もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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はい、1年半振りぐらいになるのでしょうか?作者の猫屋敷の召使いです。

今回は大ッッッ変!申し訳ございませんでしたァッ!!

いやですね、言い訳をさせていただくとですね、最新刊出た頃にちまちま書いていたのですが、すぐに就活と卒論の板挟みになり、就活が終われば今度は卒論だー学会だーとなり、つい先日卒論の最終稿を提出した次第です。

いや、本当に申し訳ございません……。

ストックもないので、次話はいつになるかはわかりませんが、しばらくは不定期更新です……。

では、最新話をどうぞ……。

次の更新ストップは5巻かなぁ……。
忙しかったから、まだ6巻読めてないんだよなぁ……。


第三十六話 I am Meat

 翔が喧嘩に巻き込まれ、精霊列車の壁を通り抜けて落ちてしまった後、彼の姿が見えないことを不思議に思った耀は乗客たちに彼を見なかったか聞き込みをしていた。

 

「黒髪の男性?あぁ、その人なら風天様と蛟魔王様の喧嘩に巻き込まれて、あの壁の向こうに消えていったよ。まるですり抜けるように。すごい変な動きだったけど大丈夫かな、あの人?」

 

 

 

「妙な動きで吹っ飛んでいく男性を見なかったか、ですか?……あ、男性かどうか、というよりも人だったかどうかも分かりませんけど、すごい勢いで向こうに飛んでいく何かなら見ましたわ。でも、手足が妙に伸縮していたから違うかもしれないけれど……」

 

 

 

「手足を伸縮させながら吹っ飛ぶ男性?なんじゃそれは、何の種族じゃ?……人間?……そりゃ珍妙な。まぁ、それなら、あの壁に消えていったぞ。どうなったかは知らんが、壁に穴が開いておらなんだから、落ちてはいないじゃろうがのう。まぁ、それ以降は姿を見ておらんがの」

 

 何人かに事情を聞いて、耀は理解した。

 翔は、この列車から落ちたとしか考えられなかった。

 何故か?それは最後の老人が示した場所が車両の外の面している壁だったからだ。

 それを理解した耀は翔を探すのを諦め、とりあえず今回のゲームの運営を任されている白夜叉に相談するために運営本部のある車両に足を向けた。

 そして、目的の人物である白夜叉に事の顛末を説明した。

 その結果、捜索が行われ、遠見の水晶により、一回戦の舞台にいることが分かった。しかし、走行中の列車内に召喚するのは、女王が面倒くさがったために断念し、今回は主催者(ホスト)側の責任ということで、特に罰則などのない寛大な処置が下された。

 

「それにしても、霊脈に落ちたらどこに出るか分からんというのに、運よく一回戦の舞台に不時着するとはのう……」

「そうね。だから面白いんじゃないの」

「……意外とあやつを気に入っておるのか?」

「見てる分には面白いわよ?」

「……まぁ、そうじゃろうな」

 

 その後、翔の居場所を耀に報告し、この件は終わった。

 ちなみに蛇足だが、蛟劉と風天は追加で制裁を受けたとだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 見知らぬ密林へと不時着した翔は、当てもなくふらふらと木々の隙間を縫って進んでいた。

 もちろん当てもなく進んでいるわけだから、同じところをグルグルと回っている。

 冷や汗を滲みだしながら、流石にこれはマズイと思い、今度はただ只管にまっすぐ進み続ける。

 そして、

 

「そこのっ!……な、なんだ……生肉、か?と、とりあえず止まれっ!?怪しい動きは見せるんじゃないぞっ!?」

「ただの自力で移動する怪しい生肉に対して怪しい動きをするなとは……そういう貴様は一体何様だ!」

「等身大の生肉が言うなッ!それに自らの意思で動いている時点で十分怪しいし、自分で怪しいと認めてしまっているではないかッ!!」

 

 ごもっともである。

 いや、人間の状態では容赦なく攻撃されたこともある翔だからこそ、生肉に姿を変えて徘徊していたのだが、そんな彼の謎の思考回路には驚愕である。

 翔は弓を向けてくる牛の仮面をつけた女性に対し、彼女の気迫に押されながらも、渋々答える。

 

「……ぼ、僕は悪い生のステーキ肉じゃないよ……?」

「むしろ悪い肉ってなんだ!?」

「さぁ?腐った肉とか?」

「腐っているかどうかの話はしていないッ!!」

「ちなみに俺は鮮度抜群の新鮮な肉だ!……あっ!?だからって食べないでくれよ!?痛いんだからッ!」

 

 なぜか生のステーキ肉の状態で森の中を闊歩していた翔に、複数人の現地人らしき者達が取り囲む。そして彼らは全員、手に持っている弓を彼に向けていた。

 その中から、先ほどから質問を投げかけていた女性が歩み出てくる。

 

「お前は、さすがに巨人族の仲間ではないよな……?」

「どの巨人族かは知らないけど、まあ、これじゃあ確実に食われる側かと」

「では……なんだ?」

「生肉ですが、なにか?あと迷子です。ここ何処なん?」

「……近くの街に案内しよう。見た限り、何かを仕出かせそうにないしな」

「あざます」

 

 翔はそう言った彼女の先導に大人しく従い、後ろについていく。

 そしてしばらく歩いていくと、建造物の姿が見えてきた。

 

「あそこだ。だが、しばらくは此方が指定する建物で大人しくしていてくれ」

「ういっす」

 

 彼女の言葉に翔は上体を折り曲げて頷きを表現する。

 再び彼女の後をついていき、一つの建物に案内される。

 

「この中でなら自由にしてくれ」

「へい」

「……」

「……?どうかした?」

「……一応、中に居る者達に話をしておこう」

 

 先に彼女が中へと入り、翔のことを説明に向かう。その間翔は、一人建物の外で待たされる。

 周囲から奇異の視線と肉食獣のような視線を受けながら。

 

「……俺、食われないよね?」

 

 少し、いや大分ここに滞在することに危機感を覚えた翔であった。

 それが嫌ならば、さっさと肉の姿をやめればよいのだろうが、気分的に人型でいたくないようだ。しかし、結局のところ『気分』であり、特にステーキ肉であり続ける絶対的な理由はない。

 さらに言えば、どんな気分なのかは分からないし、理解したくもないが。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、なんとか屋根の下に入ることができ、一息をつく。

 

「いやはや、一時はどうなることかと思ったけど意外となんとかなるもんだなー」

「……これはまた、なんというべきか、珍妙な者が来たの」

「ん?」

 

 翔は聞こえてきた声に反応して、声の主の方へと赤身と脂身の入り混じった上部を向ける。

 そこには白髪赤眼の女性が床に座った体勢で彼の方に奇異の視線を向けていた。そんな彼女の傍には血濡れの戦斧があり、彼女の持ち物であろうことが窺えた。だが、その彼女の顔色はあまり良さそうに見えなかった。

 

「……どちら様?」

「それは此方が先に問いたいが、まぁよい。ワシはおぬしと似たようなものだ。行き倒れていたところをここに住まう者達が助けてくれたのだ」

「おけ、把握。俺は迷子だったところ助けられた生肉です。食べないでね?多分、現在進行形で衛生度が下がってて食べたらお腹壊すから」

「誰も人語を話す肉なんぞ食いたいとは思わんから安心せい」

「外にいる人たちには思いっきり獲物として狙われてましたけど?」

「……」

 

 翔の言葉に彼女は何も言えなくなってしまった。そのことは気にせずに床に身体を折りたたんで腰と思われる部分を下ろす。

 

「アンタ、大丈夫?あんまり体調がいいようには見えないけど」

「問題ない。おぬしに心配されるようなことはなに一つの」

「ほへー。ならいいんだけど」

 

 彼女の返答に翔は地面に寝そべり始める。

 そんな彼を見つめながら彼女は質問を投げかける。

 

「それよりもおぬしは一体どうやって言葉を発しているのだ?見る限り声帯どころか口もなさそうだが……」

「そこは、ほれ、気合いで?」

「……おぬしは今、世界の生物学者に喧嘩を売ったということを理解しておるか?」

「だってできるんだもん。でも、そう言う意味なら箱庭の生物全般がそうなのでは?」

「たしかにそうかもしれんが、それでもお主と違って声帯も肺などの基本的組織はあるわ。それらがなさそうなお主が一体どうやって声を発しているのやら……」

 

 翔の言い分に呆れながらもこれ以上聞いても無駄だということを悟った女性は、大人しく身体を休め始めた。

 翔もその様子を見ながら、参加者たちが乗る精霊列車の到着を、この場所で暫し待つことにした。

 

 

 

 

 

 

「いやだ!いやだッ!」

「ええい!うるさい!早う住人たちの盾にならんか!?」

「何回カットステーキにされたと思ってるんだよ!?今度はきっとサイコロステーキか挽き肉にされちゃうぜ!?」

「それでも蘇るのだろう!?」

「嫌なもんは嫌なんだっ!!死ぬのは別に構わないし、痛いのも最近は別に何とも思わなくなっててそろそろ自分自身でヤベエと思ってる!!でも、カットステーキに加工されるのだけは嫌なんだッ!!加工されるぐらいならこのまま焼いてほしい!!もしくは完全な挽き肉が良い!!だからせめてミンチ!!ミンチにして!!それなら調理方法がたくさんあるからさッ!!」

「そんな妙なこだわりなんぞ即刻捨ててしまえ、この不衛生ステーキ肉が!!」

「じびえ!?」

 

 白髪赤眼の彼女に容赦なく前方に蹴りだされて、翔は姿が見えない襲撃犯の下へと踊りだされる。

 

「へふん」

 

 も、瞬時に六等分されてカットステーキへと変貌する。

 そして先ほど蹴りを入れてきた女性の傍にリスポーンする。

 

「カットステーキ……カットステーキだけは嫌だと言ったのに……!!」

「全くもって役に立たんな。死なないというのはそれだけで利点だというのに……」

「と、言われましても……おわっと、危ないよー」

「む?」

 

 翔は彼女に襲い掛かってきた細い何かを、少女を引っ張って攻撃の軌道上から移動させる。どうやって引っ張っているかは分からないが。

 

「すまんな」

「いえいえ。って、今度はこっちなん?」

 

 自身に襲い掛かってきた細い何か、おそらく糸と思われるものを植物の化身・ベニヤ板を壁にして防ぐ。

 

「……よく防げるの?」

「……あれ?そういやそうだな。……なんで?」

「おぬしに分からんのに、ワシに分かるわけがなかろう」

「おっしゃる通りで」

「あとおぬしが触れたところが肉の脂で気持ち悪いんじゃが」

「それはごめんなさい」

 

 完全に防ぎきれているわけではないが、先ほどよりも格段に被弾数が減ったのは確かだった。

 自分でも理解できていない翔だが、次第に目と身体が攻撃に対して慣れてきているのだ。以前のレティシアの影との経験が此処で役立っている。とはいえ、見えづらいだけで彼女の攻撃ほど速くはないが。そのため順応が早かったのだろう。

 

「とはいえ、八方塞がりだねー」

「……うむ。そうだな」

 

 翔は一歩も動けずに襲撃者からの攻撃に受け身になることしかできず、彼女の方は体調が悪く、その影響で身体の動きも悪く襲撃者からの攻撃で曲線状の生傷もいくつか見える。

 と、そこに原住民が逃げた咆哮から近付いてくる人物がいた。

 

「ん?」

「あ」

「……お前、こんなところで何してんだ?」

「いや、精霊列車の中を散歩してたら酒に酔った蛟劉さんと風天さんの乱闘に巻き込まれて、気がついたらここに……」

「……相変わらず運の無い奴」

「てか、それよりも助けて。めっちゃきついっす」

 

 十六夜と話しながらも、翔は必死に現在進行形で襲い掛かってくる糸群をボードで防いでいる。

 

「見りゃわかる。ほら、この種を持ってけ」

「ういっす。あー、この子も連れてった方が良い?」

「任せた」

「重ねて了解。じゃ、あとは頼むわ。可能なら迎えに戻ってくるんでー」

 

 傍から見れば互いに何が分かったのか不明な会話だが、二人はそれぞれ事態を把握したのか十六夜は襲撃者を、翔は女性を連れ、程々のところで種子を植え、それが示す方へと全速力で退避する。

 細かい話は合流した後でするということを、二人は互いに理解していた。

 というよりも翔の方は今されても困るという程度の考えだったが。




・生肉:言うまでもないI am Me〇t。衛生度が爆下がり中。



次話ですが、本当にいつになるかわかりません。でも2月中には投稿したいです。

まだ待っていてくださっている方や、見捨てていない方がどれほどいらっしゃるのか分かりませんが、これからもよろしくお願いいたしします。

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