機動戦士ガンダム0079 Universal Stories 泥に沈む薬莢   作:Aurelia7000

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そういえば、コレを書いていてひどく心配な事があります。
それは「東南アジアの地理と気候」問題です。
できるだけ調べはしたのですが、自信はありません。ですので、もしかすると矛盾があるやもしれません。
その時は教えていただくか、「まあ100年先の話なんだから地形が変わっててもしゃーない」「き、気候はブリティッシュ作戦の影響で……」と妥協していただけると大変助かります。
それではお邪魔して申し訳ありません。第三章です。


第三章

  第三章

  「ミノフスキー粒子の効果は見受けられん。奇襲は成功だな。まもなく攻撃目標だ。クローバー隊各機、戦闘態勢に移行するんだ」

『分かってる』

  第二波戦闘機群、対地攻撃隊とは距離を置き先行したクローバー隊が速度と高度を上げ敵中へと突入した。油断していたのか補給待ちだったのか知らないがミノフスキー粒子は散布されておらずレーダーも赤外線もクリアだ。そのまま四機は敵の対空自走砲も対空ミサイルにも構わず敵の戦闘機に噛み付いた。

『交戦開始!』

『いいねえ、燃えてきた!』

  不意を突かれた敵の戦闘機ドップは次々と撃墜されていく。炎や黒煙を吹き出しながら規則的に重力に引かれていく鉄の塊を横目で見る。

  『くそ、なんだってフェディが!』

  ドップのパイロットが叫ぶ。叫んだ彼の背中には既に連邦軍の白いセイバーフィッシュが食らいついていた。

『助けてくれ! こいつ、まったく離れん!』

  翼をもがれたグリーンのドップが地面めがけて真っ逆さまに落下していく。

  僚機の少尉は必死に周囲を見渡すが、どの友軍機も連邦軍の戦闘機に追われ必死だ。反撃の余裕がある機など一機もない。

  ―警告。HUDが赤く染まりそう表示される。警告音は自己主張を繰り返した。

  メルヴィンは眼前に飛行するドップに無事ミサイルを叩きつけた。

  『制空権を確保した模様、敵対空ユニット撃破に移行する!』

  第二波戦闘機群が敵のレーダー圏内に飛び込むのを確認し、メルヴィンは機首を捻った。

  『やってやる!』

  グレーの航空迷彩を施したフライマンタ攻撃機が高度を上げ、フライアローもそれに追随する。そのやや後方に構えるのがマングース攻撃機である。

  マルチロール機としてのフライアローは対地攻撃も可能だ。護衛機のうち数機は対地ミサイルを装備している。

『これなら通常誘導が可能だ。奴らに本当の戦争を教えてやれ!』

『おうよ!』

『任せな!』

  最前を飛行していたフライアローが散会、降下しつつ対地ミサイルを発射した。ミノフスキー粒子もないのでデータリンクでよくわかる。発射されたミサイルは真っ直ぐ敵の対空自走砲へ向かった。哀れな目標は慌てて機関砲を乱射するも虚しくミサイルの爆発に飲み込まれる。

  『敵襲! 敵襲!』

  連邦軍にさらなる打撃を与えるべくして集結したジオン軍機甲部隊。虎の子MSザクに加え攻撃ヘリコプター、装輪偵察警戒車、MS支援戦車マゼラ・アタック、空挺戦車マゼラ・アイン、そして対空自走砲が待機している。その他トレーラー、兵員輸送車もだ。あとは航空部隊を待ちミノフスキー粒子の下で今までのように連邦軍を叩き潰せばよかった。

  しかし、先手を打ったのは敵方だと知る。鳴り響くサイレンとレーダーの反応、無線から伝えられる情報がそれを知らしめた。

『敵を視認した! 反撃を開始する!』

『敵はどこだ!』

『南! 南だ!』

『対空戦を展開する! 戦車や装甲車はさっさと移動させろ!』

『護衛機はなにやってんだ!』

  爆撃音が響いた。南方の部隊が攻撃されているらしい。モビルスーツ小隊は中央の隊にいるので交戦していない。

「航空基地に増援の戦闘機をよこせと連絡しろ、今すぐに! 対空兵器を展開させて、戦力にならない奴らは本隊に集合させるんだ。最悪のタイミングだぜ、まったく!」

『了解しました!』

  陣地中央にいる指揮車から命令が放たれた。

『こちらは航空基地だ。どうした?』

「敵の攻撃です! 増援の戦闘機を送ってください。敵の規模はこれまでにないものです!」

  オペレーター達が騒がしく連絡を始める。

「対空戦闘開始! 対空戦闘ができない隊は本隊に集合してください! ザクは本隊の防空に備えて下さい。FCSは対空でスタンバイ」

  ミノフスキー粒子は警戒機ルッグンが散布するのでルッグンが到着するまで使えない。ルッグンと増援の到着まで堪えるしかないのだ。司令官の若い男は歯を噛み締めた。

「耐えろ……!」

  爆音が鳴り響く。レーダーが使える従来のような戦闘では連邦軍は圧倒的であった。それに今は航空機で地上部隊を叩く作戦だ。地上の兵器は基本的に航空機に対し無力であるから、そもそも圧倒的に有利な状況なのである。

  元より確保されている制空権と対空装備があらかた潰れたのを確認するとマングース各隊は高度を下げた。大きなペイロードを利用したミサイルの嵐を起こす。戦車、陣地にそれらを撃ち込むと無誘導爆弾を投下する。コンピュータによって最適なタイミングで空に投げ出される爆弾は風や落下速度などの計算し尽くされた状況の中で落下し、見事目標を吹き飛ばした。しかし運悪く土を穿っただけのものもある。だが問題はない。爆風が人間を弾き飛ばす。破片が装甲車の薄い走行を貫く。

  更にマングース最大の兵装、75mm自動砲が火を吹いた。その弾丸は土を抉り、戦車の上面装甲を貫通し、乗員を千切り、歩兵の側を走っただけでも易々と吹き飛ばした。その攻撃の主は小口径の対空機銃ぐらいなら気にもしない。

  マングースはそしてミサイルを発射した。赤外線誘導ミサイルはマングースの翼から解き放たれるとブースターを吹かし全速力でマゼラ・アタックに向かっていく。そして、マゼラ・アタックの砲塔に直撃した。

  辺り一面を大まかに掃討すると、次の敵車両群を目指す。

『攻撃ヘリ!』

  データリンクシステムが誰がどの敵を狙うかを割り振り、フライアローの誰かがミサイルを発射した。二機の攻撃ヘリはスクラップとなり地表へ激突する。

  新たな車両群は対空防御を固めつつあった。放たれた二発の対地ミサイルのうち一発は撃ち落とされ空中で爆発四散した。ただもう一発は敵の真ん中に着弾し敵車両をスクラップへと変える。

『あーあ。対空戦車って高いのに』

  クローバー・トゥーが呟く。確かに対空自走砲や対空戦車といった兵器は高性能な電子機器とミサイル、機関砲を積んでいるため価格がかさばるのだ。敵だからそんなことは関係ないのだが。

  ビープ音が機内に流れた。ロックオン警報である。間もなくしてミサイル接近警報が叫びだした。メルヴィンは冷静に機首を曲げ旋回する。ミサイルは明後日の方向へ飛んでいき目標を見失った。そしてメルヴィンはミサイルを発射したと思われる装甲車にお返しとして機関砲の銃撃をほんのすこしの間だけ浴びせてやる。航空機関砲は連射速度がとてつもなく早いのでそれだけで十分であった。受けた装甲車は炎上し爆発する。

『よし! ここら一帯はあらかた燃やした! 次行くぞ!』

  久々の戦果に湧き上がる兵士たち。連邦軍の反撃の狼煙は、上がったかに見える。

『そろそろ敵の航空兵力も到着するのでは?』

『っ! レーダー照射を受けている。既に敵の警戒機がいるらしい』

  メルヴィンはモニターを睨んだ。さあ、自分たちの出番である。

  ジオン指揮車。無線通信によって次々と頭の痛くなる情報が詰め込まれていく。司令官は苛つきを隠せずに足踏みをしていた。

『衛生兵! 衛生兵!』

『向こうから来るぞ! ほら撃て!』

『畜生! 第三小隊がやられた!』

  既に南方の部隊は壊滅。十字に展開した部隊は窮地に陥っていた。

「司令! ルッグン到着しました! ドップもすぐ近くに来ています!」

  オペレーターが喜びのあまり表情を緩ませてそう言った。航空戦力、そして警戒機ルッグンがいれば百人力である。特にミノフスキー粒子を撒けるのは大きい。地道な抵抗を続けつつ航空部隊による反撃を開始。そしてミノフスキー粒子の蓑の中地上部隊は撤退する。そのシナリオを司令官の男は脳内に描いた。

「戦術データリンクシステムを接続、敵機の数と場所を教えてやれ。そして増援が到着したと、各隊に伝えろ!」

「はっ!」

『こちらは警戒機《ディスタント・アイ》。ミノフスキー粒子の散布を開始する。幸いこちらは風上だ』

「了解しました」

『こちらは第五飛行隊。貴隊を確認した』

「了解。増援感謝します」

  警戒機とそして増援の部隊から無線が次々と入った。

「ようし! 地上部隊は撤退を開始。制空権内、ポイント四〇七にて待機せよ」

  ジオン部隊は撤退へと傾いた。

  白いセイバーフィッシュの機内。メルヴィンは予測する。敵の警戒機と時刻、周辺の敵基地の位置からしてそろそろ航空兵力が増援に駆けつけてもおかしくないはずだ。クローバー隊に無線を飛ばした。

「我々は敵の航空機に備える。俺に続け」

『了解だぜ、隊長』

  クローバー隊各機は編隊を組んで飛行する。敵の基地の方角だ。すると案の定すぐにロックオン警報が流れた。

「敵は警戒機のレーダーを使ってミサイルを撃つはずだ。警戒機からのロックオン警報をオンにしておけ」

  戦術データリンクシステムと警戒機があれば、ミサイルを発射する母機はレーダーを照射する必要がない。そのため警戒機のレーダー照射を無視し続けると敵のミサイルに気付けない、などと言うことが起こりかねないのだ。

『クソ。こちらにも警戒機がいれば楽なのによ』

  警戒機の支援がない連邦の航空部隊は不利な状況にある。敵はこちらの射程圏外からミサイルを放つことができるのだから。

『あー、あー。こちらは地上のファット・フロッグ偵察隊だ。敵航空機を見かけたんでデータリンクで送信する。あの気持ち悪い形の奴を墜としてやれ』

  ディスプレイの自機のレーダー圏外に敵航空機のアイコンが表示される。

『味方の地上部隊だ! これでこちらからの攻撃が可能になります!』

  クローバー・フォーが歓喜の声を上げる。

「こちらはクローバー隊。ありがとう」

『さっさとスクラップになってもらうとしよう』

『是非そうしてくれ。中継と中間誘導もこちらでやる』

  地上部隊との交信を終えると、メルヴィンはミサイルを発射した。

  ミサイルはまっすぐ飛んでいった。光の尾を引いたその矢は戦術データリンクシステムによる座標を目印に飛翔し、やがてレーザー光線を補足する。チャフやフレアをめちゃくちゃに放出し欺瞞しようとするルッグンだったが、ミサイルは自信を持ってその機に突き刺さった。と同時に爆発が起こり、メルヴィン達のディスプレイから反応が消える。

『ナイスだ!じゃ、俺たちはさっさと撤退するぜ!』

  交信終了。データリンクも解除された。これで敵の増援部隊とも互角の状況である。その時勝敗を分けるのは、自分たちの腕である。

  警戒機《ディスタント・アイ》の撃墜はすぐさまジオン指揮車へと伝えられた。

「《ディスタント・アイ》ロスト! 撃墜されたと思われます。ミノフスキー粒子濃度も変化ありません」

「なにっ! ……ひるむな! 撤退戦を継続しろ!」

  司令官が指示すると、指揮車もエンジンを唸らせて走り始めた。彼は上部ハッチから外の様子を窺う。

『フェディ共に鉛玉のプレゼントだ!』

『おい! ありゃなんだよ、警戒機が撃墜されたのか!』

  相変わらず混み合っている通信回線だ。ヘッドホンを外し首にかける。そして士官用の双眼鏡を手に取り戦術的には近いが体感的にはずっと遠い位置でもがく友軍を案じた。

  『ひっ……!』

『ちくしょう、一つ目だ!』

『落ち着け! 120mmとミサイルだけだ!』

  攻撃隊が敵のモビルスーツと交戦を開始したらしい。モビルスーツはその戦闘能力だけでなく、十八メートルの巨人という見た目だけで既に連邦軍の兵士にトラウマを植え付け、そしてそれをプロパガンダにも使えるという側面があった。現に、連邦軍兵士は必要以上に焦っている。

  ザクは120mmのマシンガン―普通に考えれば砲―を連射した。火器管制は対空防御。未来位置を予測した偏差射撃を開始したのだ。

『一応距離を取れ。当たるなよ』

  対地攻撃隊の無線に耳を傾けていたメルヴィンに、クローバー・トゥーが呼びかける。

『大尉、こっちも敵さんが見えてきたぜえ』

  敵編隊がメルヴィン達のレーダー圏内に入った。敵影はどんどん増えていく。

『なんて数だ。四、八……全部で十四機!』

『敵さんも本気だな』

「クローバー・ワン、交戦。ミサイル発射」

『クローバー・トゥー、交戦!』

『クローバー・スリー。エンゲージ!』

『クローバー・フォー、交戦します!』

  すぐさま敵を補足し各機がミサイルを放つ。ミサイルはそれぞれ違う目標へと向かっている。そしてほぼ同時に、敵戦闘機ドップもミサイルを撃った。

『回避!』

  メルヴィン達は編隊を解いてそれぞれが回避運動に移る。幸いミノフスキー粒子はなかったので撃ちっ放しが可能である。隊員たちはロックできるだけの敵機にミサイルを撃ちまくった。クローバー隊に被弾機はなし。しかし敵の戦闘機は小回りがきく小型機なので回避性能がいいらしく四機の損失に抑えていた。

「敵機撃墜」

  戦果を確認し、すぐさまドッグファイトに突入する。

『攻撃隊付きの護衛隊! 現在我々は交戦中だ! 絶対に攻撃隊まで行かせるなよ!』

  クローバー・トゥーが叫ぶ。そしてそれに護衛隊の隊長が応えた。

『了解だ。こちらアロー・ワン! クローバー隊を抜いた奴が来たら必ず墜とせ!』

  ミサイルをかわしたメルヴィンは一機の目標を絞る。回避運動中のドップだ。相手に向きを合わせ後ろを難なく取り、ミサイルを撃ち込んだ。ミサイルを突き刺された緑の機体は爆発四散した。

『敵が多い! 警告音が止まんないぜ!』

  トゥーが興奮した声で笑った。戦闘機乗りにとって、とてつもなく楽しい戦場なのだ、ここは。

『イェア! 楽しいね!』

  もとより戦闘狂―もといトリガーハッピーの向きがあるスリーはさらに興奮していた。彼の機が無理な機動を効かせて敵機を追撃している。

「楽しんでる暇はないぞ」

  しかしメルヴィンはあくまで冷静だ。彼はまた目標を選定する。今度はトゥーを狙い飛行するドップだ。横方向から急接近し機銃を浴びせる。充分だった。

  メルヴィン達クローバー隊は次々とドップを撃ち落としていく。追撃するドップは追いつくことなくかわされる。ドップのパイロットが今までの自分達の戦果はお遊びのものだったのではないかと錯覚するほどの力の差であった。

  ジオン軍パイロット、エディは操縦桿を握りしめた。ミノフスキー粒子散布下での有視界戦闘を意識した奇形の戦闘機ドップのコックピットの中に彼はいる。そして、現在は激戦の真っ只中にいた。自分のような未熟なパイロットが今生きているのは奇跡だ。たまたま敵のパイロットの目につかなかっただけ。誰も彼もが連邦のパイロットに敗れ死に行くこの地獄でエディは生き残る方法を模索していた。

『回避! 回避!』

『ダック・トゥー、後ろにつかれてるぞ!』

『やりやがったなあのクソ野郎!』

『数の差はどうなってる! 俺たちは有利じゃないのかよ!』

  遂に覚悟を決める。まずは……そう、あいつからだ。あのグレーの機体。エディはドップを加速させ敵機を追尾した。回避運動にもなんとか噛り付き、レティクルに合わせて機関砲の引き金を―

  ―衝撃。自分の身になにが起こったのかも分からぬまま、エディは横腹に向けて発砲された機関砲によって蜂の巣にされて死んだ。

  その時、夜が明けた。

  眩い日光が差し込み目を眩ませたジオンのパイロットが、またも撃破される。

  だがその中でも、連邦の機体がミサイルを撃ち尽くすと戦力差は埋まるだろうとジオンのパイロットは希望を持って予測した。機体数が多い分ミサイルはこちらの方が多い。機関砲のみの敵となら練度の差を埋められるかも知れない。勝つことが目的ではない。味方の撤退まで時間が稼げればそれでいいのだ。

  『また墜としたぞ!』

  クローバー・スリーが叫んだ。クローバー隊総員での撃墜数は今の所五機。ミサイルの残弾数はゼロになったがまだ戦えるはずだ。フライアローもいる。

『こちらアロー・トゥー! 新たな反応だ―速い!』

『会敵まで十秒!』

  攻撃隊から送られてくる情報。それは一つの結論を意味していた。

『チクショウ! こっちは囮かよ!』

  トゥーが叫ぶ。メルヴィンは次の手を脳内で整理した。

「俺たちは……ここを食い止める」

『ラジャー!』

『ウィルコ!』

  クローバー隊各機の応答に混じり、攻撃隊の通信が入る。

『黒いドップだ! いや……ドップじゃない! なんだあいつは!』

『アロー・トゥーがやられた!』

  どうやら奇襲の別働隊は手練れのようだ。できればそちらの援護に向かいたいがここを離れるわけにはいかない。早くここの敵を殲滅し応援に向かわなくては。

『さっさとやるぞ!』

  メルヴィンは降下したドップに目をつけた。手当たり次第である。やや斜め上から急接近し機関砲弾を突き刺す。どうやらドップは耐弾性が低いらしく通常より少ないはずの弾数で撃墜が可能だった。

  クローバー・フォーは後ろから追ってくる敵機を確認した。やや機首を上げ急減速する。ドップは慌てて減速するがセイバーフィッシュを追い抜かしてしまった。その瞬間、逃さずフォーは機関砲を撃ち込んだ。

『上手くなったじゃねえか!』

  そう褒めるクローバー・トゥーもドップをしつこく追いかけ回す。遊んでいるようにも見えるが、無駄な時間を食ったわけではなくすぐに止めを刺した。

  クローバー・スリーはまず一機に機関砲の銃撃を浴びせ、そしてその機の前を飛んでいた機体にも食らいつく。鮮やかに素早く二機を屠って見せた。

『そろそろ弾数が限界です』

  機関砲の弾も残り少なくなってきている。敵の数はまだ四機が残っていた。

  しかし敵の四機も疲労が溜まっているようだ。好戦的な行動は避け、距離もとっている。

  『だ、誰か……! 助けてくれ!』

  その時、黒いドップ―否。機種不明の黒い戦闘機がマングースに襲いかかった。いくら装甲を装備し耐弾性に長けているとはいっても限界がある。スピードによって威力の増した機関砲弾によって、瞬く間に炎に包まれ撃墜された。

『誰かあいつを止めろ!』

『フー・ファイターだ……』

  黒い戦闘機と通常のドップが二機。彼らの戦闘能力は明らかにエースと呼ばれる者たちのそれであり、既に多数の連邦軍機を葬っていた。

「俺とクローバー・トゥーは先に向こうへ行く。二人はここであの四機をやれ」

『了解!』

  二倍の機数だが彼らならやれる。そう信じメルヴィンとクローバー・トゥーはスリー、フォーを残して攻撃隊へと向かった。エンジンの推力を最大まで上げ突進する。

『俺がやってやる!』

『右旋回! 右! くそっ……追いつかれる!』

  黒い機体はまた一機を撃墜する。それに追随している二機のドップもかなりの腕だ。

「黒い奴をやる!」

  メルヴィンは捕捉、そして加速し黒い機体を追った。速いがなんとか追いつかせる。そして、機関砲を発射するが―かわされてしまった。今度は逆に黒い機体が宙返りをして自分を狙う。なんという旋回性能だ。まるでその場で回ったように見えた。メルヴィンはフレアを撒き散らしながら旋回し相手を惑わす。メルヴィンと黒い機体は互いに競い合い、双方の飛行軌跡は交錯しねじれ歪み、ローリング・シザーズを描いた。メルヴィンは敵が自分の背後を狙い宙返りするタイミングを狙う。その最中、確かに感じ取った。相手の感情を。

「こいつ……楽しんでる」

  黒いその機体は明らかに楽しんでいる。しかし、そう思うのはメルヴィンもまた、楽しんでいるからかも知れなかった。そんな風にメルヴィンは自分を客観的に捉える。命のやり取りの中、不意に楽しさを感じてしまう事がある。しかしそれは死神に手を引かれていることを意味する、そうメルヴィンは自制してきた。

  宙返り。そのタイミングを逃さずメルヴィンはコブラと呼ばれる戦闘機動を繰り出す。コブラとは水平飛行中、進行方向、高度を変えずに機体の向きを変えるものだ。セイバーフィッシュは前に進みながら上を向く。そこには宙返り中の黒い機体が見えた。メルヴィンの前方には自分の上を見上げる敵のパイロットが見えた。しかし黒い機体は上手く旋回しセイバーフィッシュの機関砲をかわす。

『面白い奴だ。次は仕留める』

「……死ぬのは、お前だ」

  黒い機体はあろうことか無線回線を開いてきた。そして宣戦布告を飛ばすと、メルヴィンの返答に反応もせず飛び去っていってしまった。あまりのスピード、そしてセイバーフィッシュが無理な機動をしていた最中だった為今から追いつくのは無理だろう。

  気付けば他のドップやジオン地上部隊も撤退を開始している。

  疲れ切った声で味方のパイロットが呟く。

『勝った、のか……?』

『ふざけんな。これで勝っただと?』

  間も無くして友軍の部隊が進入した。61式戦車や歩兵戦闘車の地上部隊だ。特に戦闘もなくそのまま制圧する。

  こうして、地球連邦軍は多大な犠牲と引き換えにこの要所を手中に収めたのだった。

増やして欲しい要素はなんですか?

  • 人間ストーリー
  • 戦闘シーン
  • モビルスーツ
  • 普通兵器
  • 歩兵

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