機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢   作:Aurelia7000

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第十三章

  第十三章

  リア・オルグレンは四機の戦闘機に護衛されたミデア輸送機の格納庫の窓から遠方の基地を見つめていた。腕時計を見ると、あと数十秒であの基地は基地でなく廃墟となる。幾度となく眠れぬ夜を過ごした士官室も、座りすぎて尻の形に凹んでしまった椅子も、隠れて泣いた屋上もすべてが、無に帰すのだ。できればそれが、自分の知らぬ間の出来事であってほしくはない。

  ミデアを護衛する内の一機、セイバーフィッシュのキャノピー越しに、エドワードは基地を見つめる。自分の帰るべき場所であり、守るべき場所。―守れなかった場所。そいつの死は、見届けられるべきだ。

  撤退する歩兵部隊を乗せたトラックの車列は丘の上を走っていた。荷台の兵士達は体を乗り出して基地の方へ目を向ける。直接は見えないが、それでも誰もが基地自爆の瞬間を目に捉えようと思っていた。

  ジオン軍MSパイロット、ヨナス曹長は僚機と共に空軍基地の敷地内に突入した。予定時刻ほぼ丁度だ。上空には味方の航空部隊が見える。だが異変に対する彼の違和感はピークに達していた。敵の抵抗は一切なく、後退支援もないのだ。

「まずい!」

  直後、基地のあらゆる施設から火が噴き出した。仕掛けられたプラスチック爆弾は予定通り放棄した弾薬類に誘爆し管制塔、既に半壊した基地施設、地下室、兵舎、格納庫、残った機材、積み込めなかった書類、格納庫を破壊していく。

  的確に建物を崩すように計算された時限式の爆破は、最小限の爆薬によって基地を潰した。爆発によって吹き飛ばすような手洗い真似はしないのだ。主要な柱、支柱を折る事で弱い部分に力を加え、そして潰す。そのため派手な爆発の光にザクの彼らが怯むことはなく、彼らには目の前の地盤が崩れた様にさえ見えた。

  ヨナス曹長より先行していたザクが基地の滑走路まで踏み込むと、突如地面が炸裂した。それに合わせ、基地の滑走路のいたるところが次々と火を吹いていく。滑走路の再利用も許さぬ、完璧な破壊工作と言えた。

  「うっ……」

  レギーナ・ケストナー大尉はドダイGAのコックピットで目を覚ました。痛みが全身から響く。キャノピーにはひびが入り、コンソールの電気は落ちている。唯一の幸運は自動消火装置のおかげで自分が気絶している間に火葬されたかったことだ。上を見上げると空が見える。だがそこは暗かった。建物の中から空を覗いているらしい。

  右二の腕と左足、脇腹の痛みに耐えながらキャノピーを押し開け機体から這いずり出る。ノーマルスーツが出血部を圧迫し出血をコントロールしてくれているがそれでも頭痛は治らない。貧血だけではないのだろう。

  息を切らせながら、彼女は腕時計を確認した。時刻は……午後九時丁度―

  ―爆発が格納庫を襲い、彼女はドダイの翼から吹き飛ばされた。激しい痛みと混乱の中で見上げた彼女が見たのは、崩れゆく天井の光景だった。

  爆煙がゆらゆらと空へ伸びる。それをミデアの窓から見たリアは、目を瞑った。

  我々がこれからどうなるのか。ジオンに勝てるのか。

  そんな事よりも今は、戦いの疲れの方が彼女の頭を支配していた。そして彼女の瞳から、一滴の涙が零れた。

  メルヴィン大尉はロスト。Missing in action―MIA、作戦行動中行方不明として撃墜後の動向が分からない。彼女はメルヴィンが生きている事に期待できたが、彼を置いて逃げなければならなかったのだ。彼を含む多くの兵士を、人間を戦場へ送り出し、そして死なせてきた。冷静な声を作り軍の管理するマシンとして心を押しつぶしてきたが今やそのマシンの在りどころは存在しない。彼女の抑えきれなくなった心が目から溢れていた。そんな彼女の肩に、優しくタチアナが手を置いた。

  ミデアのコックピットに座りコーヒーを啜る空軍少佐は、基地の爆破を目にする事はなかった。ただ静かに目を瞑り、現実と向き合うのみだ。多数の増援を受け取りながら反撃の狼煙をあげるどころかその戦力のほとんどを失い、あまつさえ基地を陥落させるという醜態を晒した彼は二度と軍の上層部へパイプを通す事は叶わないだろう。これからは上へ登る人生ではなく、下へ落ちて行く人生が始まるのだ。

  「サネプトが……陥落した……」

  トラックの荷台で兵士が呟く。周りの兵士も口々に似たようなことを言っている。黒煙は地球連邦軍敗北の狼煙だ。東南アジアにおける一大拠点を失った地球連邦軍はますます戦線を縮小し、ジオン公国は支配地域を伸ばすだろう。彼らにとってそれは、憂鬱の種でしかなかった。

 

  地球連邦軍は今日、東南アジアにおける最大の空軍基地であるサネプト空軍基地を喪った。翌日地球連邦東南アジア方面軍総司令部はさらなる戦線の縮小を決定。

  東南アジア方面軍がジオン軍と交戦を開始してから四ヶ月の事であった。




これにて、第二話が終了です。航空機や戦闘機の戦闘について知識はまったくなく、専らこれを書くためだけに調べたのでその正確さに自信はありません……。
(空対空レーザー誘導ってなんだよ)
戦闘の多い回でした。一定ペースでMSを出さないと「なんだこいつ」と思われる恐怖につきまとわれながら書いています(笑)

後半は戦闘だらけになると思いますので、またしばらくお付き合いください。

また、書き溜めておいたものを一気に放出したため作者の更新ペースが遅くなる恐れがあります(なんだこいつ)ので、どうかご了承ください

増やして欲しい要素はなんですか?

  • 人間ストーリー
  • 戦闘シーン
  • モビルスーツ
  • 普通兵器
  • 歩兵

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