機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢 作:Aurelia7000
第二章
いつも通りのジャングルの中の道をワッパで進んでいく。暗いのでサーチライトを点灯しての哨戒だ。この任務で敵に遭遇した事はない。最前線からは離れているから、大抵の場合ここに到着する前に他の区域で発見される。そんな例すらもないのだが。
エトムントはエンジンの出力を上げた。ワッパが少し高く浮遊し、フィンを傾けるとまた沈み、今度は速度が上がる。バックミラーを見ると、ルカもちゃんと付いてきている。高速で熱帯雨林の上空を進み、木々を見渡しながら進む。敵を発見するため、赤外線暗視ゴーグルを装着していた。CG補正された緑色の景色をゴーグル越しに眺めていた。
『エトムント、彼女に気に入られてるようだな』
不意にルカが口を開く。任務中の私語は慎むべきだが、前線の兵士にそんなルールはあまり関係がなかった。
「そんな事ないだろ」
エトムントは警戒を続けながら短く答える。咽頭マイクが喉の振動を直接拾ってくれるので、ワッパのモーター音は邪魔にならない。
『分かるのか?』
エトムントに大した経験がない事を知っての発言だった。エトムントが何かいいかえす前にルカは、俺はわかるぜ、と続ける。
『こう見えてもモテるんだ。養成学校に、シャーリーンっていただろ?』
「ああ」
エトムントは訓練学校時代の事を思い出す。シャーリーンはルカの訓練小隊にいた女で、高身長と高飛車な態度が印象的だった。
『あいつに迫られた』
エトムントは吹き出してしまった。あのシャーリーンとルカが。それは愉快な事に思える。
『笑うなよ。まあ、俺にはチヨがいたから断ったけど―あとはシンイーとか』
知らなかった。ルカのガールフレンド、ルカの学生時代からの恋人であるチヨは知っていたがあの捻くれ者のシンイーまで。エトムントは自分の鈍感さに呆れた。まさか、ずっと近くにいた男に好意を寄せる女の存在にこれっぽっちも気付かなかったとは。
しかし、ルカがモテるというのは分からない話ではない。気も使え、空気も読める。顔も悪くなく、それでいて志の高い軍人志望。それでモテない方が不思議なぐらいだ。
エトムントはここらで雑談をやめ、任務に集中するように促した。真面目な彼の性格である。
「相変わらず硬いんだから」
とルカは肩を竦めるような声を出した。実際に竦めていたかは知らない。
「む?」
エトムントが未舗装の道路を見かけるなり降下した。
『おっ……と。なんだ?』
エトムントはホバリングさせ道路の窪みを見つめている。そして、疑問を呈したルカに説明してやった。
「タイヤの跡だ。恐らくはジープタイプで、まだ割れてもないし崩れていないから新しいはずだ」
『ああ、確かに。なんだってこんなところに?』
ここらにあるのは小さな村がいくつかだけだ。中でもこの道を使う者はいない。わざわざこんな所を通るのは、やはり見つかりたくないような連中だろう。自分達の仕事はそういう連中を意地悪く発見してやることだ。
「一応仕事だ。調べるぞ」
エトムントとルカは道の上で泥に残された足跡をゆっくりたどっていく。エトムントは無線機を手に取った。
「こちらパトロール・パパラッチ。第七区画ポイント・ブラボーで不審な車輪の跡を発見」
『了解しました。周囲を警戒してください。何かあればすぐに報告を』
サラ・ハルティヒ―もとい本部に報告を済ますと、エトムントはワッパに取り付けられている機関銃、マズラMG74のグリップを握った。額に汗が滲む。不審車となれば敵の可能性がある。それも敵地の奥まで入ってくるような連中だから恐らくは特殊部隊。そして交戦になれば当然、戦死することもあるのだなら当然だ。
『エトムント! あれ』
ルカに言われ暗視装置の中で目を凝らすと、遠くに光が見えた。この夜間では間違えようがない。一台の車両がジャングルを切り進む道の中を進んでいた。
「こちらパトロール! 不審な車両を捕捉した!」
『こちら本部、十分警戒して下さい。気を付けて」
「了解。対象の追跡を継続する」
エトムントとルカはワッパのエンジンの出力を落とし、高度を下げ、対象に見つからぬよう追跡した。
対象の車両は随分とスピードを上げて、まっしぐらに突き進んでいる。この先にあるのは小さな川だったろうか。
追跡し続けていた最中、敵はどうやらエトムント達に気付いたらようでマズルフラッシュの閃光がちらちらと光った。すぐに銃弾が近くの木の幹を削り、地面の泥を抉った。
「ちっ、気付かれたか。応戦だ、散開!」
『了解。―こちらパトロール! 敵の攻撃を受けた! 勢力は不明! 交戦する!』
エトムントとルカは散開し引き金を一度引いて安全装置を解除する。もう一度引くと機関の中で針が弾薬の尻を叩き、火薬に引火する。爆発のエネルギーは弾頭を銃身へと強引に押しやる。銃身を通る弾丸はライフリングによって回転。解き放たれた後も直進し、風を切り進んだ弾丸は車両の後部に突き刺さる。
「くそ!」
車に乗っていたのは連邦軍の兵士達だった。彼らは車の速度を更に速め、一斉に反撃を始めた。武装はM72A1アサルトライフルと、M229分隊支援火器である。
敏捷なワッパに暗闇の中追われる連邦の兵士達は、暗視装置の緑色の映像を頼りにライフルを乱射した。しかし木の間を縫うように移動するワッパには中々当たらない。今度は木を盾にしながら的確に発砲されるマズラMG74の弾丸に、ある連邦の兵士が被弾した。そして一人分の死体が車から転がり落ちて泥に浸かった。
「グレネード!」
連邦兵が円筒形の手榴弾を投擲する。泥の上に鈍い音をたてて沈み数秒後に炸裂した。だが手榴弾は、三次元的な機動を取るエトムントとルカにダメージを与える事はなく、泥の中に窪みを作り、近くにあった木を傾けただけであった。
エトムントはマズラを細かく途切れ途切れな射撃する。それに合わせて鉛の弾丸がリズミカルに殺意を持って突き進んだ。
車両の荷台に乗っていた兵士の背中にその弾は当たり、背骨と肺をぐちゃぐちゃにして突き抜ける。
「畜生!」
負傷した兵士が呻く荷台で別の兵士がM229を乱射する。別の兵士は銃身の下に備え付けられたランチャーでグレネードを射出した。飛び出したグレネードは飛んでいたエトムントのすぐ横の木に着弾する。
「ぐっ!」
幸い負傷はしなかったが、爆風で強く揺さぶられ危うく転びかけた。フィンの向きを細かく調整して姿勢を制御する。
『大丈夫かエトムント!』
「ああ!」
もしひっくり返りでもしていたら確実に死んでいたがな、と彼は胸中で付け加えた。
『これで仕留める!』
叫び、ルカがロケットランチャーを構える。照準には勿論、例の不審車両が捉えられている。目印は敵の発砲炎だ。
彼はバックブラストを警戒した後方の安全確認を省略して引き金を引いた。圧縮ガスで発射機から押し出された弾体はロケットモーターを点火した。付近がオレンジ色に照らされる。
撃ちっ放し式の弾頭がロケット推進でまっすぐ飛んでいき、自らの赤外線センサーで車両を捉えて進んだ。しかしこの闇夜で排熱の少ないエレカーを完全に補足し続ける事は難しく、直撃はしなかったものの車体のすぐ近くに着弾した。
戦車の装甲対策のタンデム形成炸薬弾頭が炸裂すると至近弾の衝撃と爆風で車両が横転する。車に乗っていた兵士のうち、ある者は弾頭の破片で顔や内臓をめちゃめちゃにされ、ある者はひっくり返った車体の下敷きとなり生き絶えた。
『やった!』
戦闘の終結に二人は安堵し、警戒しながらもゆっくりと近づいていった。
死んだ味方の屍の下で意識を朦朧とさせる生き残りの兵士がただ一人だけいた。やがて記憶がはっきりと蘇ってくる。
任務中敵に発見されて―そうだ。数分間の記憶を思い出した兵士は、泥に浸かった顔面をゆっくりと上げる。目の前にはジオン兵の足がいた。どうやら自分には気付いていないらしい。
その時いくつかの選択肢が頭に浮かび、一つを選択した。それは無謀に思えたが、仕方あるまい、と覚悟を決める。悟られないよう、死体のふりをしつつゆっくり自分の尻に腕を伸ばした。尻の鞘からナイフを取り出す。
「確認する。報告はお前がやってくれ」
「おう」
ルカが本部に交戦終了の報告を行っている間、エトムントはワッパのサーチライトに照らされる中で懐中電灯と拳銃を構えて敵の死体を確認した。ドライバーはヘルメットや体にガラス、破片が突き刺さり明らかに死亡。その他の兵士も漏れなく死んでいると思われた。
生存者がいるとは思えないその惨状に油断したエトムントがタバコを取り出そうとしたその時、地面から―否、死体の下から敵が飛び出した。
この距離だ。銃に手を伸ばすより先に足が出た。たまたま繰り出された蹴りに当たった敵兵は怯み、間合いを取り直す。だがその敵兵はまた間髪入れずに突進。
エトムントは顔を引きつらせて拳銃を構える。銃声が響いた。
「くあっ……! ……ああ!」
撃ったのは自分じゃあない。振り向けば両手に拳銃を保持したルカが見えた。足から血を流した兵士は苦痛に顔を歪ませながらもなお二人を睨みつけている。
「動くな!」
「こいつ、女だぞ」
確かにブロンドの女である。二人は緊張に胸を鳴らしながら拳銃を向け続けた。
タイラップ―プラスチック製の簡易的な手錠―を敵兵士の手首に巻きつけながら指示する。ルカは拳銃を向けていた。慣れない緊張状態ながら、彼はあまり興奮していないようである。
「質問には答えてもらえるか?」
「……………」
木の前に座り込む敵兵は答えない。当然だろうか。
「ええと……」
そんな風に言いながら捕虜の胸元を漁り始めるルカ。なんのつもりだ! と捕虜と口を揃えて叫んでしまったエトムントにルカは呆れた口調で理由を口にする。
「認識票」
確かにルカは認識票を取り出していた。チェーンに繋がれた薄い鉄板に個人情報が彫られている。それを引きちぎって懐中電灯の下で照らす。
「陸軍所属アシュレイ・ホーカー。階級章は曹長。血液型はO。スペースノイド」
連邦軍の階級章については座学で教わったが、正直エトムントの記憶には曖昧だ。しかしルカはその点強い。元々ミリタリーオタクの気があったからだ。
「報告だな」
『パトロール・パパラッチからHQへ。追加報告。敵兵一名を拿捕。陸軍所属曹長。大したもんじゃないんだけど負傷がある。えー、左足に被弾で……血液型はO型』
『了解しました。ヘリコプターによる回収を行いますので、その場で待機してください。時刻は約一時間後』
『了解』
通信を終えルカが戻ってきた。
「君はここで大人しくしているんだ」
無言の捕虜からやや離れた場所で二人は待機した。
「はあ……。チヨはどうしてっかなあ」
「おいおい心配か? あいつは離れやしないだろうよ。確か今はサイド3で看護師をやってるんだったな。この戦争が終わったら結婚するって言ってたじゃないか」
「だからこそだよ」
ルカはジャケットの胸ポケットからチヨの写真を取り出した。愛する人の写真を持ち歩く。いつの時代でも兵士の心の癒しだ。
「美人だよな」
「ああ」
写真の中でチヨはショートデニムパンツとノースリーブのシャツを着て優しく微笑んでいる。彼女から程よい色気が感じられるのは戦地に赴く彼の癒しとなる為だろう。隣にはルカが立っている。幸せな写真だった。
「戦争なんかしてないで帰りてえよ」
「だが祖国の為の戦争、だろ?」
ジオン独立戦争。スペースノイドによる自治独立を求める正義の戦争はいつしか泥沼化していった。最初は誰もが賛成した戦争だ。棄民と呼ばれ地球に残ったエリートの為に資源を貪られたスペースノイドの地球連邦からの独立は悲願であった。しかしスペースノイドにとっての故郷、スペースコロニーまでもを兵器として転用し何億人もの生命を奪い、奪い続けるこの戦争に疑問を抱く者は少しずつ増えていたのだ。
「こんな長期戦になるとは聞いてない」
それでこの話題は終わり、と感じたエトムントが、今度は捕虜、ホーカーに向き直り問うた。
「お前は、なにをしにここに? 勢力圏から何十キロも離れたここで、あんな少人数で動くのか」
「答えちゃいけないんでね。知りたいの?」
「さあな。俺の仕事じゃないから答えなくてもいい」
「ねえ」
答えたホーカーに喋りかけたのは、今度はルカの方だ。
「あんた、出身は?」
「……ハッテのアイランド・イフィッシュだ」
ルカの顔が強張る。アイランド・イフィッシュ生まれのフェディには注意―ハッテ、サイド2にあるコロニーアイランド・イフィッシュはジオンが地球に突き刺したコロニーである。大質量兵器の効果は絶大で厚さ十キロにも及ぶ地殻を貫通しマグニチュード九の大地震を引き起こした。更に破片はオセアニアや東南アジアなど地球全土に降り注ぎ衝撃波、津波は世界中に影響を与えた。特に酷かったのは爆心地であるオーストラリアのシドニーだ。シドニーは消滅し新たにシドニー湾を形成し、周囲は汚染され、吹き飛ばされた海水は津波として周辺の沿岸を攫った。その威力は地球の自転速度を一時間あたり一・二秒速めたとすら言われる。
もし自分の故郷のコロニーが兵器として使われたら。スペースノイドにとってそれは考えただけで吐き気を催すような悪夢だ。もし自分のコロニーをそんな風にした悪魔がいたとすれば。
その恨みは容易に推し量れるものではない。
当然だ。許せるものではない。そして、眼前の女にとって許せぬ悪魔は、自分達なのだ。
「……住んでたのは産まれて始めの数ヶ月。別にあんたらを恨んでやしない」
表情を強張らせていた二人を嘲るようにしてそう言った。
「足を撃たれたのには相当頭に来てるけど」
幸い弾は抜けていて、包帯を巻くことで応急処置を済ませてあった右太腿を見やる。止血剤を使ったから包帯は白いままだった。
「じゃなきゃ俺が死んでたからな」
「ええ、そういうものだもの。私だってあのままじゃ殺されると思った」
一部の兵士―少なくとも、この女兵士にとってはこの戦争は殺されるか殺すかであって、政府が掲げるような大義名分はあまり大きな理由ではなかった。ジオンが地球に来て、撃たなければ撃たれるから撃つ。それだけだった。地球連邦の兵士たちは入隊時、地球連邦市民のために戦う誓いを立てるそうだが、それがどこまで本心かはわからない。就職に悩み入隊する者や戦地で苦しい生活をするよりも、衣食住が保証される軍隊に入ったほうがマシ、と思い入隊する者も地球連邦軍には少なくなかった。
エトムントには国の為という人に誇れる動機があったが、彼女にはそれが無いのだった。
地球を守るという壮大な動機を明確に持っている連邦兵ばかりではない。
「南極条約は守ってもらえるの?」
「守るさ。ジオンには目的と意識がある」
そんな動機なき兵士を眼前に見下ろしながら、エトムントは答えた。
連邦軍の兵士は軟弱が多いと聞かされていたが、事実らしい。こんな兵士ばかりじゃあ、ジオンもやがて勝てるだろうな。そう素直に感じていた。
「あんたがそう思っても、ほかの連中はどうだか。コロニー落としをやった悪魔だから」
地球を守る精神に心を沸かせたわけでなくとも、その心にジオンの悪名は轟くらしい。
そしてホーカーが目を瞑りかけた時、夜空に爆音が響き、彼女はもう一度目を見開くことになった。
空には輝く物体―そう見えたのはヘリコプターで、光はサーチライトだ。ジオン公国軍の輸送ヘリコプターである。ヘリコプターに遅れてサウロペルタ高機動車が到着する。連邦でいうラコタに相当する、ジオン公国軍のジープだ。
『名前は?』
「パトロール・パパラッチ!」
二重反転式ローターを装備する小型の輸送ヘリがサーチライトを真下に向けながら降下している。ローターを縦に二つ重ねる二重反転式のヘリコプターの利点は小型にできることと、このように安定した飛行が獲得できることだ。スピーカーからの声に、大声で答える。
ロープが垂らされ、兵士が数名降り立った。そして指揮官らしき男が二人と敬礼を交わす。
「エトムント・ビエナート曹長です」
「ルカ・シャヘト軍曹です」
「どうも。マオ中尉だ。この捕虜は我々が預かる。おい、あいつを引き上げさせろ」
ヘリコプターのダウンウォッシュに吹かれる中、エンジン音とローターの風切り音に負けじと大きな声で話す三人。その背後で、ホーカーはジオン兵によってヘリコプターに収容されていった。
「では、我々はこれで帰還するが、貴官らも無事に任務を終えることを祈ってる」
「ええ。ありがとうございます」
ホーカーを抱えた兵士がロープで引き上げられた直後、マオ中尉が敬礼を交わしてヘリの機体へ戻っていった。
「任務に戻るぞ」
エトムントは自分とルカにそう言い、ワッパに戻った。操縦桿を握り、エンジンを始動させる。エンジン音が響き、操縦桿を持ち上げると機体がふわりと浮き上がった。ヘルメットのバイザーを目元まで降ろし、ルカと共に再び空を舞った。
「きっちり調べとくぜ。南極条約も守るさ」
前線基地に帰還し、捕虜の管理をしている高身長の士官に会うと彼はへらへらと軽薄に笑いながらそう言った。その台詞で、エトムントは不意に彼女の身を案じる。
「任務お疲れ様」
朝焼けの森を物資の入れられた木箱の上に座って眺めていたエトムントの隣にサラが腰掛ける。手には二人分のコーヒーが握られていた。
「あ……あれがとう―ハルティヒ曹長」
「サラ」
そう呼べ、という事か。任務では常に敬語表現だったサラも、こんな時までその態度を貫きはしないらしい。
「……サラ」
急に息苦しくなって、エトムントはコーヒーを啜った。
「俺はエトムントだ」
「よろしく」
「ああ」
握手を交わすが、なんだか今更という感じだ。任務のたびに短い会話を交わしているから、既に詳しく知り合った友人のような気がする。
「顔を合わせて話すのは三回目か」
「そうね」
口下手なエトムントだから、会話には沈黙が生まれてしまう。サラが適当な話題を提供した。
「そういえばエトムントの家族は?」
エトムントは先日送られてきたメッセージの事を思い出した。実感がまだないが、どうやら確かなようだ。
「母と妹が。父は先日……、戦死したそうだ」
「それは残念ね……。ごめんなさい」
本国のコロニーから送られてきたビデオ・メッセージには母と妹が映り、父の姿は遺影の中であった。それを持ちながらエトムントの残った家族が父の最期を語る。エトムントの父はエトムントが子供の頃から軍事に関わる人間であった。この戦争が始まるとムサイ級宇宙戦闘艦の乗組員として戦闘に参加し、サラミス級との戦闘で死んだ。認識票と遺体の回収ができたのは幸運だったそうだ。昔、核爆弾が実戦投入された時の話を聞いた事があるが、そこが通常の市街地であるにも関わらず正確な犠牲者数は分からないらしい。何故なら核爆弾の火球や熱線によって蒸発してしまった犠牲者が少なからずいるからなのだそうだ。
それと同じだ。宇宙での戦闘では艦砲がビームな為遺体が蒸発してしまうことも多い。そうなっては認識票は勿論、遺体の回収など不可能である。また、そうでなくとも爆発の衝撃波で飛ばされると回収は困難なのだ。止まることもなくどこかへと広い宇宙を旅する事となり、末路は息があろうとも酸素がなくなり窒息死するか宇宙を流れる無数の小さな岩と衝突し体を砕かれるかであろう。
「いえ、いいんだよ。父も軍人だ」
「そう……私も両親はいない。父は小さい頃に……母は一昨年に」
互いに親を失っている。その事実は二人の間の距離を少しだけ埋めた。
「綺麗ね」
「ん? ………………ああ」
一瞬戸惑った。顔を下げていたエトムントには分からなかったのだが、森に朝日が昇ったその光景はまるで神話の世界のようだった。人類が宇宙に進出し、その宇宙開拓民と地球住民との間で凄惨な戦争が起きても、この世には美しい世界が残っているのだ。朝日を浴びて輝くサラの横顔が言った。不意にエトムントは見惚れてしまう。
「戦時中だなんて、信じられないわ」
「戦争が終わったら、二人で来ないか?」
エトムントが敬語も忘れてゆっくりと呟いた。口説こうとかそんな高い次元の発言ではなくて―ただの感想だとも言える―屈託のない本心だった。
「あ―……」
驚いたという表情のサラと目があってエトムントは言葉を濁す。しかしエトムントの背中を押すように―否、手を引くようにサラがエトムントの手を握った。顔を近づけて耳元で囁く。
「ええ、勿論。もう少し話しましょうか」
二人は兵舎の中に消えた。
増やして欲しい要素はなんですか?
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人間ストーリー
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戦闘シーン
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モビルスーツ
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普通兵器
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歩兵