もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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 前話で受けた誤字報告で「スカハサ」ではなく「スカサハ」では?といわれたのですが、この原作では「スカハサ」が正しい表記であることを記しておきます。


第三十一話 吸引力の変わらないただ一つのアレ

 焰が真実を口にした途端、アステリオスの牛角が砕けた。同時にケラヴノスは威光を失い、アステリオスの手から転げ落ちる。

 彼は激痛と衝撃に襲われ、その場に膝を突いた。

 

「ギッ………グ、ッガ………!?」

 

 目の前の少年が苦悶の声を上げて地に臥したとき、一番早く動き始めたのは何故か翔だった。

 倒れたアステリオスと落ちているケラヴノスをいち早く回収して、面倒そうにしながら列車の中に叩き込む。そんな翔の早すぎる手際の良さに呆然とする焰たち。

 

「はーい。お前らも列車ん中入ってー。何かが起きる前に避難しろー。これ以上俺に面倒を掛けないでくれー。切実にマジで頼むから守る手間を省略させてくれ土下座でも何でもしてやるから」

「ん?今なんでもって―――」

「あーはいはい。そんなネタはいいからはよ入ってアステリオスの面倒でも見てろや」

 

 翔の言葉に反応した鈴華が、彼に蹴られて列車の中に無理やり入れられる。それとほぼ同時に地鳴りが迷宮内に響き始めた。他の者たちの戦いの余波もあったのだろうが、これはもっと大地の深奥から響く地鳴りだ。

 

「ほらお前らも下がって―――あ、いや、下がって欲しいけどもそこまで急がなくていいわ」

「「え?」」

 

 焰と彩鳥は疑問の声をあげながら翔のことを見る。二人に見られた翔は先ほどアステリオスを指さしたように、ある方向を指していた。二人も先ほどと同じようにそれに釣られてその方向へと振り返る。

 

「「………………」」

「運がよかった。さっき大量に召喚したゴミ箱先輩に引っかかったみたいだ」

 

 三人の視線の先には、迷宮の地盤より伸びる白亜の岩塊が質量的に収まるはずのないゴミ箱先輩に吸い込まれている光景だった。

 ………焰と彩鳥の二人は、振り返ったことを果てしなく後悔した。

 

「いやー、最近はゴミ箱先輩も自力で動くから大したもんだよなー。俺的には恐怖でしかないんだけども」

「すいません。ちょっと何言ってるのかよくわかりません」

 

 少し顔を青くしながら言う翔に対して真顔で返答する焰。

 

「とりあえず早く避難してくれない?壁を作りたいからさ」

「………………普通の壁っすか?」

「なわけないじゃん。そんなんだったらすぐに壊されちまうよ」

「ですよねー」

「分かったら入って入って」

 

 しっしっ、と手で二人に中に入るよう促す。

 その様子を見ていたスカハサが問う。

 

「大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。任せろーバリバリー」

「いや、そうではなく。こっちは巻き込まれないんだよな?」

「…………………………………多分大丈夫?初めてやることだからなんとも言えない、かも?」

「……………」

 

 そんな曖昧な言葉を聞いたスカハサは、頬を引き攣らせながら精霊列車の中へと入っていった。

 

「さーて、実験しようかー」

 

 そう言って翔は精霊列車を守るように、なぜか『木』を乱立させる。列車の外周を囲むように植林すると、満足したのか腕を組んで数回頷くと列車の中に入ろうと客席の窓へと向かう。

 と、その時。

 

「―――――んの、クソジジイがあああああああッ!!!」

「ヒデブッ!?」

 

 ズドガァンッ!!!と、ド派手な爆発音と共に十六夜が飛来してきた。着地と同時に白亜の迷宮の地盤を突き破るほどの勢いで拳を翔へと叩きつける。

 流石に十六夜に殴られては並大抵のものは生き残れない。それは翔も例外ではない。その場でミンチのようになった翔はすぐさまリスポーンして十六夜に文句を言う。

 

「………何してくれてんの!?今の偶然!?それとも狙ったのか!?」

「狙った」

「なにゆえ!?」

「ムシャクシャしてやった」

「それ都合のいい言い訳じゃねえからな!?それ言ったら許されるわけじゃねえぞ!?それとそのセリフを吐くなら反省もセットでしろやぁッ!!」

「それよりあれはなんだ?」

「俺の話聞いてますかぁ!?」

 

 翔の話をスルーして翔が乱立させた木の内の一本を指さす十六夜。翔の方も流石にこれ以上言ってもどうしようもないと思い、頭を冷静にさせて説明を始める。

 

「………実験だ」

「なんのだよ?」

「箱庭でも通用するかっていう実験。ほら。成功したらあんな感じになる」

 

 翔が指さす先には、牛頭の怪物が乱立してる木に吞まれては頂上から射出される光景が広がっていた。

 

「……………なんだアレ?いや、マジで何だ!?」

「何って、『木』だけど?」

「何処のだよ!?」

「俺の世界の。里帰りしたときに遊んでたら出せるようになった。理屈はよくわからんけど。他にも『トンガトンガの木』とか『吸い込まれる岩』があるけど―――――」

「わかった。わかったからさっさと中に入るぞ。焰たちもいるんだろ?」

「え?ああ。早々に中に避難させたぞ?」

 

 それを聞いた十六夜は翔を置いて一人でさっさと精霊列車の中へと入って行ってしまった。まるで現実から目を逸らすかのように急いで入って行った。………いや、事実その通りなのだが。

 後には珍しい首を傾げる翔が佇んでいたが、彼もすぐにハッとして十六夜を追いかけるようにすぐに中に入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――〝サン=サウザンド〟号の客車。

 全員が逃げ込んだ後、車両は全てスカハサの〝影の城〟によって覆われた。

 翔が建設(?)した防壁のおかげなのか牛頭の群れの攻撃もなく、車内は静寂が包み込んでいた。

 〝影の城〟に包まれた精霊列車は窓からの陽が入らず薄暗いままだ。キャンドルランプの火のユラユラと揺れる様が彼らの不安を駆りたてている錯覚を起こす。

 厳戒態勢を一時的に解いた車両内では、途中で合流した十六夜に状況を説明していた。

 そんな輪から外れたところで、寝そべって辛口あたりめをくわえながら話を聞き流す。

 

「………貴方は参加しないんですか、翔」

 

 〝影の城〟を維持しているスカハサが尋ねる。翔は彼女に視線を向けることなく答える。

 

「知識のない馬鹿が参加しても場を混乱させるだけでしょ。それに俺の出番は多分もうないじゃん。欲を言うならさっさと帰りたい。というか絶対に最初から俺は必要なかっただろ。ふざけんじゃねぇぞあのニャンコめ」

「口が悪い割には、随分と冷静ね?」

「………正直、俺には関係のないことだからどうでもいいってのが本音。事実、今回はただただ巻き込まれただけだからねー。さっさと本拠に帰りたいよ」

 

 天井を見上げながらスカハサに答える翔。そんな彼を見て苦笑しながらも続けて尋ねる。

 

「同士たちでも恋しいんですか?」

「そうだよ、って答えたら信じるの?」

「いいえ」

「ですよねー。いや、これでも三割くらいはそれもあるんだぜ?残り七割はスケートしたいのと、オフトゥンが恋しいってのと、のんびりしたい、だけどさ」

「……………いや、貴方に睡眠は必要ないでしょう」

「たまーに、極稀にたまーにだけど、惰眠を貪りたい衝動に駆られる。わかる?この気持ち」

「残念ながら」

「知ってた。執事だもんね」

 

 二人による他愛のない会話が続く。

 そこで焰と十六夜たちの話が終わったのか、翔へと話しかけてくる。

 

「おい、翔。外にあるモノを消しといてくれ」

「うーい。焰たちが外に出ると同時に消すよ。んじゃ、行ってらっしゃーい」

「ああ、悪いな。………が、その前にだ。聞きたいことがある」

 

 十六夜が翔に質問を投げかける。

 

「いつの間に外にあるような『木』を生み出せるようになった?今までは一部の物を除いてあそこまで危険な物はなかったはずだ」

「あー、それねー。んー…………でもなぁー…………こればっかりは気が付いたらできるようになってたとしか言えないんだよなぁー、これが」

「…………翔。ギフトカードを見せろ」

「んー、いいぞー」

 

 そう言って懐からレモンイエローのカードを取り出して十六夜へと投げ渡す。

 そしてそのカードには、『板乗翔・ギフトネーム〝物理演算(ぶつりえんざん)〟〝デバッグ〟〝スケーター(ヌケーター)〟〝混沌世界(パーク)〟〝宿敵との狂演(ゴミ箱先輩チーッス!)〟』と記されていた。

 それを見た十六夜は顔を顰めた。

 

「……………おい、翔。恩恵が変化してるぞ」

「………………………………………………………えっ?マジ?」

「自分のことぐらい自分で気づけドアホ」

 

 レモンイエローのギフトカードを翔に向かって全力で投擲する十六夜。それを顔面で受け止めてしまう翔。

 ドスッ!!という音が彼の額から、ベキッ!!という音が首からそれぞれ響く。額にギフトカードが刺さり、十六夜の全力の投擲だったため、勢いで首が後ろへと折れてしまったのだ。

 それを受け、静かにリスポーンして文句を言う。

 

「もっと安全かつ穏便に返却してよ」

「で?どういうことだ?」

「無視ですかそうですか。………とはいえなー、俺に聞かれても―――」

 

 翔が自分のギフトカードを眺め、

 

「嘘だッ!!」

 

 絶望の声を上げた。理由は一つしかない。〝宿敵との狂演(ゴミ箱先輩チーッス!)〟。このギフトの『()()』の部分だ。以前は『共演』であったのに、今は字面が変わってしまっているのだ。そして絶望すると同時に、最近のゴミ箱先輩の著しい成長はコレのせいだったか、と理解もしてしまった。

 むしろ十六夜としては、そちらよりも〝物理演算(デバッグ)〟が〝物理演算(ぶつりえんざん)〟と〝デバッグ〟に分かれていることを問いただしたいのだ。だが、そんな変化にすら気付いていなかった翔に聞いても答えは得られないだろうと、既に理解していた。外に防壁として設置した『木』は新しく発現している〝デバッグ〟の恩恵が関連していると睨んでいる。それは正解だ。だが、翔は自身の恩恵をフィーリングで使っているため、どの恩恵がどのような能力を持っているのかを曖昧な認識しかしていない。恩恵の名前である〝デバッグ〟から能力を推定しようとするが、そもそも『デバッグ』とは、バグや欠陥を発見および修正を行い動作を正常にするという意味であり、字面通りの意味ではあの『木』を出せた理由が分からない。そのせいで十六夜は困惑していた。

 

 ………当然だ。翔の恩恵は、恩恵本来の能力とは全く違う。酷く歪んでいる。いや、『バグって』いるといった方がこの場合は正しいのかもしれない。

 〝物理演算(ぶつりえんざん)〟と〝デバッグ〟。この二つの恩恵は元々は()()()()恩恵なのだ。

 〝物理演算(ぶつりえんざん)〟は()()()()()()()()()()()()()()()

 〝デバッグ〟は()()()()()()()()()()()()()

 修正の対象が違うだけで、名前通りの恩恵だったのだ。

 しかし、今では〝物理演算(ぶつりえんざん)〟は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 〝デバッグ〟は()()()()()()()()()()()()となっている。

 

 では、なぜこのように変容し(バグッ)てしまったのか?

 

 それは翔の〝世界〟に原因がある。彼の〝世界〟は言ってしまえば()()だらけだ。他の世界からすれば()()であっても、翔の〝世界〟ではそれが()()なのだ。

 

 そんな世界で、()()()()に修正する恩恵が生まれたらどうなるのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 ()()()()と見なし、()()()()と見なしてしまったのだ。

 

 他の世界と比べ、翔の世界では正常(異常)な物理法則の方が少ない(多い)

 

 他の世界と比べ、翔の世界では正常(異常)な物体の方が少ない(多い)

 

 しかし、翔の世界が基準となっているために、本来の恩恵が認識すべきものが逆転し(バグッ)てしまっているのだ。

 

 その誤認識(バグ)の結果がこの二つの恩恵なのだ。

 

 しかし、そうするともう一つ疑問が残る。なぜ、この恩恵は〝物理法則(デバッグ)〟などとなっていたのか。

 これはこの二つの恩恵の能力が似通っていたこと。そして、変容したことに起因する。

 能力の類似と変容。

 この二つの恩恵は()()()()際に存在が不安定になってしまったのだ。自分たちの存在を安定化させるために能力が類似し、同じく不安定な恩恵同士で一つになることで安定化を図ったのだ。その試みは見事成功を果たし、それぞれの存在が安定化するまで一つの恩恵として存在することを自ら選んだのだ。

 そして、今。翔は二つの恩恵のうちの一つ、〝物理演算(ぶつりえんざん)〟を暴走させてとはいえ使い続けた結果、二つの恩恵は変容し(バグッ)た状態での安定化を果たし、めでたく二つの恩恵へと戻ることが出来たのだ。

 この一連の出来事は非常に稀有で、極めて限られた環境下での現象だ。

 よもやそんなことが起こっているなどとは、誰も脳裏をよぎることは無い。この場に居ても、この場に居なくても、それは変わらないだろう。

 十六夜も翔のことだから考えるだけ無駄だと判断し、思考をやめた。

 

「まあいい。んじゃ、精々気張れよチビッ子ども」

「「チビッ子じゃねえ」」

 

 即座に反論する焰と鈴華。彩鳥は義兄弟たちのやり取りを羨ましそうに見ていたが、コホンと咳をして注目を集める。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 三人は顔を見合わせて頷き合い、最後の戦いに挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 三人が精霊列車から出ていくのを見送った翔と十六夜。

 

「………そっくりだよなぁ、お前ら」

「焰とは血が繋がってるからな」

「あ、やっぱり?性格とかはともかく、外見とかはお前ら似てるもんな。………って、そうじゃなくってさ。焰だけじゃなく鈴華もだよ」

「は?どこがだよ?」

「自覚ないの?根元の部分がさ、こう、なんて言うのかな?うまく言葉で表せられないけど、『ああ、やっぱ家族なんだなぁ』って感じた。良くも悪くも十六夜の背中を見て育った、って感じの人としてできてるいい子たちって印象」

「………ハン」

 

 義兄弟たちを褒められたからか、少し笑みを浮かべる十六夜。それを見た翔が、

 

「なに?テレてんの?弟妹褒められてテレてんの?」

「………うっせ」

 

 十六夜が顔を背けて、そう一言溢した。翔はケラケラと笑いながら、そんな十六夜の珍しい姿を見ていた。

 そこで、パシャ、というシャッター音が響いた。

 十六夜がその音を聞いて、ギギギッ、といった錆び付いたボルトのような音が聞こえてきそうな感じで首を動かす。

 

「スカハサ、どうだった?」

「ベストショットです」

「よっしゃ!すぐにパークに収の―――」

「させるかああああぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

「だが遅いッ!!」

 

 十六夜がスカハサが持っていたカメラを壊そうと動くが、時すでに遅し。カメラは既に翔のパークへと収納された後だった。

 

「テメエッ!!?」

「ふははははッ!!悪いな十六夜!!さっきの写真はありがたく頂戴させてもらったぜッ!!さすがのお前もパークにしまえば手出しできんだろうッ!?」

「つか何でスカハサが協力してんだよ!?」

「バカめッ!すでに最高級品茶葉と俺の菓子レシピで買収済みじゃいッ!!」

「さっきの写真をどうするつもりだ!?」

「ンなもん黒ウサギとか焰たちに見せてニヨニヨさせるために決まってるだろうッ!!俺が考えた今世紀最大級の恥辱をしっかりと噛み締めてじっくり味わうがいいさッ!!!」

「ざっけんなこのクソ野郎ッ!!」

 

 精霊列車内でこの二人が盛大に生死(社会的含む)を賭けた鬼ごっこを繰り広げていたのを、焰たち三人は知らない。

 鬼ごっこは三人がゲームクリアしたことによって強制的に終わりを迎えるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 焰たちがゲームをクリアしたことで、焰たち三人は彼らの世界のクレタ島へと帰された。

 それは他の者たちも同じだ。精霊列車は箱庭に帰り、出口から入った十六夜や釈天は焰たちと同じくクレタ島へと帰された。

 

「あんのクソバグ野郎………ッ!!!!すぐにこうなることわかって完全に逃げに徹していやがったな………ッ!!!?次会った時覚えてろよ………ッ!!!!」

 

 とある人物への怒りで全身を戦慄かせながら小さく叫ぶ十六夜。時折歯ぎしりの音も聞こえるため、相当頭に来ているのだろう。冷静な時の彼なら気づきそうなことにも気づかないほど怒り心頭だったようだ。

 その当の本人である翔は、ゲームクリアの瞬間に『俺の勝ち』宣言をしていたため、なおさら腹が立っているのだろう。

 この様子では、十六夜の怒りは暫く鎮火されることは無いだろう。

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟精霊列車の車庫―――

 場所は変わり、箱庭の〝アンダーウッド〟。精霊列車の車庫では、今回のゲームで使用した精霊列車の修理と整備をポロロ主導の下、行っていた。

 と、其処へ黒ウサギが駆け寄り、質問を投げかけた。

 

「ポロロさん!翔さんを見かけませんでしたか?」

「あん?俺はてっきりそっちと一緒だと思ってたんだが………まさかいないのか?」

「は、はいですよ!〝アンダーウッド〟中を見て回りましたが、姿を確認できないどころか翔さんのものと思われる音すらも聞こえなかったのですよ………」

「考えられるとしたら、ゲームクリアの時にどっかに飛ばされたぐらいだが………」

「あ、あり得るのでございます………ゲームクリアの条件がゲーム盤の破壊のようなものだったので、その影響でどこかに転移したというのは十分に考えられるのでございますよ………」

「だとしたら、まず箱庭にいるのか、そうでないのかを確認するべきだとは思うが、それも難しいだろうな。まあ、あの人なら自力で帰ってきそうな気もするが………。どこかの街に飛ばされてくれてれば、自分のコネでどうにか出来るだろうが………」

「ま、街ではなかった場合は最悪いつ戻ってくるかわからない、と?」

「……………………そう、なるな」

 

 二人の間を静寂が過ぎ去る。

 

「ど、どうしましょうか…………?」

「どうするも何も、俺らからじゃどうにもできないだろう」

 

 全部が全部、翔次第という現実。それを理解した黒ウサギは深い深い溜め息を吐く。

 

「ハァ………翔さんが帰って来るのは一体いつになるのでございしょうか………」

 

 黒ウサギのそんな呟きは、誰の耳にも届かず静かに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲームクリアおめでとー、西郷焰君ー。聞こえないだろうけど、一応称賛の言葉を言わせてもらうよー」

 

 大の字に寝そべりながら言葉を溢す翔。

 

「…………でーもさー、さすがにこれはねーんでねーのー?」

 

 人っ子一人どころか、雑草の一つも生えない荒れ果てた荒野の真ん中で空を見上げながら呟く。

 翔はゲームクリアと同時に箱庭に戻されたのだが、〝アンダーウッド〟の影すら見えない何処とも分からぬ場所であった。ゲーム盤を破壊された弊害であろう。悉くゲーム盤とは相性の悪い男である。そのうえゲーム盤にマーカーを置いてあったため、リスポーンしても今のこの場所に位置が変更されてしまっていて、意味がない。

 果たしてここが何処なのか。本拠の土地も最初のころはこのように荒れていたが、それよりも酷いように見えるこの場所。そもそも、ここが本当に箱庭なのかすらも怪しく思えてくるほどだ。

 

「はぁー………とりあえず気の赴くままにスケートしながら移動しようかね。女王への献上品はどうにか帰れた時に釈明するとしよう」

 

 何回殺されるのかね?などと溢しながらボードに乗って移動を始める翔。

 

 この後、一ヵ月ほど費やして、なんとか本拠へと帰還を果たすも、同士たちからこってり絞られたのはまた別のお話。

 




・吸引力の変わらないただ一つのゴミ箱
 タイトル。ちなみにゴミ箱の他にも、木や岩タイプのものも存在する。
 貴方に合った最高の品物をお届けします!ご注文は以下の番号まで!
 0120-×○×-○×○

・ベストショット
 詳しくは翔が販売している『逆廻十六夜写真集 The best selection』に掲載された写真をチェック。

・ニヨニヨ
 ニヨニヨ。

・荒れ果てた荒野
 二度荒れて二倍お得に感じる字面。………いや、マジでここどこ?


 はい。ひとまずこれで更新停止期間に入りたいと思います。次の更新は最新刊を待ってね!


 …………………次の新刊、短編集だったらどうしよう………。

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