機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢   作:Aurelia7000

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第七章

  第七章

  「クソ!」

  稀に響く音だ。ブーツでロッカーの端を蹴る音。その音の主は公国軍航空基地の男性用ロッカールームのロッカーだ。鳴らしたのは夕刻帰還した攻撃隊の生き残りのパイロット―コールサインはカッパ・フォー―である。

  自分の隊で、自分だけが残ってしまった。たまたま爆撃の役割を持ったために。たまたま一番、敵から後回しにされたために。自分のために、隊長も、相棒も後輩も死んだ。

  彼は扉が歪んでしまったロッカーに汗だらけのノーマルスーツを押し込むと、扉を雑に閉じ、部屋を出ようとする。しかし、それに声をかける男がいた。

「クローバーのエンブレムが描かれた真っ白のセイバー。そいつはいたか?」

  その男とは、アルフォンス・フォン・ハルツハイム少佐に他ならない。彼は義手の右腕を鳴らすのが癖で、今も義手を鳴らしている。

「ええ。いましたよ。そいつが三機とも墜としたんです」

  苛立ちながらも振り向き、ベンチに腰掛けるハルツハイムに答える。思い出すだけで、腹が立ってくる。あの小馬鹿にするような戦法。そして赤子の手を捻るような腕前。奴は、楽しんでいるのだ。

「……失礼します」

  苛立ちをも置いていけるかと思ったが、やはりそんな事はなく、不愉快な気持ちを引きずりながらカッパ・フォーは兵舎に向かった。

  「くっ……。くくく……」

  あいつめ。また面白い戦果を見せてくれたな。少数ながら多数のドップを踏み倒した先日だけでなく、またもや二倍の数のドップを奇襲し、隊を壊滅させやがった。それも三機を一度に。とっくに奴はエースパイロットの一人という訳だ。それも超優秀な。

  笑いが腹の底からこみ上げてくるようだった。そんな化け物と刃を交える時を想像するだけで、口元が大きく歪んだ。

  次の待機は自分の番だ。ノーマルスーツを中に着たジャケットのポケットから懐中時計を出し確認する。

  待機室のモニターではカッパ・フォーの持ち帰った映像が映し出されていた。まずはカッパ・ワンがリンクしていた映像である。荒い映像にHUDのCGが組み合わさり、そしてパイロットの声が入っている。

 

  高速で飛行していた。ターゲットを示すカーソルが空の向こうの敵機を囲み、捕捉、と表示する。しかし既に敵は先手を打ったようで、ミサイル接近警報がけたたましく鳴り響く。

『ミサイルだ! 回避する!』

  ミサイルの直撃コースからは外れたが、ビープ音は鳴りやまない。そして、映像は停止した。

 

  切り替わった映像には、撃墜されたカッパ・ワンが映し出されていた。護衛機のカッパ・トゥーなのだろう。

『くそ……』

  撃墜したのはカナード翼の追加された白いセイバーフィッシュ。そう、ハルツハイムの求める機影である。

  映像は青空を映し出していた。背後に回られているのだろう。ロックオン警報が鳴り、映像が揺れた。

『くっ―』

  パイロットの言葉にもならない声の直後に停止。撃墜された。

 

  二つの黒煙が少し離れたところに見えた。これはカッパ・スリーの映像なのだろう。

『まずい、ズラかるぞ!』

  そう叫んでパイロットは対地兵器をすべて地面に捨てた。必要最低限の装備にして、機体を身軽にするのだ。

『ああ!』

  上昇しつつ加速する。そしてドップは逃走を開始した。

  だが、しばらくするとパイロットが方針を変える。

『追いつかれる! フォー! さっさと逃げやがれ! 俺があいつを殺る!』

  旋回しつつフレアでロックを外しにかかる。機動性能ではドップに分があるのだ。やり方次第では勝てるかもしれない―が、それが叶わなかった事はモニターを睨む皆が知っていた。エンジンの推力によって背後から引き剥がされたドップは、なす術もなく背後を取られてしまう。

『駄目だ、ベイルア―』

  映像の停止によって声は遮られた。報告によればパイロットの脱出は叶わなかったという。

 

  「この前の三つ葉のクローバーの奴だ……」

  どこかの兵士が呟く。やはり三機を墜としたのはすべて奴か。白塗りの機体に大きなクローバーのエンブレム。追加されたカナード翼。間違いがなかった。あの戦術。あの戦い方こそ自分を魅了する奴の証拠だ……。そしてハルツハイムは思い付く。

  そうだ……。奴と、あのクローバーと決着をつける方法を思い付いた。また笑みが溢れそうだった。

 

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