もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

42 / 46
第三十九話 休息は大事

 十六夜と耀と合流した翔、さらに彩鳥に白夜叉から派遣されてきた上杉謙信までもがその場に集まった。

 

「―――以上が、私が派遣された理由だ」

「マジかよ」

「だ、大歓迎!大歓迎!〝ノーネーム〟は人手不足過ぎて困っています!加えて美人なお姉さんなら何時でも大募集してます!」

 

 上杉女史が派遣されたのは黒ウサギが白夜叉に頼んでいた自分の代理として〝ノーネーム〟に助っ人として参戦するためというのを彼女から聞いた。なぜ今の今まで知らされなかったのかは疑問に思ったが、そんな疑問を消し去るほどの戦力が送られてきたため、すぐに耀は喜びの声を上げ、ブンブンと上杉女史の両手を振り回す。そんな彼女を見ていた彩鳥がテーブルに顎を乗せてだらけている翔に尋ねる。

 

「……そんなに困ってたのですか?」

「ぶっちゃけ雑用なら子供たちもいるし、なんならドライアドさんたちがいるから別にって感じ。子供たちはともかく、彼女(ドライアド)達も一般人に比べればそこそこ強いんだけど、やっぱり十六夜や耀と比べると、ねぇ。んなわけで、戦闘要員の方はからっきしな訳で。子供が多いのもそうだけど、自衛手段さえも教える人員の確保ができなかったんよ。俺や耀、十六夜は恩恵(ギフト)で戦う人間で、彩鳥のように純粋な技術で戦う人員を育成しようとも思ったけど、その教師役がこれまた捕まらなんだねー」

「お店の客にはいなかったので?」

「お忍びの方も多いから頼みづらーよ。まぁ、買収しても良かったけど、俺の見る目が悪いせいで誰が適任か分からんかった。それに結局のところ育てるにも時間がかかっちゃうから、何とも言えん」

「なるほど」

「正直、十二天の内の一人である上杉さんが来てくれたのはありがたい。でも、十二天の方々ってポンコツな部分の方が印象に残ってて正直どうなの?と思うところはある。俺が精霊列車からはじき出されたのも、風天さん絡んでるし」

「……」

 

 その言葉に彩鳥、そして聞き耳を立てていた十六夜までもが何も言えなかった。何しろトップが多様な噂が尽きない釈天(とくてる)だ。不安にもなるだろう。だが、十二柱もいるのだ。まともな者もいるだろう。ただ、運悪くまともではない方の遭遇率が高いだけで、もしかしたら上杉女史は大丈夫かもしれないという淡い思いを抱くぐらいは別に構わないだろう。抱くぐらいなら。

 

「とはいえ、太陽主権戦争に於いては私はあくまでお前たちの戦闘要員としての役目しか負わない。何より護法十二天として請け負った使命がある。先ずはこの二枚の手紙を読んで欲しい」

 

 コホン、と上杉女史は咳払いをして十六夜、耀、翔、彩鳥の四人に説明する。

 

「一枚は釈天から、もう一枚は久遠飛鳥から預かった手紙だ」

「飛鳥から?」

「へえ?じゃあもしかして、今回の作戦はお嬢さまのサプライズってことか?」

「……うちの三大問題児の一人からのサプライズって時点で嫌な予感が……」

「なに自分を抜かしてんだよ」

「そうだよ。場合によっては私達より問題起こしてるよ」

「まだ人間判定されてるだけいいだろ。俺だけ『問題児』じゃなくて『問題』って言われてんだぞ」

「「「………………」」」

 

 翔の言葉に三人は顔を逸らす。会話に区切りがついたと判断した上杉女史が声をかける。

 

「……話を戻してもいいか?」

「「「「どうぞ」」」」

 

 四人が声を揃えて続きを促す。

 

「久遠飛鳥の手紙にはクリシュナの正体及びその打開策が書かれており、釈天の手紙には奴を嵌める為の作戦が書かれている。もしこの作戦を引き受けてくれるのであれば私は〝ノーネーム〟の客分としてこのアトランティス大陸のゲームに参加することを誓おうと思う」

「一人でも多い方が良いんでやりまーす。耀(リーダー)は?」

「もちろん受けます!三人だけだととてもじゃないけどゲームが成立しないし!〝ノーネーム〟のみんなは問題児ばっかりで困っていたところです!」

「特大ブーメランなことに気づいて」

 

 三年間、コミュニティの頭首をやってきた彼女だが、その三年の内にそこそこ無茶なこともしている。そのスケジュールの管理や調整は基本的には翔がまとめていた。もちろん予定通りに進まないことは多々あり、振り回されていたが、それでも作成しないよりは断然マシであった。むしろ、この三年では翔の方が問題を起こしていないだろう。店での仕事もあり、他コミュニティの接待や取引なども彼の店で行うことが多かった。彼も中々に苦労したのだ。

 

「十六夜はー?」

「ん?ああ、そうだな……」

「……やっぱなんか微妙だな。顔色も若干変だし」

 

 翔は唯一返事のない十六夜へと顔を向けて意見を求めるが、十六夜の反応が少々薄いことを気にして、彼を心配する。

 

「少し気怠いだけだ。気にするようなことじゃ、」

「そんなわけねえだろ、この馬鹿兄貴」

 

 宿舎から来た新たな人影に、翔を除いた三人が振り返る。

 其処には腰に手を当てて怒っている西郷焰の姿があった。

 昨夜のことを思い出しているのか、十六夜は鋭い瞳で彼を睨んでいる。

 

「おはよー、よく休めたかー?」

「ああ。おかげさまでゆっくり休めたよ」

「んー……うん。大丈夫そうだなー」

「?」

 

 翔も少し言葉を交わし、確認するような素振りを見せる。彼も十六夜と同様に彼が西郷焰なのかアジ=ダカーハなのかを見定めていた。

 翔の言葉に多少違和感を覚えたのか、焰は不思議そうな表情を一瞬浮かべたが、すぐに十六夜へと大股で歩み寄ると、彼の右腕に嵌められたB.D.Aを観察する。

 

「くそ、完全に癒着してる。装甲ごと肉を引き剝がさないと外れそうにない」

「またですかぁ」

「また?」

「昨日も同じようなことしてたし。あー、そういえばあの二人は?」

「女の子の方は容態が安定してきてる。パラシュラーマさんは……その、身体や臓器の機能について問題があって……」

 

 焰が言い難そうに視線を逸らす。口にするのも憚られるほどの状態らしい。

 その後、彼の辛そうな表情を見た上杉がパラシュラーマを護法十二天に預けてみないか、ということを提案する。護法十二天の中にはパラシュラーマの弟子も居り、悪いようにはならないだろうと付け加えると、彼は礼を言い、ドイツの病院の紹介状を書く約束をする。

 そこまで聞いた翔は、再び睡魔が襲ってきて夢見心地になる。

 

(んぅー……リスポーンしたけどこれかぁ。思いの外、昨日の事が精神的にキテんのかなぁ……。たしかに手の中の感触は気持ち悪かったし。それに加えて初日だからって張り切り過ぎたのかなぁ……。そんな意識は全くなかったんだけどなぁ……。あぁ、精霊列車から吹っ飛ばされたのも関係あるかも……?考え始めると思い当たる節がゴロゴロ出てくんな……)

 

 ぽやぽやとしながら、翔はこの眠気の原因を考える。それに相当しそうな出来事が一日の中に複数あり、随分濃い一日だったなどと思った。

 

「―――どう思う。……翔?翔!」

「んぁー……?」

 

 はふ、と翔は一つ欠伸をしながら、ぐぅーと身体を縦に伸ばして眠気を覚まそうとする。そんな彼を耀はジト目で見ながら尋ねる。

 

「話、聞いてた?」

「ごめん。少し、眠ってたっぽい」

「「「!?」」」

 

 その言葉を聞いて十六夜、耀、彩鳥が驚愕の表情を浮かべる。

 

「寝てた?お前が?大丈夫かよ」

「何があったんですか?身体は大丈夫なので?」

「悩みがあったら遠慮なく相談してくれていいんだからね?」

「普段が普段だからってそれはないんじゃないですかねぇ?」

 

 彩鳥ならばともかく、普段なら絶対にそんなことを言ってくれない二人が親切な対応をしてくるのを翔は頭を上げ、頬杖を突くと不満そうに言葉を返す。

 

「いや、だって、なぁ?」

 

 十六夜が耀と彩鳥の二人に確認するように目配せすると、彼女達は頷いて同意の意を示した。

 

「俺だって昨夜のごたごたで疲れてるんだってば……」

「……ちなみに何があったの?」

「ん……まぁ、色々?あーでも、一番はやっぱり手の中で小さな虫が無数に蠢いてるような感触を数分間我慢したことかなぁ……?」

「「「何がどうしてそうなった」」」

「色々だって、色々ぉ……」

 

 三人はその『色々』の部分を詳しく聞きたいのだが、もう一つ大きな欠伸をした翔にこれ以上聞くのも彼に悪いと思ったのか口を閉ざした。

 翔について詳しいことをあまり知らない焰は、そんな反応をした三人を不思議に思って疑問を口にする。

 

「眠いことがそんなに異常なのか?」

「コイツにとってはな。普通ならリスポーンすれば食事も睡眠も必要ないんだが……」

「精神的に疲労したりストレスが溜まると、こういう風に休養が必要になるんだよ」

「つまり、昨日はそれだけのことがあったってことか……なんか、無茶させたみたいですいません……」

「いいよいいよ。あれぐらいしか俺にはできないんだからさ。それで、結局何の話だったの?」

 

 翔が自分の話を打ち切って、話題を戻す。

 

「十六夜は安静にしていないといけないから留守番、彩鳥が集落の防衛、私と翔と飛鳥と上杉さんでクリシュナと戦うことについて、翔はどう思う?って話」

「ふーん……?十六夜は戦闘は厳しいって感じ?」

「うん」

「じゃあ……連れてくだけ連れて行かない?何が起こるか分からないし、相手がどんな存在かも直に見た方が、あとで聞くよりも情報としては正確だろうし」

「でも―――」

「いざとなれば〝パーク〟に入れればいい。同コミュニティだったら自由にぶち込めるから」

「「なるほど」」

「それにこういうことに限って言えば絶対予想外が起こる気がする」

「……?なんでだ?」

「飛鳥はともかく、釈天だぞ?いいか?あの釈天の作戦だからな?俺は大して接点ないけど、碌な噂を聞いてないんだが。特に『動けばいらないことしかしない駄神』なんか聞いちゃうと、もう信用ならんね。俺よりかは接点のある十六夜たちには失礼かもしれないけど、そこんとこわかって言ってる?」

「「「「………………」」」」

 

 翔の言葉に上杉女史を除いた四人が閉口する。

 

「うん、翔の案で行こう。やっぱり何事も油断しないことが大事だよ」

「そうだな。俺も出来る限り戦闘は避けるが、やむを得ない場合は手を出すからな」

「イザ兄。今日は許すけど明日からはちゃんと休んでもらうからな」

「私は力になれませんが健闘を祈っています」

 

 四人が納得し、方針が決まったところで、翔が立ち上がって十六夜と耀の二人に声をかける。

 

「そうと決まれば、飛鳥を迎えにでも行きますかー」

「えっ!?」

「あ?近くまで来てるのか?」

「多分な。おそらくはディーンに乗って―――」

 

 翔が何かを言いかけた瞬間、巨大な質量を持った何かが、足踏みするような音が聞こえた。

 

「本当だ」

「みたいだな。仕方ねぇ。迎えに行くか」

「うん!行こう!」

 

 十六夜はさっさと一人で音のする方へと駆け出し、耀は翔の手を引っ張って十六夜の後を追いかけていった。

 

「また後でぇー……」

 

 翔は残された三人に手を振りながら、連れ去られていった。残された三人は手を振り返して彼らを見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翔たちがディーンに乗った飛鳥たちのいる場所へと辿り着くと、原住民たちが彼女たちに襲い掛かっていた。

 

「「てい!」」

「「「「「グアアアアアアやられたああああああ!!!」」」」」

「ごめんなさーい!?」

 

 とりあえず手加減のプロである十六夜と手加減のセミプロである耀は、邪魔だとばかりに原住民たちを蹴散らした。

 そんな原住民を救助のプロ(自称)である翔が〝パーク〟に収容してディーンから離れた位置へと安置する。

 

「いやー、手荒い止め方で申し訳ないねー……。でもアレは巨人族じゃなくて参加者の方の恩恵でして、事態の収拾のために戦闘行為をしていた方々を気絶させるという暴挙に―――」

 

 気絶した原住民たちを現場に駆け付けてきた応援に駆け付けた原住民たちに引き渡しつつ、事情を話している。その間も気絶している者達を起こし、落ち着かせながら事情を一言二言で話す。

 すると、後ろからどりゃーという叫び声が聞こえ、そちらへ振り向くと、十六夜と耀に襲い掛かっている飛鳥と、そんな彼女に付き合わされているのか金髪の少女が混ざり、2on2で暴れていた。

 

「……どうしてそうなった?」

 

 まぁいいか、どうせいつものことだ。そう考えて、我関せずと原住民たちへの説明と気付けに専念した。

 ……時折飛んでくる岩石に気を付けながら。それでもいくつか被弾してぽっくり死んでしまったが。

 

 

 

 

 

 

「にしても、翔は混ざらないんですね?」

「ああ、彼はそういうのが苦手なんですよ。なにより、地力は他の方よりも断然劣っていますし」

「そうなんですか?」

「ええ。殺すだけでしたら鈴華さんでも可能だと思いますよ?彼は泳げませんので水中に移動させたら簡単に殺せます。マスターたちの喧嘩に交ざるだけでも死ぬでしょうね」

「そ、そうなんですか!?よく生きてこれましたね……」

「いえ、何度も死んでいますよ?」

「えっ?」

「ただ、殺したところで止められないから厄介なんです」

「じゃ、じゃあ以前も見えないところで死んでたのかな……?」

「さぁ、どうでしょうね?ですが、味方にいると心強い方ではあります。マスターも何度も助けられたと言っておりました」

「うん。それは私も分かる」

「「変人だけど(ですが)」」

 

 

 

「ぶぇっくしゅん!……?」

 




白柵様、ハキラ様、レイ・サベージ様。感想ありがとうございます!
次話はちょっといつになるかわかりません。でもできる限り早く投稿したいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。