もしもスケーターが異世界に行ったならば。 作:猫屋敷の召使い
文章は9割はできていたのに見直しやら加筆やらで残りの1割が長かったです。
では、最新話をどうぞ。
「大変長らくお待たせした。それでは、我々からの依頼内容についてご説明させてもらおうと思う」
司祭補佐のララァが参加者たちの視線を集める。
これからゲームの進行が始まるらしい。
翔たちも同様に彼女を見た。
「此処に来るまでに、皆に会って欲しい人がいるとは伝えたが……先に謝らねばならない。実はそのお方は現在、地下迷宮にはおられない。その方は一昨日とある悪漢に襲われ、姿を見せることが出来なくなってしまった。本来ならその方と共に最下層の怪物の討伐を依頼したかったのだが……」
(やっべ。一昨日って。いやでも、よくよく考えればとどめは俺じゃないはずだしセーフセーフ)
心当たりがありすぎて困るんだが。
口にも表情にも出さないが、内心冷や汗を搔きまくっている。翔がやったのはあくまでも
そうこうしているうちに、参加者の一人である現代風のカジュアルな格好をした女性が察したように問いかける。
「その説明じゃわからないわ。もう少し詳しくご説明願いたいものね。そもそも誰と会わせたかったの?」
「残念だがそれは言えない。あの方は主催者たちの呼び寄せたゲストだから私の口からは何も。……しかし、それでは不義理だな。私の立場で答えられる質問には答えよう」
質問を受け付けるということは、ゲーム攻略の鍵を得られる機会でもある。
参加者たちが顔を見合わせて話し始める中、女性は間を置かずに続ける。
襲撃された人物の生死。
襲われた日。
聞き出した答えはこれだけ。
あとは既出の情報だけで彼女は答えを導き出した。
「ララァ。貴女が会わせたかった人って―――ギリシャ神群最強と名高い勇士、ヘラクレスじゃない?」
「な……!!?」
今の情報だけで出せるんだ……。
翔は素直に驚嘆した。それと同時にこれほどの実力者と競わないといけないのかと思い、少し気が滅入ってしまう。
そんな女性の言葉にララァは言葉に詰まってしまっている。
「それは……その」
「あ~OKOK、答えなくてもいいわ。その反応で十分です。……けどマジか~。ヘラクレスと正面から戦える奴なんてヴィーザルかうちの最強戦力くらいだと思ってたのにな。誰が倒したんだろ」
あれを正面から戦ったといえるのかは知らんけどな。動けなくした後にオルフェウスから聞いたけど弱体化してたっぽいし。
一瞬、あの女性と目が合ったような気もするが、口にも表情にも目にも興味を持たれるような反応を出していないからおそらく大丈夫だろうと翔は考えた。興味を持たれるにしても、先ほどの彩鳥とのやり取りの方が印象は強い。
(それにしても、彼女の服の絵柄……どこで見たんだっけなぁ……?)
薄らぼんやりと見覚えのある絵柄だが、思い出せずにもやもやとして気持ちが悪い。
そんな気持ちをどうにかしようと必死に思い出そうと試みる。
しかし、必死に考え続けるがどうにも思い出せない。
そうこうしているうちにララァと女性の会話は終わり、女性は元の場所に戻っていった。
(こうも思い出せないとなると箱庭以前ってことかな。なら元の世界で観光した場所かも……。でも、地元や料理を習った国は結構覚えてるんだよなぁ……。王冠が描かれてるなら王政や貴族制のあった場所……?そのうえで料理修行をしていない国……?いや、くそ多いわ。しゃーないし地域ごとに潰していくか……。ヨーロッパが比較的観光のみの場所が少なかったは、ず……?)
ヨーロッパ。
その地域で何かが引っかかった。
何だっけ?ヨーロッパのどこだ?観光のみの場所?とはいえ、一国全域を巡ったわけではないのに、見覚えがある、ということは―――
「―――翔?聞いてる?」
「え?あ、ごめん。聞いてなかった。何の話?」
翔は思い出すのに集中していて、話しかけられていることに気付けなかった。そんな彼に耀は呆れながらも、ある参加者の衣服を指さしながら尋ねる。
「期待はしてないけど、あの女性の服の絵柄、分かったりする?〝三重冠〟っていうらしいんだけど」
「あぁ、あれね。見覚えはあるんだよねぇ……」
「あるの!?」
耀は驚きの声を上げる。他の三人も目を見開いて驚いている。
誰もまさか翔が知っているとは思っておらず、固まっているがそれを気にせず翔は続ける。
「見たはずなんだ。はずなんだけど、どこで見たのかが思い出せない。もう、喉元までは出てきてるんだけど……。たぶん、元の世界で料理修行で各国を巡っていた時期で、さらにはヨーロッパのどっか、すぐに思い出せないことから観光しかしてない場所だと思うから、かなり限定されるはずなんだけどなかなか思い出せなくて……あっ」
そこまで言って思い出した。一か国だけ観光でしか立ち寄ってない国が存在していたことに。さらにはその国だけは国全体を観光で巡ったことも。
「思い出した。バチカンだ。バチカン市国で見た気がする。国旗、だったっけ?」
「えっと……つまり?」
「あー、ローマ教皇、もしくは教皇庁の関係者、かも?少なくとも国旗に使われているぐらいだから、関係は深いはず。生憎だけど俺の頭じゃ、かなりの大物が出資者だろうってことしか分からん」
「……だから彩鳥さんは話せなかったのね?」
「わ、私の口からは肯定も否定も言えません……」
翔が話を聞いていないときにそういったやり取りがあったのか、飛鳥が彩鳥に尋ねるが彼女の方もあいまいな言葉を返す。
それはもはや答えを言っているのと同義では?
そう思った翔だが、それ以上に思い出すことが出来てすっきりしたのか、彼の表情が少し晴れやかになっていた。
「とりあえず、あの娘については理解したようだな。———さて、そろそろ開始だが、準備はいいか?」
「あ、ちょっと待って!ララァさんに聞いておきたいことがあるから!」
小走りでララァに近寄った耀は、片手をあげて問いかけた。
「えっと、ララァさん。もしかして、先行して地下迷宮に潜っているか、或いは別の入り口から地下迷宮に入っている人たちがいるんじゃないかな?」
「……さて、どうだろうな。それについて私から説明する権限はない」
否定も肯定もしてはいないが半ば答えているようなものだ。
その言葉を聞いた耀は翔へと目配せする。その視線に気づいた翔は意図を理解し、様々な人物へと視界ジャックをやり始め、すでに地下迷宮にいるかもしれない参加者の動向を探り始める。
「そろそろ時間だ。この迷宮には勝利条件の手がかりが複数ある。どのような手段で迷宮を探索するのかは各々の采配に任せるが……一つだけ、了承しておいてほしいことがある」
人差し指を立てたララァは参加者全員の顔を見つめる。
「ここから先は死の危険がある。参加者同士の戦いによる死ではない。この地下迷宮の中に眠る怪物が貴方たちを殺すかもしれないという意味だ」
箱庭では、このような注意勧告は非常に珍しい。神魔の遊戯であるギフトゲームは死と隣り合わせであることなど日常茶飯事であるからだ。そのうえでの発言であるならばよほどの危険があるということだろう。
とはいえ、この場には一名ほどそういったものとは無縁な
「死を賭しても構わないという者だけ足を踏み入れて欲しい。……だが万が一ということもある。命の危険を感じたのなら、状況を問わず、東の集落へ来てくれ。必ず力になろう」
迷宮に続く門が開く。誰も先を急ごうとはしなかった。
用心深く相談し始めるグループや準備を再確認するグループが多い中、飛鳥たちは迷宮の入り口に立つ。
「ちゃっちゃと行くかー」
「ええ。躊躇う理由はないわ。誰よりも早く攻略して見せるわ!」
「石碑が複数あるなら手分けして探したほうがいいよね」
「人海戦術もいいが、方針も大事だぞ。目的が地下の御仁なら〝石碑を探す者〟と〝地下を目指す者〟の二組が必要になる」
「……何だかRPGゲームみたいですね」
は?と疑問符を浮かべる飛鳥と上杉女史。
そんな二人の反応に彩鳥は恥ずかしそうに一歩下がる。
だが、耀と翔は何が言いたかったかを即座に察した。
「あー、確かにローグライクっぽいかもな。入る度に構造は変わらないけど」
「そうだね。ダンジョンらしいダンジョンに挑む古典的なゲームはやったことなかったけど、彩鳥さんの時代にはあるの?」
「古典的かどうかはわかりませんが、先輩たちが好きなゲームのジャンルだと思います。むしろ春日部さんや翔さんがRPGゲームを知っていたことに驚きです」
「そう?私はそこそこゲームもしてたよ。信長の展望とか、三国奔走とか、セブンスコスモラウンドナイツシリーズとか、ジャンルは偏ってるけど。翔は?」
「ミステリとか戦略シミュレーション、パズルとかの頭を使う系以外はそれなりに満遍なくやってたかな。俺の世界はかなり特殊らしいから同じタイトルのゲームがあったかわからないけど。というかなんで俺まで?俺の世界はお前らの時代と比較的近いはずなんだけど?俺に対してどういうイメージがあるわけ?」
「……えっと、いつもスケートをしている、というイメージが……」
「流石の俺も一年365日24時間ずっとスケートはしてなかったからな!?確かに費やす時間は多かったけど、ちゃんと仕事もあったし、スケートほどではないけど別の趣味もあったから!」
「料理とか?」
「え、あ、いや、まぁ、それもそうっちゃそうかもだけど……初めは不純な動機だったからそれに関しては何とも言えんわ……。あぁでも、修行ついでにその国の観光はしてたからそっちは趣味といえるかも……」
「二人とも意外に多趣味よね。翔君は知っての通りかもしれないけど、春日部さんも料理はびっくりするくらい上手なのよ」
「そ、そうなんですか?」
「齧った程度だから翔ほどじゃないよ。それに〝ノーネーム〟の主力陣はみんな料理得意だもの。私の料理のレベルなんて翔を除いたみんなとそんなに変わらないんじゃないかな」
「なら夜食ぐらいは自分で作ってくれよ」
「だが断る」
「知ってた。何度も言ってるからな、こんちくしょう」
おお……と彩鳥は感心したような声を上げる。
彼女の言うように〝ノーネーム〟の侍女頭や使用人たちの給仕能力は極めて高い。そこに並ぶとなるとかなりの腕前だ。だが、料理に関してはそんな使用人たちの上を行くのが翔であるため、そんな彼に料理を教わっている者も少なくない。
「意外な真実です。もし機会があればその腕前のほどを確かめてみたいものです」
「別にいいけど、その時は私もご馳走してもらうよ?」
「望むところです。こう見えて家庭科の必修科目は全て満点を取っています。披露する場がなくて口惜しいと思っていたところでした」
「おお、それは期待。じゃあアトランティス大陸を攻略したらみんなで立食パーティーをするのもいいね」
「……うん?それは耀と彩鳥
「えっ?何ってるの?翔
「マジかぁ……。俺関係なかったじゃん。おとなしく女子会しててくれよ」
珍しく女性らしいトークで盛り上がっていると思ったら、なぜか自分が巻き込まれてしまったことに翔は驚き、その隣の飛鳥はそんな二人の会話に入ることが出来ず口惜しそうにしていた。
上杉女史は笑って地下迷宮を指さす。
「楽しそうなところ申し訳ないが、そろそろ進むとしよう。探索は2:3でわけるか?」
「うん。私と翔が組む。でも探索は三人に任せるから、私たちは先に地下に行くよ」
この申し出には飛鳥たちも慌てた。
「い、いくら翔君が一緒だとしても、それはちょっと無理があると思うわ」
「何があるかわからない状況で二人だけでというのは危険すぎる」
「大丈夫、翔がいるなら他の参加者たちはともかく私だけなら〝パーク〟に避難もできるから。それにほら、昨日言ったでしょ?〝階層支配者〟の友達を呼び出せるようにしたって」
飛鳥は昨夜のやり取りを思い出す。そういえば御門釈天が全面的に責任を負ってくれたおかげで、人材を補充できるということになっていた。
「戦闘になるようだったら彼女に力を貸してもらうし、彼女の力なら戦いを仕切りなおすことだってできる。未知の敵と戦う時の彼女は凄く頼もしい。それに翔がついてるから、もし逃げることになっても余裕だよ。それに最悪は翔が視界ジャックで先に地下に着いた人の視界を覗き見れば様子はわかるから」
「今のところ最下層っぽいとこに他の参加者はいなさそうだけどな。何人かすでに地下の探索を行っている感じの視界はあるけど」
先ほどからずっと目を閉じていた翔はすでに地下に先客がいることを報告する。その情報を聞いた一同が表情を引き締める。
今ここで言い争っている間にも先に地下迷宮の探索を進めている参加者がいる。
その事実は自分たちがすでに出遅れていることを示していた。
「というわけだから私たちが先に最下層を見てくる。もし危険そうだったらみんなと合流するし、そうでなくとも私は無茶はしないよ」
「……それって俺に無茶しろって言ってる?」
「相手によっては少しはしてもらわないといけないかも」
「……へーへー、頑張りますよ。頑張らせていただきますよー……」
翔は耀の言葉に肩を落としながらも、渋々了解の意を伝える。
「そこまで言うなら二人に任せてみてもいいんじゃないか?石碑の探索に時間がかかるのは間違いないのだし、大胆ながら堅実さも感じられる作戦だ」
「……はあ。仕方ないわね」
飛鳥はギフトカードを取り出す。
するとカードの中からとんがり帽子の精霊が飛び出てきた。
「メルンの姉妹を一人預けるわ。合流するときに迷ったらこの子を頼って。私のところまで案内してくれるわ」
「はい、あんないするよー!」
「ありがとう。飛鳥たちも気を付けてね」
「人のことは言えないけど無茶はしないようにな」
五人は頷き合って別行動を開始する。
耀と翔は地下に向かい、飛鳥たちは石碑を探し始めることにした。
レイ・サベージ様、シオアメ様、名も無きヌケーターファン様。
感想ありがとうございます!
シオアメ様、ちくわに成りし者様。
評価ありがとうございます!
ちなみに次話は3~4割しかできてないのでいつになるかわからないです。