弱ければ相手から何もかも奪えばいい。   作:旋盤

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久しぶりに五千文字を超えた。やっぱり、戦闘シーンを書いているとテンションが上がって、長々と書いてしまうね。面白く無い上に、奇妙な文章になっているかもしれないけど。
ゆっくり見ていって下さい。


自身の戦闘力の高さ

ドンッ!!!

 

空気が揺れ、大気が爆ぜる。

理由は単純であり、だからこそ有り得ない事であった。

人のただ単純な右ストレートによって起こった衝撃波のみで、大気が爆ぜ、地面はえぐれていた。

しかも、〈スキル〉も〈魔法〉も使わずに、だ。

そんなバケモノに挑んでいるのは、小柄な少女と呼べる、ギルドマスターだった。

つい先ほどのカウンターを含めると二度目の必殺とも呼べる一撃を躱し、次の動作に移行しようとするも、追撃の膝蹴りを見て、全力での防御を行う。

ただ単純な魔力により作られた〈魔力障壁〉に自分の持っている、大半の魔力を注ぎ込む。

しかし、そんな事を嘲笑うかのように一瞬で〈魔力障壁〉を打ち砕き、威力が減衰したとは思えない程の激痛を味わう。

吹き飛ばされ、地面に何度もバウンドしてようやく止まった時には、距離がかなり開いていた。

致命傷は避けたが直ぐには起き上がれず、咳き込み、その拍子に吐血する。

魔力を使って傷を治そうとするも、傷が酷いせいで治りが遅い。

そして、それを追撃する素ぶりすら見せず、悠然とその場に佇む男の姿があった。

その姿はまさに

 

「死神」

 

まさにこの言葉が似合う姿であった。

死神に挑めば命が無くなるのは必定。

だが、挑まなければならない。

己が定めた誓いを守るために。

ここで、目を閉じればどれだけ楽か。

ここで、負けを認めればどれだけ楽か。

だが、ここで妥協すれば強敵が現れた時に挑めず、守れないかもしれない。

それは、自分が傷を負うよりも痛く。惨めに思い、後悔しか残らないだろう。ならば、彼女は挑む。

今の自分より強く。目の前の「死神」より強く。未だ見ぬ敵より強く。

そして、少女は立ち上がる。今より強くなるために。数少ない勝ちを拾うため。

圧倒的強者に挑み、誰より強くなるために。

少女は、いや、ギルドマスターは諦めずに立ち上がり、自分に打ち勝ち続ける。

 

 

 

目の前の少女にしか見えないギルドマスターを見ながら、

 

(まだ、楽になろうとしない、か。当然か。誰かを守る決意をした者がこの程度で、諦めてはならない。)

 

圧倒的な戦闘力差を見せつけても、まだ立ち上がるギルドマスターを見ながら健闘を讃えるのだった。

だとしたら、俺ができる事は絶望的な戦闘力差を見せ続ける事だろう。

殺してしまわないように注意しなければ。

それより、先程の見えない壁のような物は何なのだろう。

障壁みたいな物だろうか。防御魔法ならば、容易に突破はできなかっただろう。

無駄な事を考えている間にギルドマスターの治癒も終わったようだ。少し強めに蹴りすぎたようだ。

先程までのような攻撃はないだろう。二度も打ち破られた技など戦術的価値など皆無なのだから。

だとしたら、どうくるか?

ステータスの面で奴が勝っている要素などは、無い。

勝敗を左右するのは、奴が今までどんな敵と戦ってきたか。どんな戦術を使ってきたか。

技術と実戦の累積の差による勝敗しかない。だが、ステータスの差は絶望的。生半可な戦術などは意味をなさない。

それは奴もわかっているだろう。

これからどうやって巻き返すか、それが肝心だろう。

敵が動く。

だが、直線でこちらには来ず、右に大きく旋回しながら、いや、周りを回っているように感じる。

機動戦のような感じもするが、おかしい。

攻撃するには、近づくのが条件。だが、近付いている感じはしない。俺の知り得ない戦術か。

正面から受けて立つが、時間がかかり過ぎるならば、こちらから仕掛けるぞ。

 

「!?」

 

このタイミングで仕掛けるか。

準備は整ったのだろう。

先程までより少し早い程度で、俺の速度を超えられるとでも思ったのか?

舐めているのか?

そんな事はないと思うが、愚策である事に変わりは無い。

 

(一撃で沈めてやる。)

 

拳を握るだけで、他の動作は無い。

これだけで十分なのだ。これが、差というものだ。

ノーモーションで放たれた拳はギルドマスターにあたる直前で、右に躱された。

その拳をなぎ払うように右に振る。だが、敵は予想していたようで、躱される。

次に右足で敵を蹴る。これは、後ろに飛ばれ躱される。

その瞬間、敵は不敵に笑うのを見た。

足元に巨大な魔法陣が現れた。

 

「〈ユグドラシル・バインド〉!!」

 

敵が、技名を言うと同時に魔法陣から、巨大な樹が出てきて、それは城壁の高さを超え、俺を拘束した。

そういう事か。先程までの時間は、魔法陣を作るまでの時間。走りながら、作れるとは恐れ入る。

だが、こんな物は一瞬で抜け出せるのだが一撃くらいは受けてやろう。

すると、敵は一際高く飛び、魔力を収束し始めた。

それは、多種多様な色をしていた。共通しているのは全ての色が、黒を入れたように少し黒くなっていた。

それが、段々黒さを増していき、禍々しい黒一色になった。

巨大な黒一色の球体ができ、それが形を段々変化させ、ドラゴンと思える形になり、

 

「〈カオス・ドラゴン・クライシス〉!!!!」

 

禍々しい黒い龍が〈ユグドラシル・バインド〉によって動けない体に向かって放たれた。

防ぐ気もなければ、避ける気もない。というか、出来無い。

次の瞬間、焼かれているでも無い、切られているでも無い。奇妙な感覚に陥った。

ただ、直感で言うならば、俺の体を破壊しようとしているのはだと思う。

さらに、〈ユグドラシル・バインド〉の第二の効果が発動した。

 

ドォォォン!!!!!

 

拘束していた大樹がいきなり爆発した。

 

 

 

一瞬にして砂煙が大量に舞い上がる。

これが、ギルドマスターの奥の手にして、必殺の切り札。

一つ目は、〈術式魔法〉という第三の魔法。

もはや使う者が世界で数人しかいない希少な、〈術式魔法使い〉。

使われなくなった理由は、時間がかかるのと、対象が魔法陣内にいる事なので、使う者は極少数だ。

二つ目は、これも希少な〈龍属性魔法〉である。

〈龍属性魔法〉は千年に一人、持っているかの確率であった。

今回は、その二つを使い、殺しにいった。

二つは、最大級の威力を込めて作った。渾身の必殺の一撃だった。

〈カオス・ドラゴン・クライシス〉は単純な威力はさる事ながら、追加効果で、対象の防御力を持続的に下げる効果があった。

さらに、〈ユグドラシル・バインド〉の拘束した者に極大の爆発を与える効果を使い、本気で殺しにいった。

ギルドマスターである彼女が持てる、最大の必殺技であった。

しかし、魔力の消費が激しく、立つのが困難になり、膝をつく。

絶対の威力である必殺技は、どんな防御力を誇っていようと下げてしまうので、関係なかった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

荒く息を吐きながら、息を整える。

そして、砂煙と爆炎が失せていく。

そして、そこに絶望があった。

砂煙と爆炎の中にありながらも、ギルドマスターの必殺技を受けながらも、平然としている「死神」が立っていた。

 

「なん………で………」

 

それもそのはず、彼女が必殺と思っていたのは、彼女の常識の内に収まる人だけで、常識の範疇を超えている「死神」には必殺たりえなかった。

いや、必殺ですら無かった。「死神」にとっては、少し強い攻撃程度にしか感じなかった。

 

「素晴らしい攻撃だった。」

 

彼女の必殺の攻撃を受けてなお、しっかりとした声を発し、痛みも疲労もうかがえなかった。

 

「こちらの余裕の隙を突いて、魔法陣を作る時間を作り、しかも、これ程の威力の魔法を使わずに、確実に当てられる時まで温存し、さらに、並の相手であれば必殺たり得る一撃を同時に放つ事で、確実に屠る。中々の戦術だ。」

 

冷静に先程の一撃を分析されてさえいる。

 

「だが、その程度の一撃で屠れると思うなよ。」

 

彼女にとっての必殺技を「この程度」呼ばわり。

仕方がない事だった。なぜなら、元からそれ程の戦闘力差があったのだから。元より、勝機など皆無だったのだから。

 

 

 

中々の戦術だった。

砂煙と爆炎の中にいながら、そう思う。

こちらの行動を読み、戦術を立てていたのだから。

確かに、俺の行動は読みやすかったかもしれないが、確実にそうなるとは言い切れない。

だが、彼女はそれを実行したのだ。

しかも、全て読み当てて。

実戦で培ったのか、はたまた勘か。

どちらにしろ、敵の予想は全て当たったという事だ。

それは、賞賛に値する。

敗因はこちらを過小評価してしまった事だろう。

 

「さて…」

 

これで終わりにするか。と言おうとした瞬間に、

 

「〈ライトニング・セイバー〉ッ!!」

 

勢いよく、横から雷を纏った剣を振り下ろしてきた。

それを、片手で掴み、周りを確認する。

新手が四人いた。しかも、冒険者ギルドの人達っぽい。

俺はギルドマスターに目で、

 

『どうする。』

 

と訴える。

結果は目を逸らされた。しかも、新手の四人にはみえない様に笑いながら。

戦え。という事か?

掴んでいた剣を持ち主ごと振り上げて、

 

「うぉ!?」

 

投げ飛ばした。

 

「うわァァァ」

 

軽く投げたので、木に一回当たった程度で済んでいた。

全く。殺さない手加減も大変なのに。

 

「〈フレア・バースト〉」

 

今度は、自分を中心に直径五メートルくらいが爆発した。

爆発が終わった後に

 

「でりゃァァァァ!!」

「はァァァァァァ!!」

 

一人は若くショートソードを持っていた。一人は少し年をとっていそうで斧を持った男達だった。

左右から挟み撃ちにする形だった。

初歩的な戦術だ。チームを組んでいたら、一度は使う戦術だ。

確かに、同じ様な戦力ならば、有効だったかもしれない。しかし、差が開いている相手には通用しない。

まずは、剣を掴み、その次に斧を掴んだ。その二つはピクリとも動かず、力が入っているとは思えなかった。

いや、実際二人は全力を出していた。抜こうにも、押し切ろうにも、相手の力が強すぎて、全く動かなかった。

 

「クッ、グゥゥ!」

「う、おぉぉぉぉぉ!」

 

さらに、力を込めるも、全く動かなかった。

 

「ハァ……」

 

ため息を吐いた後に、二人を後ろで待機している二人に投げつけた。

 

「チームを組んでいて、なおかつ、後方支援ができるものがいるのならば、前衛は敵の注意を引きつけながら、距離を取れ。そうすれば、魔法も幾分か撃ちやすくなるだろう。」

 

思った事をそのまま口に出したが、どう出る。

五人は目線を交わすと、一斉に動き出した。

ギルドマスターは何かを飲んでいる。その隣には、新手の一人が〈治癒魔法〉を使っている。

残る三人は、剣と斧が一定の距離を保って、一列になっていた。魔法使いは、左側に移動していた。

最初は、剣の一撃でそれを危なげもなく躱す。斧の一撃は、躱す位置は限られていたため、躱しづらかった。そこに、

 

「〈フレア・バースト〉!!」

 

範囲爆発魔法を使ってきた。

ここは、一点に集中して放てる技を使い、剣や斧の一撃を当たりやすくするところだろう。

 

すると、頭上から、

 

「〈ライトニング・セイバー〉!!」

 

なるほど、頭上からか。

という事は、これは囮だ。かといって、無視する事も出来ない。〈索敵〉によって、斧使いの位置はわかっている。

剣の一撃を余裕で躱すと、追撃はせず、そのまま、後ろに退がった。

そして、背後から、

 

「〈スラッシュ・インパクト〉!!」

 

後ろから来る事も、こいつが攻撃する事も予想済みだった。

〈スキル〉を素手で掴み防御する。

 

(おおよそ、こいつも囮だ。本命は、)

 

そう思った所で、足元にいつか見た、魔法陣が出現した。

斧使いを放り出し、また、〈ユグドラシル・バインド〉の拘束をくらう。

こんなもの、すぐにでも抜け出せるが、奴らの全力を見たかった。

もしかしたら、俺に擦り傷程度は付けられるかもしれない。

そうなれば、俺は化け物では無くなるはずだから。

今度は、新手一人が魔力を収束させていた。ギルドマスターは先程、治癒を行なっていた者から、魔力を分けて貰いながら、収束していた。先程のも、そうだったが、何かを呟きながら。

残った、前衛二人は、

 

「〈サンダー・ブレイク・ソード〉ッ!!!!」

 

今までより、強力な雷を纏った剣を横薙ぎに振り払う。

 

「〈グランド・ブレイク〉ッ!!!!」

 

何かのオーラを纏った斧が振り下ろされた。

勿論のこと、何も痛みを感じない。こいつらでは、俺に擦り傷でも、付けるのは無理か。

 

「〈サザンクロス・プロミネンス〉ッ!!!」

 

次は、十字に灼熱の炎がはしった。だが、痛くも無ければ、熱くもない。

そして、前見た時よりも、巨大な黒龍を生み出した、ギルドマスターがいた。

 

「〈カオス・ドラゴン・クライシス〉ッ!!!!!」

 

その一撃も直撃する。

そして、最後は、巨大な大樹が爆発したのだった。

砂煙で前が見えない。爆炎で当たりが点々と煌々と照らしていた。

 

「無駄だったな。」

 

その一言を言う。

結果を伝えただけだ。

しかし、それだけで敵の目には絶望が映る。

恐怖、絶望、焦燥それらが手に取るようにわかった。

 

「これからは、反撃させてもらうぞ。」

 

足を半歩引く。

正直、これ以上は付き合いきれない。

 

「死にたい奴からかかって来い。」

 

その一言から、四人の目に戦闘の色が見えた。もう一人は、こちらを見ながら、

 

「もう終わりだよ。」

 

それを、全員に聞こえる音量で言った。

 

「「「「へ?」」」」

 

新手の四人が一斉にギルドマスターを見ながら、驚いている。

 

「そうか。」

 

と俺は言い、ステータスを元の値に戻した。

 

「へ?どう言うことですか?マスター。」

 

そう言ったのは、剣を持った男だった。

その質問に、笑いながら、

 

「ハハハ。いや、これって実は、私が彼の実力を測るためにしていた事だから。いやぁ、驚いたね。君たちの介入は。」

 

そう言って、また笑い始めた。

 

「それならそうと、早く言って下さいよ。」

 

男は疲れた感じで、言った。他の三人も同じような感じだ。

俺はそれに近づきながら、

 

「それで、俺のランクはどうなりそうだ。」

 

「ああ。ハイハイ。ランクね。」

 

俺としてはCランクになれれば良いのだが、

 

「SSランクでいいと思うよ。」

 

ですよね。

なんとなく予想付いてましたよ。

いきなり、SSランクか。面倒な奴らが湧きそうだ。

 

「俺としては、Cランクから始めてもいいのだが。」

 

それを聞くと、なぜか、嬉々とした顔をして、

 

「本当に!?ありがとう!正直、いきなりSSランクにしたら、他のギルドマスターとか、色々な事で面倒だったから、ありがたいよ。」

 

あー。確かに面倒くさそうだ。

 

「ああ。別に構わない。」

 

「よし。じゃあ、君は今日からCランク冒険者からスタートだね。」

 

「ああ。わかった。」

 

そう言った直後、

 

「おーい、マグナ!なんか、すごい爆発と炎が上がっていたが、大丈夫か?」

 

今までの戦闘音を聞いて、ミコトがきた。

 

「彼女とはどういう関係で?」

 

嘘をつく理由が無いので、

 

「あいつが前に受けていた依頼の途中で出会って、一緒に冒険者をやろうと誘われた。」

 

正直に答えた。

 

「そうか。なら、君みたいな化け物を冒険者にしようとするなんて、何を考えているか、少しお話でもしようか。」

 

そう言って、ギルドマスターが歩き出す。それに付いていくように、四人と俺は歩き出す。

ミコトとギルドマスターの距離が近くなると、

 

「なんで、マスターそんな邪悪な笑みを浮かべているんですか。」

 

「いやぁ、君と少しお話しようと思って。」

 

「なんで、話をしようとするだけで、そんな邪悪な笑みを浮かべるんですか!!」

 

そう言って、ミコトは逃げ出した。

 

「逃すか!」

 

そう言って、マスターも駆け出した。

その光景を見て、四人と俺は笑い出した。




今更だけど、感想書いて下さった方、毎回読んで下さっている読者の皆様、本当にありがとうございます。
後書きがつまらない?いつもの事だ。だから、大丈夫だ。問題ない。
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