もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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はい。お久しぶりです。
中古とはいえ、PCを買い替えておんぼろPCの誤作動やフリーズにおびえることなく安心して執筆できるようになった作者の猫屋敷の召使いです。
今の今までコロナに怯えながらも新社会人として忙しい日々を過ごしておりました。
そして、ようやく生活にも慣れ始めたので、ぼちぼち更新していきます。更新を楽しみにしていた方々には大変待たせてしまい申し訳ございませんでした。

それでは最新話です。どうぞ。
久しぶりに書いているので誤字や文章に違和感があったら申し訳ございません。


第三十八話 翔の〝パーク〟は魔境です

 ゲーム初日にしては激動の一日を過ごした翌日。

 アトランティス大陸では日が顔を見せ始める時間帯。

 

「ふわぁ……」

 

 そんな早い時間に翔は、彼にしては珍しく大口を開けるほどの欠伸が出つつ、〝パーク〟内の()()()動植物群に散水ホースで水を与えていた。

 

「欠伸が出るかぁ……。一回リスポーンして睡魔をリセットすべきかねぇ?」

 

 誰に聞くでもなく、強いて言うなら目の前で水を浴びているドライアドやトレントに尋ねるように言葉を溢す。

 ここは他にも意思を持つ動植物を一つの〝パーク〟に集めた、翔が管理する〝パーク〟の中でも特殊で特別な〝パーク〟だ。基本的には動植物以外には翔以外立ち入ることはしないし、招き入れることもしない。そんな場所で朝からせっせと水やりをしていた。正直ここにいる動植物たちは自分で水を得るために動けるので、やりに来る必要性はあまりないのだが、定期的に見に来なければいけない理由があり、そのついでで水を与えているのだ。

 別に翔は尋ねる気はなかったが、そんな場所で溢した言葉に対して目の前の彼ら彼女らは頷いたり、枝を揺らすなど反応を示した。どうやら皆の意見は満場一致な様子だった。

 

「……そんなに言うなら、これが終わったらやっとくか。―――っとと、もうそろいいか」

 

 翔は散水を止め、ホースを片付け始める。

 

「さて」

 

 片づけを終えると、〝パーク〟内の一角に視線を向ける。

 

「これらを処分しないとなぁ」

 

 そこには、R-18G(モザイク)レベルの奇妙な動植物が山のように積まれていた。

 そう。これこそが定期的に様子を見に来なければいけない理由だ。この中では動植物たちには自由に活動させている。そのためか、なぜか見知らぬ面子が増えていることがある。どうやって増やしているのかはわからないが、中には気性の荒いものや精神衛生上よろしくないものも存在しているため、そういったものは剪定しなければいけない。

 ちなみに前回の剪定は昨日である。

 

「何で一日、いや、時間的に半日?まぁ細かいことはどうでもいいけど、そんな短い期間でこんな成長させたな。そのうえでこの造形とか、見る人が見たらSAN値直葬されるんじゃないのか?」

 

 一応、すべてに止めを刺したはずなのだが、時折動いている個体が見られる。

 ちなみにこれらの動植物の除去は知り合いから頂いた除草剤でやっている。これは周辺に被害を出さないようにピンポイントの散布が可能な優れものであるうえ、効き目は抜群なのだ。それによってイチコロであるが、使用時にガスマスクを使用しなければいけない。理由は知らないがそのように念押しされている。さらに言えば、絶対にむやみやたらに散布するなとも言われている。

 

「もうやるんじゃないぞ。リスポーンすればいいとはいえ、疲れるんだからな」

 

 おそらく危ないであろう除草剤をギフトカードにしまい込み、動植物たちに念を押してから〝パーク〟から退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 〝パーク〟から出ると一先ず、確実にこの付近にいるであろう十六夜と合流するため、集落を散策する。

 集落では原住民たちが竈に火を入れ、煮炊きをしている香りが漂ってくる。とはいえ、煮炊きもピークを過ぎたのだろう。そこまで強い香りは感じず、残り香のようなほんのり漂っているような香りだった。

 まぁ、リスポーンしたばかりの翔には食事は必要ないため、取っても取らなくてもあまり関係はない。胃に入れようと思えば入れられるが、リスポーンすれば胃の中身もリセットされるため、意味がない。むしろ食べた分を無駄にしてしまっている。

 だが、料理人の端くれとして味は気になってしまうが、やはり、出遅れたせいかあまり残っていない。まぁ、頼めば出てくるのだろうが味を見るためだけに、一品丸々作って貰うわけにもいかない。そのため、既に出来合いのものが余っていないか目を張り巡らせる。

 翔はあえて、見覚えのある少女の前に空の皿が山のように積み上がっている光景を視界に入れないようにしながら、残っている料理がないか辺りを見渡していると、昨日お世話になった司祭補佐のララァの姿があった。翔が彼女のことを認識するとほぼ同時に、彼女の方もこちらに気づき歩み寄ってくる。

 

「起きたか。姿が見えないから何処で何をやらかして―――いや、何をしているのかと心配したぞ」

「本音が隠せてない事に気づいて」

「気のせいだろう」

「うん。それで誤魔化せるほど俺は馬鹿じゃないからね?」

「まぁ、それは置いといて。で、今度は何をやらかした?」

「やらかした前提で話を進めないで欲しいんだけど?昨日会ったばかりにしては俺の扱いが酷くありませんかねぇ……。まぁ、ここでは何もしていないから大丈夫です、はい」

 

 ここ、アトランティス大陸ではまだ大したことはしていない。しいて言えば昨夜の戦闘のことが挙げられるが、それを除くと全て〝パーク〟内の出来事だ。よって問題はない。

 

()()()()?」

「うん。ここでは」

「……深くは聞かないでおこう」

 

 聞いたところで理解できないだろうと考えたのか、ララァはそれ以上何かを尋ねてくることはなかった。

 

「ああ、そうだ。昨夜の出来事での実力を見込んで、会って欲しい人がいるのだが、どうだろうか?」

「んー?いやー、別にいいんだけどー……」

「……?何か、煮え切らない返事だな……」

 

 翔は困ったように頬を掻きながら、彼女に聞きなおす。

 

「俺なんかで本当にいいの?十八番は後方支援の俺で?仲間にも『良くも悪くも想像を超えていく』なんて言われる俺で?」

「…………待て、少し考える。本当にいいのか?邪魔になる可能性もあるんじゃないか?いや、昨夜のことだけを考慮するならば実力的には十分なはず……しかし、このような人類種かも分からない不可思議な生命体を頼って良いのか?どの参加者よりも得体がしれず、信用していいのかもわからない……だが、昨夜、悪漢を追い払ってくれたのは間違いない。……落ち着け。相手は生肉。生肉に変化するんだぞ?そもそもコイツは本当に参加者なのか?今は人間の形をしているが、生肉が人の姿をとっている、それこそフレッシュゴーレムの類であって、人類種ではないのか?いやいやいや、待つんだララァ。現実から逃げるんじゃない。実際にゲームの参加者なのは十度ほど確認したじゃないか。まぁ、残念ながら間違いはなかったが。ここに来ている以上実力者なのは間違いないんだ。…………………………よし、覚悟は決まった。改めて、会って欲しい人がいるのだが、どうだろうか?」

 

 ララァはぶつぶつと呟き、表情もころころと変化させ、挙句には汗まで流して必死に考え始める。

 そして、結論が出ると、表情を元に戻して、先ほどまで流していた汗までも影を潜め、百面相していた彼女は別人だったのではないかと思ってしまうほどの落ち着きぶりだった。

 

「うん。すごい悩んだね。途中、関係ない葛藤とか罵倒みたいなのがあった気もするけど。ちなみに、俺は紛れもなく人類種だからね?こっちの姿の方がデフォだぜ?それと残念ながらってなに?俺、馬鹿にされてるの?……いや、さっきも言ったけど、その話については了承するよ。今回のゲームじゃ、みんなの役に立てるかわからないし少しぐらい自由に動いても―――」

「そうか!感謝する!では、私は他の参加者にも声をかけなければいけないんだッ!!」

「―――って、まだ話してるのに、満面の笑みを浮かべてすごい勢いで俺から距離を取らないでもらえます?つか、バック走なのに速っ。やっぱ司祭補佐だけあって色々と凄い人なのかな」

 

 それは司祭補佐関係ないと思う。周囲で話を聞いていた者達は心中は満場一致であった。

 さて、気を取り直して十六夜と合流しないと。翔は改めて集落を見渡して彼を探し始める。

 いや、分かっている。彼も頭では分かっているのだ。

 あの山のようにある空の皿。その光景を作り出した人物は自分のよく知る者だと。

 だが、いつまでも現実から目を逸らしていては不味いと思い、ララァと話しているときからずっとこちらを見ていた二人へと近付く。

 

「おはよう、十六夜。それと、耀は出迎え行けなくてごめん。下手に動いて妙なことが起きても嫌だから、集落から動けなかった」

「……おう。それよりもララァと何を話してたんだ?」

「ん?あー、んー、なんか、会って欲しい人がいるとかなんとかだったけど……どうかした?」

「……返事はどうしたの?」

「えっ?普通に了承したけど……なんか、俺よりも向こうの方が渋っていたけど……えっと、もしかして不味かった?」

「いや、よくやった。今回ばかりは本当によくやった」

「うん。大丈夫だよ、翔。むしろ私達が失敗したから」

「?」

 

 何故かはわからないが、ララァからの頼みごとを承諾しただけなのに、十六夜と耀の二人から褒められた。

 もしかして今日はオブジェクトが降るのだろうか?いや、でも流石にそれは日常的すぎるから何かもっと凄いものが降ってくるのだろう。一体何が降るんだ?

 二人がこんなにも素直に褒めてくるなど滅多にないため、かなり混乱していた翔であった。

 

「てか、よくララァもお前にその話をしたよな」

「あぁ、なんか大分渋々だったぞ。途中途中で罵倒してきたうえ、最後の方は自己暗示を掛けてたし」

「……そんなに不承不承だったんだ」

「おう。で、なんで俺は褒められたの?あーでも、去り際に他の参加者にも声をかけるって言ってたし、ゲーム関連だったのかね」

 

 その後、詳しい理由を聞いたが、やれ英雄らしい行動うんたらなど言われてもそういった知識(神話や英雄)に疎い翔の頭では理解ができずに首を傾げた。

 ひとまず、昨日のうちに合流できていた十六夜はともかく耀と合流できたことを喜んだ。今回は()()()()()で列車の外に殴り飛ばされたとはいえ、()()()第一ゲームの会場に落ち、()()()原住民に保護され、()()()十六夜と合流できたからどうにかなったようなものだ。

 耀の鼻があればどうにかなったかもしれないが、もしも十六夜と離れた大陸の端に落ちていたらこんな簡単に合流はできなかっただろう。

 そう考えると本当に運がよかったなと思い、心底安心したのだった。

 




動植物:ブラックラビットイーターことラビやドライアドやトレントなどが存在する。中には食人植物もいたが、すでに剪定済み。剪定作業中に何回か食われたのはご愛敬。
「体が溶けていく感覚は新鮮でした」by翔

〝パーク〟:他には農園パークや酪農パーク、敵監禁用パークなどがある。

参加者:板乗翔君は参加者で間違いありません。

運よく:とても運がよかった。ご都合主義ともいう。

次話:下書きはできているので、来週か再来週の同じ時間に投稿できればいいなぁ、と考えています。

蛇足:skateの新作やラストエンブリオの新刊情報やPS5でのゲームのラインナップ(特にラチェクラ)などでテンションが上がっています。
 今はコロナで厳しい状況ですが、皆さんも気を抜かずに日々をお過ごしください。
 あと久しぶりの更新は投稿ボタンを押すのに5分ぐらいかけてびくびくしながら押してる。
 久しぶりの投稿ってなぜかすごく怯えてしまう。それなら定期的に投稿しろよって話だけど、そんな速度で書くスキルがない自分が悲しいです……。


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