幸運の権能
アカシャが降臨した年に数十年に一度の大豊作が起こったという逸話から生まれた権能。
アカシャとその庇護を受ける者を幸運にする。
オレは薪の束を担いだおじいさん、村長に拾われた。まさか川に洗濯に来たおばあさんじゃなくて山に柴刈りに来たおじいさんに拾われるとは……実はオレは外国版桃太郎とかだったりするのだろうか?
暮らすことになった村長の家はなんというか……古めかしい感じでその時からヒシヒシと嫌な予感がしていたが、ヤギの乳を飲んだり隣の奥さんの乳を揉んだりして一ヶ月もすると英語はペラッペラになり、自分の絶望的な状況を理解するに至った。
ーーここ、大昔のイギリスだ。しかも中世とか教科書に載ってるヤツよりも遥か昔の、下手したら古代かもしれん……
もしかしたらブリテンの滅びの運命でも変えに来たのかなーと思って、ついでに聖剣ブッパとかできるのかなーとか期待しながら村長に遠回しにアーサー王伝説について聞いてみると、
その日から村長の家の子供に代々語り継がれるアーサー王伝説(口伝)を寝る前に話してくれるようになった。ケルト神話といい感じに混ざってて面白かったけどオレの絶望は深まるばかり……
ーー"神の使い"とか呼ばれて敬われてるけどこんな大昔じゃ未来予知も糞もないなー
とか思いながらいずれ来るだろう"村八分にされる未来"に3歳の時まで奥歯をガタガタ震わせていたが、おかしな事に気づいた。
ーーオレのこと"神の使い"って呼ぶ奴増えてね?
元は村長一人だけで、村長が力強く説得しているうちに近所の村人は面白半分で「御使い様」とか呼ぶようになったが、目の前のオッサンみたいに狂気すら滲ませて「御使い様ーッ」とか叫ばれる理由がわからん。
その後、さりげなく原因を探ってみるととんでもない事がわかった。
ーー豊作が続いている、だと……!?
しかもこの村だけで、隣の村もその隣も不作の真っ只中とかどんな神業だよ……。
そうして村長を筆頭に狂信者はドンドン増殖していった。ちなみに彼らの狂信レベルは、子供がオレを怪我させたら全体重乗せて殴った後に地面に叩きつけながら土下座させる、猫がオレを引っ掻いたら袋叩きにして豚の餌にするレベル。
子供の顔面は血まみれだったし、
アレが起きた日の晩飯はイギリス料理である事を差し引いても見た目とか味とか以前に吐き気しかしなかった。
ーーへへッ、豚肉見てると右手が震えてくるぜ。ん?今、虎毛の毛皮とか見えたけど気の所為だよな?な?
そして月日は流れ、敢えて間抜けな姿を晒す事でだんだん村人の狂信レベルがマシになってきたかな?と思った時にそれは始まった。
全ての作物が枯れ果てる、絶望的な大飢饉が。
* * *
「今までの御無礼をどうかお許しください、アカシャ様」
そう言って一斉に地面に顔面を叩きつける、かつて穏健派と呼ばれた村人たち。
その正面に立つのは黄金に輝く髪を三つ編みにした、中性通り越してモロに美少女な見た目のオレ。
(ああ、せめて村長が髪を切るのを許してくれたら、ギリギリ男で収まる容姿だったのにな……)
そんな場違いな現実逃避をしているアカシャを他所に、顔面血まみれの村人たちは話し始める。
「我々は以後、アカシャ様を軽んじるような発言はしないと誓います。また、アカシャ様に仇をなす者は命を懸けて打ち倒してみせます。ですからどうか、愚かな我々に最後のチャンスを与えてはくれないでしょうか……?」
いや、そんな事言われてもどうしようもないんですけど……。
荒廃の権能
一部の村人たちがアカシャへの感謝・敬意を忘れた事でアカシャの怒りを買い、ある日突然作物が枯れ果てた逸話からできた権能。
他者の恵みを奪う。