もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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恥ずかしながら帰って参りました。作者の猫屋敷の召使いです。
一年以上ぶりですね。遅くなって本当に申し訳ない。
あと、社会人って忙しいですね。なかなか時間のやりくりが慣れない。
他の社会人の作者の方々ってどうやって時間を作ってるんだろう……。

では最新話です。


時間が欲しい……。


ラストエンブリオ6・7
第四十一話 人類かどうか怪しい人類


 汽笛を鳴らしながら、精霊列車が森へと降りてくる。

 主催者と出資者が乗車している精霊列車がアトランティス大陸に降りてくるということは、本来なら考えられない事態だ。上空を滑走していた精霊列車が弧を描きながら降りてくると、逆廻十六夜は神妙な顔でその様子を窺う。

 

「降りてきやがったな。これで神王様から直々に話を聞けるなら手っ取り早いんだがね」

 

 十六夜の呟きに、久遠飛鳥が驚いた顔をする。

 

「神王? 神王って、インドラさんのこと?そんな凄い人まで足を運んでいるの?」

「そりゃそうだろ、主催者の一人なんだから。……ん?そういえばお嬢様はどうやってこのアトランティス大陸に上陸したんだ?」

「私?私は予選から勝ち上がってきただけよ。太陽主権も太陽伝承も持たない人向けの一般参加枠。〝天の牡牛〟事件で進行が遅れて、着いたのが初日ギリギリってこと」

 

 飛鳥の話を聞いて、春日部耀が思い出したように手を叩く。

 

「そういえば〝天の牡牛〟事件で予選会場が吹き飛んだんだっけ。その時に避難を手伝ってくれた参加者がいたって聞いたけれど……もしかして、飛鳥のこと?」

「私もそうだけど、他にも居たわ。特に二本の槍を使う金髪の男の子なんて強いなんてもんじゃなかったもの。アルマ曰く、神群最高位に近しい実力者が七人は参加していたって話よ」

 

 へぇ、と十六夜は相槌を打つ。翔も納得したような声を上げる。

 

「あー、まぁ太陽の主権や伝承がないとどんな実力者でも予選からだしなぁ」

「それもそうか。お嬢さま以外は誰が予選を通過したんだ?」

「確か武勇の部門がその男の子で、知勇の部門が東洋系の子。他にも何人かいたけれど、最終的には私たち三人ね」

「てか、そんな予選を勝ち上がってきたのか……」

 

 翔は飛鳥を含め、そんな予選を勝ち上がってきた相手と競い合うということを考える。が、結局は自分が果たすべき役割は大して変わらないんじゃないかということに気付き、考えることをやめた。

 

「まぁ、そのときに考えればいいか……」

 

 それにしてもここ数日は本当に疲れるな。

 翔はリスポーンしても消え去らない疲労を感じながら、内心だけで愚痴を溢す。

 

(ほんと、くそ眠い……。ここまでのは久しぶりだな……)

 

 睡魔に耐えながらも翔は三人の会話をぼんやりと聞く。彼が十六夜のいつもの笑い声を耳にすると同時に、そこへ西郷焰と彩里鈴華が姿を見せる。

 

「揃ったか。ならさっさとこの二人について考えね?正直、俺はもう眠すぎて立ってるのも辛い……」

「……そんなにか?」

「ぶっちゃけ、さっきの三人の会話も頭に入ってないぐらいには……」

「……なんでだろう?昼間はちゃんと休んでたよね?」

「あぁ……」

「殺人種に殺されたから、とか?」

「あー……あり得る、のか……?」

「お前ですらわからないことを俺らに分かるわけないだろ」

「でーすよねー……とりあえず、そこらで寝てるから、用があるときか移動するときには起こして………」

 

 覚束ない足取りで木の傍に歩いていくと、すぐそばに二人を地面に下ろすと、、自身も根元に腰を下ろして木に背中を預けると、彼自身が言っていたように、ものの数秒ですぐに寝息を立て始めた。

 

「大丈夫かな……?」

「さぁな。まぁ、死ぬことはないだろ。目を覚ますかどうかは別にして」

「……一回だけ起こしてみる?」

「遅くとも移動のときに起こすんだ。寝かせといてやれ。今回は大活躍だったからな。手段はともかく」

「……それもそうだね」

 

 その後、一同は降りてきた釈天を交えて話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 翔は壮絶な音が鳴り響いたのを切っ掛けに目が覚めた。

 まだ起きたばかりでぼんやりとした意識と視界の中で、なぜか十六夜が崩れ落ちるのを目撃した。

 

「……なにごと?」

「寝かせただけ」

「………………あー、なんとか把握。起きた後が怖いけど」

「それよりも翔は大丈夫?」

「それよりもって……。まぁ、こっちは平気。少し寝たら楽になった」

 

 まだ眠いけど。そう締めくくると、あくびを一つ溢した。

 耀が十六夜を殴り倒したのだと理解すると、十六夜を担ぎ上げる。

 

「あー……そちらが噂の神王様?」

「ああ。今は御門釈天と名乗っている」

「板乗翔です。よろしくー」

 

 互いに自己紹介を終えると、翔はもう一つだけあくびを溢す。

 

「で、どういう状況?」

「私たちは遅れてるらしい」

「だろうね。それ以外は?」

「それ以外はあまり関係が……待って。『だろうね』ってどういうこと?」

「んー?視界ジャックで色々見てると参加者の進行状況もある程度把握できるのよ。クリア報酬の文面とか。それで、俺らよりかは進んでるのが何組かいた―――」

「内容は覚えてる?」

「―――……覚えてるけど」

「あとで紙に書き写して」

「……えっ?『有り』なの?ゲームも何もやってないのにクリア報酬だけ盗み見って?」

 

 翔は審判である黒ウサギと出資者である釈天の方を見る。

 

「一応、ゲームをクリアして入手してほしいのだが……」

「だそうで」

「ちっ」

「参加者間の任意譲渡、または共有は有りだがな」

 

 ちっ、と耀はもう一つ舌打ちをする。

 耀が諦めたのを確認すると、翔は話を変える。

 

「で、そこの二人はどうするんだ?参加者は無理だけど、それ以外なら〝パーク〟にぶち込んでもいいんだけど」

「参加者であるアルジュナは無理だ。だが、クリシュナとパラシュラーマと白皮症の少女は俺が引き取ろう。娘たちは外界に帰すことになるが、俺の仲間に守らせれば大丈夫なはずだ。焰もそれでいいな?」

「勿論。キッチリ守ってくれるなら借金帳消しでもいい。絶対に助けてくれ」

 

 焰の言葉に釈天は頷いて返す。

 耀は焰の話が終わったのを見計らって尋ねる。

 

「わかりました。最後に私から二つだけ質問があります。本当は幾つか聞きなれない名詞についても聞きたいですけど、取り敢えずは二つだけ」

「聞こう。答えられるものなら必ず答える」

 

 耀の言葉を快諾する釈天だが、答えられるものだけしか答えないあたり、出資者として、神王としての相応の責任を持っているための制限だろう。しかし、最後に会った黒き獣についてだけは聞いておかなければならない。

 

「釈天さん。さっきの敵ですけど……アレ、なんですか?」

「逆に問おう。アレが何に見えた?そしてなんと名乗った?」

「……星霊に、見えました。そしてこう名乗りました。自分は〝人類の敵〟、つまりは殺人種の王だと」

 

 釈天は痛烈な舌打ちを漏らした。

 その強烈な舌打ちが耀に対してではなく、黒い風の敵に対してのものであることは説明されずとも理解できた。

 

「〝人類の敵〟?……ハッ、ずいぶんと自分をいいように表現したもんだ。お前こそが最たる〝世界の敵〟だろうに」

「……。まあ、名称はどうでもいいんです。私の友達に危害を加える以上、私の友達の敵です。友達の敵は絶対に許さないし、どんなに強くても倒します」

 

 強い口調で端的に断言する。

 たとえ、如何に強大であろうと立ち向かい、如何に弱小であろうと手を抜かない。

友達に危害を加えるなら、どんな相手でも全身全霊をもって倒す。それ以上の理由は耀には不要だった。

 

「十六夜ほど好奇心が強いわけじゃないし、だからといって翔ほど無関心なわけでもないですけど、アレの詳しい正体とかは割とどうでもいい。取り敢えず星霊っていうことは間違いないんですよね?」

 

 いや、()()()そこまで無関心じゃないんだけど。それに昔のお前も大差ないだろ。

 翔はそう思ったが、場の空気を読んで口を噤んだ。

 

「そうだ。奴が〝人類の敵〟と名乗ったのはあながち間違いではない。神霊が神殺しに勝てぬように、人類では殺人種の王に勝てん。読んで字の如く奴は、〝人類を殺す〟ということに於いては最高位だ。奴に勝てる人間は有史以来一人として存在していない」

「………」

「とはいえ、勝てる可能性を持つ人間が一人だけ現れた」

「え?」

「そこにいる板乗翔(バグ)だ」

 

 そういって釈天は翔のことを指さした。その先に釣られるように一同が彼のことを見る。そんな当の本人も驚いたような表情を浮かべており、瞬きを繰り返していた。

 

「……え?俺?」

「そうだ。殺されてもすぐに復活できて、死んでからも短時間とはいえ動ける人間なんてお前とお前と同じ世界の人間ぐらいだろう。そういう意味ではこの場では唯一対抗し得る人物だ」

 

 お前が人間の括りならな。釈天は最後に一言、そう付け足した。

 その言葉を聞いて、翔は表情を歪ませた。

 

「うへぇ、マジで?つか俺、普通に殺されたんだけど?そのあとは無性に眠いしさぁ」

「ま、今のはあくまで可能性の話だ。それに人類の中ではって話だしな。もし本体が現れたとしたらその時は〝天軍〟か他の星霊に助力を求めろ。必ず力に成ってくれるはずだ」

「というか、やっぱり俺って人間なのに人間判定されてないの?」

「さてな」

 

 釈天は口角を上げながら誤魔化した。その表情を見た翔は肩を落とした。そんな翔を慰めるように耀が彼の肩を叩いている。

 しかし、釈天の心中は穏やかではなかった。

 

(召喚されたわけじゃないと聞いて、少し気になって調べたが結局何一つわからなかった存在……。恩恵も人類としては()()という他ない代物ばかり……)

 

 翔の恩恵とは。

 〝スケーター(ヌケーター)〟は所有者にリスポーンの能力を与えている。これにより人類の枠を()()()()()に、死にはするが五体満足で蘇る不死性に近いものを有している。

 〝混沌世界(パーク)〟は世界の移動、および規格が決まっているとはいえ世界の創造さえも可能な代物。

 〝物理演算(デバッグ)〟に関しては限定的とはいえ事象の設定と発生、法則の書き換えが人類の域を超えて行うことが出来る。いや、出来てしまう。

 〝スケーター(ヌケーター)〟も含めたこれら三つの恩恵は、決して人類が所有していていいものではない。逆にこれらを所有しているのなら人類の枠を超えているはずなのだ。だが、翔は人類という判定であり、さらに言えば神格さえも所有していない自称一般人である。

 十六夜のように星辰粒子体(アストラルナノマシン)が体内を循環しているわけでも、耀のように対魔王・全局面的戦闘兵装(ジェネラル・ウェポン)を持つわけでも、飛鳥のように神霊を祖先に持つ現人神といった存在でもない。

 また、三人のように人類最高峰の才能を持っているわけでもない。

さらに言えば、箱庭に縁があったわけでもない。

 彼の世界基準では、翔自身は癖はあるが一般人の域を出ず、偶々箱庭の世界に迷い込んだだけの存在(人間)だ。

 そんな彼がどうして箱庭に迷い込んだのか。それを不審に思った釈天は二年前に調査をした。翔個人、恩恵はわからずとも、彼のいた世界のことだけでも知ることができたらわかることはあると考えたのだ。だが、成果は何一つ得られなかった。驚くべきことに根本的に翔の世界が()()()()()()()()()のだ。原因はわからないが、とにかく普通ではないということだけを改めて理解しただけだった。そのうえ、本人に聞いてもおそらく首を傾げるだけだろう。本人的には、一部を除き普通と認識しているのだから。そんな人物にお前は何者だと聞いても、怪訝な表情をされるだけだろう。

 

「それに倒すことはできなくても閉じ込めることは可能だろう。奴は参加者じゃないしな。応援が来るまではどうにかしろ」

「えぇー、結局俺がやるのかよぉ……。でも、あいつって星霊だろ?あー、いや、斉天大聖のことを話題にしてたから半星霊の可能性もあるのか?……どっちにしろ最強種じゃん。いや、むしろ半星霊の方がマズいのでは?」

「……そうだな。翔の予想通り奴は半星霊だ」

「……めんどくさー。いやー、ないわー。最強種のハイブリッドを相手に応援が来るまで頑張るとかないわー。素直にパークにぶち込んどく」

「「えっ?」」

 

 翔の言葉に耀と飛鳥の二人が驚きの声を上げる。

 

「さ、最強種のハイブリッド?それってどういうことなの?」

「……?知らなかった?半星霊って半神半星を指す言葉らしいんだけど。なんだっけ。星霊と神霊の間には神霊しか生まれず、半星霊は星と神話によって産み落とされる、だったかな?別の調べ物のついでだったからちょっとあってるか怪しいんだけど……」

 

 あってる?と顔を釈天の方に向けて確認をとる。

 釈天は驚愕の表情を浮かべながら、頷いていた。

 

「あってるが……なんでお前がそんなことを知ってるんだ?正直、お前のことは風の噂程度にしか知らないが、それでも一番知らなさそうだと思ったんだが……」

「あー……一時期は蛟劉さんと取引とかで相手することも多かったからさ。そのついでにお茶とかお酌をすることもあってねー。まぁ、取引相手の話や愚痴を聞くのも大事だから、話を合わせるためや、地雷とかがあるならそれを踏まないようにも、一通り人間関係や経歴、有名なら伝承、歴史を調べられる限り調べておくことにしてるんだよ。といっても如何せん斉天大聖やら白夜叉やら義兄弟の話が多くてねー……。んで、そんなこんなで半星霊については斉天大聖について調べてるときに知った。あの人もそうらしいし」

「……意外と真面目なのね」

「商売については誠実に、かつ真摯に取り組みますとも。なんだかんだ耀にも交渉とかそういうノウハウは叩き込んだし」

「そうなの!?」

「うん。忘れがちだけど翔はこれでもレストランの経営をしているから、そういう知識がないとすぐに破産してる」

「これでも元の世界ではちゃんと働いてたんだぜ?食事や寝床はなくても困らなかったけど、お金があると便利なことが多かったからな」

 

 いぇい、と翔は両手でピースを作る。

 

「そういえば、さっきはなんで〝パーク〟に入れなかったんだ?」

「えっ?……あぁ、クリシュナも参加者じゃないんだっけ?それなら入れられたか……。正直、今回のゲームで耀と十六夜に使う以外ほとんど考えてなかったからなー……うっかりしてたわ」

「……まぁいい。話を戻すか。もう一つの質問は何だ?」

 

 釈天は耀に視線を戻して続きを促す。

 

「じゃあ聞いておきますけど―――」

 

 途端、耀の瞳が鋭く光る。その目で釈天を睨んだ彼女は、

 

「釈天さんは……〝ガイアの末子〟という怪物に心当たりはありますか?」

「っ!!?」

「クリシュナって人と、殺人種の王が言っていました。このアトランティス大陸は〝ガイアの末子〟の遺骸そのものだと。それについては話せますか?」

 

 鋭く刺すような言及。

 釈天は苦々しい顔で首を横に振った。

 

「……悪いが、それについては何も言えない。ゲームの根幹にかかわる謎だ」

「いいえ、許しません。これは参加者としてではなく〝階層支配者〟の一人としての質問ですので答えて貰います」

 

 耀は毅然たる態度で釈天を問い詰める。翔の方からは彼女の表情は窺えないが、きっと瞳には感情がないであろうことは容易に想像できた。そのことを理解して翔は沈黙した。

 

「私……父さんがギリシャ神話が好きだった関係から、ギリシャ神話と伝承上の動物についてはそれなりに知識があります。殺人種の王が言っていたガイアって、ギリシャの大地母神ガイアですよね?ならガイアの末子って……あのギリシャ神話最強の生命体のことじゃないんですか?」

 

 その問いかけに釈天は答えない。主催者の一人であるから恐らく答えられないのだろうが、その苦悶に満ちた表情を見れば答えは明らかだった。

 静かに怒る耀に飛鳥が恐る恐る話しかけようとするのを、傍にいた翔が人差し指を口に当てながら制止する。

 

(今は〝階層支配者〟として主催者に疑問をぶつけているから、邪魔はしないであげて)

 

 翔が小声で飛鳥に伝えると小さく頷いて了承した。確かに、今の彼女は二年前まで見たことのない顔をしていた。そんな彼女を見たあと、飛鳥は横目で翔の方に視線を向ける。横にいる彼は自分と違い、そんな彼女の姿を二年間ずっと傍で見てきたのだろう。

 

「もし……もしも私が知っている怪物なら、この場にいる全員で戦ったとしても勝てるとは到底思えない。最悪の場合、私たちは翔がいるから生き残ることはできるかもしれない。ギフトゲームなんだから力の無い参加者が死ぬのは仕方が無いかもしれないけれど、此処のアトランティス大陸に生きる原住民の人たちはどうなんですか?ゲームに巻き込まれただけなんじゃないですか?」

「―――……」

 

 回答に僅かなためらいが見られた。それ自体が既に回答と同じ意味を示していたが、耀は敢えて言葉を待った。

 参加者同士の殺し合いは禁じられているものの、交戦以外の死亡については誰もが覚悟しているだろう。

 最高位の試練(ゲーム)の参加者である猛者たちなら強大な敵が現れても己の力で乗り越えようとするだろう。

 その果てで命を落とすのなら自身の力不足と納得するだろう。

 しかし、原住民たちは違う。彼らは戦いの舞台に巻き込まれた協力者でしかない。

 己を鍛えて生きるしかない過酷な地で生きている原住民を巻き込んだというのなら、彼女にも〝階層支配者〟として正す義務がある。

 

(まぁ、原住民たちはなんか覚悟を決めてるように見えたけど、別に今は言う必要はないよなー。今どころかこの大陸にいる間ずっとかもしれないけど)

 

 翔は何となく感づいてはいるが、いま言うとデメリットしかないため大人しくしておく。

 

「成り行きで引き受けた〝階層支配者〟だけど、私にだって義務を全うしようという気概くらいあります。今回の一件は明らかに箱庭の秩序を乱すゲームと判断されても仕方ありません。そこのところはどうなんですか、釈天さん」

「……ふむ」

 

 耀の質問に、釈天は返答に窮した。

 翔が感じた通り、原住民たちは初めから心構えができている。

 しかし、その詳細を話すということは、今回の勝利条件を話すことになってしまう。

 耀の質問は、〝階層支配者〟として主催者に今回のゲームの方針を問うているものだ。

 だが、この流れでは釈天はこう答えるしかない。

 

「すまん。答えられるものには答えようと思っていたが、その問いには答えられない。俺の権限で言えるのは此処までだ」

「なら仕方ありません。私は私の持つ全ての権限で今回の問題に当たります。いいですか?」

「ああ。好きにやってみるがいい」

「その返事じゃ足りません。〝天軍〟の長としての許可が欲しいんです。今この場で返事を貰ってもよろしいですか?」

「も、勿論だ。それなら俺の権限の範疇だからな」

(あぁ~、許可しちゃったよ、この人……)

 

 耀の強い押しにより、釈天は勢いで頷いてしまう。

 そこまで話を聞いて、翔は耀の狙いを理解した。そして軽はずみに頷いてしまった釈天に多少ながら同情した。

 〝天軍〟は秩序の守護者という意味では、〝階層支配者〟の上位組織である。魔王でさえ恐れるほどの戦闘能力と権限を持ち合わせた最強の武神集団。名目上とはいえその長である帝釈天が〝階層支配者〟としての介入を認めた瞬間、今まで険しい瞳を耀は一転させて笑みを浮かべた。

 

「わかりました。じゃあアトランティス大陸にいる間―――調査の為に〝階層支配者〟として、全権限を使わせて貰いますね」

 

 ―――なんだと?と間の抜けた声を上げた途端。

 耀はギフトカードを取り出して、カードから七色の光を放った。それと同時に翔が必死に笑いをかみ殺していたが、釈天の声に我慢できなくなったのか、くつくつと一応は抑え気味に笑い声をあげる。そして、コートの中にカードを仕舞いこんだ耀は、翔と飛鳥、黒ウサギの方へ走っていく。

 

「よし。新しい仲間を迎える準備も出来たし、ララァさんのゲームに向かう準備をしようか」

「へ?」

「新しい仲間?」

「飛鳥はまだ会ったことがなかったよね。私と同じくらいの時期に〝階層支配者〟に就任した女の子。さっきゲームの倫理規定に関する調査について助勢をお願いしたから、一時的に客将扱いで召喚できるようになった、釈天さんのおかげで」

 

 そこで釈天はようやく翔が笑っている理由を理解し、冷や汗が吹き出す。

 二年前の魔王アジ=ダカーハとの戦い以降、〝階層支配者〟は有事の際に連盟を結んでいる相手を客将として招くことが出来るようになった。

 〝境界門〟を操る女王〝クイーン・ハロウィーン〟が協力的な姿勢を見せているため、可能な新しい契約だ。

 

「ちょ、ちょっと待て!それは狡くないか!?」

「いやいやいや。そんなことはないでしょ。だって、主催者の一人で、〝天軍〟の長の神王様が許可をくれた上に、全責任を背負ってくれると言ってくれたんだからな」

「うん。その期待に応えるためにも頑張らないと!」

 

 釈天は二人の言葉に表現できそうにない奇声を上げながら顔を覆い、天を仰いだ。

 

「まだまだ甘いところはあるし、初対面の人には五分五分ってところだけど、二年前の耀を知っている相手だと大体は油断してくれるんだわ、これが。まぁ、初回しか使えないけど」

「……お前の仕込みか?」

「まさか。努力の賜物だっての。俺も途中で狙いに気付いて、笑いを堪えるのに必死だったし。ま、騙された方が悪いてことで」

 

 この二年間の成長を知らなかったから嵌められんだよ。

 翔は最後にそう締めくくった。

 確かにその通りだった。交流の少ない相手であったが、二年前まではこういった奇策を用いるようなタイプではなかった。だから今も変わらないだろうと考えていた自分の落ち度であることを認めざるを得なかった。

 

「お前はどうなんだ?」

「……?何が?もうちょいはっきり質問してほしいんだけど……」

「二年前と比べてだよ」

 

 釈天にそう問われた翔は、飛鳥や黒ウサギと談笑する耀を見て微笑を浮かべながらも返答する。

 

「そんなべらべらと自分の成長やら実力やらを吹聴する気はないっての」

「……まぁ、それもそうか」

「ただまぁ、俺も俺で置いて行かれないように必死、とだけ言っとく。あまり無茶をすると怒られるから、強引なことはできないけどな」

 

 そういって翔は困ったように眉尻を少し下げ、微笑を苦笑へと変化させた。

 

「翔ー!集落に戻るよー!」

「あーはいはい。今行くよー。はぁ、十六夜が起きた後が怖いなぁー……」

 

 飛鳥に手を引かれながら、自身に呼びかける耀の姿を見て、翔はとぼとぼと足を動かし始める。

 




もうしばらくはエタる気はないので、まだ読んでくださっている方々はどうかお付き合いくださると嬉しいです。

次の投稿はいつになるかわからないですけど、12~15日の間にもう一話ぐらい投稿できればと考えています。

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