まつろわぬ豊穣の御子   作:SS教

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まつろわぬ豊穣の巫女

 

"豊穣の御子"または"豊穣の巫女"アカシャ。

 

彼または彼女は遥か昔、現在で言うイギリスの東端の村に赤子の姿を借りて降臨したと言われている。

その赤子は村の近くの川で汚れ一つない美しい布を纏って流れていたところ、その近くで薪を集めていた老人に拾われた。老人がそのこの世の物とは思えないほど美しい布を纏う神々しい赤子を指して思わず「貴方様は何者でしょうか」と尋ねたところ、赤子は「我はお前たちに恵みを(もたら)すために遣わされた豊穣の御子(巫女) アカシャである」と答えたと言う。老人がアカシャと名乗ったその赤子を村に連れて帰り村人全員で崇め奉ったところ、それまではずっと不作だった作物はアカシャの降臨を祝福するように豊作になったと言われている。

 

数年の月日が流れ、豊作が連続した村人たちがアカシャへの感謝を忘れ、豊作が当たり前だと思うようになると作物たちは示し合わせたように萎れていき、不作が続くようになった。村人たちが焦って少年または少女となったアカシャを再び崇め始めると、アカシャは「一度は許そう。だが、以後我を軽んじた時はこの村は草一本生えない死の大地となると思え」と言って手を振った。すると萎れていた作物たちは次々に瑞々しくなっていき、以後アカシャへの敬意を失わなかった村は豊作であり続けたと言われている。

 

その後、成人したアカシャは「人々に恵みを齎す」という自らの使命のために引き留ようとする村人たちを諭し、旅に出た。旅の途中、アカシャは道に居座る大蛇に出会い、通ろうとすると襲いかかってきたのでその大蛇を斬り殺した。そしてそのまま道を通ってある村に到着すると、そこでは美しい女性と老夫婦が泣いていた。何故泣いているのか、とアカシャが尋ねると老夫婦は事情を説明した。それによると、村の近くに居座る大蛇が流し込んだ毒のせいで作物が育たず、毒を止めてもらう条件として村で一番の美女である娘を大蛇に捧げなければいけないらしい。事情を理解したアカシャが持っていた大蛇の亡骸を見せると、老夫婦は泣いて感謝し、名を尋ねるとアカシャは「我は豊穣の御子(巫女) アカシャ。どれ、大蛇の毒とやらも除いてやろう」と言って手を振った。すると成長が止まっていた作物たちは次々に花を咲かせて実を付けていき、以後大蛇の毒に悩まされる事はなかったと言われている。

 

その後も旅を続けたアカシャは各地を回り、漁や狩りで生計を立てる村では食べられる野草や食べられない動植物の調理方法を教える事で恵みを与えたと言われている。

 

また、アカシャはその中性的な顔立ちと多くの美女と出会いながらも誰とも結ばれることはなかったという逸話から女性という説が有力である。

 

 

* * *

 

 

「……ゴハッッ!」

 

かつて若狭(わかさ)俊一(しゅんいち)と呼ばれた少女(・・)は股間をまさぐりながら絶句した。

ついでに胸を揉んで喀血した。

 

彼女(その時は彼)はなんか大昔に転生して内政チートした転生者だった。

そして次々に出現する狂信者たちから逃げる先々で新たな狂信者を作り、なんか神だの御子だの巫女?だの崇め奉られながら死んだはずだった。

だと言うのに何故か彼女は現代日本にいた。

彼女、まつろわぬアカシャ(・・・・・・・・・)の目は自身の伝記の最後の部分に釘付けになっていた。

 

ーーまた、アカシャはその中性的な顔立ちと多くの美女と出会いながらも誰とも結ばれることはなかったという逸話から女性という説が有力である。

 

ーー女性という説が有力である。

 

「なんであのイカれ女たちと結婚しなかった程度で女とか言われとんだクソがッッ!!!」

 




続く

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