機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢 作:Aurelia7000
拙い文章ですがお付き合い下さい。全七章の物語です。
第一章
第一話 大人と子供の戦場
第一章
七月。ジオン軍はブリティッシュ、ルウムといった宇宙での華々しい戦果に続き、地上でも地球連邦軍を押しやっていた。なおも激戦は続いており、また、地元のゲリラとの小競り合いなどもあり、ジオン公国軍にとって安息の時間はなかった。しかしそれは連邦軍にとっても同じことであり、常に後退と散発的な戦闘を繰り返していた。ジオンには慣れない地球環境の中で心身を疲弊していく者が。連邦では度重なる敗走の中で徐々に規律や士気を失う者が後を絶たなかった。
夕方。ジオン公国軍、第三七パトロール小隊に所属するエトムント・ビエナート曹長は、愛機であるホバーバイク、ワッパの整備を一人で行っていた。ワッパは大型のバイクにタイヤの代わりにホバークラフトを装着したようなデザインで、座席の上から機銃のついたアームが垂れ下がる。ブーム懸架式機関銃だ。
彼がワッパの前部フィンモーターをいじっているこの基地はここの地域を担当する、兵站基地を含めた中型の基地だ。大型の司令部が一カ所あり、それに付属するのかこのような中型基地だ。ここより更に前線になるといくつかの衛星基地がある。北京などの方面軍の拠点から送られてくる物資は集積所からここへ届き、そして最前線に送られる。更にこの基地より後方になると飛行場を備えた航空基地があり航空支援などの為に航空機が待機している。
この重要な基地の警備を担うエトムントのパトロールは夜に始まる。彼はその出撃に備えて一人愛機の整備のため目を覚ましたのであった。まだ他の夜勤の兵士達はみなテントの中で寝ている。パトロール部隊にはワッパしかいないのだが、それでいて特に火力に悩まされることはなかった。パトロールにおいて敵を発見した場合はすぐに増援を呼ぶのが基本であるし、この地域は湿地が多いので移動速度が地面の質に左右されにくいホバー式のワッパはパトロールに最適であったからだ。
しかしいくら浮いているからといって泥は付着するし、こびりついた汚れは動作不良の原因となる。だから整備する事は良い事だが、それは昨日もした事だし、整備兵がチェックもしている。彼がこのワッパを自ら整備するのは、こいつが自分の命を握っているという意識と、愛機への愛着からである。
「エトムント。もう少し早く寝てはどうだ?」
エトムントとペアを組む、ルカ・シャヘト軍曹が兵舎のテントから出てきた。彼はどうやら寝起きのようで、かなり制服―第二種戦闘服―を着崩している。
「俺は心配性なんだ」
エトムントはまだ若かったが、無骨で隆々とした顔と体つきからそんな台詞は似合わなかった。ルカが笑うとエトムントは刈り込まれた短髪を掻いた。
「まあ、いつもの事だけど」
言いながらルカは金髪を簡単に整え、制服を正した。フィールドキャップの角度を直し、通信機のインカムを首に下げたら、腰に巻きつけていたジャケットを着込む。いつも通り、ルカの服装だ。
ルカはエトムントの養成学校時代からの同期で、同じ部隊に配属されてからも友人としての関係を保っていた。元々年齢が二つ上のエトムントが彼より高い地位に昇進してからも敬語を使う事のない信頼関係を保っている。
「やれやれ。また前線が広がったらしいな」
言いながらエトムントがワッパのエンジンを始動させ、フィンの動作音やその他異常がないかを確認し、また止めると工具をしまい始めた。
「ジオンが勝ってるんだから、いいじゃないか」
「いや、俺が言ってるのはな……」
そこでエトムントは愚痴をやめた。これ以上言っても仕方がない。士気が下がるだけだ。
「まあ、ここは最前線じゃないから俺たちのルートは変わらんがな」
「いいや、あながちそうでもないぞ」
低く年齢を感じさせる声で会話に割り込んだのは、この基地の司令の補佐役を務めるエルマー・エンゲルハルト少佐だった。驚きつつも二人は敬礼をする。慣れない将校だ。自然とその仕草も堅くなる。
「まあまあ、気にすんな」
エンゲルハルトが手を振る仕草で押さえると、二人はぎこちなく敬礼を解いた。
「若いのは堅すぎる。もう少し力抜かんと、いつまでも新米だと思われるぞ」
少佐は豪快に笑った。その所為で敷地内の兵士の注目が集まり、エトムントは顔を隠すように少し俯いた。
「それで……何かご用で? 後方じゃあないというのはどういう―?」
ルカが恐る恐る聞くと少佐は声をやや潜め二人だけに聞こえるよう言った。
「作戦区域が変更になった。すまんが君たちはいつもと違う場所で任務に就いてもらう。詳しくは……場所を変えるか。ここは暑苦しい」
連れてこられたのは基地の建物内だった。司令部がある棟だ。他はハンガーなんか以外はテントなどが多くいつも寝起きしている兵舎もテントだが、ここはちゃんとしたコンクリートによる作りになっている。その中の一部屋に連れてこられた。
少佐は部屋の中に着くと椅子に座り、扇風機をつけた。どうやら暑いというのは嘘や方便ではないらしい。扇風機の静かなモーター音だけが室内に響く。
エトムントとルカも座らせてもらったが、その内心ではいろいろな考えが駆け巡っていた。場所を変えるような重大な話なのだろうか。
「詳しい事を話そう。あー、ハルティヒ」
ハルティヒと呼ばれたその茶髪の女は、机の上に地図とタブレット端末を出した。赤いマーカーで狭い弧が描かれている。
「私はサラ・ハルティヒです。よろしくお願いします」
階級は曹長。同階級にも迷わず敬語表現を使う彼女は基地の通信士だった。彼女をエトムントは知っている。若くてルックスも良く態度も非常に良い彼女は基地内でも有名だ。ちなみに彼氏はいない、という風に。
それだけではない。加えてエトムントらが任務の時に報告する無線の相手は彼女だったのだ。茶髪の間からはインカムのグレーが見える。ルカの装備する咽頭マイクとヘッドフォンがセットになったものではなく、通信士用のスマートなヘッドフォンであった。それに、通信士らしく内勤服であるのも印象的だ。
「先日、付近にあるいくつかの村が武装蜂起し我が部隊と交戦し、部隊がこれを鎮圧しましたがこれによって付近のゲリラが敵対行動を始める可能性があります。ですので付近一帯の警備を強化します」
彼女はスムーズに説明する。タブレットにはザクのものと思われるガンカメラの動画が映されていた。ゲリラがザクの周りを取り囲み攻撃を加える。が、いずれも大したダメージを与えることはできなかったようである。
「―この赤い線の地域をパトロールして下さい。パトロール中敵ゲリラと思しき目標を発見したら通報して下さい、討伐部隊が対処に出ます。あなた方は夜の担当を。明後日からゲリラによる被害がなくなるまで続けてもらいます。では、説明は以上です。質問は?」
「俺ら以外には?」
ルカが質問した。サラは少し表情を曇らせて答える。
「その……全員集めてお話しする予定だったのですが、時間が合わなくて」
「ま、つまりは大規模な山狩りはできねえからお前らが回って、発見するなり攻撃されるなりしてこいって事だ」
回答が終わった頃合いを見てエンゲルハルトが口を開いた。内容はこの任務を極端に表現するもので、サラは溜息でもつきたそうな目でエンゲルハルトを見つめる。
「一応、我々の交戦規定では民間人は無抵抗である限り攻撃しない、ということを広報していきます」
彼女は申し訳程度にそう付け加える。
説明された任務はどうやら通常のものだった。危険度はやや上がるが隠すような事でもない。
やれやれ噂に聞く変人の少佐その人だと、エトムントは内心思った。特段難しい話でも隠し事になるような任務でもなく、本当にただ暑い中説明をするのが面倒だから、扇風機の稼働している室内で部下に説明をさせてしまおうという魂胆であったのだ。
「近々我が軍は前進する。こんな事に気を煩わせたくないのが本音だ。割ける人員は少ないが、よろしく頼むぞ」
やっとで一章の終了です。ミリタリーチックな雰囲気を意識しているのですが、時々退屈しないようギャグも織り込んでいきたいと思います。
重ね重ねお願いですが(笑)
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