弱ければ相手から何もかも奪えばいい。 作:旋盤
その場は、先も見通せぬ荒野だった。
かろうじて、目の前に誰かがいる事がわかる。
そして、そいつは多分、
「また会ったな」
そう挨拶をすると、
「当たり前だ。私が呼んだのだからな」
そう、目の前の奴は答える。
俺は以前こいつの存在がわからない。俺であって俺では無い存在。そんな事を言っていた。
全く意味がわからなかったが。
「なぜ呼んだ?」
「何、ちょっとした事を聞きたくてね」
「聞きたい事?」
俺は首を傾げる。
こいつが何故いるのかわからない現状で、こいつが聞きたい事がわからないからだ。
「単刀直入に言うが。私は復讐するためにお前の体を乗っ取る」
「何?」
俺は少し怒気を含んだ声を出した。
「ので、最終的にお前をここに呼んで、私がお前を倒せば完遂する」
こいつの目的は、俺の体を乗っ取り、自分の復讐を果たす。そういう事か。
「そして、ここに呼んだのはお前に聞きたい事があったからだ」
「なんだ」
こいつが今聞きたい事がなんなのか予想がつかん。
「率直に言って、この世界をお前は守りたいか?」
「は?」
俺は素頓狂な声を出した。
何を言っているんだこいつは。
「質問が悪かったか?」
「いや、いきなり言われたから頭の回転が間に合わなかっただけだ」
この世界を守りたいか。か。そんなものは決まっている。
「守りたいとは思わない」
「だったら……」
「だが、お前の復讐は止めさせてもらう」
「何?」
今度は向こうが疑問に思った。
「俺は、世界ではなく友達を守る為にお前の復讐を止めさせてもらう」
そう言って、俺は奴が言ってきた事を拒否した。
世界では無い。俺には、友達を守れる事が出来ればそれでいい。
「…では、お前とはいずれ戦う事になるだろう。手加減はせんぞ」
「望むところだ」
そして、目の前が真っ暗になった。
目を覚ますと、黒い天井が見えた。それ以外は見えない。
辺りに目を回すと、先日創った部屋であった。
部屋の中には、〈道具生成〉で様々な毛皮を使って創ったベッドしかない。というか、他に置く物を思いつかない。
変な夢だが、確かに奴と戦う予感がある。
だが、今日はあの三人と戦う予定だ。
三人とも強さは強大だろうから、俺の特訓になるだろう。
負ける気はさらさら無い。
支度を早々に済ませ、外に出る。
迷宮は特定の人であればスキップする事が出来る。
尚、この仕組みを教えてくれたのは〈ニンフ〉の彼女である。あの娘が魔王の方がいいんじゃない?
(俺がする事は、せいぜいあいつらの上司として恥じないようにする事か)
上司らしくもないか。と呟き外に出るのだった。
外に出ると、もう全員集まっていた。
各々別の武器を持っている。
〈ニンフ〉の彼女は、両刃のロングソードを持っていた。
浅黒い肌に長い白髪の男は、自身の身長を越す、片刃のハルバードを握っていた。
短い白髪の女は、レイピアを装備していた。
銀にも似た白髪の女性は、弓を携えていた。
「じゃ、始めるか?」
それに全員が頷き、俺は、森の方を向き、〈獄界魔力魔法〉によって、周囲の空間を別のものに変える。
これで、暴れても大丈夫のはずだ。多分。
魔法自体は数度使っているのでわかるが、見た目に変化が無いのでイマイチわかりづらい。
「これで多分派手に戦っても大丈夫だろう」
俺は刀を抜く。ステータスは10万辺りに設定している。
「俺は三十秒くらい待った方がいいか?それとも、もう始めるか?」
「三十秒待っていただけますか?」
それを聞いて俺は目を瞑った。
すると目の前にいたあいつらが何処かに行った気がする。
三十秒が経ち、俺は目を開く。
辺りに気配は全く無い。だが、どこからか見られている気がする。
(いつも以上に気を張らないとやられるかもな。)
なんて事を思いながら、一歩目を歩き出すと。
ヒュンッ!
何かが風を切る音と共に何かが飛んできた。
それを寸でのところで避ける。
ドンッ!!
地面に着弾した瞬間、地面を大きく刳る。
それを見た瞬間、高揚感が体を駆け巡った。
それは弓がだしたとは思えない威力を出していた。
矢が飛んできた方角を見やり、疾走を開始する。その時に数本飛んできたが、どれも回避する。
すると、横合いから何かが飛び出して地面を叩き割った。それを急停止で止まった事で回避する。
その直後、飛んできた矢を迎撃しようと刀を振るった。だが、刀は確実に矢に当たった。当たったが刀をすり抜けて俺の肩に突き刺さった。
信じられないとばかりに肩に刺さった矢を見つめる。それは半透明だった。
普通の矢ではない事が見ただけでわかった。
それに気をとられていた瞬間、ハルバードが横から迫り来た。それを刀で受け止めて吹き飛ばされる。
木をいくつもなぎ倒し停止する。
未だに肩に刺さった矢を握り〈スペルブレイク〉を使った。すると矢はパリンとガラスが割れるような音と共に砕けた。
やはり魔法か魔力でできたものだったか。
「ウォォォ!」
正面から迫り来るハルバードを素手で受け止める。
「何!?」
それは微動だにせず、全く動かない。
そして、俺は握っていた奴を蹴り飛ばす。そいつは、木をいくつもなぎ倒し、見えなくなった。
これくらいやっても、こいつらならば大丈夫だろう。
飛んできた矢を今度は〈スペルブレイク〉を使い打ち落す。
この場合、何が一番面倒か。遠距離からの狙撃だろう。
疾走を再開する。矢が幾度も飛んでくるが、その尽くを打ち落す。
だが、近くになるにつれ迎撃がギリギリになっていった。
だとすれば、俺は迎撃を諦め、スピードを上げた。そして、一直線ではなく、的にならないように動く。
それを追うように矢が飛んでくる。
それらに当たる事なく突き進む。
それに少しばかり違和感を感じる。何処かに誘われているような感じがする。
この狙撃手は動いていても平気で当てそうな狙撃手だ。
だとすると、おおよそ三人がこの先に待ち構えていると思う。
そんな思考を巡らしていると、
目の前に植物がありえない感じで動いていた。
そんな中でも狙撃は続いていた。周囲の植物は動いているのに狙えるって、中々に化け物だな。
そして、植物が鋭利な枝先をこちらに向けて一斉に襲いかかった。
刀を斬りはらい、その先にあった植物が異常な爆発に巻き込まれた。あの業火の中ではいくら魔法でも消え去るだろう。
だが、その業火を抜けて鋭利な枝が俺に向かって勢いよく襲いかかってくる。
(獄属性か!?)
驚きに目を見開くが、〈獄属性魔力魔法〉を急いで使い、周囲を守るように障壁を作り出した。
その障壁に阻まれ、植物の攻撃は俺まで届かなかったが、獄属性を使えるのか。あいつら。
そうなると、多分あいつら俺を殺せるぞ。獄属性は魔法防御力を無視して攻撃できるだろう。
ならば、俺がステータスを全開にしても、魔法を当てる事が出来れば殺せるだろう。
だとすれば、面白い。
諦めかけていた、俺は死ぬ方法も、戦いを作業にするしかないと思っていた。
「フフフ……クハハハハ!」
笑い声を抑えられない。面白い。俺を殺せる存在がいたとは。
ゴウッ!!
周囲に黒炎が広がり、植物を全て焼き尽くした。
その様子に驚く人が三人。
地面を叩き割る勢いで踏み込み、目の前の〈ニンフ〉の彼女に斬りかかる。
それを寸での所で受け止められるが、勢いで吹き飛ばされる。
「ウオォぉぉぉぉぉ!!」
ハルバードが上から振り下ろされるが、大振りで避けやすい。
それを半身を引くだけで回避し、刀を男に向けて振ろうとするが、
「ハァァ!」
横合いからレイピアの突きが放たれる。
その軌道を逸らし、膝蹴りで吹き飛ばす。
ハルバードを刀で受け止め、ハルバードを弾き飛ばし、その瞬間に刀を振り下ろす。
だが、矢が飛来し俺の右腕に突き刺さる。
後ろに飛び、後退した瞬間に矢がいくつも降り注ぐ。それらを後ろに飛ぶ事で回避する。
移動する時に矢を砕き、治癒する。
その瞬間に真下から剣が切り上げられる。
「セイッ!」
それを上半身を逸らして回避する。その際、太腿あたりを掠めて血が流れる。
魔法だけでなく、物理攻撃でも傷を作れるのか。
口元に笑みを浮かべながら、魔法を発動させる。その瞬間、周囲一帯に黒雷が弾け飛ぶ。
もちろん、殺そうとは思っていない。おおよそ、全員避けた事だろう。
あいつらはここまでやる奴だ、さっきの魔法くらい容易く避けるだろう。
黒紫色の槍が飛んできたが、それを素手で掴んで、破壊した。それが開始の合図となった。
上段から振り下ろされた剣を刀で受けとめ、後ろから放たれたレイピアを掴み、レイピアごと投げ飛ばし、ハルバードを持った男ごと吹き飛ばす。
そして、剣戟の音が鳴り止む事がなかった。
相手の剣を弾いたとしても、矢が飛来しそれを迎撃するが為にチャンスをものに出来ないどころか、不利な状況に追い込まれる。
ハルバードの一撃は振りがでかくとも素早く、重く、強い。一撃で地面が揺れ、抉れる。受け止めても、踏ん張らなければ吹き飛ばされる。
剣を持った〈ニンフ〉の女性は、魔法と剣を合わせた戦法を駆使して、単独で俺を抑え、隙を他から突かれるか、彼女が隙を突いてくる。
レイピアを持った彼女は、〈ニンフ〉の彼女と同じく、魔法と剣技を組み合わせた戦法だ。黒紫色の槍やら斧やら剣やらがどこからともなく飛んで来る。その隙を攻め立てる。
弓を持った未だに姿が見えない女性は、俺が攻勢に転じようとすると腕を狙ってきたり、他の奴らが攻めている時は、足や、振り上げた腕、心臓や頭部などの急所を的確に狙撃される。
一番厄介なのが狙撃して来るやつで、あとがそれぞれ厄介だ。
これってもしかして大ピンチなのだろうか?
もしかしなくてもピンチなのだろう。
予想以上に強かった。だが、負けるのが俺は好きじゃない。それに、カッコつけたんだ。ここで勝たないと恥ずかしい。
俺の手の内は、刀に短剣。魔法各種。それくらいか。使ったことの無い魔法もあるんだ、それを試すか?
いや、放つタイミングを間違えれば、不利になって負けるかもしれない。であれば、魔法は氷属性を主に使っていこう。
「フンッ!!」
振り下ろされた一撃で、地面が切り裂かれる。すかさずに斬り払い、周囲の相手に牽制をかける。
そして、周囲一帯の足元を凍らせる。それは、後方に飛ぶと同時に回避される。
そして、踏み込もうとした瞬間に、足を狙った矢が飛んで来る。それを迎撃したので、攻勢に出られなかった。
だが、それで俺は止められない。
全身に高揚感が湧き上がる。口元に笑みが浮かぶのが止められない。止めようとしても、すぐに浮かんでしまう。
「さぁ!かかってこい!俺を倒してみろ!!!」
面白ければ幸いです。