どんぶらこーどんぶらこー
そんな感じの擬音が出そうな雰囲気で
気分は桃太郎、いや一寸法師だろうか。なんか茶碗に乗って渡海したらしいし……親近感湧くなオイ。
まぁ、なんにせよ現実でやる奴はバカだと思う。さっきから揺れまくって頭もぶつけまくっているので、上手い具合に体を捻らなかったら赤ん坊の首の骨なんて簡単に折れてしまっていただろう。
……そう、オレは赤ん坊なのだ。しかもついさっき捨てられた。
* * *
それは数時間前のことだった。
金切り声のようなもので意識が覚醒して眼を開けると、そこにはいかにも使用人って感じの格好の女性と反抗期の子供を連想させる美少女が何やら言い争いをしている姿があった。
「◯△△□◯△!」
「△□△△◯□□ッッ!!!」
その後、頑張って聴いていると彼女たちが話しているのが英語だとわかり、ひたすら知っている単語をつなぎ合わせていくうちになんとなく事情を理解することができた。
どうやら美少女は婚約者がいて愛し合っているにも関わらずに別の男といい仲になり、婚約者に内緒でそいつとあんな事やこんな事をしちゃったらしい。しかも子供ができちゃったから親に内緒で産んじゃって、あと2年で婚約者と結婚だからこの子どうしようって事らしい。
うわぁ、なんかもうクソビッチと言うか……オレだったらこんな女と結婚なんて絶対願い下げなんだけど。というか子供が気の毒すぎる。
………。
うん、現実逃避はやめよう。子供ってオレの事だわ。
何コレ?転生?
何にせよ婚約者に「貴方の子供です」とか言う案は本気でやめて欲しい。
「△◯◯□□!」
「◯□△□□◯△ーーッッッ!!!!」
使用人に何かを言われた女は顔を真っ赤にして早口でまくし立てて部屋から出て行った。
たぶん親に正直に言えとか言われたんだろうなぁ。正論すぎる。
あの頭軽そうな女、なんか余計なことしないといいんだけど。
結論、余計な事されました。
なんか被害者面で川に流されました。
うわぁ、余計なお世話。どう見ても自己保身しか考えてないだろ、こいつ。
絶対ありもしない被害妄想しながら「貴方のためだから」って言ったよ今。
普通に考えて、籠から落ちて溺死するよりは裕福な家で冷や飯食わされる方がマシだろ。というかオレこいつの親の初孫にあたるんだからそんな酷い目に合わないだろ!
その後、使用人が気づくように大声で泣いたりしたが、バカ女が「ごめんね、ごめんね」と悲劇のヒロインぶるだけだった。
最悪だ。最後にイラつく物を見てしまった……。
* * *
ガッ
とうとう恐れていた事態が起きた。
乗っていた揺り籠が大きな岩に激突して裏返ったのだ。
しかもあのバカ女が上着を巻きつけた所為で手足を動かす事もできない。
ドンドン口や鼻に水が流れ込んでいき、だんだん苦しくなってくる。
まさに末期の水。
ーー死んだ。
そう思った時、何かに引っ張られたかと思うと川から引き揚げられていた。
『ふむ、おかしな話じゃな?今年は珍しく豊作なのに捨て子が出るとは。何やら高価そうな布で包まれてる上に気品があるようだし、訳ありの貴族じゃろうか?』
引き揚げてくれたのは等身大の薪の束を担いだおじいさんだった。
おじいさんは的確な推理をしながらオレのことを見つめている。
どうしようか、とりあえず賢いアピールした方がいいんだろうか?
「ぁ、あい ぁむ ぁかしゃ」
頑張って喋ってみたものの赤ん坊の舌足らずさも相まってまともに発音できなかった。
だが、老人には何かしら効果があったようで目を見開いている。
『あ、赤子が喋った……!もしや悪魔、いや神の使いか?ま、まさかこの度の豊作は貴方が齎したものなのでしょうか?』
いきなり敬語になった所為で何言ったのかわかんねー(泣)
とりあえず選択肢がYESとNOしかないのはわかった。
というかこれNOって言ったら悪魔呼ばわりされそうだよな……。
「ぃえす。あい あむ ぅあかしゃ」
『……ハハーーッ!ご無礼をお許しください、アカシャ様!』
いや、あの若狭って言ったつもりなんですけど。
というかいきなり土下座し始めたんだけどこの人。まさかオレやらかした……?
この世には悲劇のヒロイン症候群というものがある。