機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢   作:Aurelia7000

18 / 23
第十章

  第十章

  連邦軍の男性兵士、マニアニ伍長が腕時計を見ると、時刻は十九時にさしかかろうとしている頃だった。そろそろ交代だな、と思い見張り台の梯子の下を覗き込む。だが、交代の兵士はまだ来ていないようだ。

「最後の定時連絡だ」

  マニアニ伍長の同僚の男が無線機のスイッチを入れる。個人携行用の小型のものだ。

「あー、こちらは北方の見張り台。十九時現在異常なし」

『……………』

  だが、彼に返答が来た様子はない。彼はもう一度同じことを受話器に向かって話したが、結果は同じだった。強いノイズ音にすべてが掻き消されてしまう。

「ミノフスキー粒子か?」

  心配になったマニアニ伍長が男に尋ねる。男は肩を竦めてわからん、と答えた。当然だ。彼には何もわからない。何が始まったのか、知る由もないのだった。

  だが、戦闘濃度のミノフスキー粒子を感知した基地本部は第二戦闘配備を発令した。サイレンが鳴り響き、兵士達が持ち場に移動する。基地は一気に騒がしさを発し始める。戦車がエンジンを唸らせて戦車壕に潜っていくのが見えた。

「あと少しで交代だったのによ」

  悪態をつきながら二人も北方のジャングルに双眼鏡を向け、敵に備えた。ミノフスキー粒子の干渉下、最も効率の良い索敵が可能なのが彼らだったからだ。下の兵士達も自分達の報告に汗を流しながら耳を立てている。基地は高い緊張に包まれていた。

  地平線が見えるより先に景色が見えなくなる。ジャングルの木々に阻まれるからだ。だが、そこからやや離れたところは開けた土地になっており、見通しはいい。発見が容易なのはこちらだろう。

「おい、マニアニ! あれを見ろ!」

  言われて指示された方向に双眼鏡を向ける。砂埃が巻き上がり、いくつかの影が蠢いているのが確認できた。間違えようがない、敵の部隊である。

「敵襲! 二時の方向!」

  ホイッスルを目一杯吹いて警告する。兵士達はそれぞれ砲撃に備えタコツボに入り、戦車は砲塔を敵のいる方向に向けた。

「閃光! 砲撃に注意!」

  と叫ぶ自分らが一番危険なのだが、と心の中で付け足す。すぐに弾頭が風を切る音に続いて着弾音が連なる。耐え難い爆風のために、二人は塔の上で屈み込んだ。

  しばらくすると砲撃がやみ、すぐさま二人は敵の状況を確認する。

「ああ、くそ!」

  ザクだ。車輌に先行して一機のザクが確認できる。走りながらその巨大な得物を構えている。

「一つ目がいる!」

  そうマニアニが叫んだ瞬間、兵士達は深刻な恐慌に陥った。十八メートルの鋼鉄の巨人。戦車の主砲並みのライフルを連射し、61式戦車の主砲を弾く巨体。何度連邦軍があの巨大な足で踏みにじられたかを思えば、無理はないだろう。

「隊長! 無理です! 俺たちにあいつは倒せない!」

  パニックに陥った歩兵の一人が中隊長の男にそう具申し、殴られている。中隊長の彼とて怖くないはずがない。だが、ミノフスキー粒子の下、本部からの命令が更新されないのだ。与えられた命令に従いここで敵を待つしかない。

  戦車壕の61式戦車が主砲を放った。強烈なマズルフラッシュと発砲音を轟かせ、計四発のザクを狙ったAPFSDSが空を切り突き進む。が、それらはザクの比較的厚い胸部装甲に弾かれ、あらぬ方向へと飛んで行った。

  今度はザクがライフルを連射する。戦車を狙う120mmザク・マシンガンからはAPFSDSが発射され、初弾は地面を穿つ。が、問題はない。それに続いた弾は少しずつ誤差を修正していき、ついに戦車壕に収まる61式戦車の上部装甲を貫いた。

  ザク・マシンガンは宇宙空間で連邦軍宇宙艦の軽装甲の箇所を狙い、内部で炸裂する低初速の徹甲榴弾を発射する兵装だった。が、そんな大型のグレネードランチャーは地上戦で大きな問題を呈した。低初速と弾種の都合から61式戦車五型に効果が薄いことが判明したのだ。開戦直後の61式戦車は対ゲリラ戦を主任務とする、比較的装甲の薄いものだった為にザク・マシンガンはなんとか、それなりの戦果をあげていたものの連邦軍が遠い昔の主力戦車の記憶とデータを蘇らせるとあっという間に戦果が減少してしまった。焦った公国軍はザク・マシンガンに改修を加え初速と弾種を変更し、これに対応させたのだ。

  このザクが使うのは正真正銘のザク・マシンガンでありAPFSDSを発射できるよう改修され初速も砲身長も改善されている。対して61式戦車は旧式ねあり、改修されたザク・マシンガンには全く耐えることができなかった。

  爆発する61式戦車の光景を前にして兵士達はますます恐怖していく。歩兵が対戦車誘導弾を用意しているが、あれでMSを撃破できる可能性は……。

  マニアニ伍長は考えるのをやめて前方に双眼鏡を向ける。ザクに続く敵戦車についての情報を報告する為である。

  ザクがライフルでマニアニ伍長達がいるのと対になっている見張り台を撃ち抜いた。二人は恐怖したが、戦場の興奮がそれを押さえつける。震える手で双眼鏡を構え、汗を拭う事も忘れて敵の数を数えた。

「敵戦車は四! ヘリが二! あとは歩兵戦闘車諸々だ!」

  一般の歩兵が相手にするのは主に歩兵だ。彼らは塹壕に入ったまま機関銃とミサイルランチャーを構えている。その彼らに、敵の規模を教えてやった。だが彼らの人数ではとても敵わない規模である。

  その時、ザクの放ったAPFSDSが残った一両の61式戦車を屠った。ザクは付近の敵をあらかた片付け、今度はこちらに向かってきている。同時に遅れてきた戦車なども到着している。

「俺たちの仕事も終わりだ。下に降りよう」

  そう同僚の男が言う。その後方で、ザクの不気味な一つ目が光った。

  ザクは弾倉内を回転させ、使用弾種を榴弾に切り替える。そして、ゆっくり構え、狙った。

  ザク・マシンガンの発砲した榴弾が見張り台の下で炸裂すると、見張り台はひしゃげてゆっくり倒れた。その下に集まっていた兵士の多くも見張り台に潰され多くが死に至った。

  遅れ到着した戦車が残った連邦兵たちを制圧していく。塹壕に榴弾を撃ち込み、抵抗する敵兵は遮蔽物ごと戦車砲で吹き飛ばす。基地の施設内は歩兵部隊が制圧にかかった。

  基地内の士官が殺害されるか降伏し、地球連邦陸軍の旗が下げられるまでに、そう時間はかからなかった。

  こうして連邦軍陣地の右翼、左翼を制圧し突破した地上部隊が、中央部に侵攻した本隊とタイミングを合わせて最深部まで侵攻するのがこの作戦だ。

  ハルツハイム少佐のドップ改造機《ドップ・イェーガー》はジオン軍制空部隊のやや後方で飛行していた。

  攻撃隊より先に戦場に突入し制空権を確保する。その上で爆撃機が地上部隊を支援しつつ侵攻する。スピードが肝のこの作戦では、制空部隊が最大の鍵を握っていた。

  八機のドップと《ドップ・イェーガー》によって構成される制空部隊は、もうとっくにミノフスキー粒子の海にダイブしている。通信、レーダー、果てには赤外線探知まで不可能とするミノフスキー粒子の海。眼下の地上には連邦軍陣地が広がっており先から対空砲が火を吹いている。が、それも対地ミサイル搭載のドップによって鎮められた。

「時は満ちた。さあ、始めようか……。決闘だ」

  ハルツハイムは一人呟き、これから起こる死闘を思い描いてにやりと口を歪めた。

 

増やして欲しい要素はなんですか?

  • 人間ストーリー
  • 戦闘シーン
  • モビルスーツ
  • 普通兵器
  • 歩兵

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。