いや、無理だから。
「何故です!?このままでは貴方に付き従った村人まで飢えて死ぬことになるんですよ!クッ、どうあっても怒りを納めていただけないと言うのなら……この命をもって償いとさせて頂くッ!」
「ちょっと待てい!」
何故そうなったのか、代表の男が短剣を首に突き刺そうとしたので腕を掴んで止める。
やっぱこいつら頭おかしいだろ。さっきからずっと作物が萎れ始めたのはオレの所為じゃないって言ってるのに全然聞こうともしないんだけど。それどころか言う度に悲壮な顔で語気強めてくるんだけど。
そもそも不作やら豊作やらの理由を人に求めるのが間違って……あっ!
連作障害か!
なるほど、そういえば今は古代で農業なんて植物植えて水撒いてる程度だったな。
ヤバい。どうにか出来るけど、やったらやったで狂信者が大発生する事間違いなしなんだけど……。
でもやらなかったら村八分だから結局やるしかないんだよなぁ。
「何故止めるのです!?飢えて死ななければ許さぬとおっしゃるのですか!」
「……そのような事は言わぬ。お前の自分を犠牲にしてでも他の者を生かそうとする気持ちはよくわかった。お前のその覚悟に免じて此度は許して遣わす。面を上げい!」
土下座していた村人が恐る恐る顔を上げていく。
いやー、この偉そうな喋り方にもだいぶ慣れたなー。知ってるか?オレ一人称"我"なんだぜ。どこのAUOだよって感じだよな。
「我はお前たちに最後のチャンスをくれてやる事に決めた。だが、お前たちの我への信仰心が低い所為でこの村をすぐに復活させることは出来ん!」
必殺 人の所為にする。
こう言う事で神の力とかそういうのを誤魔化す。
「なんだって!」
「さ、最悪だ。俺があんな事を言い始めなければ!」
「くぅう、せっかくお許しを頂けたというのに……」
「聴けい!確かに今すぐは無理だと言った。だが、我が豊穣の知恵を以ってすれば一年と経たずにかつての大豊作を上回る豊作となる!よもや今さら我が信用出来んなどと言う愚か者はいないだろうな?」
もう墓穴掘ってる感がヤバい。これだけ言って「実は普通の人間でしたー」とか言った日には袋叩きにされて豚の餌にされる事間違いなしである。
「もちろんです!」
「何なりと命じてください!」
「ではまずーー」
その後、オレは記憶している農業系統の事を言いまくった。
落ち葉とか排泄物を樽に入れて"たい肥"を作らせたり、作物を植える場所を入れ替えさせたり、どうしても同じ場所に植えなければならない場合はそこにシロツメクサだかクローバーだかを植えさせたり。あと、"千歯こき"を作って手間を減らしてその分の時間で開墾を進めたりもした。
これだけやって来年も不作だったら逃げるしかないな。今の内に準備を進めておこう。
* * *
それはまさに神の奇跡だった。
去年は茶色でみすぼらしかった麦は美しく黄金に輝き、小さい物ばかりだったジャガイモは"てきが"という作業の所為か拳より小さい物が存在せず、豆類は一つ一つが太くて長い。
こんな物を見せられては我々のやってきた事が所詮真似事にすぎなかったと認めざるを得ない。
認めよう、我々は傲慢だった。ただ植物を収穫しやすい場所に植えて水をやるだけで
土を変えようなど誰が考えただろうか。芽を摘もうなどどうして思い至るだろうか。
それがきっと人と神の違い。
我々とは観ている世界が違うと思い知らされた。
今思えばそれまでずっと不作だったのにアカシャ様が来てから豊作が連続するなど、それが神の御業でないなら何なのだろうか。
アカシャ様は幼い時から村の大人たちの会話を理解し、幼児とは思えない考えを披露していた。我々はそれを"早熟"などと人の枠で測ろうとしていたが、生まれて三年も経ってない幼児が大人顔負けの知識を持つ事にどうして疑問を持たなかったのだろうか。
きっとアカシャ様はこんな小さな村で崇められて終わる存在ではないのだろう。
我々は一度大きな過ちを犯した。その所為でしばらくは白い目で見られるだろう。ならば、子供にその愚を受け継がせてはならない。
「エリス、お父さんのようになってはいけないよ」
「うん、わたしはあかしゃさまへのかんしゃをわすれないよ」
知恵の権能
その豊穣の知恵で村の荒廃を癒した逸話から生まれた権能。
多くの者は豊穣の権能と同一視しているが、その本質は事象を解析して理解すること。