もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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 遅れてごめんなさい……。
 いや、流石にお盆に投稿は無理がありましたね……。
 ちょっと短いですけど本編どうぞ。


第三十五話 サブタイ付けたことを猛烈に後悔している(手遅れ)

 ―――精霊列車〝サン=サウザンド〟号・展望車両。

 そこに設置してあるテーブルに二つの人影があった。

 〝ノーネーム〟の板乗翔と〝アヴァターラ〟のペスト。その二人がそこにはいた。

 

「久しぶりー。前に会ったのは一月前だっけ?」

「もう忘れたの?二週間前にも会ってるわよ。貴方のお店で」

「そだっけ?」

 

 首を傾げながらもケラケラと子供っぽく、心底楽しそうに翔は笑う。それを見て、呆れたような表情を浮かべるペストだったが、そういうところが彼らしいと感じて、特に何かを言うことは無かった。

 

「にしても、ここにいるとは思わなかったぞ。てっきりジンとは別行動だと思ってた」

「心外ね。これでも警護役よ?マスターから離れる方が珍しいわよ」

「そんなもんかね?」

「そんなものよ」

 

 ほへー、と翔は納得した表情を浮かべ、あたりめを貪る。それをペストがじっと見つめる。それに気づいた翔が眉を顰めながら告げる。

 

「これはやらんぞ」

「いらないわよ、そんなもの」

「『そんなもの』言うな!これは俺の生命線やぞ!?」

「はいはい。それよりも、クッキーはあるかしら?私はそっちのほうが嬉しいのだけれど」

 

 翔の言葉を軽く流したペストは菓子を要求する。そんなこと呼ばわりされたことを何とか我慢しながら、翔は彼女にクッキーを手渡す。

 

「はい……」

「ありがとう」

「でも、クッキーでいいのか?他にも色々あるけど……」

「クッキー()、いいのよ」

「……そーでっか」

 

 ペストの言葉を聞いて翔は頬杖を突いて、改めてあたりめを銜え直す。

 

「てか、こんなところで油売ってるほど暇なの?」

「ええ、暇よ?だから貴方との会話を楽しむために此処に来たのよ」

「へいへい……。こんなことが楽しいならどうぞいくらでもお付き合いしますよ……」

「というか、貴方こそ暇なの?他のメンバーがいないようだけれど。もしかして仲間外れにされたのかしら?」

「当たらずとも遠からずー。他の奴らは全員風呂だよ」

「……たしかに仲間外れね」

 

 風呂に入ったら溺れるのだから仕方ない。金槌はスケーターの宿命である。

 ペストはそんな彼に同情するような視線を向ける。

 

「お前は風呂に行かんの?」

「今行ったら、耀に遭遇するのでしょう?なら行かないわよ」

「あっそ……」

 

 どんな理由だ、とは口にはせずになんとか呑み込んで、翔は相槌を打つ。

 

「……菓子のお代りは?」

「貰うわ」

「はいよ」

「ついでに持ち帰る分も頂戴」

「へーい」

 

 翔はペストに言われた通り、菓子を手渡す。

 

「にしても、元気そうで何よりだ」

「ええ。貴方も変わりないわね」

「ああ。問題児が減った分、楽になったよ。最近は耀の暴走を止めることが仕事だ」

「……それはそれで大変ね」

「大丈夫だ。胃袋はこっちが握ってる」

「………………………嫌な表現ね。握られてるのもどうかと思うけど……」

 

 翔の話を聞いてペストは微妙な表情を浮かべる。そんな彼女を気にした様子もなく、翔は新たにクッキーの入った小袋をテーブルの上に出す。

 

「あっ、そうだ。これ他の仲間たちにも渡しといて」

 

 そういって取りだしたクッキーを彼女に押し付ける。

 

「あら、良いのかしら?」

「構わにゃーよ。ただお前、一人で全部食うなよ?」

「…………………………そんなことはしないわ」

「……顔を逸らされながら言われても信じらんねぇんだけど?」

「あら?私が一度でもそんなことしたことがあったかしら?」

「……少なくとも、お仲間から二度ほど苦情が来ているはずだが?」

 

 ケラケラ、クスクス、と翔とペストの二人は互いに笑い合う。

 その後は他愛ない会話をしながら過ごした二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ペストとの雑談を終えると、翔は一人で精霊列車を歩き回っていた。特に何をするでもなく適当にぶらついていた翔だが、貴賓車両のラウンジの方が何やら騒がしく、聞こえてくる声に惹かれて、そちらに足を向ける。

 

「一体、何が―――」

 

 だが、気になって顔を出してみたのが間違いだった。

 翔の視線の先にはよく見知った蛟魔王と、一度遠目で見ただけなので断定はできないが、おそらく風天と思わしき人物が、なぜか戦いながらこちらへと向かってくる光景があった。

 

「はい……?」

 

 咄嗟のことですぐに反応できずに、翔は呆然と立ち尽くしてしまう。そしてそのまま二名の戦いに巻き込まれてしまい、彼の顔面にどちらかは判断できないが、拳が炸裂した。

 

「ヒデブッ!?」

 

 魔王に匹敵する力の持ち主の拳を喰らった翔は、顔面を(アスタリスク)状に陥没させ、ゲッダンしながらどこかへと飛んでいく。

 殴られた際に微かに酒の香りを感じ取った翔は「ああ、酔っ払い同士の喧嘩か」と現実逃避する。更には、しばらくゲッダンしていなかったためか、今のこの状態に懐かしさまで感じてしまっている。

 殴られて、そのままかなりの勢いで飛んでいく翔は、精霊列車の壁を()()()()()、霊脈へと落ちていく。

 翔のことだから心配することは無いが、このままでは何処へ落ちるのか分かったものではない。普通ならば一大事なのだが、今この場に、そのことを冷静に判断できる素面の者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュルルルルゥー……、などと言う生易しい表現はゲッダンしている翔には合わず、グネングネングネン!と言葉では表現できないような理解不能の動きをしながら謎の森へと不時着(落下)する。

 

「はふんっ……」

 

 よく分からない声を出しながら地面と衝突した翔は、つい癖で即座に()()()()()()()()リスポーンしてしまう。そして、新品になってから激しく後悔した。

 

「……置いちゃ、ダメじゃーん……なんで置いちゃうのぉ、俺……?どうしてぇ……?」

 

 翔は地面に蹲って頭を抱える体勢で固まる。

 置かなければまだ、精霊列車内に置いたマーカーにリスポーンできたかもしれないが、新しくマーカーを置いてしまえば、そこに上書きされてしまうのは周知の事実である。そしてなによりも、その事は翔自身が一番理解している。

 しかし、翔はすぐに気持ちを切り替えて、頭を上げて周囲を見渡す。

 

「……ここどこー?」

 

 改めて周囲を見渡しても、木、木、木、木と、四方を木々に囲まれていて人気がない。しかも地面は草が生い茂っていて、スケートで滑るにはお世辞にも快適とは言えない環境だった。

 

「あぁー、マジで最悪。流石に事故扱いだよな、これ?この場合って不参加とかにならないよな?特別措置とか取ってくれればいいけど……」

 

 これからのことを不安に思いながらも、一先ず立ち上がって、適当な方向へと翔は歩いていく。

 




 とりあえずこれでラストエンブリオ三巻は一区切りです。
 次の投稿はいつになるか未定。意外とすぐ(九月一五日)に投稿するかもしれないし、新刊出てからかもしれません。
 それと今回は予告よりも遅れてしまい、申し訳ございません。
 こんな私ですが、今後ともよろしくお願いします。

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