もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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2020/07/15 大幅改定


第三十三話 実は三巻は大して書くネタが無い

 異界舞台車両へと移動を始めた四人は貴賓車両を通り抜けていた。

 

 

 

「……臭い」

「……そう、ですね」

「……鼻が曲がりそう……むしろもう曲がってるかも……」

 

 耀、彩鳥、鈴華の三人が鼻を押さえながら口々に言う。それでも嗅覚を刺激してくるのだから相当に強い異臭だ。

 異界舞台車両へ向かうために貴賓車両を通っていたが、ゲームの舞台と化した車両内が猛威を振るっていた。

 女性陣が鼻を押さえる中、翔だけは鼻を押さえずにけろっとした表情をしながら三人の後ろからついていく。

 

「人の感覚で嗅覚は一番麻痺しやすいらしいからすぐ慣れると思うぞ?でもまあ、耀とは絶妙に相性が悪いからさっさと抜けちゃおう。耀、先導できる?」

「……ちょっと無理かも」

「じゃあ、二人抱えてついてきて。さすがに体に染みついちゃいそうで長居するのは俺も嫌だ。さっさと駆け抜けよう」

「いや。鼻から手を放したくない」

「あー……なら〝パーク〟に入っていてくれ。今なら鈴華と彩鳥もパークに入れられるし。この車両を抜けだしたら出すから。いっその事シャワーでも浴びてろ。ドライアドさんを介して中の状況は教えてもらえるけど、早めに終わらせて」

「うん……」

 

 耀、鈴華、彩鳥の三人をパークに入れると、このエリアを抜け出すためにスケボーに乗って急ぐ翔。

 

 

 

 異臭のする車両を抜け出すと、今度は鬱蒼と木々が生えた森のエリア。

 〝パーク〟から出してもらった三人は、石鹸の香りを漂わせながらも、出された瞬間は鼻を押さえる。しかし、すぐに異臭がしないと分かったのか、鼻から手を放して息を吸う。そうして辺りを見渡す。

 

「今度は森かぁ……でもちょっと安心……」

「いや、ゲームに使われるぐらいだから普通なわけはないと思うが」

 

 鈴華の呟きに翔が答えた瞬間、噂をしたら影、とでもいう風に一同のすぐ傍を何かが、視認することが難しい速度で過ぎ去っていく。

 

「……今、何か通った?風が吹いたけど……」

「……少し速すぎて、私の目では……」

「通ったな。鹿だ」

「うん。鹿だったね」

 

 鈴華と彩鳥の二人は呆然とするものの、翔と耀の二人はしっかりと見ていた。自分達の傍を鹿が通り過ぎるのを。

 それを見て翔は隣にいる耀に尋ねた。

 

「鹿、はどっちにもいなかったよな」

「うん。そうだね」

「じゃあ放っといていいか」

「さっさと抜けちゃおう」

「……ここら辺の野草って採取していいのかね?」

「……やめといたほうがいいんじゃないかな?」

 

 耀にそう言われて翔は渋々歩き始め、一同は森の中を抜けていく

 

 

 

 森の車両から隣の車両に移ると、眼前には山丘が広がっていた。

 

「なんでこんなに環境が変化するのさ!?列車の中だよね、ここ!?」

 

 車両を移って早々に鈴華が声を荒げる。その様子を苦笑しながら三人が見つめる。

 そんな彼女が地団駄を踏む中、山の向こうから大きな影が迫ってくる。一同がそれに気づいて注意深く観察していると、その正体が分かった。

 

「何あの猪!?でかっ!?」

「は、早く逃げましょう!」

「おお、ようやく対象の動物が出てきた。結構いないもんだな」

「そうだね。それに倒さなくちゃいけないし」

「暢気にしてる場合ですか!?」

 

 目の前に迫ってきている巨大猪を見ても特に何かをするわけでもなく、のほほんとしている二人に彩鳥が吠えた。そんな声を気にした様子もなく、猪の背中の触手に目がいった翔。

 

「……ん?あの背中のって、もしかしてブラック★ラビットイーターか?いや、動物への寄生型ってことはブラック★ラビットイーター改の方か?惜しいな。改じゃなければ食えたのに」

「なんでそんなに詳しいんですか!?というか改じゃない方は食べられるの!?」

「少々やむを得ない事情でな……。それと基本種は一応食える。味はお察し。ああ、ちなみにあれは胸が豊満な女性を狙う。約一名は気を付けてくれ」

「それを早く言ってくださいよ!?」

 

 三人の中の胸が大きい一人が反応する。それを聞き流しながら翔はさらに話を続ける。

 

「ちなみにあの下の猪は確か胸が慎ましい女性を狙うと風の噂で聞いた。他二名は気を付けろ」

「嘘ォッ!?」

 

 胸の慎ましい二人の内の一人が驚愕の声を上げる。そしてなぜそんなことを知っているのかを疑問に思った彩鳥が問いかける。

 

「なんでそんなことまで!?」

「風の噂って言ったでしょ。で、どうする?俺がやってもいいけど」

「うーん……。いや、私がやるよ。翔は二人をお願い」

「了解。ほら、二人とも。丘の向こうに出口があるはずだから行って行って。この隣が異界舞台車両だよ。扉をくぐれば観客席に出るはずだ」

「も、申し訳ありません!」

「ここ本当に貴賓車両!?そういう名前の魔界じゃないの!?」

「……?ここは箱庭だぞ?さらに言えば精霊列車の車内だ」

「マジレスしないで!!ただの現実逃避だからぁッ!!」

「耀!一応中継されてるっぽいからあまり見せすぎないようにねー!」

「うん!わかった」

 

 暢気に声を張りながら耀は猪へと、翔は鈴華と彩鳥の二人と共に隣の異界舞台車両へと向かう。

 

 

 

 鈴華と彩鳥の二人を隣の車両に送り届けた翔は、耀の許へと戻ってきた。

 すると、すでに戦闘は終わっており、猪はどこかへと消えていた。アナウンスで倒していたのはわかっていたが、吹き飛ばしていたとは流石に翔も驚いた。

 

「お疲れー」

「おかえり。二人は大丈夫?」

「流石に観客席や移動スペースなら大丈夫だろ」

「そっか。それで、これからどうする?」

「いやぁー、今回はこれ以上動いても仕方ないから、鈴華たちと合流しちゃおうぜ。時間的にももうすぐ終わるし」

 

 翔がそう言うと、ゲーム終了を知らせる銅鑼が鳴り響く。

 

「本当だ」

「どうせ次のエキシビジョンまで時間あるだろうし、少しゆっくりしよう」

 

 そうして二人は鈴華たちの許に向かい始めた。

 

「……そういえば、何で猪にブラック★ラビットイーター改が寄生していたんだ?」

「誰かの悪ふざけ、とか?」

「もしくは変態生物同士で波長があったのかもな」

「それなら翔とも気が合いそうだね」

「……そういうベクトルの変態と同じ括りにしてほしくはないかなぁ」

 

 翔はそんなことを心の底からお願いした。

 




 次の投稿は諸事情で七月末になります。申し訳ありません。

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