に振る。その瞬間右手を離し、横から迫る蹴りを防ぐ。

刀の一振りはカスリもせずに空を切る。右手で防いでいた足を掴み宙に放り投げる。

投げた瞬間ブラムが使っていた、黒紫色の槍や剣を地面が埋め尽くされる程生み出す。

それを全て射出する。放った時に右手に魔力を集中させる。

地面が埋め尽くされる程の魔法を敵は一瞬で焼き尽くす。その一撃は地面に到達し、俺を焼き尽くす。はずだった。

俺を焼き尽くそうとする黒炎を見ながら、右手に纏った黒い雷槍を敵のいる位置に放つ。

黒炎と黒雷がぶつかり合い、その一撃は拮抗し次の瞬間、激しい爆発を巻き起こす。

爆発が起こった瞬間、黒き風を巻き起こし黒い竜巻を巻き起こす。

敵は宙にいるので避ける術はない。

黒い竜巻が収まり、敵が地面に着地する。

その体は無傷。一つ足りとも傷は付いていなかった。

今度はこちらから踏み込み刀を振る。

その動きに迷いは無く。純粋な殺意と力が篭っていた。

敵はそれを冷静に弾き、その一撃の際に、誰とも知らない記憶が流れ込んできた。

それも、死や裏切りの記憶。

 

「!!」

 

「………」

 

その瞬間に手が止まり、敵の反撃を許してしまう。

敵の流れるような連撃は長年の術技、殺意、力がこれでもかと篭っていた。

だが、どのような不規則な連撃でも回数を重ねるごとに次にどこに来るのか予想できる。

その予想が外れる時もあるが、あらかた間違ってはないので致命傷にならない。

そして、次の一撃でまたもや誰とも知らない記憶が流れ込んできた。

それは負の記憶では無く、優しさや友情、愛情といった記憶だ。

 

「………」

 

「!!」

 

敵の動きが一瞬止まる。その隙に〈緋桜〉と〈一閃〉を同時発動させた。

それは狙い違わず敵の隙になった位置全てに神速の速度で迫った。

そして、それらは敵に致命傷とはならずも敵に当たる。

すると、地面から無数の土の槍が出てくる予感がし、大きく後退する。

その瞬間、地面に無数の亀裂が走った。おおよそ風属性魔法の類だろう。

地面に無事に着地し、体制を立て直す。

 

「お前にも、いい記憶の一つや二つはあるじゃねーか」

 

少しの皮肉を言う。

 

「いい記憶?笑わせる。友情は裏切りとなり、優しさは嘲に変わり、愛情は悲しみに変わる。俺の記憶を見たのならばわかるだろう?」

 

「………」

 

大体わかる。そして、この言葉が敵の何かに触れた事も分かった。

 

「お前も、そんな物味わいたくないだろう?考え直したのならば言うがいい。これが最後の通告だ」

 

確かに。これから先の未来、こいつの人生のようになるのかもしれない。

だけど、それでも受け入れてやる。受け入れて、友人として上司としてその場に俺は立っていよう。

 

「答えは変わらない。それでも受け入れる。覚悟は決まった。これから変えることは無い」

 

「笑わせるな。あの程度の負の記憶で絶望や失望を感じるお前に耐えられる訳が無い」

 

「そうとも限らない。人間は変わる生き物だ。あいつらに裏切られようと、友人や上司としてい続ける」

 

目の前の敵に覚悟をぶつける。

 

「人間はそう変わらんぞ。断言できる」

 

「そうでも無いさ。きっかけやそいつの近くにそいつを支える人がいれば、すぐに変われるさ」

 

「そんな物、そいつを切り捨てるに決まっている」

 

「俺が近くにいるといっている」

 

「…………」

 

「…………」

 

二人の視線が交差する。

次の瞬間、二人が同時に動き出した。

気にくわない。

自分勝手な事を他人に押し付けていかにも自分が正しそうにする。

人間が全てを裏切り、いかにも全ての人間がそうであるかのように話す。

こいつは地上に出てもろくな事をしない。ここで殺した方がいい。

気にくわない。

こいつがいずれ味わう悲しみ、絶望、失望。それを全て消そうというのに、こいつはいう事を聞かない。

人間はそんな物だというのに、可能性に縋っている。いずれ、私と同じ壁にぶつかるというのに。

それに復讐の邪魔になる。ここで殺して構わないだろう。

拳と刃がぶつかり合う。拳と当たったと思えない音を立てながら、戦闘が続く。

お互いに譲れない思いを胸に戦い続ける。

こちらの攻撃は最小限の動きで躱されるが、相手のおおよその攻撃は予想できる。

そのおかげで、ここまで戦えている。

相手の次の動きを予想できるアドバンテージで敵との技術の差を補っている。

それがなければ敗北は必定だっただろう。

 

「いづれお前も裏切られ、絶望する。そんな人生に意味なんてないぞ」

 

またその話か。

 

「人生に意味なんて求めていないし、裏切られても俺はそいつの傍を離れない」

 

互いに刀と拳を交えながら会話する。

 

「その考えが愚かしい。お前も裏切られ、絶望しそいつの傍を離れるに決まっている」

 

「それは無いな。裏切られても構わない。いずれまた分かり合える日が来ると信じている」

 

「お前は馬鹿か。その考えが馬鹿であることに気づいているのか」

 

「ああ俺は馬鹿さ。そして、お前も俺と同じ馬鹿さ。人間を信じたのは俺もお前も同じ事だ」

 

「!!!」

 

どうやら図星らしい。まあ、大体予想はついていたけど。

 

「お前が人間に裏切られた事を憎んでいるのは、お前も人間を信じたからじゃ無いのか?」

 

「……確かにな。だがそんな気持ち既に消え失せた」

 

尚も二人の技に迷いも偽りもない。ただ純粋な武によって勝負している。

互いに一歩も譲らず、退かない。果敢に攻め、守る。

ただそれだけの勝敗を決する勝負。

しかし、このままでは勝敗は決まらないだろう。勝敗が決まるにはもう一つ何かが必要だろう。

刀と拳が鍔迫り合いを始める。

通常ではあり得ないが、ここは異世界。そんな法則強者の前では通用しない。

 

「ここらでもう終わらせようか」

 

「敗北を認めるのか?」

 

「そんなわけあるはずがないだろう?」

 

一旦距離を取り、新たなスキルを発動させる。

すると、一面荒野の世界から、一面真っ白の氷の世界になった。

スキル〈無限の世界〉使用者の心象を具現化する能力。

俺の場合。移り変わり行く感情が現れている。

そして、この世界は俺の世界。地形の優位性はこちらにある。

 

「地形が変わった程度で私に勝てると思うなよ」

 

敵が一瞬で肉薄し、右ストレートが放たれた。

その一撃は、派手な音を立て、氷壁にぶつかった。そして、その氷壁の先には俺がいなかった。

 

「地形程度で勝てるとは思っていねーよ」

 

背後から声をかけると同時に刀を横一閃に振るう。振り向きざまに回避されたので、横腹を少し切っただけだった。

反撃として放たれた一撃はまたも氷壁にあたり、俺の姿が消える。

そして、別方向から斬撃が放たれる。

 

「何をしたお前!?」

 

敵をこの攻撃になれる時が来るはずだ。ならば、その時が来る前に殺す。

 

「お前じゃ俺にはもう勝てない」

 

敵が反撃を叩き込むと同時に氷壁が現れ、その先に俺はもういない。

 

「無駄だ」

 

その言葉と同時に仕掛けた。

大きく一歩を踏み込み、スキル〈奈落落とし〉を発動させる。

防御として使われた腕は刀で切られ、地面に落ちる。

そのまま刀を後ろに引き、突きを放つ。

敵も反撃で全力の右ストレートを放つ。

 

「「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

気合の叫びとともに刀と拳が交差し、刀は敵の心臓を貫き、敵の右ストレートは衝撃波で俺の腹に少し大きい風穴を開けた。

 

「カハっ!!」

 

吐血する。それを治癒魔法で直すと、一瞬でその傷は癒えた。

そして、敵は薄い光に包まれていた。

 

「俺の勝ちだな」

 

「そうだな」

 

ここに勝敗は決した。




面白ければ幸いです。

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