弱ければ相手から何もかも奪えばいい。 作:旋盤
さて、俺のこれからの目標が決まった事だし、こいつの名付けを行うか。
正直、探すのに手間取ると思っていたから彼女から出てきてくれて良かった。
そして、名付けに多少困るのだ。
どうしても、彼女にあう名前が思いつかずにいるので、今でも頭をひねっている。
「どんな名前でも構わんぞ?」
彼女はこう言っているが、名前はしっかりしたものがいいだろう。これからの人生的に。
俺がしっかりした名前を付けれているか不安だが、自分を信じるしかない。
「お前の名前は……そうだなぁ………〈シンシア〉。〈シンシア〉でどうだ?」
「うむ。いい名前だ。これから私の名前は〈シンシア〉だな」
即答か。他の人達は少しは考えたのに即答ですか。もしかして、他の人達は俺が付けた名前を気に入ってないかもしれない。
そんな嫌な予感が脳裏をよぎるが、今は考えないでおこう。
「そうか。気に入ってくれて何よりだ」
これで、全員分の名付けが完了した訳だが、暇になったな。
少し体がだるいが日常でよくあった範囲だ。
よくあったというのは、このステータスになってからというもの、疲れを全く感じないのだ。ので、過去形になってしまう。
体がだるく感じるのは、おおよそ名付けで魔力を大量消費したからだろう。
しかし、ステータス全開放した状態でもだるさを感じる程魔力を消費するとは。何気にすごいな。
「それでは、私はまたどこかに行くとしよう」
その言葉が聞こえたので、何か声をかけようと思ったが、もうすでに人影がいなくなっていた。
「これからどう致しますか?」
後ろに控えていたリーフが聞いてくる。
「やる事も無くなったからな、自己鍛錬でもしようと思う」
さっと思いついた案だが、それも確かに悪くない。
「でしたら、お供します」
俺の自己鍛錬にも付いて来ようとしたので、
「いや、お前は俺に付いてこなくていい。自由の時間くらいは自分でしたい事をすればいい」
「それは命令でしょうか?」
無表情なので何を考えているの読めないが、
「命令では無いが…」
「でしたら、これは私がしたい事なので命令であっても無くても、そうさせていただきます」
それって俺に聞く意味あった?などと思ったが口には出さなかった。
「しかしな、お前を付き合わせると、ロウガに知れると即刻戦闘が始まりそうなんだが」
そう言うと、考え込んでしまった。
どうやらそれなりにわかってくれたようだ。
自己鍛錬か。俺の技術不足の解消とスキルの確認をしておきたいな。
「では、私は主人様の魔力切れが心配なので側に控えていた。という事にしておけば問題ないでしょう」
そうきたか。まさか、俺の自己鍛錬にリーフが参加するとは。
まあ確かに。一人より二人だが、何か俺に付き合わせている感じがして、気がひけると言いますか、なんと言うか。
というか、俺が全力を出したら周囲が心配だが、また魔法で周囲を覆えば問題はないか。
目を閉じて少し考える。付き合わせていいものかと。
「私でしたら大丈夫です。強くなる事が魔物の性ですから」
俺と一緒に強くなるというのか?それならば問題はないが、いいものか。
メリットはあるがデメリットは無い。要は断らない方がいいという事だ。
だが、彼女には自由な時間があった方がいいと思うのだが、さてどうする?
「先のことは私が自分で考えて決めたことですので、それもお踏まえください」
一歩も引きそうに無いな。ここは俺が折れよう。
「……わかった。では、俺の鍛錬に付き合ってくれ」
「了解いたしました」
二人がどこからともなく剣を引き抜く。
一人は腰から刀を引き抜く。もう一人は地面から植物が現れ、それに埋め込まれる形でロングソードがあった。それをもう一人が引き抜く。
互いに距離をとり、剣を構える。
「開始の合図はどう致しますか?」
その言葉に俺は地面に落ちていた石を拾い、
「これを上に投げる。それが地面に落ちたと同時に。というのはどうだ?」
「異論はありません」
腕を少し振り上げる。石が放り出される。
それは狙ってか放物線を描きながら互いの中心に落下して行く。
二人の間に割って入ることのできないような、独特な雰囲気が生まれる。
一歩でも踏み込めば八つ裂きにされるような危険な雰囲気。
その雰囲気は石が地面に落ちると共に崩れた。
バンッ!!!
と音がした瞬間に二人の姿が搔き消える。
次に聞こえてくるのは、無数に重なる金属同士が激しく音を立てる。
常人には捉えられぬ域の高速の戦闘が繰り広げられた。
その均衡は一瞬で砕けた。その一瞬の間にも数百と剣が交わったが、それを感じる奴はいないだろう。
ガンッ!!!!
という金属同士が激しくぶつかった音と共にズザザザザと、靴底が擦り切れんばかりに立ったまま吹き飛ばされる。
「やはり、技術不足だな。ステータスではこちらが圧倒的に有利なのに、攻めきれんとは」
その言葉に無表情で、
「お戯れを。主人様が当たる直前に速度と力を緩めなければ、私の命は三度失われた事でしょう」
それを聞いて、確かにそんな時もあった気がすると思い至る。
「もし、お前が今まで加減していたなら、ここらが加減のやめ時だ。次からはスキルを使わせてもらう」
「今までも全力だったのですが、全力を超えろ、という事ですね」
そういう意味で言ったわけでは無いのだが、別にいいか。
「行くぞ!」
その言葉に無言で頷かれる。
その瞬間、一瞬で間合いを詰めて同時に二つの斬撃が二つの方向から放たれる。
その斬撃は、ほぼ同時でも全く同時でもなく、正真正銘同時なのだ。
スキル名〈燕返し〉効果は放った斬撃の対角線上にもう一つの斬撃を繰り出すスキルだ。
それを剣で受けることはまずできないので、後ろに後退するしかないだろう。
その読み通り、リーフは後退した。
それに追撃をかけて、新たなスキルを発動させる。
スキル名〈緋桜〉効果は、相手の隙を見えている範囲で探り出し、そこに高速の斬撃を放つ技だ。
この攻撃を放つ際、刀を逆さにして峰の部分で切りかかった。
「!!」
そして、その攻撃はリーフに全て直撃した。
そして、気を失った。俺がしでかした事なので、彼女の看病は俺がしなければならない。
だが、
「……私は、気を失ったのですね」
以外に早く気がついた。
「そうだ。もうやめておくか?」
「そんな事はしませんとも、主人様と戦える事は私にとって幸福でありますので」
強者と戦える事を幸福と捉えているという事か。ならば、終わりではなく、出来る限り鍛錬に付き合ってもらおう。
「それに、次に主人様と戦えるのがいつになるのかわかりませんし」
「確かにな。ならば、今からとことん鍛錬に付き合ってもらうぞ」
「望むところです」
そして、俺たちの鍛錬が夜になるまで続けられた。
辺りはすっかり真っ暗になり、周囲は暗闇の世界だが、〈夜視〉があるので明るく見える。
「ハァ……ハァ……ここらで終わるか?」
「…………そうですね。ここらで終わりましょうか」
二人とも満身創痍だった。
そして、二人とも魔王城へと戻るのであった。
余談だが、帰る途中でブラムに会う事はなかった。それにひどく安心するのだった。
面白ければ幸いです。