弱ければ相手から何もかも奪えばいい。 作:旋盤
自分しか知りそうに無いことを自問自答する。答えは無い。ならば、面白い展開になる様に転げ回るだけだ。
最後までゆっくり見ていって下さい。
俺達は森の中を疾走していた。
理由は単純で早く街に戻るためである。
一番遅いミコトに合わせながら駆ける。
「お前等早すぎるだろ。本物の化け物か?」
「失礼だね。マグナに比べたら一般人だよ」
「俺と比べられたいなら、もっと強くなる事だ」
そんな会話をするくらいに平気だった。
道中でこの森の魔物と会敵したが、難なく倒した。
「いや、本当に化け物だよ!魔法が目に見えなかったんだけど!」
「今更何を言っているんだい。私にも何が起こったかわからないよ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
もう俺が化け物と言われても、普通よりちょっと強い人、という感覚で受けいれられるようになった。
体内時間的には三時か四時辺りの時間だ。軽く見積もっても、夜までに戻れそうに無いな。
〈空間魔力魔法〉を試すか?いや、危険が多そうだからやめておこう。
森を出るのは意外に早く、途中休憩を挟んでも一時間半で抜ける事ができた。
なんにせよ、ここから街に出るまでどんなに急いで、最低でも半日はかかる。
これは、約束が守れそうに無いな。
男として情けない結果になるが、仕方ない。戻った時に謝っておこう。
そんな事を決めた時、
「ここまででいいよ。ここから先の護衛はいらない」
シルヴィアがそう言った。
確かにと思う反面、依頼である以上、仕事である以上途中で放り出して良いものか悩む。
「君の仕事は終わりだよ。さぁ、さっさと彼女の元に行ってこのもりを安全にしておくれ」
その言葉で決心した。
今俺がすべき事を。
「ああ。わかった」
と言って、踵を返す。
「ちゃんと戻ってこいよー!」
後ろから聞こえるその声に手を上げるだけで反応する。
それから、全力で走り出した。
三十秒もかからずに〈ドライアド〉がいる場所に辿り着く。
圧倒的速度だ。
レベルが上がった彼奴らの何倍の速度だ?
「お帰りなさいませ、主人様」
「ああ。少し早くなった。それで、統制する方法はどうするんだ?」
俺の帰って来る場所は、この森なのか?
その疑問があったが、俺の居場所は無いようなものだから、どこでも良い気がする。
「その事ですが、この森の魔物は貴方の力を認めています」
「それなのに、俺に挑んで来るのか…」
俺の力を認めて、集団で襲いかかるのか。
それが無駄に終わっているなら、他の方法を考えようぜ。
「いえ。前にお話しした通り、遊びたがっていただけで、戦意は無かったかと」
「そういえば、そうだった」
この性格の奴らが多いのか、この森の魔物は。
しかし、そんな性格の奴らをどうやって統制するんだ?
俺の短い人生経験上そんな奴らの統制は難しい。
「そんな奴らの統制は難しいんじゃないのか?」
その質問にいつものような感じで、
「いえ、魔物の社会は完全実力主義ですので、実力が認められていれば、簡単に済みます」
魔物に社会ってあったの!?
てっきり無法かと思ってた。
てっきり自由社会かと思ってた。
「なので、あとは覚悟と器、さらなる実力を示せばよいだけでございます」
「また実力を示すのか?」
「誰よりも強いという証明を知らしめれば良いという事です」
何度も殺しているけど、それでも足りないとは、実力主義なのは本当のようだ。というか、やり過ぎな気がする。
その前に、覚悟と器か。
なんの事だ?
「覚悟と器とは、一体どうすれば良いんだ?」
「覚悟は王となる覚悟の事です。器とは、魔物を受け容れる器の事です」
「王となる覚悟とはなんだ?」
何?俺を魔王にでもしようとしているのか?
「王とは、魔物の頂点に立つ者を指します。これは〈エリアボス〉とは別の扱いのものになります」
「それになるにはどうすれば良い?」
「条件は〈エリアボス〉である事が条件ですので、条件は満たしております。あとは、実力を示して下さい」
「また実力!!」
実力で解決させすぎだろ!
実力主義だと簡単で良いが、これは行き過ぎている気がする。いや、行き過ぎだな。
「器は、実力を示している最中に勝手に計られます。その器がこの森の魔物を受け容れる事が出来れば成功です」
今度は内面的な問題か。
この森全ての魔物を受け容れる器か。できるかわからんが、やってみるしか無いな。
すると、〈ドライアド〉が、
「そんなに難しく考える事はありません。器といっても、半分は器量ですが、もう半分は実力ですから、もう達成しているも同然です」
「…………」
もはや絶句するしか無い。
器量も実力が関係するってどういう事だよ……。
魔物の社会って実力主義とは聞いていたけど、どうなってんの?
内面的な問題も実力で解消できるって、現実的に考えるならば、ありえない。そして、意味がわからない。
ハァ。考えないようにしよう。前の世界の常識が通用する世界では無い。
「それで、大体理解したが、後は何をすれば良い?」
「実力を示していただければ。この辺りにこの森の魔物では太刀打ちできない強力な攻撃を放って、魔力で魔物に自分が上位種だと訴えかければ、完了です」
「攻撃まではわかったが、魔力で魔物に訴えかけるのは、魔力を辺りに撒き散らせばいいのか?」
「はい。それで大丈夫だと思われます」
「わかった。んじゃ、早速始めるか。できるだけ遠くに離れていてくれ。死にたくなければ」
「ハッ。了解いたしました」
そう言うと、この森から急速に離れていく。
その間に、俺はどんな技を放つか思考を巡らせていた。
どうせやるならば派手に強力に周囲を消し飛ばそう。
となると、生半可な技ではなく、絶対的な技を放つか。
そんな事を考えながら、思考を巡らせていくのであった。
五分が経過したと思われる頃、ある程度のイメージを終えて、技を放とうとしていた。
危惧があるとすれば、環境問題だろうな。
まぁ、今は目の前の事を済ませよう。それが、一番いい選択だと思うから。
「フッ!!」
短く、しかし勢いよく息を吐き出した瞬間、周囲何十メートルの範囲が凍りついた。
左手を空に掲げ、
「大地を切り裂き空を灼け」
イメージを忘れないように、予め決めておいた言葉を言う。
その瞬間、燃え盛る灼熱を纏った竜巻が幾つも現れた。
それが通った後には、焼かれ、切り裂かれた残骸が幾つもできた。
「大地は裂け、天は裁きを下す」
今度は、大地が急に裂け、空からは、赤き雷が幾重にも降り注いだ。
安全な逃げ場など無かった。
「我が手に宿りしは、万物を無へと帰す黒き
すると、右手に黒くあり、白く光る魔法が宿った。
それを、前方に放つ。
ピカッ!と、白く光った後に残ったのは、俺が放った魔法だけだった。
奥の方は残っているが、周囲は炎の竜巻が荒れ狂い、今もなお、大地は裂け、隆起し、赤き雷が大地を砕く。
まさに、この世に現れた地獄そのものだった。
そろそろかな。
魔力を周囲に放ち、魔物に訴えかける。
「俺が最強だ」
と訴えた結果、
『魔物の王となりました』
久しぶりに聞く、無機質な声だった。
『スキル〈魔物統制〉を習得しました。スキル〈魔王覇気〉を習得しました。スキル〈魔物創造〉を習得しました』
……なっちゃったか。とうとう魔王になってしまったか。王って魔王の事だったのか。
魔物の王。略して魔王。こんな感じか?
なんにしたって、俺がこの森の王になったのは確認できたし、成功だな。
新しいスキルの確認をしなければならないな。
〈魔物統制〉
配下の魔物を従わせ、まとめる事が可能となる。効果の上限は使用者の風格、器量、実力により変動する。
〈魔王覇気〉
敵を震え上がらせ、味方の指揮を高揚させる事ができる。効果の上限は使用者の風格、器量、実力により変動する。
〈魔物創造〉
魔物を創り出す事ができる。
中々に強力なスキルだな。
王にのみ許されたスキルって感じがする。
使用者の内部を参照するスキルの類か。俺の場合、九割九分九厘実力が占めているんだろうな。
恐怖政治よりみんなで意見を出し合いながら、より良い未来を選んでいきたかったな。
いや、実力しかなくとも、恐怖政治以外の道もあるはずだ。
というか、今も周囲で暴威を振るい続ける魔法を止めなければ。
だが、普通の消し方じゃ今は面白くない。ここは、手っ取り早く、自分の力を見ておきたい。
ここは、刀と魔法を使って消し飛ばそう。
理由はなんとなく格好良さそうだからだ。
イメージは、アニメで見た事ある様なシーンを脚色させてもらうか、再現させてもらおう。
刀を構える。
それに魔法を纏わせるイメージをする。
その刀は、禍々しい黒色をしていた。黒い魔力を纏った事で、黒色であり禍々しい雰囲気を出していた。
「光を裂き、闇を切り裂け」
〈一閃〉を発動させ、〈村正・獄式〉自体の能力を発動させ距離を無視した魔法斬撃を放つ。
ヒュン……
風をきる音が聞こえた。
それは一つの様に聞こえるが、斬撃は幾重にも放たれていた。
その斬撃は、一瞬で十発。その全ては、空間を切り裂き、魔法を一瞬で消し飛ばした。
その光景は、地獄絵図を一瞬で切り、英雄とも、化け物とも見える。
数分後、項垂れている人が、森の残骸の上に立っていた。
「やり過ぎた………」
魔物を統制させる為とはいえ、森の三分の一を更地に変えてしまった。
やり過ぎた。環境破壊を広範囲にわたってやってしまった。
俺がやった事を冷静になって考えたら、巻き添いを食らって死んだ魔物もいるだろう。
しかし、やってしまった物は仕方がない。これは、魔法でどうにかなるだろう。
「お見事です。これだけの事をすれば、〈魔王〉えの覚醒もなされた事でしょう」
〈ドライアド〉の女性が側にやってきた。
「王とは聞いていたが、〈魔王〉とは聞いていないぞ…」
疑問をぶつけてみた。
こいつは、王とは〈魔王〉の事だと知っていたはずだ。
こいつは、知っておきながら黙っていた可能性がある。
俺はその理由が知りたい。
「すみません。それを知れば、断る可能性があったので……」
申し訳なく話しているが、俺はまだ聞きたい事がある。
「何が目的だ」
それだけの訳が無さそうだった。
俺は犠牲を強いる事があっても、それが正しいと思えば俺は断る事は無い。
こいつは何か裏があると踏んでいる。スキル〈看破〉を発動させる。
「なんの事でしょうか?」
嘘だ。
スキルでわかる。
「嘘だな。何が目的だ」
新しく手に入れた〈魔王覇気〉を使い、問いかける。
「ッ!!さすがです。………世界征服と私が言えばどういたしますか?」
嘘だな。世界征服の部分はこいつは考えていない。
「嘘だろうが、その時はお前を殺す。……それで、何が目的だ」
静かに、冷徹な声で問いかける。
「……精神生命体は歳をとりません。長年生きていますと様々な〈魔王〉を見る事があります」
言いづらそうにしていたが、意を決した様だ。
「先ほど述べた世界征服、人間との共生、復讐、世界壊滅など、様々な目論見がありました」
やりそうだな。人間でも、魔物でも。
「ですが、どれにも知性と理性が足りませんでした。〈魔王〉になる時に魔物になってしまうからです」
えっ。魔物になってしまうの。
「ですので、魔物にならなければそのまま配下に、魔物になれば私を殺してもらおうと思いました」
嘘は言っていない様だ。
という事は、本当に魔物になる可能性はあったし、死のうともしていた様だ。
「今まで隠し立てして申し訳ありません。償いとあれば、煮るなり焼くなり、殺すなり、体を弄ぶなり、好きにしてください」
俺にそんな事ができるとでも?できるわけが無い。
据え膳食わぬは男の恥と言うが、この様な美人な人は俺みたいな奴より、いい奴がいるだろう。だから、できない。
ヘタレと言いたければ、言うがいい。
俺はその行為が正しく無いと思ったからしないだけだ。
「そんな事はしない。それで?これからどうする」
なんとなく予想はつくが、俺の予想を上回るかも知れない。
「わかっていますよね。私がこれからどうするか」
そう言うと、俺の前まで来て跪いた。
「我が忠誠を御身に」
どうやら、予想は当たっていたらしい。
こんな美人の部下ができるのは嬉しい限りだ。
それと同時に彼女の自由を奪ってしまいそうなので、そこの所の話をした方が良さそうだ。
「部下となった訳だが、基本は自由にして構わない」
すると、
「では、この場所に城を作りませんか?」
「え?」
城ですか。作る必要性を感じ無い。
「作る必要性としては、まずは、力を見せつける為です。二つ目は、やはり生活できる場所があれば便利かと。三つ目は、この更地を有効活用できると思われますので」
順に指を三本立てて言われた。
確かに、一つ目を除けば、考える余地はあるかもな。
この〈ドライアド〉の衣食住を整備しなければならないな。
そう考えると、家か城を建てる必要がありそうだ。
「城を周りから隠す事は可能か?」
「はい。可能です」
即答か。
やはりこの世界で長生きした人は違うな。
「では、城を作るか。んで、何年かかりそうか?」
「一日で完成できます」
なんなのこの世界は?城が一日でできるとか、訳が分からん。
詳しく聞くと、
「魔法を駆使すれば、すぐにできます」
との事です。この世界の家の価格を聞いておきたいところだな。
辺りはすっかり暗くなり、何時もならば、魔物が襲って来ていたであろうが、今日襲われる事は無かった。
強敵を出すまで、まだ時間がかかりそうな気がする。
それまで、強敵と呼べそうな奴は出て来ません。(絶対いつか出します。)
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