弱ければ相手から何もかも奪えばいい。   作:旋盤

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ゆっくり見ていってください。


魔王の実力

右に迫る斬撃を刀で受け流し、前方より来たるハルバードの一撃を後方に飛んでかわし、そこで待ち構えていたレイピアの刺突を半身を捻りかわして、反撃を試みるも遠くより飛来する矢により、それは止められてしまう。

 

「チッ!」

 

何度目かの舌打ちをして、視界を遮るように氷の壁を創りだす。

さらに、氷の剣を周囲に放つ。

周囲を囲んでいるので、躱すには限りだあるので全員が迎撃している。勢いよく踏み込み、追撃をかける。

狙うは、ハルバードを持った男。

放った一撃、金属同士がぶつかるだけで空気は震え、大地が爆ぜる。

さらに、右、左と常人にも戦いに慣れた者でさえ捉えられない速度で戦闘が進んでいく。

ハルバードが反撃に切り上げるがその瞬間に後ろに回り込み、首を狙い横一線に刀を振るう。

だが、黒紫色の剣が刀に当たり、追撃するように黒紫色の槍が俺に向かって降り注ぐ。

それを後方に飛んで躱すが、カクンと曲がり、追尾して来る。

それに驚きつつも、それを切り裂く。

その瞬間に、銃弾のような速度で剣を持った女性が突撃してきた。

その流れるような剣さばきを迎撃しながら、反撃を加えるも、受け流されるのが殆どだ。

地面から木や植物などが異常な速度で生えて来るが、それを出てきた瞬間に凍らせる。

氷の剣を創り出し背後から攻撃を仕掛けるも、それらは全て木や植物によって防がれる。

左上からの一撃を半歩引いて回避し、右下から反撃の一撃を加えるが、それは黒紫色の槍に弾かれる。

それだけで止まらず俺に向かって飛んで来るので、すんでのところで左手で掴み、破壊する。

前方に急いで目を向けると、剣は今にも爆発しそうな光に包まれていた。それが勢いよく横一線に放たれた。

剣で受けようにも間に合いそうにない。間に合うのは右腕の方だろう。右腕で受け止める覚悟を決める。

 

ドガンッ!!!!!

 

聞いたことのない爆発音と共に、浴びたことの無い高熱の熱風、衝撃。

それらを全身に浴び、高速で吹き飛ばされる。

 

ドンッ!!!

 

「ガッ!!」

 

自らで生み出した氷の壁に打ち付けられ、派手な音を立てながら、氷の壁が俺の上に落ちてくる。

全身がかなり痛い。右腕の肘から下が無くなっているのがわかる。

なんていうか、皮膚じゃなくて、中の肉で冷たさを感じるのは初めての経験だ。

血が結構流れているんだろうな。

全身が痛いせいで右腕が吹き飛ばされても、こんなものでしょ。とか思っている自分がいる。

あいつら結構強いな。俺の右腕を切りとばすって、中々のものだぞ。

それじゃあ、多少の敬意を払って、少し本気を出そう。

ゴウッと辺りが火の海に変わる。

それと同時に右腕と服が元通りに戻る。

 

「俺の右腕を吹き飛ばすとは見事だ。俺も少しは本気を出すとしよう」

 

そう言った瞬間に短剣を指の間に挟んで六本取り出す。

それを、俺の右腕を切り飛ばした相手に向かって全て投擲する。

それらは全て狙い違わずに飛んでいく。だが、魔法によって生み出された木に全て防がれるが、地面を勢いよく踏み込み、音速を超えるような速度で急接近する。

相手を守っている木に手を当てて、〈掌破〉を発動させる。

目の前の木に大きな穴が開き、相手は勢いよく吹き飛ばされた。

 

「ハァァァァッッッ!!」

 

燃え盛るハルバードを大地を砕くような勢いで振り下ろされる。

それを素手で掴んだ瞬間、極大の爆発が起こった。高熱の爆風と衝撃が起こるが、今度は吹き飛ばされるどころか、微動だにせず傷は無い。

地面は数十メートル程沈んでいるが、俺に異常はない。

掴んだハルバードを引き寄せ、装備者を思いっきり殴り飛ばす。

その勢いは凄まじく、地面に当たるも止まらず、大地を削りながら吹き飛ばされた。

残るは、レイピアだけか。

その瞬間、矢が後方から飛来するも、体を傾けるだけで回避する。

弓を含めれば、二体一か。

レイピアを持った相手に一瞬で近づき、気絶させるように殴ろうとするが、それは回避される。

殴ろうとした右手に高速で突きが放たれるが、体を一瞬で屈み、足を引っ掛けて転ばす。

拳を放とうとするが、背後全体に黒紫色の槍が出現し、一斉に放たれた。

それらを障壁で全て防ぎ、拳を放つ。しかし、障壁に阻まれ決める事は出来なかった。

さらに、目の前でレイピアが幾つにも分かれて視界を埋め尽くす。

上空へ飛び、間一髪で回避すると、右斜め下から音速の域を軽く超えている程に速い矢が飛んでくる。

上空なのでうまく身動きがとれないので、右足で蹴り飛ばして迎撃する。

今度は左下から矢が飛来する。それに多少驚きつつも、障壁を張り防御する。

何かの気配を感じ、真下を向く。

そこには、黒紫色の大地が広がっていた。

いや、少し違うな。黒紫色の槍が地上を埋め尽くし、その矛先は俺に向いていた。

そして、レイピアの先をこちらに向けると同時に一斉に大地が動き出す。

体を大地に傾け、右腕を引き絞る。そして、魔法を宿らせる。

右腕は灼熱の黒炎を纏い、今か今かと放たれる時を待つ。

 

「ハァァァァッッッ!!!」

 

近ずく黒紫色の大地を捉え、引き絞られた腕が黒紫色の大地に放たれた。

灼熱の黒炎が弾け、黒紫色の大地を黒く染め上げる。黒紫色の大地は消え去り、黒の大地が広がる。

地面に降り立ち、周囲を見渡し、レイピアを持っている者に近づく。

近づくが、動く気配が無い。俺を誘い出しているのか?

上空から何かが降ってきている事に気付く。急いで障壁を上空に張ると、紅い矢が数十本障壁に刺さる。

刺さった瞬間、爆発を起こし視界が爆風によって巻き起こった砂煙に遮られる。

それを腕を振り、ある程度視界が回復する。

その瞬間、一つの光が瞬いた。そう思った瞬間、腕を顔の目の前で交差させる。

それが功をそうしたのか、腕に何かが当たり、当たった瞬間に凄まじい衝撃が巻き起こり、周囲の大地を粉砕する。

しかし、それを受けても尚無傷。平然とそこに俺は立っている。

だが、それをレイピアを持っていた奴は無傷とはいかずに、吹き飛ばされ、倒れていた。

急いで駆け寄り、抱きおこす。

 

「フフフ。もう私はダメですね。ああ神よ。始めに抜ける脆弱な私をお許しください」

 

その言葉に少しため息を吐いて、

 

「脆弱な奴に、俺が魔法やスキルを使う事は無いぞ。俺を馬鹿にしているのか?」

 

その言葉に慌てた様子で、

 

「そんな事ありません!神はお強く凛々しくあります!」

 

その言葉に苦笑して、

 

「だったら、自分の強さを知り、俺との実力差を痛感しろ。一応、一人倒したって事でいいんだな」

 

その言葉に不敵に笑い、

 

「はい。それであっています」

 

その言葉を聞いて、治癒を施す。

所々に火傷を負い、痛々しい事この上なかった。それに着ていた服も焼き焦げていたので、それも直す。

 

「フフフ。お優しいですね」

 

「こんなの当たり前だ」

 

そうぶっきら棒に返し、俺は他の場所に向かった。

にしても、吹き飛ばした二人も健在なんだろう。さらに、弓もいる。

状況は攻勢に傾いているが、いいともいえない。

その時、音速を超える速度の矢が飛来してきた。

それを素手で掴み、破壊する。そして、大地を踏み込み距離を詰める。

その速度は音速の域であるはずなのに、一度だけ矢が七本放たれた。それも、完璧に当たるコースで、だ。

それを障壁で防ぐも、二本だけ間に合わずに俺に当たる。しかし、刺さることは無く、俺が失速する事も無かった。

そして、とうとう今まで矢を放っていた奴を視界に捉える。

そいつの目の前まで接近し、拳を引き絞る。

その瞬間、もはや同タイミングで、弓が限界まで引き絞られた。

ゼロ距離射撃。そう気付いたが、もはや止められない。

先に放たれたのが、弓の一撃だった。

限界まで引き絞られた弓は、その弓が出せる最高の威力となっていた。さらに、それをゼロ距離で放つ事で威力が落ちることは無い。

それは寸分違わず心臓の位置へ放たれた、絶殺の一撃。

しかし、くらう相手は化け物だった。当たっても刺さること無く、弾かれた。

そして、化け物の一撃が鳩尾に直撃し、弓使いは気絶した。

 

「気絶したか。これで二人目か」

 

死んでないといいな。と思いながら、治癒を施すと

 

「あれ……私は」

 

「気付いたか?」

 

そして、俺を見るなり察したようで、

 

「ははは。そうか、私は負けたのだな」

 

清々しそうに笑い、現状を受け入れた。

 

「私で二人目か。存外早く終わってしまったな」

 

「俺相手にこんだけやれれば十分だろ」

 

「本気を出していなかったのにか?」

 

その言葉を聞いて、黙ってしまう。

 

「それでは、私はあの城へ戻らせてもらおう。警備も兼ねてな」

 

「ああ。頼んだぞ」

 

そう言うと、彼女は森の中へ消えていった。

あと二人か、手がかりが無いんじゃ、探しようが無いな。

とりあえず、吹き飛ばした跡を追ってみる事にした。

そして、存外直ぐに出会えた。

ハルバードを両手に力強く握っているが、全身ボロボロで、吹き飛ばされたままだと直ぐに気付いた。

 

「ハァァァァァァァァッッッ!!!」

 

裂帛の気合いと共に駆け出した男は、ハルバードを横に振るだけで、風を巻き起こし、敵を圧倒する。

勢いを増して振り下ろされたハルバードは、大地を砕き、周囲に大小様々な石を弾丸の如く、撒き散らす。

その威力に圧倒され、歴戦の強者でも、怯えるほどだが、目の前の化け物は怯えもしなければ、慌てもしない。

冷静にそれを避け、弾丸の如き石をその身に浴びても、傷一つない。

大地に突き立つハルバードを踏み、地面にさらに減り込ませ、右ストレートを放つ。

 

「グゥぅ………アァァァ!!」

 

しかし、気絶せずハルバードを強引に引き抜き、先程よりも強力な一撃が放たれた。

だが、それを素手で掴み、今度は先程よりも強力な拳を放つ。

そして、それを受け、今度は気絶した。

中々にタフな相手だった。

治癒を施すと、また直ぐに気付いた。

 

「ああ。俺は負けたのか」

 

潔く負けを認め、

 

「俺は城に戻り、自己鍛錬をしてきてもいいか?」

 

「ああ。構わないぞ」

 

それを聞くと一目散に城へと戻った。

速いな。彼は即決、即断、即行動が当てはまりそうだ。

 

「それでは、私も降参しますね」

 

後ろからかけられた声に振り向くと、〈ニンフ〉の女性が立っていた。

 

「戦う前から、降参するのか?」

 

「四人がかりでやっとだったのに、一人で、しかも、先程よりも強力になった主人様にどう勝つんですか?」

 

それに、少し考えて、無理だな。と結論づける。

 

「しかし、お前に片腕切り飛ばされた時は焦ったぞ」

 

それを聞くと、彼女の周りに大きな木の枝が、伸びて、

 

「これの事ですよね」

 

そう言って、中から現れたのは、誰かの右腕だった。右腕は黒い刀を握っていた事から、俺のだとわかった。

それに引きつった顔を浮かべて、

 

「それは、どうして持っているんだ?」

 

「記念にと」

 

なんの記念!?

怖いんだけど、何か良からぬ黒魔術とか使わないよね!?

 

「へー。そうか」

 

そうやって返すのが精一杯だった。




面白ければ幸いです。

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