もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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今回は一部以外は真面目な話。


第九話 真面目な話が一章に一話ぐらいあってもいいと思う

 あの後、無事に耀と白夜叉の二人によって、床の中から救出された翔とジン。

 ジンは救出された際、恐怖体験をしたかのように顔が真っ青であったため、今は別室で休ませている。

 そして、事の元凶である翔は白夜叉の前で正座させられ、彼女によって怒鳴られている。

 

「どうしておんしは、毎回毎回毎回ッ!ことある事に埋まるのだ!?私への嫌がらせか!?」

「これは仕方ない事なんだ。あの現象は俺の性であり、生き様であり、癖であり、そして何より存在意義なんだ。あの現象を起こさざるして俺は胸を張って世間様に顔向けが「もういい黙れ!」アッハイ」

「そもそもあの現象はおんしの恩恵だろうに!どうしてそれが制御できておらん!?」

「スケーターとは、いや、スケーターだからこそ、制御できない力の一つや二つがあるんだ。諦めてくれ。ちなみに俺はもう諦めた」

「あああああああ、もう!!おんしは一体何なんだ!!?」

「スケーターです。いや、むしろスケーターって……なんだ?」

「私が知るかああああああああアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 

 スケーターという理解不能な存在に、もはや鬼気迫る表情で発狂寸前の白夜叉。そんな彼女に翔はボードを振りかぶり、

 

「せいッ」

「あがッ!?」

 

 白夜叉の頭を殴る。その一撃で昏倒する白夜叉。

 

「また、つまらぬものを殴ってしまった………」

 

 ボードにフッと息を吹きかけている翔。そんなことをしている間に白夜叉が目を覚ます。

 

「……う、ぐううぅぅぅ………わ、私は一体………?何を、しておったんだ?」

 

 先ほどのような鬼気迫るような表情はきれいさっぱり

 どうやら殴られた衝撃で発狂するのは阻止できたようだ。

 

「記憶が少し飛んでおるのだが、一体何が………うっ、思い出そうとすると頭痛が―――」

「さあ?まあ、辛いなら無理に思い出さない方がいいこともあるさ」

「そ、そうかのう?」

「そうそう。それよりも耀に話があるんじゃないのか?」

「おお、そうであったな。ついでだからおんしも聞いていけ」

 

 そんなやり取りを見ていた耀は彼のことをジト目で見つめていた。

 

「とはいえ、まずは黒ウサギがあんなにも怒っている理由を聞きたいの。おんしら、一体何をした?」

「それは―――――」

「その前にお茶と和菓子とかない?」

「………そうだの。長くなるやもしれんし、それぐらいはあった方がいいかもしれんの」

 

 そういって、白夜叉は女性店員を呼び、お茶と和菓子の用意をさせる。

 一通りの準備が整い、耀と翔は白夜叉に事の経緯を話した。

 

「ふふ。なるほどのう。おんし達らしい悪戯だ。しかし〝脱退〟とは穏やかではない。ちょいと悪質だとは思わなんだのか?」

「止めはしたさ。しただけで成功しなかったがな」

「うっ………私も少しは思った。でも、黒ウサギだって悪い。お金が無いことを説明してくれれば、私達だって強硬手段に出たりしないもの」

「普段の行いが裏目に出た、とは考えられんのかの?」

「それは………そ、そうだけど。それも含めて信頼の無い証拠。少しは焦ればいい」

「まあ、今回はどっちもどっちってことだな。これから信頼されるように頑張りゃいいんじゃねえの?俺みたいに」

「むっ………なんで翔なんかが、黒ウサギに信頼されてるのかわからない」

「なんかがって、随分な言われようだなぁ。まあ、否定はしない。自分でもどうして信頼されてるかなんぞ分からんしな。大方、畑の土壌回復にちまちま貢献してるからじゃね?」

 

 翔の言い草に、拗ねたように和菓子を頬張る耀。それを見てケラケラと笑う翔。白夜叉もくっくっと笑っている。

 

「そういえば、大きなギフトゲームがあるって言っていたけど、ホント?」

「本当だとも。特に、おんしに出場してほしいゲームがある」

「私に?」

 

 耀は和菓子を頬をリスのように膨らませて詰め込み、小首を傾げる。

 白夜叉は先ほどのチラシを着物の袖から取り出して見せた。

 

「造物主達の決闘?」

「………?創作系のギフト?」

「うむ。人造・霊造・神造・星造を問わず、製作者が存在するギフトのことだ。おんしのは技術・美術共に優れておるからの。力試しのゲームも木彫りに宿る〝恩恵〟ならば、勝ち抜けると思うのだが………」

「そうかな?」

「相手が相当な手練れじゃない限り、平気だろう」

「そうだのう。幸いなことにサポーター役にジン………一応翔もいることだしの。勝者には強力なギフトも用意しておる。どうかの?祭りを盛り上げる為に一役買ってほしいのだが」

「一応って、いや、確かに戦闘能力はほぼ皆無だけどさ………」

 

 白夜叉の言葉に若干傷つく翔。

 耀は小首を左右に折って考えるが、ふっと思い立ったように質問する。

 

「その恩恵で、黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

 幼くも端正な顔を、小動物のように小首を傾げる耀。

 それを見てやや驚いたような白夜叉。しかし次の瞬間に、温かく優しい笑みで頷いた。

 

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのならの」

「そっか。それなら、出場してみる」

 

 コクリと頷き、縁側から立ち上がる耀。

 

「だから、翔も頑張ろう」

「あ、俺が出るんすね………」

「………?だって、翔ならジンと違って盾に出来るし」

「知ってた!そうだよね!俺ってそういう扱いだよなッ………!」

 

 ハハハ、と渇いた笑いを上げる翔。

 

「それで、ゲームはいつから?」

「このすぐあと、といったところかの。とはいえ、決勝は明日になるがの」

「………じゃあ、翔は今日は自由にしていいよ」

「ハハハ………え?いいのか?」

「うん。決勝までは一人でやってみる。だから明日はよろしく」

 

 耀はやる気に満ち溢れた目で翔を見る。その目に若干気圧される翔。

 

「そ、そうか。なら俺はこれから街を見に行ってくるわ」

 

 そういって支店を飛び出し、街へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 街を徘徊する翔。

 

「しっかし、街に出てきたはいいものの、何をしたらいいものか。まさかこんなところで滑るわけにもいかないしな」

 

 人がごった返しているところを、わざわざ滑ろうとはさすがの翔も思わない。

 

「素直に作品を見て楽しむかね………」

 

 そう考え、翔は出展された作品が立ち並ぶ区画に来ていた。すると、ふっと視線が一つの作品に引き寄せられた。

 

「これは………ステンドグラス、だっけ?」

 

 そう。ステンドグラスだ。モチーフが何なのか、考える力はあっても学がない翔では分からなかった。しばらくその作品を眺めていると、横から声がかけられる。

 

「それが気になるのかしら?」

「ん?ああ、まあな。キレイなもんだな」

 

 ステンドグラスから視線を外さずに答える翔。

 

「題材が何かは分からないが、なんか目が行ってな」

「………ふぅん。そのステンドグラスに興味を持ったなら、他の作品も案内しましょうか?」

 

 横から聞こえる声がそう提案してくる。

 

「うん?お前のところのコミュニティが出展したのか?」

「まあ、そんなところね」

 

 そしてようやく、声の主に顔を向ける翔。その方向には斑模様のワンピースを着た少女が立っていた。

 

「………それなら頼んでもいいか?街に出たはいいが、何を見ればいいか困っててな」

 

 翔がそう頼むと、少女は微笑み、

 

「ええ、いいわよ♪」

 

 了承した。

 その後、翔は少女と共に街の中を回り、一〇〇枚以上のステンドグラスを見て回った。途中、少女に色々要求されて多少の出費があったり、いつものように翔が埋まる事態はあったが。

 

「それで、どうだったかしら?」

 

 少女は翔に笑いながら問う。

 

「んー、なんか最初のほど気になるやつはなかったかなー。なんで最初のやつはあんなに気になったんだろうか?」

 

 腕を組み、首をひねる翔。それに多少驚きを見せる少女。

 

「貴方に見る目があったってことじゃないかしら?最初の作品は私達の力作だもの」

「そう、なのかねぇ?………いや、ないな」

 

 なんでかな~、と未だに首をひねり続けている翔。

 

「………そんなにおかしいのかしら?」

「ハッハッハ。俺の美的センスをナメるなよ?周りから、それはどうかと思う、とか、それはない、とか。そんなことをやたらと言われまくっているからな。だから、俺は俺の目による芸術的判断に関しては一切信用していない!」

 

 胸を張って言い切る翔。そのことに目を丸くし、すぐにクスクスと笑い声を上げる少女。

 

「とはいえ、この作品の出展者というのが、俺らと同じ〝ノーネーム〟だからって理由だけで、目がいっただけかもしれないがな」

「………?貴方、〝ノーネーム〟なの?」

「ああ、そうだ」

 

 ケラケラ笑いながら、誇らしく肯定する。

 

「………そう」

「そうだ。………それじゃあ、もうそろそろ帰るわ!」

 

 その場で伸びをして、体をほぐす翔。

 

「お前も気を付けて帰れよ。えーっと………?」

「………ペストよ」

「そっか。なんか縁起悪いな」

「余計なお世話よ」

「それもそうか。んじゃ、()()な」

「………ッ!」

 

 それだけ告げて、ボードに乗って去っていく翔。

 彼が何を思って「また」といったのかは定かではない。だが、少女を驚愕させるのには十分な言葉だった。

 まさか、魔王であることがバレているのか?

 そんな考えが脳裏をよぎる。だが、すぐにそれは有り得ない、と頭を振ってその考えを消す。

 ………ちなみに、翔はこの街がそこそこ小さかったから、また会えるかも、程度で言っただけである。

 ペストにそんな勘違いを持たせて去っていった翔は、〝サウザンドアイズ〟の旧支店へと戻った。

 

「あっ、結局題材が何か聞いてねえや」

 

 

 

 

 

 

 

「………戻ってきましたか」

 

 店前で女性店員が翔を迎えてくれた。

 

「ああ、戻ってきましたとも。珍しく何もなくな」

「なるほど。それでこんなに早いのですね。他の方々はまだ帰ってきておりませんよ」

「そっか。なら、ゲームに出てる耀以外は、面倒事にでも巻き込まれたかね?」

 

 ケラケラと笑う翔。彼のそ様子を見た女性店員は溜息を吐きながら、

 

「来賓室と湯殿に案内します。湯殿は好きにご利用してくださってかまいません。それ以外の時は出来る限り来賓室にいてください」

「りょーかーい」

 

 素直な返事をする翔。

 そして、来賓室で暇をつぶしていると、各メンバーが帰ってきた。飛鳥が帰ってきた際は女性店員の怒鳴り声が聞こえたが。

 そんな翔は十六夜とジンと共に湯殿へと来ていた。

 

「………毎回思うが、お前って風呂は平気なんだな」

「平気ってわけでもない。今物凄く必死に耐えてる。多分気ぃ抜いたら死ぬ。さらにぶっちゃけると入る必要性が俺にはない。汚れなんかもリスポーンすれば全部消えるからな」

 

 口元が引き攣りながらも、無理やり笑みを浮かべる翔。その回答を聞いた十六夜とジンは必死な表情の翔に苦笑する。

 

「それは勿体ないな。せっかくの風呂が楽しめないなんざ」

「楽しんではいるさ。ただ必死(必ず死ぬ)。それだけだ。というわけで俺はもう―――」

 

 それ以降の言葉は続かなかった。なぜ?死んだからに決まっている。ちなみにマーカーは脱衣所に設置していたようで、物音が聞こえてくる。

 

「………俺達も、もう少ししたら上がるか」

「………はい」

 

 目の前で脱力し、消えていった翔がいた空間を見つめながら二人がそう言った。

 

 そして、湯殿から上がった男性陣一同は来賓室で女性陣が上がってくるのを、歓談しながら待っていた。

 十六夜と女性店員がこの店の仕組みについて話していた。そしてその話が終わると、

 

「で?いつからお前らはデキてたんだ?」

「「デキてないと言っている(デキてなんていません)」」

「そんだけ息ピッタリなのにか?」

「「デキてない(デキてません)」」

 

 なぜか言葉が被る二人に疑惑の目を向けながら詰め寄る十六夜。

 そこに声がかけられる。

 

「あら、そんなところで歓談中?」

 

 湯殿から出てきた飛鳥達だ。

 飛鳥達は備えの薄い布の浴衣を着ており、首筋から上気した桃色の肌を覗かせている。

 十六夜は椅子からそっくり返って湯上りの女性陣を眺めた。

 

「………おお?コレはなかなかいい眺めだ。そうは思わないか二人とも」

「はい?」

「はあ?」

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から―――」

 

 ガンッ!!!

 そこまで言って、十六夜は前のめりになって、うつ伏せで床へと倒れた。

 そんな彼の後ろには翔がボードを振り下ろした体勢で立っていた。

 

「あ、ヤベッ。思わず手が出ちゃったな」

「いいえ。ナイスよ翔君」

「はい。ファインプレーなのデスヨ」

 

 飛鳥が親指を立てて翔のことを褒める。黒ウサギも彼女に賛同して頷いている。そして、なぜか頭を押さえている白夜叉。

 ジンが痛そうな頭を両手で抱えていると、彼の肩に女性店員が同情的な手を置く。

 

「………君も大変ですね」

「………はい。翔さんが()()まともなのが救いです」

「おい、リーダー。()()ってなんだ、()()って。どこからどう見てもコイツらよりは全然まともだろう」

「「「「「「「いや、それはない」」」」」」」

 

 未だに倒れている十六夜以外から総否定される翔。十六夜も起きていたらきっと皆と同じことを言っただろう。

 そしてそこでようやく、十六夜が目を覚ます。

 

「痛ぅ………。クソッ、意識が飛んでたか」

「悪いな。咄嗟に手が出ちゃってな」

「少しは加減しろよ。瘤になってんだろうが」

「「「「「え?」」」」」

 

 十六夜の言葉に驚きと疑問が混ざった声を上げる〝ノーネーム〟メンバー。その理由はコミュニティの主戦力に怪我(瘤)を負わせたことだ。まだ誰も彼が負傷したところを見たことが無いのだ。そして、その初めて負わせた者が、スケーターという意味分からん存在で、方法がボードでの殴打。本来なら十六夜が、その程度のことで負傷することなどないだろう。

 では何故か?そんなのは決まっている。武器がスケーターのボードだったからだろう。

 

「………ケガ?十六夜が?」

「………ただのボードよね?十六夜君の冗談かしら?」

「私が投擲したランスでさえ傷一つなかった主殿が?」

「翔さんのボードの一撃で、コブ?」

「………信じられません」

「おい。俺だって怪我くらいするからな?」

「俺はむしろ瘤で済んでる方に驚いてるんだが。元の世界なら普通に死んでるんだが」

 

 各々が率直な感想を述べる。

 

「だが、俺もこんなやつの一撃で、瘤とはいえ負傷するなんざ不本意だ。そのボード何でできてるんだよ?」

「デッキは木材、トラックとナットとベアリングは金属、ウィールはウレタンだな。それ以外に俺は知らん」

「………そんな一般的なボードで、俺は負傷したのか?」

「いや、多分ギフトの関係で、ボード自体がギフト化してるとは思うから、その影響じゃね?」

「………そうか。俺もその方が納得できる」

 

 他のメンバーも十六夜の言葉に頷き、同意を示している。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、レティシアと女性店員は来賓室を離れた。今は十六夜、飛鳥、耀、翔、黒ウサギ、ジン、白夜叉、そしてとんがり帽子の精霊がこの場に残っている。ちなみに十六夜は瘤の部分を氷で冷やしている。

 白夜叉は来賓室の席の中心に陣取り、両肘をテーブルに載せこの上なく真剣な声音で、

 

「それでは皆のものよ。今から第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

「始めません」

「始めます」

「始めませんっ!」

「衣装をエロ可愛くする代わりに賃金を現在の三倍にする審議を」

「………………始めません」

 

 白夜叉の提案に悪乗りする十六夜。速攻で断じる黒ウサギだが、翔の提案には逡巡するも断じる黒ウサギ。やはり零細ゆえにお金が欲しいのだろう。それでも羞恥心を捨てることはできなかったようだ。

 白夜叉は笑いながらも本題へと入る。

 

「ま、衣装は横においてだな。実は明日から始まる決勝の審判を黒ウサギに依頼したいのだ」

「あやや、それはまた唐突でございますね。何か理由でも?」

「うむ。おんしらが起こした騒ぎで〝月の兎〟が来ていると公になってしまっての。明日からのギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっているらしい。〝箱庭の貴族〟が来臨したとの噂が広がってしまえば、出さぬわけにはいくまい。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させて欲しい。別途の金銭も用意しよう」

 

 なるほど、と納得する一同。

 

「分かりました。明日のゲーム審判・進行はこの黒ウサギが承ります」

「うむ、感謝するぞ。………それで審判衣装だが、例のレースで編んだシースルーの黒いビスチェスカートを」

「着ません」

「着ます」

「断固着ませんッ!!」

「着た場合の金銭が五倍に」

「なっても着ませんッ!!!いい加減にしてくださいお二人様!」

 

 茶々を入れる十六夜と翔。ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。

 一方で全く無関心だった耀が思い出したように白夜叉に尋ねる。

 

「白夜叉。私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

「あ、それ知りたーい!」

 

 翔も便乗して尋ねる。

 

「すまんがそれは教えられん。〝主催者〟がそれを語るのはフェアではなかろ?教えてやれるのはコミュニティの名前までだ」

 

 パチン、と白夜叉が指を鳴らす。

 すると昼間のゲーム会場で現れた羊皮紙が現れ、同じ文章が浮かび上がる。

 そこに書かれているコミュニティの名前を見て、飛鳥は驚いたように眼を丸くした。

 

「〝ウィル・オ・ウィスプ〟に―――〝ラッテンフェンガー〟ですって?」

「うむ。この二つは珍しいことに六桁の外門、一つ上の階層からの参加でな。格上と思ってよい。詳しくは話せんが、余程の覚悟はしておいた方がいいぞ」

 

 白夜叉の真剣な忠告に、コクリと頷く耀と、はーい、と間延びした返事をする翔。

 一方の十六夜は、〝契約書類〟を睨みながら物騒に笑う。

 

「へえ………〝ラッテンフェンガー〟?成程、〝ネズミ捕り道化〟のコミュニティか。なら明日の敵はさしずめ、ハーメルンの笛吹き道化だったりするのか?」

 

 え?と飛鳥は声を上げる。その裏で翔も、あっ、と声を上げたが。

 しかしその隣に座る黒ウサギと白夜叉の驚嘆の声に、二人の声はかき消された。

 

「〝ハーメルンの笛吹き〟ですか!?」

「まて、どういうことだ小僧。詳しく話を聞かせろ」

 

 二人の驚嘆の声に、思わず瞬きする十六夜。

 白夜叉は幾分声のトーンを下げ、質問を具体化する。

 

「最近召喚されたおんしは知らんのだな。―――〝ハーメルンの笛吹き〟とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名だ。魔王のコミュニティ名は〝幻想魔道書群〟。全二〇〇篇以上に及ぶ魔書から悪魔を呼び出した、驚異の召喚士が統べたコミュニティだ」

「しかも一篇から召喚される悪魔は複数。特に目を見張るべきは、その魔書の一つ一つに異なった世界が内包されていることです。魔書の全てがゲーム盤として確立されたルールと強制力を持つという、絶大な魔王でございました」

「―――へえ?」

 

 十六夜の瞳に鋭い光が宿る。黒ウサギは説明を続ける。

 

「けどこの魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北し、この世を去ったはずなのです。………しかし十六夜さんは〝ラッテンフェンガー〟が〝ハーメルンの笛吹き〟だと言いました」

 

 童話の類は詳しくありませんので、ご教授してほしい、と緊張した顔で最後に言う黒ウサギ。

 十六夜はしばし考えた後、悪戯を思いついたようにジンの頭をガシッと摑んだ。

 

「なるほど、状況は把握した。そういう事なら、ここは我らが御チビ様にご説明願おうか」

「え?あ、はい」

 

 一同の視線がジンに集まる。ジンも承諾したものの、突然に話題を振られて顔を強張らせる。そしてゆっくりながらも、語り始めた。

 ジンの話によると、〝ラッテンフェンガー〟はドイツ語でネズミ捕りの男を指し、つまり〝ハーメルンの笛吹き〟を指す隠語らしい。

 童話の原型としては、ハーメルンという都市で笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供達が誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した、というもののようだ。

 

「ふむ。ではその隠語がなぜにネズミ捕りの男なのだ?」

「グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」

 

 白夜叉の質問に滔々と答えるジン。その隣で、静かに息を呑む飛鳥。更に隣では、何故か汗が止まらない翔がいた。

 

「ふーむ。〝ネズミ捕り道化〟と〝ハーメルンの笛吹き〟か………となると、滅んだ魔王の残党が火龍誕生祭に忍んでおる可能性が高くなってきたのう」

「YES。参加者が〝主催者権限〟を持ち込むことが出来ない以上、その路線はとても有力になってきます」

「うん?なんだそれ、初耳だぞ」

「おお、そうだったな。魔王が現れると聞いて最低限の対策を立てておいたのだ。私の〝主催者権限〟を用いて祭典の参加ルールに条件を加えることでな。詳しくはこれを見よ」

 

 ピッと白い指を振ると光り輝く羊皮紙が現れ、誕生祭の諸事項を記す。

 

『§ 火龍誕生祭 §

 

・参加に際する諸事項欄

 

   一、一般参加は舞台区画内・自由区画内でコミュニティ間のギフトゲーム開催を禁ず。

   二、〝主催者権限〟を所持する参加者は、祭典のホストの許可無く入る事を禁ず。

   三、祭典区画内で参加者の〝主催者権限〟の使用を禁ず。

   四、祭典区域にある舞台区画・自由区画に参加者以外の侵入を禁ず。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                〝サウザンドアイズ〟印

                〝サラマンドラ〟印』

 

 十六夜の手元に現れた羊皮紙に目を通し、小さく頷く。

 

「確かにこのルールなら魔王が襲ってきても〝主催者権限〟を使うのは不可能だな」

「うむ。まあ、押さえるところは押さえたつもりだ」

「そっか。………で、そこの馬鹿は何で骨になってんだ?」

 

 そういって、十六夜は骸骨と化した翔の方へと顔を向ける。そちらには心配になるほど中身のない翔がいた。その姿を見た飛鳥、ジン、黒ウサギは短い悲鳴を上げる。

 

「あー、いや、昼間にちょっと、街に行った際に、気になる作品を、その、見たんだ。そのせいで、汗が止まらなかったからこうしたら止まるかな~、って」

 

 無理だったけどね………。そういって翔は汗を垂れ流しながら、顎をカタカタ鳴らし、あばら骨の中からデジカメを取り出す。そして、昼間に撮影したステンドグラスの画像を皆に見せる。

 

「………ッ!おい、これって〝ハーメルンの笛吹き〟か?」

「なに?」

「やっぱり、そうなのか?今の話を聞いてもしかしたらー、って思ってたんだが………」

 

 ハァ、とため息を吐く翔。そして、最大級の爆弾を投下する。

 

「じゃあ、案内してくれたのは魔王かその仲間だったのかね?」

「「「「「「………」」」」」」

「詳しく話せ骨小僧」

「ほ、骨小僧って………」

 

 白夜叉が翔に説明を要求する。

 

「ま、まあ、今見せた写真が一番最初に見た作品なんだが、それ以外にも一〇〇枚以上ステンドグラスがあったらしく、その作品を作ったコミュニティと関係のある人物が案内を申し出てくれたんだよ。今考えれば、最初の一枚から目を逸らすためだったのかもしれない」

「なぜ今の今まで黙っておった?」

「………魔王が来るなんて話、たった今聞いたんだもん!それに今の話を聞くまで、作品の題材も分かんなかったんだよッ!!前情報なしで、こんな出来事が関係あるとは誰も思えねえよッ!!!それに見事なまでにバッタリ遭遇するとか、ありえねえだろッ!!!!珍しく()()()()戻ってこれたと思ったら、時間差でこれだよチクショウッ!!!!!!」

 

 俺は、俺は悪くねえッ!!頭蓋骨の目にあたる空洞から、どうやって分泌しているか分からない涙を流しながら叫ぶ翔。その言葉を聞いて、一同は納得してしまい、彼のことを責める者は誰一人としていなかった。

 

「それで、これは何処のコミュニティが出展してたんだ?〝ラッテンフェンガー〟か?」

「いや、名義は〝ノーネーム〟だった………」

 

 その話を聞いた一同は驚く。

 

「〝ラッテンフェンガー〟ではなかったのかしら?」

「ああ。確かに〝ノーネーム〟だった。〝ラッテンフェンガー〟が無関係なのか全く別のコミュニティなのかは知らん。まあ、最初は俺も同じ〝ノーネーム〟だから気になったんだと思ってた。でも、今の話を聞いちまうとな~」

「違う、ってか?」

「点と点が線で結ばれていくような、パズルのピースが当て嵌まっていくような………そんな感じだ。それでも仮説でしかないが………」

「よい。話せ」

 

 白夜叉がそれでも構わない、と話を促す。そういわれては断ることも出来ず、むしろ断ったら酷い目に遭うと経験的に知っている翔は、息を一つ吐き、話し始める。

 

「さっき見せてもらったルールには若干の穴があって、今回はそこを突かれたと思う」

「穴、でございますか?」

「そうだ。見た限り、参加者じゃなかったら〝主催者権限〟が使えるってことだろ?」

「それは、そうでございますね………」

「なら、〝主催者権限〟を持っているのが参加者ではなく、出展された作品ならどうだ?さっきの話だと魔書の一つ一つがゲーム盤として確立されてんだろ?」

「………ま、まさか」

「そう。もう既に魔書自体が作品として持ち込まれているっていう仮説。それによって、さっきのルールには抵触せずに〝主催者権限〟が行使できる。………まあ、最初に言った通り、そのステンドグラスが魔書ならばの仮説だ。ただ、〝主催者権限〟が魔書、もしくは魔書から召喚された悪魔が行使できる前提の話だ。俺の妄想で、根拠も証拠もねえ。まだ箱庭に来て一か月程度の男の戯言だ」

「………だが、現実味があるの」

 

 むぅ、短く唸って黙り込む白夜叉。それとは対照的に十六夜が獰猛な笑みを浮かべる。それに気づいた翔も困ったような表情をするが、その顔には僅かながらの笑みが窺える。

 

「ハッ。なら、ほぼ確実に噂の魔王様とギフトゲームができるってことか?」

「この仮説が本当なら、明日にでもしかけてくるだろうよ。俺に魔書を見つけられて慎重になるってことも考えられるが」

「だが、遅かれ早かれ開催はされる」

「多分な。だが、それは俺らにとってはチャンスだ」

「これを機に俺たちの名を広める」

 

 そういって、二人は笑みを交わす。

 

「そうと決まれば、軽く打ち合わせでもしとくか?」

「何もかもが不確定事項だらけのこの状況でか?まあ、いいが………」

「どうせ話してない情報もあるんだろう?」

「………否定はしない。だが、これも不確定情報だから、話しても不要な混乱を招く可能性がある」

「じゃあ、御チビを交えて三人だけでゆっくり聞かせろ」

 

 そういって、翔の頭蓋とジンの襟首をつかみ、引きずって部屋から退室する三人。そんな中、翔に声をかける耀。

 

「翔、明日の決勝」

「分かってるって。言われた通り、盾ぐらいにはなるさ」

 

 カタカタと顎を鳴らして笑い、引きずられていく翔。それを見送った女性陣は、各々自身に宛がわれた部屋へと戻り、床に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 別室に来た十六夜、ジン、骨から元に戻った翔の三人。座ると同時に十六夜が尋ねる。

 

「で、話してない情報はなんだ?」

「………俺を案内してくれた少女の名前だ」

 

 そこで翔は一息置いて、口を開く。

 

「彼女は自身の名をペストといった」

「ペ、ペストですか!?さすがにそれは」

「だからこそ、分からないんだ。名前ってのは、口頭だと一番詐称しやすいからな。だが、本名なのだとしたら」

「マズイ、ですよね」

「俺はリスポーンすれば平気だ。十六夜も多分平気だろう」

「おいおい、俺を一体何だと思ってるんだよ?」

「風邪にすら罹らなさそうな問題児。まあ、信頼の証だと思ってくれ」

 

 ケラケラ笑って流す翔。しかし、すぐに真剣な表情に戻る。

 

「さて、これで一先ずは全部だ。現在分かっている状況を整理するか。敵の戦力は不明。だが、ペストと魔書の悪魔・〝ハーメルンの笛吹き男〟はほぼ確定。こっちの戦力は俺らと〝サラマンドラ〟、白夜叉と他の参加者達。だが、不確定要素が多分に含まれている。開催は明日にでも仕掛けてくる。ゲーム内容は不明。だが、これらのステンドグラスがカギとなる可能性がある。………こんなところか?」

「………ま、今はそれが限界だな。どう転ぶにせよ、この御チビには頑張ってもらわないとなあ」

「はい?」

「全くだ。どうなってもこのリーダーの存在を広めなきゃいけない」

「あ、あの?」

「「というわけで、ゲーム攻略の指揮は任せた♪」」

「え?え、えええええぇぇぇぇぇッッッ!!!!」

「「五月蠅い」」

 

 ガガンッ!とジンの頭に拳とボードによる一撃が叩き込まれ、昏倒する。それを確認した二人は立ち上がる。

 

「さて、御チビも()()ことだし、俺らも休むとするか」

「そうだな。現状じゃまともな対策なんて、できやしねえしな。つか、俺こんな考えるキャラとかやってらんねえぜ。なんで作品見に行っただけで、ドンピシャで面倒事関係に引き寄せられたんだか」

 

 そういって、自分たちに宛がわれた部屋へと向かっていった。

 




【スケーター】………なんだろう。人智を超えた存在?

【スケートボード】殴られたら吹き飛んだり、昏倒したりする不思議な車輪付きの板。よほどのことが無いと壊れない不思議な板。

【ステンドグラス】ご都合主義。

【賃上げ交渉】零細コミュニティにはお金が足りない!

【骨】Skate3のアレ。骨になっても生きてます。肉が無くても分泌されるものは変わらず出るようだ。

【翔の頭】知識はない。でも思考力はある設定。バグを考える→発想力がある→ならば思考力はそこそこあってもいいのではなかろうか?っていう感じ。他にも、スケボーしながら次のトリックを考えるから思考速度もそこそこあるという設定。だからこれぐらいは許して!


作者「実際今回の話、翔がステンドグラスが怪しいかも的なことを話して、全員で叩き割りに街を回るっていう風にしようかって考えてた」
翔 「でも、それをすると原作二巻が今回で終わる上に、ペストやメルン、ディーン、ラッテン、ヴェーザーの出番が消えちゃうからな。しかもペスト以外この小説でセリフも描写もなく終わるし」
ペスト・メルン・ディーン・ラッテン・ヴェーザー
「「「ッ!!?」」」
作者「うん。だから没った。皆の行動に焦ったペスト達がゲームを強行するってのにしてもよかったけど、現在時間が夜ってのと、その後の展開が難しくなるから魔王の思惑に乗る方向にしたよ」
ペ・メ・ディ・ラ・ヴェ
「「「「「ほっ………」」」」」
翔 「その後の展開?なんかあったか?」
作者「うん。そうすると今度はアーシャとジャックの出番が消えるんだ。魔王襲来で決勝が中止になるからね。今後の重要人物たちとの接点がなくなっちゃう」
アーシャ・ジャック
「「えっ!!?」」
翔 「ああ、だからそっちも没か」
作者「うん」
ア・ジャ
「「ほっ………」」
作者「でも、こっちに至っては、今後の展開次第で修正可能だから可能性は十分にあった」
ア・ジャ
「「ッ!!!!???」」
翔 「でも、やめたんだろ?」
作者「うん。正直、七桁と六桁じゃ接点作りづらいし、やると無理やりになりそうでやめた」
ア・ジャ
「「ふぅ………」」
作者「どっちも書いてみたかったけどね♪」
ペ・メ・ディ・ラ・ヴェ・ア・ジャ
『やめてッ!!』


 というわけで(?)今回はあまりヌケボー出来なかった。次回はもう少しヌケさせる(未定)


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