もしもスケーターが異世界に行ったならば。 作:猫屋敷の召使い
ということで書き溜め放出。
幻想大陸アトランティス三日目。
南の山岳地帯・オレイカルコス鉱山。
陽の光が頂まで登り切った頃。
司祭補佐のララァに連れられた久遠飛鳥、春日部耀、板乗翔たち一行は、固く閉ざされた門の前に集まっていた。周囲には他の参加者もいる。
如何やら彼らも原住民に頼み込まれて集まってきたらしい。
青いターバンを巻いて腰かける青年や、近代風のカジュアルな服に身を包む黒髪の女性や、二本の槍を手元に置いて昼寝をしている少年。その他にも二〇名近い参加者たちが集まっているが、翔が特に気になったのはその三人だった。
(少年は槍を持ってるから武闘派、青年の方も武闘派かな。体は若いけど見た目通りではないかも?女性の方はそういう雰囲気じゃないから、頭脳労働かな?)
久遠飛鳥と春日部耀が周囲を見渡して値踏みをしているなか、翔はあたりめを口にくわえ、味わいながら観察を終えた。レストラン経営で勝手に身に付いた目利きだ。毎日毎日箱庭の猛者を直に見ているおかげで見た瞬間にある程度判別できるようになっていたのだ。ある日それに気付いた翔としては、そういうのよりも食事の好みがわかった方が便利なんだけどなぁ、と思ってしまった。
「ふぅん……太陽主権戦争の本戦って、意外にも人数がいるのね」
「出資者のシード枠もあるし、こんなもんじゃないか?まぁ、飛鳥が勝ち抜いてきてるから、予選で本命の選手が落ちたところはあるんじゃないかね?」
「そうだね。参加者の実力が低くても出資者が実力者の場合もある。どうしても参加させたい人を出資者が持ってるシード枠に押し込んだりね」
「じゃあ伝承に残ってるような怪物や英雄以外もたくさん参加しているということ?」
「それを言ったら私たちだって凄い伝承があるわけじゃないよ。太陽に関係性を持っているというのは予選を有利にすることはあっても、本戦ではアドバンテージがあるわけじゃない」
「予選上がり組は飛鳥含めて実力者ばっかだろうけど、シード枠の参加で無名だからって出資者から送り出されてるわけだから油断はできないし」
「……翔君って、結構考えてるのね」
「こんなんでもこの二年間もリーダーの補佐をやり続けてきたからな。おかげ様で必要のないはずの睡眠時間がたっぷり増えたよ」
「……春日部さん?」
「……………………」
翔の睡眠の
その後、上杉女史が軽く事情の補足を聞くと、飛鳥がそっと振り返る。
視線の先の金髪の少女、久藤彩鳥を見た飛鳥は、少し声のトーンを下げた。
「ところで、あの子。ずっと気まずそうな顔でそっぽ向いてるけれど。何か機嫌が悪くなるようなことした?」
「そ、そういうわけじゃないと思うよ。きっとお腹が―――」
「いや、単純にフェイスレスの生まれ変わりで飛鳥と顔を合わせるのが気まずいだけでしょ」
「……えっ?」
「翔っ!?」
「えっ?まずかった?」
「まずいよ!そんな急に言っても飲み込めないよ!」
「いや、勿体ぶっても仕方ないでしょ」
「話すにしても覚悟を決める時間ぐらいはあげようよ!ほら、飛鳥だって混乱してるし!」
翔が事実を軽く告げたことに対し、彩鳥は硬直して真っ白になり、飛鳥はすぐにはその言葉を飲み込めずに頭上にクエスチョンマークが大量に出ている。耀も翔の名前を呼んで驚愕を隠せずにいた。
「えっと、どういうことなの?」
「飛鳥の姉妹は二年前の決着の後、外界で久藤彩鳥という字は違うけど同名の人物に生まれ変わったんだよ。クイーンの手駒として、外界と箱庭を繋ぐ役目としてな」
「そういえば……そんなことも言っていたわね。じゃあ、彩鳥さんにはフェイスレスとして戦っていた頃の記憶が存在していないの?」
「あー、それはぁー……」
翔が一応、念のために彩鳥の方に視線だけで確認をとる。すると、彩鳥は全力でバツマークを作って首を左右に振っていた。
それを見た翔は飛鳥に告げる。
「まるまるあるらしいぞ」
「そうなの!?」
彩鳥の意思を無視して真実を暴露した。
彩鳥が目を見開き、すごい形相で翔のことを見つめる。その目はやめるように伝えているが、翔はそれを理解したうえで敢えて無視して話を続ける。
「だから気まずいんだろ。前世できっぱりお別れしたのにこうやって記憶持ったまま再会しちゃってるから何か頭に刺さったッ!?」
そんな翔の頭にさながら創作物のフランケンシュタインに刺さっている螺子のように一本の槍が生え、突然の痛みと衝撃で奇声を上げる。そして、飛んできた方向を見ると、彩鳥が右手を振り下ろした体勢でそこにいた。
周囲の参加者たちも頭に槍が刺さる生々しい音を聞き、その発生源である翔を見て、あんぐりと口を閉じ忘れるほどに驚いている。
当の本人は平然としており、なにすんの?と訴えるような視線で彼女を見ていると、そのことを察したのか口を開いた。
「手が滑りました」
「いや、絶対狙ってやったでしょ、これ」
「手が滑りました」
「なら滑ったときに一声かけてよ」
「手が滑りました」
「…………」
「手が滑りました」
「別になんも言ってないんだけど……」
「手が滑りました」
『手が滑りました』が鳴き声の生物にでもなったのかな?そんなことを考えながら、頭から槍を引き抜き、あくまでも手が滑ったと宣う彩鳥に返却する。
その光景を見た他の参加者たちは少しの間翔の様子を窺っていたが、徐々に見るのをやめていった。
彼女は渡された槍を仕舞うと、すぐに翔のもとに近づくと、三人から離れた位置に移動して小声で話し始める。
(なんであんなことを言うんですか!?)
(いや、色々とめんどい。長々と説明すんのもめんどいし、二人の間に妙な地雷が出来んのも後々めんどい。ぶっちゃけ『全部覚えてるらしいよ☆』って言った方が丸く収まるかもって思ったから)
(………………)
彩鳥は無言で再び槍を取り出すと、翔を刺した。本人的にはかなり悩んでいた内容だったものを『面倒』の一言で片づけられたのだ。それは槍の一本や二本くらい刺したくもなるというもの。まぁ、あくまでも死んでも問題ない翔だから行っている行為で、良い子のみんなは決して真似をしてはいけない。
「痛い」
「すごい棒読みですね」
「普通に痛いけどね。ただの慣れよ、慣れ」
槍が腹から背中に貫通し、腹部から出血、さらには胃が傷ついたのか、吐血しているというのに翔は表情や声色一つ変えずに平然としている。その態度がさらに癪に障り、さらにぐりぐりとねじ込むように槍を動かすと、「うわー痛いよー」と表情を変えずに棒読みの悲鳴を上げた。
「え、えっと……」
「まぁ、今度時間があるときにでも二人っきりでじっくり話しなよ。こうして再会したんだし。前と違って時間はあるんだから」
翔と二人で話し始めてしまった彩鳥を見て何を言えばいいのか、困っている様子の飛鳥を見て、翔が彼女にそう告げる。
それを聞いた飛鳥が、戸惑いながらも微笑を浮かべる。
「……そう、ね。時間はあるんだもの。話すのは後にして、今はゲームに集中しましょう。それと―――」
―――以前みたいに頼りにしていいのかしら?
彩鳥のことを見つめながら、そう尋ねる。
対する彩鳥は驚きながらも、飛鳥と同じように微笑を浮かべ答える。
「はい。いま私が出せる全力を以て臨みます」
そんな二人の様子を見た耀がふと口に出す。
「……めでたしめでたし?」
「あー、死別からの奇跡の再会って点ではそれで良いんじゃないか?」
まぁ、危険なゲームはこれからなんだけど。
翔はそんなことを考えながら、今更ながら腹部に刺さりっぱなしだった槍を引き抜いてリスポーンして体を元に戻した。
「あぁ、女王には『翔にいじめられた』と報告しておきますので」
「じゃあ、その時は
その後、彩鳥と翔がそんなことを話していた。
レイ・サベージ様、高1病様、カンガルーゴリラ様。
感想ありがとうございます!
返信等はしていませんが、しっかり読ませていただいております!
可能なら明日したいけど、次の投稿日は不明です。