東方紅月録   作:黒薔薇ノ夢@吸血鬼好き

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後編です。
いやこれ、分ける必要あるんです。

まとめると字数がね、気持ち悪いじゃないですか。


誰でも救いを求めているならば 後編

  ~瑠璃視点~

 

 静かな夜。庭の真ん中には月光が降り注ぐ。

 ここは紅魔館の庭。世話がきちんとされているようで、どの花もきれいに咲きほこっている。

 

「璃々は、大丈夫かなぁ」

 

 ここにきて一週間。毎日のように自分の日記とやらを読み漁り、一日のうち半分は大図書館に引きこもっている。

 あの運動好きの璃々らしくないな。

 

 独り言。だったはずだった。

 

「リリエラお嬢様ならきっと。大丈夫ですよ、ルリアお嬢様」

 

 斜め後ろには、あの赤髪の人…妖怪の美鈴さんがじょうろを持って立っていた。

 

「あ、美鈴さん。こんばんは」

 

「やめてください、美鈴でいいです」

 

 でも、この(暁瑠璃)本来の私(ルリア・スカーレット)を知らない。

 だから、この妖怪さんと過ごしたであろう時間も、私には。

 

「どうしたんですか、そんな暗い顔して。」

 

 じょうろを花壇の隅に置いて、美鈴さんは私の隣に座る。

 

「美鈴さ、美鈴も知ってるとは思いますが、私は、今の私は…」

 

「知っています。記憶が、ないんですよね。」

 

「すいません、だから」

 

 だから、私はルリアじゃない。そう言おうとした。

 

「それじゃあ、私の知ってるルリアお嬢様について、話しましょうか」

 

「お願いします」

 

 また少しネガティブな考えになっちゃったな、と思いながら話を聞く。

 

「この花壇、最初はこの目の前のレンガのところだけだったんですよ、

 最初の花壇を作ったのはルリアお嬢様です。お嬢様に教わって私が増やしていくうちに気付いたらこんなに大きくなってて。」

 

「へぇ、それで?」

 

「ついこの間まで、なぜかわからないけどここだけは続けなきゃ、って思ってたんです」

 

「うん」

 

「お嬢様たちが戻ってきて、分かったんです。レミリアお嬢様の話を聞いて、気付いたんです」

 

「何を?」

 

「この花壇は、この花畑は、ルリアお嬢様に見せたくて続けてたんだ、って」

 

 言葉が出なかった。この人は一人で、何百年も。

 ただルリアだけを待って。

 

 でも。

 

「私は、ルリアじゃありません。だから、いつか、ルリアが戻ってきたら、ルリアに見せてあげてください」

 

「いいえ、こうしてあなたが見てるじゃないですか」

 

「え?」

 

「ルリアお嬢様じゃなくても、あなたが。それでいいんです」

 

「なんで、ですか?」

 

「ちょっと恥ずかしいですけど、見てほしかったから。咲夜さんが来て、私が門番になった頃から、私はいつもただ一人でこうしてきました。その前からずっとこうだったのかもしれない。でも、本当は誰かに見ていてもらいたかった」

 

 美鈴さんは笑っていた。

 うれしそうに、私がこの光景を見ていることを喜ぶように。

 

「だから、今、あなたが見てくれて、嬉しいんです」

 

 何故か少し、私もうれしくなった。

 

「ねぇ、美鈴。今の私は花の名前とか、育て方とか、全然知らないの」

 

「ええ。」

 

「だから、教えてくれる?」

 

 美鈴さんはちょっと驚いたような表情になって、それから、今まで見た中で一番の笑顔になった。

 

「はい、もちろんです!」

 

 美鈴さんは嬉しそうに私の手を取り、ひいた。

 

 次の日の朝、目が覚めてから思った。

 …そういえば、結局ルリアってどんな子だったんだろう。

 

 

 

 

 

  ~パチュリー視点~

 

 ある晴れた日の朝。私は目を覚ました。

 …本の山の中で。

 

「ふぁぁあっ、むきゅっ!」

 

 伸びをした勢いで支えになっていた本を動かしてしまい、上から本が落ちてきた。

 数百ページの重みがいつものナイトキャップを被ってない頭へ直撃。

 これだからこあがいるのに。あの子いっつもどこかに行っちゃうんだから。

 

「おっ、ここから声がしたぞー」

 

「あら、まさかこの中に?」

 

 魔理沙とアリスの声がする。そういえばこの前の実験の続きをする約束だったっけ。

 

 でも今日はリリエラ…璃々と日記のほかに残されていたメモをいっしょに整理しようと言ったような…。

 

 ぎぃぃぃっ

 

 重い大図書館のドアが開かれる。

 

「おはようパチェ、起きてる?」

 

 璃々の声がする。(この前「まだ私は完全なリリエラじゃないから璃々って呼んで!」って言われてからそう呼んでいる)

 

「誰だっ!」「誰っ!?」

 

「え、どなたですか?」

 

 そりゃそうなるか。とりあえずここから脱出しないと…

 

「おはよう璃々。魔理沙とアリスも。ここから出たいんだけど、手伝ってくれる?」

 

「分かったぜ」

 

 上の方から順番に本がどかされていく。

 

 ある程度取り除かれて、私は外に出ることができた。

 

「改めて、おはようパチュリー」

 

「おはようだぜ、なんであんな山の中にいたんだ?」

 

「えっと、調べものしてたら寝ちゃったみたいで…」

 

「もう、パチェって昔からドジよね」

 

「それを璃々に言われるとどうしようもないわね」

 

 魔理沙が指をパチンと鳴らす。

 

「そうだぜ!パチュリー!誰だよこの子!」

 

「そうよ、私もそれが気になる」

 

 魔理沙もアリスも初めて会うからしょうがないけど、まぁそういう反応になるよね。

 

「この子は、えっと」

 

「私は暁璃々、パチェの研究仲間みたいな感じです。ついこの間ここに来たばかりなの」

 

 璃々が先に言ってくれた。この間来たばかりも嘘じゃないからよし。

 

「そうか、えっと、璃々、よろしくな!」

 

 魔理沙はいつも通りに明るいままだったが。

 

「え、人間よね、あなた。魔力があまり感じられないんだけど。」

 

 アリスは鬼のようだった。怖い。

 

「えっと、いろいろあって魔力とか封じられちゃってて、魔法とかは使えないかな、って感じで」

 

「あら、そうだったの、ごめんなさい」

 

 なんか解決したようだ。

 

「あの、あなたたちは?」

 

 璃々も知らないんだった、忘れてた。

 

「私は霧雨魔理沙、この通り、普通の魔法使いだぜ。そんでこっちはアリス・マーガトロイド。自称都会の人形使い。」

 

「自称じゃないわ」

 

「自称だぜ」

 

「魔理沙?」

 

「…自称じゃないぜ」

 

 今目の前で魔理沙が脅されてるように見えたんだけど。ほんとアリス怖い。

 

「私は紅茶でも準備するから、適当に座っておいて」

 

「え、パチェ、手伝おうか?」

 

「ううん、大丈夫だから、ね?」

 

「もう。ありがとう」

 

 私が紅茶を淹れて戻ってくると、どうやら話がはずんでいるようだ。

 

「へぇ、璃々は風系統が得意なのね、意外だわ」

 

「今はほとんど何もできないですけど。まぁ封印解けたらお見せします」

 

「璃々、敬語じゃなくていいぜ」

 

「でもお二人とも私より年上だし…」

 

「幻想郷で年なんて気にしてたら負けだぜ」

 

「そうよ、レミィだって見た目6,7歳なのに五百歳超えてるじゃない」

 

 私も会話に加わる。

 

「それは、まぁ、そうですね」

 

 璃々は少し困ったような表情になった後、私に助けを求めるような目で見てくる。

 いやそう思わせたの私なんだけど。

 

「はい、紅茶よ」

 

「ありがとうパチェ」

 

「ありがとうだぜ」

 

「いつもありがとうパチュリー」

 

「んで、何だっけ?」

 

 魔理沙は意外と忘れっぽいのを忘れていた。

 

「璃々の敬語を直す件」

 

 アリスは簡潔にまとめすぎてて分かりづらい。

 

「あぁ、そうだったな」

 

「え、じゃあ普通に敬語なしで…?」

 

「そうだな、そういうことだ」

 

「ちょっとやってみてよ璃々」

 

「えっと、よろしく…?」

 

「うん、まだ固いが一応合格だな」

 

 アリスがうんうん、とうなずく。

 

「それじゃあ、四人で実験しませ、しようよ」

 

 璃々はどうやら約束のことを聞いたらしい。

 

「それはいいな!でも、璃々できるのか?」

 

「調合とか魔法陣描くくらいなら魔力なしでもできま、できるよ」

 

 璃々が敬語交じりになってきた。やっぱりだめだったみたい。

 

「なんかすっごく喋りずらそうなんだけど」

 

 アリスの鋭いツッコミ。

 

「うん、喋りずらいけどしょうがないかなって」

 

 あ、戻った。

 

「それじゃ、実験の準備してくるから、三人は片付けお願いね」

 

 飲み終えたティーカップを置き立ち上がる。

 

「うん」「分かったぜ」「よろしく」

 

 異口同音に返事が返ってくる。

 どうやら今日は楽しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

  ~レミリア視点~

 

 妹たちが帰ってきて一週間がたった。

 毎日が、楽しかった。

 

 一人じゃない食卓。

 寂しさなんてもう感じない。

 

 でも、このところ咲夜の様子がおかしい。

 ちょっとイライラしているようにも見える。

 

 ちょっと、頑張らせすぎたかしら。

 今までは私とフランだけでよかったのに、倍の人数になったのだから当然か。

 

「今夜は別に、月は紅くないのよね」

 

「お嬢様、どうかされました?」

 

 咲夜が物陰からすっと現れる。

 

「いいえ、でも、あなたの紅茶が飲みたいわ。毒入り以外でね」

 

「はい、かしこまりました」

 

 すっと消えていった咲夜は、やっぱりどこか寂しそうだ。

 ここまでよくわからない咲夜も久しぶりだ、と気づいて少し微笑み、月を見上げる。

 

 咲夜、どうか、わかってね

 これが、あなたが幸せになる第一歩だということ。

 

 今だけでも、同年代の少女同士でお友達になって。

 貴方の自由はもともと保証されているのに。

 

「お嬢様、お持ちいたしました。こちら、ダージリンティーでございます」

 

「ありがとう、咲夜。ところで、あの二人はどこに?」

 

「リリエラ様はまだパチュリー様たちと研究してらっしゃいます。魔理沙とアリスも。ルリア様は、庭の真ん中のところでしょう。」

 

「そう。あなたはどこか行きたいところはある?」

 

「え、私ですか?」

 

 とても驚いた顔をする。休みくらい貰ってくれないと困るのだけど。

 めーりんも咲夜ほどではないけどメイド業はできるから、そっちに任せればいいし。

 

「いいえ、特には。あ、ですが…」

 

「何か欲しいものでもいいわよ」

 

「じゃあ、新しいナイフを御願いしてもいいですか?」

 

「もちろん。25本あれば足りるの?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 急に花が咲くような、そんな笑顔になった咲夜の後ろ姿は数分前とは違う。

 足取りも軽く、廊下の向こうへと歩いていく。

 

「まったく、つらいなら言えばいいのに。頼ってばかりは嫌なのだけど。」

 

 私も立ち上がり、自室に向かう。

 おやすみ、今日。

 

 

 

 

 月明かりはテラスと、庭と、大図書館と。

 全てを平等に、優しく包み込んでいた。

 

 




なるべく明るく優しくしました。
めーりん視点無いですが。

次回も日常編の予定ですね。

勝手に解釈してたりしますがお気になさらず。
いや、二次創作ですし。別にいいか。

誤字、脱字、その他諸々苦情等ありましたらご報告お願いします。

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