ガンダムSEED×00~異世界にイノベイターは何を思う?~<完結>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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来週はお休みしまーす。
ではプラントの議長がやばい人に変わったところから行きましょー


41話:スピットブレイク・開始

「では賛成多数により、パトリック・ザラをプラント評議会議長に任命いたします」

「ありがとう、エザリア女史」

 

アスラン・ザラがプラントへ帰還したこの日、プラントでは評議会の議長選挙が実施され、圧倒的な支持率でアスランの父、パトリック・ザラが当選した。

もっとも直接民主制ではなく、代表が投票するだけであるため、シーゲル・クラインの政治体制の先が短いと評議員が悟った瞬間から金の動き、スキャンダルなどなど、日の目を見ない活動が数えきれないほどあった。

そうして、裏工作を勝ち抜いたのは当然というべきか、タカ派にして評議員の中で最大の勢力を持つパトリック・ザラだったのだ。

 

プラントのコーディネーターたちは狭い世界に皆共通したコーディネーターである、という共通点をもって生活しているため、事を大事にすまいという心理的傾向を持っている。

投票日前夜に、パトリック・ザラとシーゲル・クラインがお互いの事を褒め合いながらエビデンス01の前で語り合ったのもそういった気質からかもしれない。

 

そう、昨日の語らいを思い出して、自分よりも上手くやるだろうと思っていたシーゲルは、落ち着いた心持でパトリックの就任演説を待っていた。

場所が首都の記者会見場から議会の円卓に移り、席について悪友のいない空席を見つめていると、エルスマン氏とジュール女史が拍手を始めた。なるほど、ザラ派の筆頭二人ならば行動予定も把握しているのだろう。シーゲルも合わせて拍手を始めた。

一分ほどして議場と外を隔てる扉が開き、遂に新議長が現れた。拍手に鷹揚に手を振りながら、もともと自分の指定席だったシーゲルとは真向いの席に座る。

 

「では、就任演説を始めさせてもらおう」

 

始めは、意味の無いおためごかしだ。そんなことはみんな分かっている。それからあまり中身の無い序文が5分ほど続き、いきなり言葉に熱が入り始めた。

これだ。結局、この熱意の籠った部分にこの男の真意がある。

 

「そして、最後に・・・オペレーション・スピットブレイク。その攻撃目標をパナマからアラスカへ変更することを宣言する!」

 

今この男は何と言ったか。つまり、連合の本部を急襲し大打撃を与える、無いし壊滅させると。この際人道的な問題は良い。言い換えれば、ナチュラルを徹底的に弾圧するということだ。それは現状既に厳しい資源が枯渇するということに他ならない。

代替案が有るのならば良い。だが、もしパトリックが妻の敵に眼が眩んでいるというのなら止めなくてはならない。他ならぬ前議長として、そして以前からの悪友として。

 

就任挨拶は終わり、プラント内での研究資金のフローなど、内容は普段の会議に戻っていった。そこへ、男性秘書官が入ってくる。何事かとパトリックが問うと、書類をカバンから取り出してパトリックに見せた。

 

「ふざけた落書きだ!アスラン・ザラに後で執務室に来るよう伝えてくれ」

 

その後、スピットブレイクの作戦会議において連合がモビルスーツの量産に成功したという恐るべきニュースが伝わってきた。情報元はエルスマン氏の子息、ディアッカ・エルスマン。情報の信頼性は高いどころか、証拠の写真すら撮ってきている。

 

「新型と言えばアマルフィ氏、新型の開発はどうかね」

「ゲイツはもう完成間近です。もう1週間ほどでロールアウトできるでしょう。スピットブレイクにおいても隊長クラスには配布できるはずです。」

 

この報告に、明らかに安堵した表情の議員もいたが、報告はまだ終わっていない。

 

「で、もう一つの方は?」

「お言葉ですが、議長。我々は核での報復を捨てたのです。そのためのNジャマーなのだ。それを無効化してモビルスーツに転用するなどと・・・万一奪われでもしたら、我々は再び核に怯えることになるのですよ?」

「ZAFTの最精鋭に持たせる分には問題ありますまい・・・そうですな、緋蝶・・・ハイネ・ヴェステンフルスなどどうでしょう。あれはまさしく我々コーディネーターの希望と言えましょう!」

 

新型のMS開発は、量産型には目途がついていた。だが、トップエース用の最新鋭機はその倫理的な観点から開発が遅れていた。撃破された際の核汚染、奪取された場合の技術盗用。危険性も大きすぎると。

だが、戦況が厳しいことも事実。現行のバッテリー機ではいずれ数の力で連合に押し切られかねないと提言したのはユーリ・アマルフィ本人なのだ。

 

「失礼します、議長。クルーゼ氏が例の件だといって取り次いで欲しいと・・・」

「そうか・・・よし、通せ」

 

再び扉を通って現れたのは、パトリック・ザラの善き手足。ラウ・ル・クルーゼその人だ。今回も胡散臭い仮面を着けてはいるが、書類をいくつか抱えており、ザラ議長に一枚を手渡した。

 

「アマルフィ氏もどうぞ・・・連合の新型量産機の予測スペックです」

「・・・これは!」

 

そこに記されていたのは、ジンでは相手になるまいと思われる驚愕のスペックの数々だった。中でも・・・

 

「なんですか、この反応速度は。本当にナチュラルが乗っているのですか?」

 

反応速度。モビルスーツを操る上で生命線とも言える能力だ。この反応速度を高い水準で備えているため、コーディネーターは圧倒的物量差の連合と戦争が出来ていたのだ。

だが、この資料が確かなら、ゲイツの量産は急がれなくてはならないことを示している。

そして、最新鋭機もだ。

 

「分かりました・・・もはや、戦況は予断を許さぬものらしい。それであれば、フリーダムとジャスティスを解禁しましょう。実は・・・既に完成は間近なのですよ」

「ふむ・・・大事をとって伏せていたと?」

 

こくりと頷いたアマルフィ氏を見て、パトリックはニヤリと笑った。

 

「そういうことであれば、完成を急いでほしい。スピットブレイクにて多大な戦力として貢献してくれることだろう」

 

その後、僅かに一日の組み立てにプラントの労働力の相当数が割かれ、フリーダムとジャスティスは完成した。

砲戦機であるフリーダムはディアッカ・エルスマンに、白兵戦機であるジャスティスは、本人がアスランへ譲ってほしいと言いはしたものの、もう一機がロールアウトされ次第受領されると聞かされ渋々イザーク・ジュールが受領した。

 

肝心のアスランはどうなったのか?話は議会当日に遡る。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「只今帰投しました、議長」

 

円筒形の水槽がライトアップされ、ブクブクと踊る泡を照らしている。羽クジラの化石、エビテンス01もレプリカが置かれているが、味気のない調度品や照明と一緒におかれていると妙な一体感があった。

そうして執務室は落ち着いているというのに、議長、パトリック・ザラが醸し出す雰囲気は剣呑そのものだった。

 

「アスラン・ザラ、なんだ、あの書類は」

 

そう、評議会議長、パトリック・ザラに向けられた降伏勧告。評議会の即時解散とプラントに関連する資金の変換と、降伏条件としては至極真っ当だ。

その心情を考慮しなければ。

 

「お前は、降伏などあり得ると本気で思っているのか」

「いえ、自分はそのようなことは」

 

あくまでも、この場では一兵士と議長。それをわきまえた息子の物言いに異論は無かった。

だが、言っておかねばならぬからと敢えて父親として口を開いた。

 

「アスラン・・・お前の母は・・・レノアは、いや、レノアに限った話ではないが、ユニウスセブンの死者はプラントを連合から守るために死んだのだ。それをみすみす明け渡すなどと・・・二度と口にしてくれるな。いいな?」

「分かりました・・・父上」

 

満足のいく返事だった。実に優秀な子だ。

 

「ではアスラン・ザラ。戦場に戻る準備は良いかね?」

「申し分有りません、議長」

「それと、先程の書類、決して外では漏らさぬよう。厭戦派の連中と内乱を起こしていては勝てるものも勝てまい。では行ってよし」

「はっ」

 

敬礼して退出するアスランを、パトリックは少しだけ見ていたが、すぐに書類に意識を戻した。そうして10分ほどは事務仕事をこなしていたが、ふと電話をとる。

 

「クルーゼか?先程の報告はいいタイミングだった。礼を言っておく・・・ああ、そうか。スピットブレイクでは戦果を期待しているぞ。ではな」

 

アスランはこの日すぐにプラントを発ち、スピットブレイク決行前日にフリーダム、ジャスティスと共にビクトリア宇宙港に到着した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

連合のアラスカ本部では、かの盟主が会議を召集していた。

 

「して、なにようですかな、理事。今話し合うこととは」

「私の内偵が調べたところによると、この数日のうちにパナマかここ、アラスカに大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性が高いと報告が上がっています」

 

それは、将軍達にも報告が上がっていることだった。ただ、続く言葉には度肝を抜かれた。

 

「これは僕の読みですが、奴ら、核を動力源にしたモビルスーツを使うのではないかと考えています。是非これを鹵獲したい」

「なぜそのような結論に?核を禁じたのは連中でしょうに」

 

この質問に、大袈裟な手振りで理事は答えた。それは着ている服が明るいだけに目を引いた。あるいはそういった狙いで水色のスーツなのかもしれない。とにかく答えは出された。

 

「数日前、私が出撃しましたが、あの時わざとこちらの量産型をお披露目しました」

「その心は?」

「こちらの統制具合、機体スペックがわかるはずです。そして、奴らは焦る。こちらが最低でも同じレベルのモビルスーツを奴らより多く手にいれたことにね」

 

ここまでで、その場の全員が理解した。

 

「それで、現行機を短時間に上回るために核を使うと」

「交渉材料としてNジャマーの無効化装置を既に作っている可能性は高いですな」

 

それで、どうやって?もちろん手段は用意しているのだろうが、それも全員が思ったことだった。

 

「理事は、既に手段はお持ちだと?」

「2つ有ります。1つはアークエンジェルの戦力をぶつけます」

 

既に、アークエンジェルの重ねてきた戦果は周知のものだ。そして、理事はチームワークから生まれた戦力を分散するような愚は犯さない。

 

「彼らには追加で設備を与えています。かつ、敵の予想戦力も伝えてある。遊撃戦力として戦場を好きに回らせ、核動力とおぼしい機体が来たとき適宜当たらせましょう」

「では、もう一つは?」

 

その質問に、アズラエルはふふっ、と笑った。

 

「それはいざ捕獲の時にお見せしましょう。ウチの技術部の実力が分かりますし・・・兵器が持ってて嬉しいだけのコレクションではない事をお見せしますよ」

「ははは、基地を潰すはめにならなくて助かりますな」

「左様。理事には頭が上がりませんな」

 

連合の作戦会議は、終始アズラエルが仕切っていたものの、それでいて完成された効率的会議が行われていたのは彼のカリスマと実務能力の証だろう。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ニコル!」

「アスラン!無事でしたか、良かった・・・」

 

アスランにニコルが抱きついた。仲の良い兄弟に見えなくもない。または兄妹だが。

 

「心配したぜ、隊長さん」

「ふん、独断専行は控えろよ」

 

お前が言うか、そう言ってイザークに殴られるディアッカを見て、アスランは笑っていた。

 

「はは、すまない。これからはちゃんとチームであたるよ。それとニコル、そろそろ離して」

「すみません、つい」

 

なお、ZAFT士官学校では女子生徒からどっちが、などと良く言われていた事をここに記しておく。

 

「で、隊長さんのことだから作戦の要項はがっちり読み込んでるんだろ?」

「ああ。それと、実は足付きの出撃予想ポイントをリストアップしてみたんだ」

「どうやって勝てばいいんだかねえ」

 

それは士気を下げるため余り誉められた発言ではないが、アスランはむしろ笑った。

 

「勝てはしないだろうな。けど、俺たちが足付きを引き付ければそれだけ作戦の成功率が上がるはずだ。無理に勝ちにいく必要はない」

 

だんだん頭が柔らかくなってきたな。そうディアッカは思った。以前は冗談の一つも通じない岩石のような男だったが、今では作戦を自分の都合の良い方に解釈できるくらいには変わってきている。

 

「まあ隊長がそういうなら仕方ないな」

「ディアッカ・・・」

 

そんな隊長になら、まあ精一杯尽くしてやるのもやぶさかではない。

 

「じゃあちゃっちゃとプラン組んじまおうぜ」

「そうですね」

 

スピットブレイクは、地上部隊と降下部隊に戦力が二分されている。主戦力は降下部隊だが、地上部隊が戦える場を用意しておかねば戦力が発揮できない。まして、報告にも上げた通り敵にはこちらと互角のモビルスーツ戦力が有る。いくらZAFTのパイロットが優れていると言っても、戦力差が100対1などとなっては勝ち目がない。

だからこそ、先に足付きと戦った時のような仕掛けが必要になってくる。

 

「つっても今度は時間がなぁ」

「明日が決戦ですからね」

「ふははは、やはり俺達が前線で暴れるしかあるまい!」

 

そう言ってヘルメットを小脇に抱えているのは、ジャスティスを受領したイザークだった。

 

「いや、そりゃ有効だろうけどよ」

「アスラン!シミュレーターで戦え!俺と決着をつけるんだよ!」

 

腕を引っ張って連れていかれたアスランを見て、ニコルが呟いた。

 

「頑張ってください、ディアッカ」

「ああ。イザーク(あのアホ)には任せられん」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

来る攻撃の予想された日。そこはアラスカ基地のモビルスーツドックだった。

 

「おぅ、キラ、準備は良いか?」

「マードックさん・・・」

「どうだ、その連合から支給された新装備、ニュートロン・ディスターバーフィールド射出装置は」

 

それは、現在ストライクの右腕に装着された中型ライフルだった。

 

「凄いですよね、これがあれば殺さずに敵を完全無効化できるなんて」

 

そう、Nジャマ―とは別の方法で核エネルギーの発生を抑制する新兵装。それがアズラエルのもう一つの秘策だった。

 

「なんかいい名前が欲しいだろ。制式じゃ名前が長すぎやしねぇか?」

「じゃあ・・・いや、突然言われても浮かびませんよ」

 

かなりグダグダしたやり取りをしていたが、突然出撃のアラートが鳴り響く。

 

「じゃあ戦ってる最中に考えな。なにかやり残したことがある方が人間死なないもんさ」

「ええ、緊張ほぐれましたよ。ありがとうございます」

 

今回、刹那は別のポジションに配置されている。前回に引き続き、戦友のいない戦場というわけだ。

 

「・・・それでも、守りたいものがある」

 

ストライクは勢いよく飛んだ。




おまけ、ザラ隊の女性関係

イザーク
筋金入りのマザコンだが、シホというSEED世界では凄まじく稀少なマトモな女性に好意を寄せられている。この一点でディアッカから凄まじい恨みを買っている。

ディアッカ
一時期イザークと出来ているという噂が立ち、以来年上の女性に声をかけ続けているがまるで相手にされていない。
一度シホに声をかけてイザークに殴られている。

ニコル
年上の女性から声をかけられる事が多い。しかし大抵女性が潰しあうため、食事やデート以上の事は経験がない。
年上女性連合につけられたあだ名は「絶対不可侵領域」

アスラン
年下からモテるが、余り断るのでやはり同性愛者疑惑をかけられている。なお本人は許嫁に悪いからと断っており他意はない。

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