ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結> 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
ちょくちょくこちらも改良入れたいと思います。
再筆版 一話:異聞の漂流者
「もう彼らが争うこともないだろう」
もう何度目になるだろうか。
あの機体とよく似たコクピットを眺めながら、達成感が形になったようなつぶやきを漏らす。
地球を立ってはや5年。刹那に郷愁という感情は湧かなかったし、常にすべての情報を見ているティエリアは猶の事だ。
地球に金属生命体ELSが現れ、誤解から生まれたELSと地球人類との争いは刹那とクアンタによる対話で終結した。
それからというもの、こうして刹那はELSと共に外宇宙を巡っている。
「マリナ・イスマイールやフェルト・グレイスが会いたがっていたぞ」
逆に、地球のソレスタルビーイングのメンバーは、刹那に会いたがっているようだ。
「少なくともフェルトとは音声通話は時々行っているはずだが」
「恐らく、直に会いたいということだろう」
刹那はティエリアの考えに首をかしげる。なぜ音声通話ではダメなのだろうか。音声通話と直に会うことに何の違いがあるというのか。
「僕もうまく説明は出来ないが・・・」
ホログラムのティエリアも、説明を試みはしたのだろうが、結局首をかしげている。
つまり、このクアンタのコクピットにいるメンバーでその答えを持っているものはいなかった。
「まあいい。次の音声通話で彼女に理由を聞けばわかるはずだ。今はそれよりも」
「ああ。次の星系へ向かう」
今、刹那の体は金属生命体ELSと融合し、どんな環境でも生きていけるようになっている。
特に、地球どころではない多様さの生態系を持つ別の惑星の生物と対話するためには、必須の能力と言えるだろう。
「む・・・少し待ってくれ、刹那」
「何かあったのか?」
もう何度も繰り返した事。クアンタのビットを使った量子ワープゲートを展開しようとして、ティエリアがストップをかける。
「ELSが脳量子波で呼んでいる地点なんだが・・・」
ティエリアは考える人のように顎に手を当てて思案している。
実際には、月の量子演算型コンピュータ、ヴェーダの処理能力をフルに使って目的地の解析を行っているのだろうが・・・
「アンカーの打ち込みは完了した。行く分には問題は無いんだが、あちら側からこちら側へは情報が帰ってこない」
「どういうことだ?」
今まで、このような事は無かった。
「このままでは、あちらからこちらへ帰ってこれないかもしれない」
「問題ない。そこに争いがあるなら、俺が破壊する」
帰ってこれないかもしれない事を、おそらく普通の人間は気にするのだろうな、とティエリアは、目の前の男を見て嘆息する。
「そうだったな。お前は・・・」
「ああ。俺がガンダムだ」
止めても止まらないとは正にこの事か。諦めに近い感情で、ティエリアはワープの準備を再開する。
「恐らくこちらと通信もできないだろう。だが、必ず帰ってこい」
クアンタに表示されるティエリアは、ヴェーダとのラグの無い量子通信に依るものであるため、当然通信が断絶すればクアンタには表示されない。
「もちろんだ」
「お前が帰ってこないと・・・」
「・・・?どうかしたのか」
突然お茶を濁したティエリアを、刹那はよくわからない物を見る目で見ている。
流石にミッション前に疑問を残すのもどうかと説明を試みるが、どうも上手く言語化できない。
「僕にもよくわからない。ただ、君が帰ってこないかもしれんない思うと、先ほどの二人のことが頭に浮かんできた」
「それは、俺にもよくわからないな。ロックオンならこんな時良い考えをくれるのだろうが・・・」
二人の脳裏に、あの軽薄で、芯のある、同じコードネームだが違う二人の男の顔が浮かぶ。
「僕らの成長のためにも、この答えは君が帰ってきてから二人で答え合わせをすることにしよう」
「了解した」
我ながら、まだまだ人間らしいとは言い難いかな。
そう呟いて笑うティエリアは、まさに人間だと、あの時のロックオンならそう言うのだろう。少なくとも刹那はそう思った。
「刹那・F・セイエイ。対話を開始する」
銀色のELSを纏い、緑色の光を振りまいて、クアンタは虚空へ消えた。
◇◇◇◇◇◇
「トール、まだ着かないの?」
「まだそんなに進んでないだろ?」
まあ自分がきついのはこのPCが入ったリュックを背負っているからなのだろうが。疑問に疑問で答えるな。そう言っていたのは誰だっただろうか。少なくともトールでは無かっただろうとキラは考える。
四六時中彼女の事しか考えていないと言われてもしっくりくるのだが・・・
「今失礼な事考えてただろ」
「いや全然?」
少なくとも勘が良いことは確かだ。人が考えていることは大抵感づくし、じゃんけんをしても勝ったことがない。
今こうして町はずれの
「そもそもどうして歌のうまさなんか知ってるのさ」
話を聞いていてまず疑問に思ったのはそこだった。普通、出会ってすぐの人の歌のうまさなんて知らないだろう。
「ツーリングしてたらバイクの電源切れちゃってさ」
泣く泣くバイクを転がしていたら、偶々休憩時間だったその人が、歌を歌いながら座っていたらしい。
バイクを充電させてもらっている間に、仲良くなって歌を教えてもらったり、逆に普段あった何でもないことを話したりして、しかもその人はそんな話に驚異的に食いつきが良いらしい。
「面白い人だから紹介しようと思ってさ。他に友達いないだろ?」
流石に肯定しかねるので苦笑いを顔に張り付ける。
ちなみに僕がその人に興味を持ったのは、機械の分解がすごく上手くて、しかも割と機械工学にも詳しい。
という部分だった。
最近カトー教授から出された課題が、どうしてももっと改良できる点があるような気がするけど、どうしてもその点が思い浮かばないからだ。
そんな時は他人に話を聞くに限る。
トールはそういう面では役に立たないし、先輩のサイでも駄目だ。
その点、今から会いに行く人は、トールの話しぶりだと機械系への造詣は相当だし、プログラムばかり作ってきた僕にはない視点があるんじゃないか。
そう思っての事だった。
「そういえば」
「なんだ?」
今ふと思ったんだけど
「その人今日暇があるの?」
「そこは抜かりない」
きっと将来は出世するんだろうなあ。
どこかの秘書にでもなれるんじゃないかと思いながら、平坦な。故に苦しい道を自転車でこぎ続ける。
なぜ今日に限ってトールの車の免許が没収されているのか。多分ミリアリアが何かやってたんだろう。
だってこの前も・・・
「着いたぞ」
ミリアリアが運転中にも関わらずトールに必要以上に抱き着き、事故を起こしかけた時のことを思い出していた途中で、到着が知らされる。
「あれ?工場(こうば)じゃなかったの?」
何も考えずにトールに着いてきたけれど、そういえば途中から道が違ったような気がする。
「うん、次は家に来て良いって言ってたから・・・」
普通の家だ。
ガレージみたいなものはあるが、小さい。家の前の駐車場には、四人乗りの車が一台止めてある。全体的に四角形で、多分一人で暮らすには丁度いいんだろう。
トールは躊躇なく呼び鈴を押した。すぐに、扉の向こうで少し音がして、中から人が出てくる。
「トールか。そっちは・・・」
「キラですよ。ほら、フレイに」
「ちょっと!」
どうやらとんでもないことを吹き込んでいるらしい。あれはタイプの話だった筈なのにいつの間にか僕がフレイを好きだった事になっているのは許しがたい。
トールとは後で話をする必要がありそうだ。
「キラ・ヤマトです」
「ソラン・イブラヒムだ」
差し出された手を握って、ようやくはっきり顔を見た。
中東系の顔立ちと褐色の肌をしていて、髪はくせ毛。瞳は昔見た宝石のタイガーアイのような金に近い褐色だ。思ってたよりずっと整った顔をしている。長身で細見だけど、手からは力づよさが伝わってくるようだ。
多分そんなに歳は変わらないと思うけれど、見た目とは違う年季の入り方を感じる。
「家に入ってもいいですか?」
「ああ」
そう言われると、トールはお邪魔しまーすと言って部屋に上がった。
僕も、お邪魔します。そう言って上がらせてもらう。
部屋には、冷蔵庫とシンクとベッドがあって、小さい箪笥と、机と・・・ああ、窓際に花が飾ってある。小さいけれどきれいな花が一輪あって・・・
それで部屋にあるものは全部だった。
「生活感無いなー」
無遠慮な感想だとは思うけど、言われてみればその通り。
一応PCと端末は持ってるらしいけど、必要最低限の物しかなくて・・・
「来客があればお茶を出した方が良いらしいな」
冷蔵庫から出したらしい、緑色の飲み物が机に置かれた。オーブではよく飲まれてる緑茶だ。
「昨日はミリアリアがですねー」
遠慮と言うものが無いのか、トールはすぐにお茶を飲んで昨日ミリアリアが車の運転中に猫を見つけて・・・と、猫は助かったが免許が没収された顛末を話していた。
ソランさんはお茶を飲みながら穏やかに話を聞いているので、多分楽しんでいるんだろう。
流石に飲まないのも失礼かな、と一口飲んでみる。苦みが無くてすっきりしてて・・・飲みやすい。
自転車を運転した疲れもあってかすぐに一杯を飲み干してしまった。
丁度飲み終わったところで、トールがこちらへ話を振ってきた。
「キラ、なんか用事あるんだろ?」
まあこんな大きなリュックを背負ってくれば何か用事があるんだろうとは思うよね。
「実はこれを見て欲しいんですけど・・・」
立ち上げたPCの画面には、今教授から出されている課題が映る。
二足歩行系ロボットの制御プログラムだ。ソランさんは数分このプログラムを眺めていたが、ぽつりとつぶやいた。
「MSの制御プログラムか?」
カトー教授がモルゲンレーテのMS開発部と連携してるってことはあり得るかな?
中立国と言っても自衛の力は必要だろう。
「MSかは聞いてませんけど・・・一応二足歩行ロボットを制御するプログラムです」
「基礎からすべて作ったのか?」
「いえ、基礎はうちの教授からもらったものです」
そう言うと、すぐにPCの画面をスクロールしてある部分を指す。
「ここなんだが、おそらく元々上半身があることを想定した設計だ。
多分、上半身でバランスをとれる分、下半身の設定が今一つだったのを、そうと知らず下半身だけで成立するように書き換えたからシミュレーションが上手くいかないんだ」
納得がいく答えだった。
けれど、一つ疑問が立ち上がる。
「ソランさんはコーディネーターなんですか?」
どう考えても普通の人間にしては情報の処理が早すぎる。
4×4の運動関数の行列型パラメータを一瞬で読み取れるのは普通コーディネーターだと思う。
「いや。俺はナチュラルだ」
しかし本人によると違うらしい。
今まで出会った人の中では一番すごい人なんだけど、本当にナチュラルなんだろうか?
「別に、コーディネーターがすべてのナチュラルより優れているわけじゃない。何か一つくらい、コーディネーターより優れたナチュラルがいてもおかしくはない」
まあ、確かジョージ・グレンも銀メダリストだし、言われてみればその通りだ。
ここで、冷蔵庫を(許可を得て)漁っていたトールが奇声を上げる。
「どうしたの?」
「レポート今日の4時までじゃん」
今の時間は3時30分。もっと言うなら、教授は四時から出かける予定があるとか。
まあ1時間はかけて来ているから、トールがレポートを提出するのは難しいだろう。
僕は冷たく来年は後輩だねと言ったが、顔が青くなっていくトールを見かねたのか、ソランさんが車で送ろうと言ってくれた。
僕も載せてくれると言うから、トールと一緒に車に乗り込んだ。
いい人だな、と僕の中では印象が固まった。
元一話と入れ替わりました
7/21追記
心情が増えた代わりに環境の描写の少なさが目立つような・・・
続きは再筆版二話としてお読みください。